EXTRA GAME - 25


「っ!おはよう。早いね」

ふわ〜っと欠伸をかきながら洗面所に向かうと先客がいて思わず口を手で隠した。パッとこちらに振り返った高尾君は「おはよーさん。終わったから使っていいぜ」と洗面所をあけてくれた。

「いつもこのくらいに起きるの?」
「いつもじゃねぇけどたまにこの時間に起きてっかな?…まあ、今日は紫原に蹴られて起こされたんだけど」
「…なんか痛そうだね」


入れ替わるように洗面台の前に立っただったが高尾君が脇腹を押さえたのでうわぁ、と顔が引きつった。
あの体格の紫原君に蹴られるなんて自分だったら無事ですむだろうか、と顔色悪くすると「そこまで痛くねーよ」とカラカラ笑った。

ちゃんこそ早くね?」
「私は2号の散歩でこの時間に起きてるの」
「2号って…ああ、あの目元が黒子にそっくりなアイツか」
「そうそう…っ」
「ん?どした?」

ツキン、と何かが弾けたような引きつるような感覚に目をキュっと閉じると高尾君の声が近くなった。

「うん…なんかおでこのこの辺りが痛いっていうか、引きつる気がして…」
「どれどれ和成お兄ちゃんに見せてみ?……あ、これたんこぶじゃね?」
「たんこぶ?」


和成お兄ちゃん?と思わず顔を上げたら額にかかっている髪を上げて確認していた高尾君の手が触れて小さな痛みと一緒にまた目を閉じた。

たんこぶ??そんなものいつ作ったんだろう。昨日は青峰の隣で転寝してたとこまでは覚えているのだけど、そのまま落ちたのかと思いきや目が覚めたら桃井さんの隣で寝ていて首を傾げたのはいうまでもない。

まあ、あんなに優しい青峰なんて夢でしかお目にかかれない気もしてきたからもう夢でいいと思ってるけど、たんこぶは予想外過ぎて頭を捻った。



「寝てる間にどこかにぶつけたとか?」
「多分そうだと思うけど、ぶつけるようなとこあったかな…」

あるとしたらベッドから落ちる、とかなんだろうけど起きた時は布団の中にいたしなあ。落ちたけど寝ぼけたまま戻ったとか?
うーん、と考えたが「和成お兄ちゃん」という先程の言葉が耳に残ってしまい、復唱すると、高尾君は「そ。俺にーちゃんだから」と笑った。

それで面倒見がいいのか、と納得したけどタイミングとしてはちょっと面白くても小さく吹き出すと高尾君も微笑み、まだ寝起きのままの髪を少し整えるように指で梳いた。


「つか、良かったな」
「うん?」
「それ」

視線が下がり、彼が見ているものを目を向けると晒している腕に辿り着き苦笑した。半袖だから丸見えだったのだけど、少しだけ何か言いたそうな目をしてるなあ、と思ったのは間違いではなかったらしい。

「うん。っていうかごめんね。サイン書かれたくらいで…テンパるほどのことじゃなかったのに」

ナッシュに腕を掴まれた時本気で怖かったけど、でもよく考えたらただサインを書かれただけなのに泣くほど狼狽するとか、恥ずかしいなと思った。
みんなにも心配かけたし迷惑かけちゃったよね、と零すと「バーカ」と頬をやんわり摘ままれた。



「肌でも服でもいらない奴のサインなんかもらっても迷惑なだけだろ」
「…うん」

それは確かにそうだ。しかもあの時着ていたのは制服だったからアレにサインを書かれたらと思うとぞっとした。
まだ高校生活が残ってるのに新しい制服を買わなきゃいけないと親にバレたら説教必至だ。

むしろ肌に書かれてセーフだったのでは、と顔色を悪くしていると摘まんだ指を放した高尾君の手がの頬を撫でた。


ちゃんはさ。アイツのサイン、昨日初めて見たの?」
「?うん。そうだけど」

顔をあげ、高尾君を伺えば彼はじっとを見つめた後「そっか、」といって頬を親指の腹で撫でた。
いつもの笑みを浮かべているけど目を細め見つめる高尾君の目になんとなく何か言いたげな、聞いてほしそうなものに思えて首を傾げると彼は少しだけ笑みを深めた。


ちゃん、部活休みの日一緒に遊ば」


途中で切った言葉に不思議に思ったが、高尾君は洗面所の出入口の方を見やりそしてこちらに向き直った。
誰かいるのかな?とも少し顔をずらしたが誰もいなかった。高尾君の顔が引きつってるけど大丈夫だろうか。

「?学校帰りに遊ぶの?」
「うん。そうじゃなくてもいいけど、どう?」
「いいけど、休み被るかな?」

頬を撫でていた手を洗面台の上に置き、屈んで視線を合わせてくる高尾君に少しだけ緊張して視線を逸らし考える素振りをする。
高尾君は近い距離でも気にしないみたいだけどには少し近すぎるのだ。



黒子君や火神は大分慣れたけど他の人と距離を詰めるとどうしても視線が泳いでしまうな、と汗をかいていると「その辺はどうにかなるんじゃね?」と適当に返された。

「事前にわかれば前もってでもいいし、急に休みになったらその時にメールしてくれたらいいよ」
「そんなアバウトでもいいの?」

高尾君も高尾君で用事があるんじゃ?と思ったが「俺、真ちゃんの送迎以外は大抵暇だから」と笑っていた。それはそれでどうなんだろう。


「ま、急なやつだと俺しかいないかもし」
「??どうしたの?」

また振り返る高尾君にも気になって後ろを覗き見れば今度は黒子君の姿があった。髪が伸びて少し緩やかになったけど今日も豪快な寝ぐせですね。

「おはよ」
「おはようございます。どうかしましたか?高尾君」
「………いや、なんでもねぇ…」

ポーカーフェイスの黒子君と顔をやっぱり引きつらせ目を細める高尾君はある意味極端な表情をしているが、お互い言葉はなく目線で何かやり取りをしてるかのように見つめ…高尾君は睨んでいるようにも見えた。

挨拶したものの少し不穏な空気に戸惑っているとパッと黒子君の顔がこちらに向いた。


「そろそろ皆さんも起きてきますよ。そうなるとここも混雑するでしょうから」
「そうだね。ちょっと待ってて。すぐ終わらせるから」

高尾君は何か言いたげだったが1つしかない洗面台を取り合うのは大変だと思ったはさっさと顔を洗ってしまおう、と蛇口を捻った。




2019/11/03
抜け駆け許さないマン。