EXTRA GAME - 26


さんが帰ってくる頃に朝ご飯用意しておくね〜」と半分夢の中の桃井さんの言葉を受けて、は2号の散歩をするべく火神のマンションを後にした。
昨日黒子君が一時帰宅した時に学校に立ち寄り2号を連れてきてくれたのだ。

火神は嫌がってたけど(相変わらず苦手意識が治らないらしい)、散歩係を担ってるはとても助かっていた。
にとって2号は癒しだし、ナッシュの件があったから尚更嬉しいサプライズだったのはいうまでもない。

何度か火神のマンションに連れてきてはいるけど散歩はさせてないし、コースじゃない道のりなので一応リードをつけて道路に下ろしてあげると2号は一目散に走り出した。


「2号?」

は驚きながらも2号の後を追いかけると曲がり角を曲がったところで黒子君と出くわした。


「テツヤ君?」
「流石2号ですね。驚かせようと思って隠れたのが逆に不審者になってしまいました」

いつものポーカーフェイスで淡々というからそれほどでもないかと思ったけど、の目には少ししかめたように見えて笑ってしまった。

「2号の鼻を誤魔化せるはずもありませんでしたね」と1人納得した黒子君はこちらに向き直ると散歩の同行を申し出た。それは構わないけどその手は何でしょうか。



リードが欲しいのかな?と2号を繋いでいるリードを手渡したがそれでも手を差し伸べるので首を傾げた。
お菓子は持ってないし黒子君も朝からお菓子を食べる人じゃないしリードの他に何が欲しいんだろう、と彼の手を見つめていると、ふと思い出し苦笑した。

「大丈夫だよ。元気になったから」


これだけみんなに心配されてるのだから黒子君が心配してないわけなかったのだ。
昨日の今日だし黒子君が付き添いを申し出たのもを心配してくれたからで、照れくさいような申し訳ないような気持ちになって「ありがと」と礼を述べた。

これ以上みんなに優しくされたら確実に自分の死亡フラグを立ててしまう気がする。
さすがにまだ死にたくないぞ、と思いつつ黒子君を見れば彼は目に見えるほどしょんぼりと頭を垂れた。


「そうですか。残念です。ボクが手を繋ぎたかったのですが…」
「え…?!」
さんはボクと手を繋ぐのは嫌ですか?」

宙に浮いたままの自分の手を見て悲しそうに呟く黒子君には狼狽した。
まさか黒子君が手を繋ぎたいとは思ってなかったというか、私を心配してくれていってくれたのかと…それがまさかの私の誇大妄想だったとは。

てっきり常日頃からが手を繋ぎたいなあ、なんてこっそり思っていたことを見透かして実現してくれているのかと勝手に想像していたから急に恥ずかしくなってしまった。
そうだよね。いくら人間観察が得意だからって心までは見透かさないよね!



「い、嫌とはいってないし!」
「そうですか。なら良かったです」

なんだかとても痛い自分に内心悶絶しながらも否定すれば黒子君はホッとした顔で微笑みの手を取り歩き出した。そこであれ?と思う。何で黒子君は自分と手を繋ぎたいなんていったのだろう。

手を繋いだまま少し前を歩く機嫌のいい黒子君を見やりながら首を傾げた。

というか。

「テツヤ君。寝ぐせなおってないよ」


後頭部に重力に逆らうように跳ねる髪を見つけて破顔すると振り返った黒子君が「おかしいですね。なおしたはずなんですが…」と上の方を見上げた。

「ううん。前じゃなくて後ろ」
「?どの辺ですか?」

前は鏡で確認できるけど後ろまでは見えないよね、と繋いでいた手を放し、「この辺だよ」と黒子君の後ろ頭を撫でてあげると「見落としてました」と特に驚いてない顔で返された。

後ろは見えないしね、と黒子君の髪を撫でつけてみたが相手はなかなかの強敵で何度か撫でたくらいでは元に戻ってくれそうになかった。
やっぱり濡らさないと無理かな、とぴょんと跳ねている水色の髪を根気よく撫でているとその手をやんわり取られた。



さん…」

きゅっと握る手と一緒に呼ばれた名前に視線を彼の髪から外すとじっと見つめるガラス玉のような目と合った。
心の中まで見透かすようにじっと見つめてくる瞳にはぼぼぼっと顔を赤くさせると挙動不審に目を逸らす。

もしかして撫でられてるのが不快だったのかな?と謝るとそうじゃないと返された。

「ただ少し、こそばゆいというかくすぐったくて」
「そ、そっか…」
さんは見つめると目を逸らしますよね」
「…知ってるくせに」


それは中学の頃既に黒子君に知られたことだ。今更確認しなくたっていいじゃないか。それでなくても黒子君に見つめられるのはまた違った意味で緊張するというのに。

「こんな時に人間観察なんてしないでください」と負け惜しみみたいにムッとした顔で口を尖らせると「スミマセン」と彼の声が間近に聞こえた。

頬を擦り合わせるような柔らかい感触に驚き彼の方を向けば、黒子君と目が合った。間近過ぎる彼の瞳に自分が見えた気がしてビクッと肩を揺らしさっきよりも頬が熱くなる。


見つめ返してくる黒子君の目が少し熱を帯びてるように見えたけど、もしかしたら頬も赤いかもだけど、茹ってしまったの頭ではろくに思考が回らなかった。

「スミマセン。両手が塞がっていたからつい…」
「あ、ああ…そうだね。ええと…散歩、散歩に行かなきゃね…!」

両手が塞がってるから頬を擦り合わせる、というのは思いつかなかったが、どちらか手を離せばよかったのでは?ともう1人の自分がつっこんだが言葉にはならなかった。



とにかくもう少し落ち着いて行動しなくては、と足元にいる2号を見て顔を上げればふに、と唇に何か柔らかいものが重なった。
それはかち合った目に誰の何が当たったのか一目瞭然だった。

お互いバッと離れ顔を逸らしたが顔が燃えるように熱いのは触らなくてもわかってしまった。目の端に見える黒子君の顔も赤くて余計に動揺してしまう。


「あの、スミマセン…わざとではないんです」
「う、うん…」
「ただ、その、旋毛が可愛いなと思って」
「(つ、つむ、じ…?)……そっか…」

可愛い??旋毛って可愛いのかな?と疑問に思ったが、これ以上の詮索は心臓が持たない気がしてとりあえず思い出した散歩をするべく歩き出した。

「(いやでも、テツヤ君もしかして旋毛にキ………ス、しようとしたの、かな…?)」

ギクシャクと歩きながら先程のことを思いだしたは何で?とクエスチョンマークが何個も浮かんだ。


変わってるといえば変わってるけどさっきから黒子君の行動が不可解で、でもわかりそうな気がして考えようと思考したところで手を握られた。

いきなりのことに回転しようとした頭がエンストし、また肩を揺らし隣を見ると赤い顔の黒子君がの速度に合わせながらこちらを見ていてドキリと心臓が跳ねた。


「嫌、ですか…?」


それは事故で重なってしまった唇のことなのか、今繋がれている手のことなのか、『嫌』がどこにかかっているのかにはわからなかった。
わからなかったけど、でも拒絶する言葉は浮かばなくて頭を横に振ると黒子君の目がホッとしたように細められ、やんわりと繋がれた手をしっかり握りしめた。

まるでそこだけ夏が帰ってきたかのように熱くて、眩暈がしそうなくらい隣の存在が眩しくてしょうがなかった。




2019/11/04
自分はちゃっかりさん。
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