EXTRA GAME - 29


戻ってきた桃井さんとバトンタッチしたは祝賀会をやる為に景虎さんのジムに来ていた。
本当ならどこかのお店を貸し切ってお祭り騒ぎをしたい、と景虎さんが漏らしていたが『Jabberwock』の件で相田家の家計が危険だと知っていた達は事務所のみんなと引き留め、ジムを解放してラウンジでこじんまりと楽しもう、ということになった。

とりあえずこの予算で、と事務所の人達と話しあって食べ物や飲み物を用意していると黒子君達『VORPAL SWORDS』と観戦に来ていた伊月先輩達が到着し、みんなで拍手で出迎えた。


!ちょっとこい!」
「え?」

ラウンジに入ってきた黒子君や火神を見つけると、目が合った途端、彼らは驚いたように目を見開き足早にこちらに向かってきた。
その素早い動きにぎょっとしたが、2人はを拉致するとそのまま部屋の端の方まで連れて行き火神に「お前な!」と両頬を手で挟まれた。

「なんだよその顔!まさかまた『Jabberwock』に何かされたのか?!」
「ぅえ?!い、いいいや!違う違う!」
さん。いない間に何があったんですか?」


いっそ怖いくらい真剣な顔で凄んでくる2人には両手を振ってそういうのじゃないよ、と否定したがちょっと怖くて視線が泳いでしまった。ゴメン。怖いんだよ火神君。

しかし彼らが心配する気持ちもわからなくもない気がした。
先日のナッシュのサイン事件もあったし、試合中も試合後も顔を合わさないままやっと今再会したのだ。

が試合を見て、紫原君と話してまた泣いたなんて知るはずもない。何もなかったとはいえナッシュとまた接触し捨て台詞を吐かれたなんて知る由もないだろう。



「これは、その、いつもの顔です…」

感受性が高すぎるのか泣き癖でもあるのか、入れ込んだ試合だとどうしても気が昂って泣いてしまうのだ。そして泣く予定なんて全然なかったのに紫原君の時も泣いちゃったし。

直したいのは山々だけど、火神にいわれた通り『泣き過ぎないようにする』という目標は難易度が高すぎるのかもしれない。


目を逸らしたまま、いい難そうに答えると一瞬間をあけたと思ったら「まっぎらわしいな!」と火神が呆れた声をあげた。

「ご、ごめんなさい…」
さん、気にしないでください。ボク達もさんの話を先に聞くべきでした」
「そりゃそうだけど!…ったく、心配させんなよな!」

何かあったのかと思ったじゃねぇか!とぼやく火神に、頬を潰されアヒル口にされても甘んじて受けた。紛らわしいのは確かだ。私だって泣かずに済むならそうしたい。

しょんぼりとどうやったら治るかな、と考えていると首に腕を巻き付けられ視線を上げた。


「そりゃテメェの目が節穴だからだろ」
「ああ?どういうことだよ!」
「こいつの場合、嫌なことは隠そうとすっからギリギリまで泣かねぇんだよ」

泣く前に能面になるからな。そういった青峰は火神の手を振り払うとの肩に手を回してみんなが集まってる方へと歩いていく。
後ろでは「んなこと何でテメーが知ってんだよ!」と火神が喚き、それを煩そうに眉を寄せた青峰は「んなの勘に決まってんだろ」と堂々と宣言していた。



勘なのに自信満々なのどうなの?とか、ほぼほぼ当たってる気がするんですけど、とか思ったは困惑した顔で隣の彼を見上げるとジャイアンもこちらを見ていた。

「つか、テメーはちゃんと試合観てたんだろうな?」
「み、観てたよ!」

観てたからこその赤い目なのに!今度はそっち?!と困った顔をしながら青峰につられるように彼の隣の椅子に座ると、「もしかして試合観て泣いてたの?」と後ろのテーブルに座っていた高尾君に笑われた。

「うん、まあ…」
「勝ったのにっスか?」
「……」
ちゃん、カンドーして泣いちゃうみたい」


何で?と不思議そうに聞いてくる黄瀬君に黙り込むと高尾君が代わりに答えてくれた。
ついでに「去年のウインターカップは会う度に目を真っ赤にしていたのだよ」と緑間君が答えていて穴があったら入りたい気持ちにさせられた。緑間君にも泣き過ぎだって思われてたらしい。

「だ、だって、みんな強いの知ってたけど、Jabberwock怖かったし…その、諦めない姿勢とか、全力で戦う姿とか、観てたらやっぱり凄いなって、格好いいなって思って。
こう、うわー!頑張れー!って応援して、それで勝ってくれたから凄く、凄く嬉しくて…気づいたらこう、ぶわぁっと…」

あ、ヤバい。思い出したら涙がこみ上がってきた。要領を得ない喋りだったのに歪んだ視界に慌てて下を向くとほろりと涙が零れた。嘘でしょ。思い出し泣きとかどんだけ涙腺緩いの私。



やめろ〜泣き止め〜と手で拭っているとその手を捕まれ顔をあげた。
同じテーブルには青峰の他に緑間君と赤司君がいて、の隣に座っていた赤司君は「手で擦るのは良くない」といって顔を覗き込んできた。こんな不細工な顔見ないでほしいです。

涙目と一緒に眉尻を下げてそんなことを思っていたら赤司君は青峰の手を払い、慰めるようにの頭を撫でるのでぶわりと涙があふれた。


「赤司っテメ…!」
「あ、赤司君、その、撫でるのは…っ」
。ひとつ訂正しておくことがある」
「へ?」
「今日の再戦は正直俺達だけで勝てるものではなかった。俺達も勿論努力したが、先輩達や監督、支えてくれたお前達がいたから俺達は勝つことができたんだ」
「…っ」
「Jabberwockを下すことが出来たのは、お前のお陰だ。

ありがとう。そういって赤司君はふわりと微笑んだ。撫でられると余計に泣きたくなるのでやめてほしい、といいたかったのに赤司君はの心を刺激する言葉をいい放ち、鼻がツンと痛くなって視界が歪んだ。


「そうそ。ちゃんのお陰で真ちゃん達が全力で戦うことができたんだぜ」
「た、高尾く…」
「ドリンク、っちだったスよね?お陰で試合に集中できたっスよ」
「黄瀬君まで…や、やめて…っそういうの、弱いんです、よ…!」

ポン、と肩に乗った手に振り向けば高尾君が満面の笑みで微笑んでいる。高尾君と同じテーブルに座っていた黄瀬君も視線の先にいて、にこやかにを見ているから恥ずかしくて顔を手で覆った。

こういう時に褒められると涙が止められなくなるからやめてほしいのにみんな優しい言葉をくれるから涙腺が簡単に決壊したのはいうまでもない。



「高尾っこれ以上泣かせてどうする!」
「えええ?だって本当のことじゃん?ちゃんだって一緒に戦った仲間なんだし」
「そうっスよ!勝利はみんなで分かち合わないと!」

ていうか、っちって涙もろかったんスね!と笑う黄瀬君達に悪気は感じられず、それどころかをみんなと同じように扱ってくれることに自分はとても小さいことにこだわっていたことに気づいて恥じた。


黒子君がキセキの世代とチームを組むというのが本当はかなり気が進まなかった。
だって、もしかしたら黒子君がその空間に帰りたいっていったらどうしようって心配していたのだ。

だけど、そんなものどうでもいいと思えるくらいみんな直向きで勝つことに真っ直ぐで、凄く格好良かった。私は仲間だった。それだけで涙が止まらなくなる。


「ぅぐ…お礼、いうのは私の方だよ…っ胸がスカッとした!…あ、ありが」


Jabberwockを叩きのめしてくれてありがとう、とお礼を言いたかったけどそれは嗚咽で途切れてしまった。もう限界だ。
青峰には「泣くか喋るかどっちかにしろよ」と呆れられたけど、を引き寄せ「ったく、しょうがねぇな」と声色の割に優しい手つきで頭を撫でてくる。



「ぅ、痛い…」
「あ?どこがだよ」
「そこ、たんこぶがあって…」
「あ、ああ…」

けれど触れた場所が丁度たんこぶがあるところで、それを申し訳なさそうに零せば青峰はぎこちなく返しつつもそこではない場所を撫でてくれた。

青峰の優しさに驚きはしたものの、それでも涙は止まることがなくては仲間に囲まれながら勝利の嬉しさと安堵を噛み締めるのだった。




2019/11/07
青峰にも罪悪感はある。