EXTRA GAME - 30


「あいつらは…」

誠凛で1番感情豊かなマネージャーをあやしているようで泣かして喜んでるようにしか見えない後輩達に日向は伊月やリコ達と呆れた顔になったが、同じテーブルにいた若松は「あいつら仲良かったんだな、」と感心した顔で呟いていた。


「あいつらって同中だっけ?」
「高尾以外は同じ…あ、火神もちげーか」

ムスッとした顔のまま何もできず見ている火神を見て『不憫だな』と眺めた。
高尾みたいに青峰に睨まれながらも一緒に混ざって撫でてやればいいのに…と考えていれば、黒子が濡れタオルを持ってきてに渡していた。火神、そういうところだぞ。


しかしまあ、それでも良かったなと思う。試合中はともかく終わってからもが顔を見せなくてずっとソワソワしてたもんなウチの影と光は。

今はやっと安堵できた顔での頭を撫でている黒子に、あいつもマネージャーを泣かす確信犯だなとわかって後でシメとくか、と考えた。


「つか、女子に優しい青峰もなんか気持ち悪ぃな…」
「あ?なんかいったか?若松」
「てめ!呼び捨てはやめろっつってんだろうが!」

俺は主将だぞ!と若松が吠えたが、青峰はいかにもバカにした顔で鼻で笑い前を向いてしまった。試合以外のアイツの態度は目に見えてムカつくな。

同じ学校ならシメてたぞ、と眉を寄せていると、伊月が「桐皇も大変だな」としみじみ若松に同情し桐皇の主将は力なく嘆息を吐いた。コイツってこんな苦労性な感じだったっけ?



「ちょっとちょっと〜いいのかよ、あれ」

というか黒子はともかく、は黄瀬以外のキセキの世代と仲良かったっけ?と首を傾げていると、コガこと小金井が面白くなさそうにこっちのテーブルに寄ってきての方を見やった。

小金井のいいたいことはわかる。ご満悦な黒子を筆頭に後輩達は和やかに話してたり何人かニヤついて泣いてるを見ている様はこっちとしては面白くもないし多少なりムカつく。

嬉し泣きだということはわかっているし、試合に勝てたのはあいつらのお陰だから目を瞑ろうとも考えたが、小金井以外の誠凛メンバーも面白くなさそうに青峰らを見ているのがわかって頭を掻き溜息を吐いた。


!ちょっとこっちに来て」
「うぉい!」

あいつらとの話もひと段落しただろうし回収してやっか、と口を開けたところで被せるようにリコがを呼び寄せ、思わずつっこんでしまった。

隣では「ドンマイ日向」と伊月と小金井に肩を叩かれうぐ、と眉を寄せたのはいうまでもない。
別にいいんだけど手柄を取られた感が半端なくて恥ずかしいなおい。


「どうしました?」と駆け寄ってきたはやはり目が赤くて鼻もスンと鳴らすくらいにはまだ治まっていないらしい。
その後をカルガモの親子のように黒子と火神もやってきて「逆カルガモ親子」と小金井がこっそり呟いたのが聞こえた。



「お疲れ様。そっちの方は問題なかった?」
「はい。あーでもJabberwockの控室は酷いことになってました」

修理費とかかなりヤバいんじゃないですかね…と濡れタオルで目を拭うに「そういや、控室いる時どっかからスゲー音が聞こえてたけどそれだったのか」と火神も納得していて、日向もアレか、と思い出していた。

はじめ雷か?と思ったくらいにはスゲー音してたもんな。
「立つ鳥、濁しまくりね…」と呆れて溜息を吐くリコに同意しながら伊月が反応してくっだらない駄洒落をこき下ろすと「今は飛行機の中ですかね」とが肩を竦めていた。


「なんだ。泳いで帰らなかったのかよ」
「はい。残念ながら」

折角楽しみにしてのによ、とぼやく若松にも同意で返していて、そういえば最初若松のこともビビってなかったっけ?とを見た。鼻も赤くなってんな。

水戸部や土田にティッシュやら飲み物を渡され、降旗達から椅子を差し出されたはお礼を言いつつ座ってこっちの話の輪の中に入ってきた。


少しずつ落ち着いてきた顔で受け答えしてるを安堵しながら飲み物を飲んでいると、いきなり隣にいた若松が日向の肩に手を回してきた。彼を見れば今にも噴出しそうな顔でこっちを見ている。

「どうした?」
「いいか。さりげなく、ゆっくり、振り向いてみろ」

チラッと、チラッと見ろよとニヤつく若松に眉を寄せたが日向はいわれたとおりにこっそり振り返った。そして見えた光景にバッと前を向いた。やべぇ、危うく吹き出すところだった。



「(何だあれ!なんなのあいつら!)」
「(だろ?アイツらヤベーんだけど!)」
「ん?どうした日向」

若松と一緒に口を押さえ笑いを堪えていると、不思議に思ったらしい伊月が声をかけてきたので耳打ちして教えてやった。

「ぶふっ!」
「(おい!笑うな!見つかっちまうだろ!!)」
「(落ち着け伊月!深呼吸だ深呼吸!ぶふっ)」
「何々?どうしたの?」

バレそうになった伊月を屈ませ、日向達も震えて堪えていれば小金井や土田達も気になったみたいで、伝言ゲームのように教えてやったら誰かが噴出してしまって日向も笑ってしまった。


「え、何?いきなり笑って」
「いや、気にしないでくれ…」
「そうそう…ぶふっ!」
「マジ無理…っ!あははは!」

事情を知らないリコは訝しげにこっちを見てきたが日向達は腹を抱えて笑った。

なんせさっきまで自信満々!勝利の凱旋気分で堂々としていた青峰達がテンション駄々下がりでだらけていたのだ。

それは男同士なら気兼ねない普通に見かける光景なのだが、がいた時のようなキリッとした空気は微塵もなく、彼女が見てないことをいいことにダラダラとしている。
それが彼らなりに見栄を張ってたんだとわかってしまって面白可笑しかった。

しかもあの赤司までもがの前だからとかっこつけていたのだとわかり腹が捩れてならない。
あーこいつら、年下で可愛いところもあったんだな、と思い出させてくれたに感謝した。



「???どうしました?日向先輩…」

いいもの見させてもらったわ〜とを頭を撫でると潤んだ赤い目がこっちを見てパチパチと瞬きしている。赤くなっちまった目は可哀想だけど、泣かしたい奴らの気持ちもわからなくもない。

も何気にこちらが照れる言葉を安易に寄越してくるのだ。あの言葉選びは間違いなく黒子の影響だろう。
それも相まっての素直な言葉も泣き顔も妙に可愛いというか弄りたくなるのだ。


そう考えると少しだけ後輩マネージャーの行く末が心配になるのだが、そこまで考えたところで背筋にぞくりとした冷たい視線を感じの頭に乗せた手が跳ねた。

ぎこちなく、ゆっくりと視線を感じた方を振り向けばにっこりと微笑む赤司がじっとこちらを見ている。


「先輩方、そんなに俺達が面白かったですか?」


随分笑ってましたが、どの辺が面白かったですか?と核心を突いてくる赤司に日向達は一気に顔色を青くしたのはいうまでもない。




2019/11/11
いくら後輩でも赤司には頭が上がらない…のかもしれない。 ※よろしければ→元気注入拍手