君色シンデレラ・3


そう、これは私が男だったらまるっと解決することなんだ。
いや、ならないけど。そんなお金も気持ちもないし。

ただそれくらい忍足侑士と話せなくなったのは痛手だったっていう話だ。彼は頭の回転が早く話も面白い上に結構腹黒くて自分のことを鼻にかけない。
時折自慢話もするけどそういう時は必ずネタだから嫌味がないのだ。

そのことにいち早く自分が気づいたはずなのに今はむしろ自分の方が遠い存在になってしまっている。まあ今は今で楽しいっちゃ楽しいんだけど。だってあいつらに関わってたら命いくつあっても足りないし。


ハァ、と溜め息を吐いたは独特な匂いのする個室に1人、ぽつんと座って色画用紙を切っていた。今日は委員会の仕事があって保険医の三浦さんと世間話をしながら終わらせたけど今は職員室に呼び出されてお留守番中だ。

ここぞとばかりに出した色画用紙を切り抜いていると後もう少しのところで扉がノックされビクッと肩を揺らした。あ、ヒゲが少し欠けた。


「失礼しまーす…あれ?三浦先生は?」
「さっき職員室行きましたけど」

中に入ってきたのは3年の女の子で緩く巻かれた髪を弄りながら周りを伺った。三浦さんがいないのでに聞いてきたのだが見た感じどこも怪我してるようには見えないし具合が悪いようにも見えない。

「よし!」と顔を輝かせた彼女を不審な目で見ているとドアを見やった彼女がこっちに振り向いた。


「あなた保健委員?だったら鍵持ってるよね?それ私が返しておくよ」
「え、」
「迷惑かけないからさ!ね!お願い!!」

彼と2人きりになりたいの!と小声で手を合わせる彼女に、ああ、と漏らした。こいつ、保健室に何しに来てんだよ。
内心呆れたがこのまま居座って見たくもない光景を見せ付けられるのも嫌だなと思ったは持っていた鍵を手渡すと「ありがとう!」と顔を輝かせた彼女がそうのたまった。

今日も終わらせられなかった。と残念な気持ちで色画用紙を紙袋に詰めたは急かされるように保健室を出た。丁度ドア口の横にその彼もいて、ついでのつもりでどんなチャラ男だよ、と興味半分で見やれば思ってもない人物に肩が揺れた。ヤバい。睨んじゃったよ。


「景吾!三浦先生いないって」
「…こいつ、保健委員じゃねーのか?」
「違うんだって。どうしよう」
「…とりあえず中に入れ。探せば何かしらあるだろ」

一体何を探してるんだか知らないが彼女の方は探す気なんて最初からないのですよ、王様。
つーかわかって来てるんじゃないの?バレないように言い訳でもしてんの?わけわからん。

そして私は保健委員ですよ、と心の中でぼやきつつ背を向ければ「待て、」と王様に呼び止められた。

「落としたぜ」
「あ、りがとうございます…」

どうやら肩を揺らした時に紙袋から暇つぶしに作った8面体の星が落ちたらしく(よく気づかなかったな私)、王様がわざわざ拾って紙袋に入れてくれた。
髪つやっつやだな。一挙一動が様になっててオーラ半端ないな、とか睫毛長くないか?とかどうでもいいことを考えていると王様がこっちを見てきたので慌てて視線を逸らした。


「それ、お前が作ったのか?」
「はぁ、はい」
「……」
「……?」
「お前、本当に保健委員じゃねぇのか?」
「はい。違います」

さっきから動こうとしない王様には自分なにかしたっけ?と思いながらも否定した。
委員長でもないから、まさかバレたとは思えないけど…もしかして目を合わせないとか挙動不審にしてるから何だこの珍種とか思ってるんだろうか。

残念ながら庶民にはこういう人種結構います。あなたが希少種なんです。とはいえない。

「お前…」
「景吾〜見つからないよ〜?」

おでこ辺りに視線をチクチク感じながら必死に視線を下げていると王様が何か言いかけて口を噤んだ。中にいる彼女は何を探してるのかさっきからガタガタ煩い。
備品壊したら王様何とかしてくれよ、と思いつつ、いいタイミングだと思ったは「じゃあ失礼します」とそそくさと逃げた。

早足で逃げて昇降口まで辿り着いたは凝り固まった肩を揉みつつ息を吐いた。久しぶりに王様と話したよ。相変わらずおっかない人だなーと思いつつ下駄箱からローファーを取り出した。


「仕方ない。美琴にメールして家でやるか」

その後保健室で何があったとしても、彼らがどういう関係かも私には関係ない。元々住む世界が違うんだから。そう思って寒い外へと躍り出た。



*****



保健室の一件から一週間経ち、保険医の三浦さんには「帰るなら、ひと声かけなさい」と怒られた。いやだってあの後ナニかあって三浦さん鉢合わせたらお互い気まずいでしょうよ。
私なりの優しさですよ、と内心思っていたが口にはしなかった。

それにしても気になるのは王様と一緒にいた彼女だ。関係ないな、とは思ったけどやっぱり気になるものは気になる。
結局王様の恋人だったんだろうか。彼、とかいってたし。でも噂ないな。ファンクラブにはどう伝わってんだろう?イジメとかあんのかな?…まあ、ただの野次馬だけど。

つーか、学校でイチャイチャするとか節操無いにも程があるよね。気を遣うこっちの身にもなってくれ。

欠伸を噛み殺しつつ、号令に合わせて先生に一礼したは椅子に座りなおすとそのまま突っ伏した。眠い。

「おーい。大丈夫か?」
「…あーはい。大丈夫です」

視界に入ったのか人がいいアイドル向日は突っ伏したを覗き見て「疲れてんの?」と言葉をかけてくれる。近くにいてしみじみ思うけど、君らって人がいいよね。煩いけど。


「ちょっとね。あんまし寝てなくてさ」
「あーそろそろ期末考査だもんな」

試験勉強してんのか、真面目だな。と褒めてくる向日にそっちじゃないんですよ、と思ったが否定はしないでおいた。別にどっちに思われても構わないし。

「ていうか、前は毎日持ってきたけど折り紙もう作ってねーの?」
「うん。ノルマは終わったから」
「ちぇーつまんねーの」とぼやく彼にここでやれない分家でやってそれで寝不足なんですがね、と思いながらも口には出さなかった。


結局学校には居場所がないってことで家でやってるんだけど進みは全然遅い。前に向日達に手伝ってもらって大分進んだけど家で内職するようになったらプラマイゼロになってしまった。

試験勉強もしなきゃなーと思いながら次の授業の用意をしていると教室から悲鳴のような歓声が上がり何だ?と顔を上げた。発信者は例の"あかりん"だったが彼女の視線の先にいたのは滅多に他クラスに顔を見せない王様・跡部景吾でも驚き彼を見つめた。

大抵誰かしらを使って自らの足で赴くことはなかったのでこの光景は異様である。


「珍しいね。王様がこっちまで降りて来るの」
「本当だね」
「部活と生徒会引退したから時間でも余ったのかな?」
「かもね」

美琴も驚いたのかわざわざこっちまで駆け寄ってきて王様の動きをじっと見つめている。他のみんなも一緒だ。気にしてないのは本人と呼ばれた向日くらいで、何やら言葉を交わすと王様の視線が動いた。
チラリと向けられた視線にはぎょっとして慌てて視線を下げた。やべぇ、目が合った。だからといって取って食われるとは思えないけど心拍数はさっきより俄然に上がった。

まさか保健室のことで目をつけられたんじゃないよね?いやいや、あれからもう1週間は経ってるんだからさすがに忘れてるでしょ、と自分につっこんでいると美琴がそそくさと自分の席に戻り、代わりに向日が帰ってきた。

「跡部様何の用事だったの?」と早速聞いてくるあかりんに向日は適当に返して友達と世間話を始めた。やっぱりあかりん、向日に煙たがれてないだろうか。


「あ、そうだ。お前放課後残れってさ」
「へ?」

授業が始まり、先生が来るのを待っていると思い出したかのように向日がこっちに振り返りそうのたまった。残るのは構わないけど誰がいついったの?


「跡部がお前に用事あるみたいだぜ?」


マジですか向日さん。




2013.04.28
性転換の夢小説も捨てがたい(やらないけど)。