Revenge and friendship.




□ 13 □




降り注ぐ暑い日差しの中、そろそろきれてきた日焼け止めも大量に買っておかないとな、と考えつつ階段を下りていると2年生の女の子に呼び止められた。一瞬、警戒したが2人組で大人しそうな子達にすぐに違うとわかった。

「あの、これ幸村先輩に…」

そういって渡された紙袋にはにっこり微笑むと「わかった。渡しておくね」といって受け取った。幸村の手術成功・経過も良好ということは既に知られていて、そろそろ退院してくるんじゃないか?という噂で持ちきりになっていた。
その為、ナリを潜めていたアピール活動も再開された訳なのだがの心中は複雑だった。


「あ、さん。今から部活ですか?」
「柳生くんも?…って、差し入れすごいね」

下駄箱で靴を履き替えると丁度大きな紙袋を持った柳生くんとはち合わせた。見れば華やかな色合いの袋達がひしめき合っている。
モテモテですな、と笑えば「全部幸村くん宛なんですよ」と苦笑された。申し訳ない。

「重いようなら持ちましょうか?」
「あははっ大丈夫。軽いし手首も大分良くなったんだよ」

弦一郎が過保護すぎるんだよ、と鞄を持つといってきた柳生くんに大丈夫、といえば「では、そちらを」といって差し入れを自分が持ってる紙袋の中に入れた。さすが紳士、ソツがないね。


「……」
「?どうかしましたか?」
「…柳生くん、だよね?」

じっと見つめるに柳生くんは首を傾げたが何かに気づいたのか「ああ、仁王くんですね」と笑った。

さんも仁王くんに騙されたみたいですね」
「んーまぁね。だってまさか柳生くんに変装してるとは思わないじゃん?…ていうか"も"?」
「仁王くんはいたるところで変装してますからね。騙された人も少なくないと思いますよ」
「えっじゃあヤバくない?!柳生くんの格好なんでしょ?!大丈夫だったの?」

柳生くん被害者じゃん!といえば彼は笑って「私も仁王くんに変装したことがあるんですよ?」と返してきた。マジでか。



「えっいつ?」
「試合の時に少し。あとは…皆瀬さんの前でも」

声まで似てたからマジでビックリだったのに柳生くんも変装してただと?!しかも試合中に?こ、公式じゃないよね…?え?そうなの?大丈夫なのそれ。ギリギリOK?
色々引き出される情報に若干引き気味で聞いていれば皆瀬さんの名前が出て柳生くんが困ったように笑った。


「…友美ちゃんの前でもやったんだ」
「ええ。これができれば完璧だ、と仁王くんがいいまして…ですが、皆瀬さんには怒られてしまいました」
「あーうん。だろうね」

好きな人が自分を騙すってあんまいい気分じゃないだろうし。でも普段優しい皆瀬さんが怒るのも珍しいな。

「友美ちゃんが怒ったの…きっと、柳生くんだからだろうね」

それだけ心を許してるのかなって思ってニヤリと柳生くんを見れば照れた顔になって「そうだと良いのですが…」とはにかんだ。ご馳走様です。


「仲がいいのぅ」
「ぎゃあ!に、仁王くん?!」

ぼそりと聞こえた声に振り返れば真後ろに仁王がいて思わず叫んだ。いつもいつも思うのだけど背後に立つのやめてくれないだろうか。そう文句をいえばこれもいつものように「プリ」とはぐらかされた。

「おや。お2人は仲がよろしいんですね」
「え?これ仲がいいっていうの?赤也と同レベルじゃない?」
「否定はせんのぅ」

からかわれてるだけじゃん!といえば首の後ろにぴちゃっと冷たいものが当たり「ぎぃやああ!」と仁王から離れた。慌てて触れば濡れた水だけで仁王の手には買ったばかりらしいペットボトルが握られている。ちくしょー!笑うんじゃない!!



「柳生くん!この人叱ってやってよ!昨日私の背中に変な虫入れてきたんだよ?!」
「変じゃなか。クワガタぜよ」
「どっちも一緒だ!」
「仁王くん。レディーにそんなことをしてはいけませんよ。それに近年はクワガタも希少価値なんですから…」
「えっ柳生くんそこ?!」


むしろ心配はクワガタ?!ひどいよ!と悲しい顔をすれば柳生くんが慌てて「クワガタの角は危ないと言いたかっただけで…」と言い訳してくる。

「安心するぜよ。クワガタでもメスの方じゃ」
「そういう問題じゃない!」

ピヨ?じゃねーよ!!お前はいつもいつも!とプンスカ怒っていれば何故か柳生くんが笑っていた。ちょっと紳士!そこ笑っちゃダメでしょ?!


「本当、仲がよろしいんですね」

羨ましいです。という柳生くんにと仁王は微妙な顔で見合わせたのだった。
時々、柳生くんのツボがわからない、そう思った日だった。



*****



「は?仁王くんサボり?」
幸村の差し入れに引き続き、仁王への手紙まで受け取ってしまったは嫌がらせついでにB組にまで渡しに行ってあげたのに本人がいなかった。
丸井に聞けば席替えで窓側の席になってからというもの、仁王の出席率は格段に下がったという。


「…そのうち留年とかしちゃうんじゃない?」

先生に席替えとかお願いできないの?と聞いてみたが「どっちにしても夏場の仁王は授業出ても寝てるだけだぜぃ」とのことだった。いやしかし、冬は冬で寝てなかったか?それで部活禁止令が出たとか出なかったとか皆瀬さんが言ってた気がするんだけど。

「じゃあこれどうしよ?」
「机ん中…は忘れるだろうから鞄の中にでも入れとけばよくね?」

むしろジャージの中とかよ、と助言してくれる丸井には溜め息を吐きたくなった。折角のラブレターが不憫すぎる。


「仕方ないなあ。丸井くん、ノートの紙1枚貰える?それからペンも貸して」
「?何に使うんだよぃ」
「置き土産」

ノートを1枚破ってもらったは丸井の机を借りてサラサラと描いていく。数分も経たずに出来上がったそれを見て丸井は「ぶはっ!」と笑った。

!下手くそすぎじゃね?!それ画伯の域だぞぃ!」
「えっ嘘?!似てない?結構力作だと思ったのに」
「自覚ねーのかよぃ!!」

ゲラゲラと腹を抱えて笑う丸井には眉を寄せて見てみたがそんなに下手くそなのかわからなかった。



『仁王だぜよ』と、ふきだし付きで描いた仁王の顔は結構いい線いってると思ったんだけどな。美術的というよりはデフォルメされたコミカルな絵だとは思うけど。

うーん、と唸るに丸井はそのまま置いてけ、と笑って紙を奪い仁王の机の上に置いた。下手と言われて内心書き直したかっただったが時間もなかったのでとりあえずわかりやすいように絵の隣にラブレターを置いて教室へと戻った。


その後、B組では授業中その絵を見たクラスメイトが笑いを堪えるのに必死で、見に来た先生も吹き出し、挙げ句の果てには帰ってきた仁王を見るなり丸井達が爆笑したのは言うまでもない。
放課後、何も知らないは仁王に鉄拳を食らい、困惑した顔でいるのを丸井がまた笑ったのだった。



*****



更衣室のドアをカラリと開けては皆瀬さんと顔を見合わせにっこり笑った。今日も暑いから髪をアップにしなきゃなーとぼやいていたらだったらいつもと違う髪型にしようよ!という話で盛り上がったのだ。

「私、おさげなんて久しぶりにやったよー」
「私ツインのおさげは初めてだよー」

どうせならお揃いにしようか、と調子に乗っておさげにしてみたのだが鏡で見たら子供っぽく見えてちょっと恥ずかしかった。皆瀬さんはそれでも可愛いな、と思いながら仕事に戻ると平部員の後輩達は何故か上半身裸で練習していた。


「お、お、お前らーっ!誰が上を脱いでいいといったー!」
「だって暑いんスもーん」
「日焼けしてまーす!」
「先輩も日焼けしましょーよー」
「アホかー!真面目に練習しろー!!」

お前ら自分の出番がないからって気を抜きすぎだー!と叱れば「怖いっスーっ副ぶちょー!」と笑われた。マネだけど叱ってるんだからね?マネだけど…私じゃ威厳ないのかな…。


「小学生がここで何しとんじゃ」
「は?誰が小学生だ?!…て、仁王くん」

ぺしりと何かで叩かれ振り返れば不機嫌顔の仁王が後ろに立っていた。ていうか小学生ってなくないか?

「私のどこが小学生なのよ…あいて」
「ポケットにゴミばっか詰めおって。小学生じゃなければイジメか?真田に訴えるぞ」
「そこで真田の名前出すのやめてよ!心臓に悪い!…ていうかゴミって何の話?」

頭を叩かれていたのは仁王のジャージのポケットに突っ込んでおいた頼まれ物のラブレターで痛くはなかった。言葉も条件反射でいってしまっただけだがゴミを入れた覚えはない。
首を傾げるに「返品不可じゃ」といってラブレターや彼のポケットに入ってたゴミをのジャージのポケットに突っ込んできた。



「ぎゃあ!ちょっと!セクハラセクハラ!つーか、何このゴミ?!」
「お前さんが入れたもんじゃろ?」
「違います!入れてない!入れたの丸井くん達じゃないの?!」

ラブレターも入れてくるな!とポケットから引っこ抜けば、ガムの包み紙やお菓子の袋がポロポロ落ちてくる。間違いない。犯人は丸井だ。

「…仁王くん。丸井くんに何かしたんじゃない?」


でなきゃゴミ入れられるとかイジメみたいなことされないだろう。探るような目つきで仁王を見れば「…あれかの」と察しが付いた顔で顎を撫でた。身に覚えがあるらしい。

「じゃあこれ丸井くんに返してきなさい。私だっていらないっての」
「えーめんどくさい」
「面倒なのはこっちだっつーの!」

むしろ被害者だ!と訴えようとしたら「何をしている?!」と心地いい程に通る声がコートに響き渡った。うわあ、弦一郎だ。


「神聖なコートにゴミを撒き散らすとは何事だ?!」
「「スンマセン…」」

拳骨を食らったかのような怒鳴り声に2人で仲良く謝り、渋々ゴミを拾ってポケットにつっこんだ。
私は被害者だってのに…そう思いながらゴミ箱に捨てようと部室に向かっているとピン、と髪を引っ張られた。

「何をするかね、仁王くん」
「尻尾じゃの」

地味に痛いんだけど、と仁王を見れば「道理で小学生に見えるわけじゃ」とよくわからないことをいわれおさげの毛先を指で遊びながら振ってくる。頬に当たってくすぐったいんですけど。



「そういえば皆瀬も似たような髪型じゃったの」
「そうそう。今日は2人でお揃いにしてみた」

可愛いでしょ?と笑ってやれば唸るように悩みだしたので「冗談だよ」と冷めた声でつっこんだ。別に可愛いとか思ってねーよ。


はいつもの髪型の方がしっくりするぜよ」


おさげを離したかと思ったらそんなことをいわれ、どっちで受け止めたらいいのか分からずは首を傾げつつ部室に入ったのだった。

そしてポケットのゴミは仁王の手によって全部丸井の制服のポケットに詰めこまれたのだが、その後ろ姿を見ながら彼らの友情が崩壊しないことをはほんのり願ったのだった。




短編詰め合わせみたいになった。
2013.01.20