Do your best!




□ あの日の頃の手塚くん □




「手塚国光!!!」

自分の名を大声で呼ばれた手塚は眉を寄せながらも振り返った。
見れば見知らぬ少女が1人立っている。その少女は自分と同い年くらいで名前を知ってるなら同じ学校の子かと思った。しかし、見知らぬ少女に睨まれる記憶は手塚にはなかった。


「そんなすました顔でいられるのも今のうちだかんね!!次は絶対負けないんだから!」
「……?」
「勝つのは弦ちゃんなんだからね!!」

弦ちゃん?と首を傾げたが少女は憤慨したまま去っていってしまったので誰のことをいってるのかわからなかった。

ある日の夕暮れの時間。
真田と試合をして勝った日だった。







それがとの出会いだった。






その後、最初こそその少女を学校でそれとなく探してみたが見つかるはずもなく、手塚の記憶からも日々の生活と共に薄れていった。
睨まれていたことに不快感はあったものの、暴言らしい暴言もなかったし、もう会うこともないだろう、そう思ったせいもあって2年に進級する頃にはさっぱり忘れ去られていた。


強い日差しが降り注ぐ中、手塚はラケットをテニスバックに入れながら溜め息を吐いた。大和部長に青学の柱を託されて2年目の夏が来てしまった。
チームのモチベーションは悪くなかったと思う。自分も精一杯戦った。だが、全国には届かなかった。


「あ、手塚くんだ」


どうすればよかったのだろう。テニスバックをじっと見つめたまま考え込んでいれば自分の名前が聞こえた気がして振り返った。目の前の女子に既知感を覚えた。
だが、目の前の彼女は自分を睨んではいないし背も小さかったはず。そこまで考えてあの日から2年も経っていたのを思い出した。


「…あーそっかそっか。覚えてるわけないよね…ていうか自己紹介もしてなかったよね」

固まったまま見つめてくる手塚に彼女は何を感じ取って困ったように笑いながら「です」と教えてくれた。

「俺は…」
「手塚国光くん、でしょ?」

知ってるよ、と笑ってこちらに歩み寄るので合わせるように自分も立ち上がった。



「う、わー。大きくなったね〜。さすが伸び盛り!」
「…はぁ、」
「……」
「……何か?」
「ああ!いえいえ!!……(一気に老けたな。弦ちゃんの仲間か…?)…年月って凄いなって、思ってね」 「……」
「今、身長いくつ?」
「…174cmだが」

見上げるに手塚は違和感を拭えなくてなんとなく眉を潜めた。知らない人間にあたかも懐かしがられてるのが少し不気味だった。しかし、そんな手塚を気にすることもなく彼女は「うわっヤバイじゃん。弦ちゃんより高くない?!」と深刻そうな顔でブツブツ独り言をいっている。


「そうだ。空気読まずにいうけど試合お疲れ様。そんで残念だったね」
「……あ、ああ」
「真田が、"手塚は来るのか〜来ないのか〜来るのか〜来ないのか〜"ってすんごく楽しみにしてたんだよ」

今頃悔し泣きしてるかもしんないね。とケラケラ笑うに手塚は真田弦一郎か、とようやく合点がいった。そしてあの日の少女と面影が綺麗に重なり、だからあの時怒っていたのかとやっと理解できた。

しかし、先程のセリフは真田の声真似だろうか?不二や菊丸がいればうまい返しが出来たのだろうが、自分では何も思いつかなかった。


「でも意外。手塚くんが全国来れないの」
「……」
「学校関係なかったらさ。きっと簡単に全国行ってたんだろうね」

真田の受け売りだけどね。と笑うはとても裏があるように見えなかった。それに社交辞令でも慰めでもなくただ淡々と話しかけてくる。負けた直後だというのに不思議と彼女の言葉を不快だとは思わなかった。

「…どうだろうな」
「またまた。他人のことあんまり褒めない真田が"打倒手塚!"とかいってるくらいなんだよ?それに幸村くんとかも手塚くんと対戦できるの楽しみにしてたんだから」



それは褒められてるのだろうか?

「今年の書き初めも"打倒手塚"だったんだよ?!」と笑う彼女に手塚はいい迷惑だ、と思いながら幸村の名前に、もしやテニス部マネージャーなのかと聞いてみた。もしそうならこんなところで油を売ってる暇はないはずだ。立海はこれから決勝戦なのだから。


「違う違う。学校は立海だけど幸村くんと同じクラスなだけ。真田は従兄だから」
「いとこ…」
「私あんまテニスのことわかんないけど、でも手塚くんが強いってのなんとなくわかるよ。フォームとか綺麗だし動きも早いし。青学の中ではダントツに目立ってた」
「……」
「一応立海生だから表立って応援は出来ないんだけど、私も手塚くん達との試合観るの楽しみにしてるから」


バレたら真田がいじけるもんでさ。そう笑って背を向けたは決勝戦のあるコートへと向かっていく。しばらくその背中を見つめていた手塚だったが、自分も仲間を待たせているんだと思い出し慌てて彼女が向かっているコートの方へと急いだ。


心の中でほんの少し、そんな風に自分を応援してくれる人がいたらどんなにいいか、そんなことを考え、手塚は少しだけ羨ましく思った。




生真面目手塚と接触。そして真田は手塚好き過ぎ(笑)
2013.01.27