□ 罰ゲーム □
今日も晴れ渡ったコートでいつもどおりラケットを振っていたが、今の場所は学校ではなく跡部が所有する別荘inテニスコートだった。
急な連絡で合宿することになり、全国も終わって暇を持て余していたから丁度いいと参加したまでは良かったのだがなんだか余計な問題まで遭遇してしまったようだ。
「ちゃんのスコート姿もろたで〜」
「うっわ!忍足くんマジで言ってんの?」
ラケットで肩を叩きながら余裕の笑みで笑う忍足にはこれでもかと顔をしかめて「マジなの?!冗談じゃないの?最悪なんですけど」と暴言を吐いている。
合宿最終日、試合をするつもりでオーダーまでしたのだが、ただ試合をするのは面白くないということになり土壇場でオーダーが変更になった。しかも何故か賭けまですることになり終始真田が不機嫌だったがそれ以外はそれなりに楽しんでいるようだった。
中でも盛り上がったのは赤也と忍足の勝負で、『勝った方がのスコート姿が見れる』とかいうしょうもない賭けに景品であるはげんなりと肩を落としていた。ああ、負けた赤也も同じような顔をしてるな。
「こういうのは私じゃなくて友美ちゃんとか氷帝のマネジさんにやってもらった方がいいんじゃないの?!」
「アーン?だから最初にいったじゃなねぇか。今回の合宿は学校とは関係ねぇって。それであいつらを呼べるわけねーだろうが」
「皆瀬は家族旅行に行ってて来れなかったんだよね」
抗議するつもりで声を荒げてみたが跡部と幸村の元部長攻撃にはあっさりと撃沈していた。逆らうだけ無駄だろう。
「じゃあ侑士は俺が押さえとくから、は跡部と行ってこい!」
「は?何いうとんねん。スコート姿は俺がもろたいうたやん」
「ダメだ!お前行かせたらに何すっかわかんねーもん!」
「…んなことせぇへんわ」
ニヤっと微かに笑った忍足に向日は顔を青くすると「早く行けって!」とと跡部を追い払った。
あれは冗談だな、と遠目に見ていた仁王もわかっていたし多分跡部もわかっているようだったが騒ぐ向日に押されてコートを出ていった。この様子だと自分達ものスコート姿が見れるらしい。
馬子にも衣装じゃなければいいの、と思いながらぼんやり離れていく背中を見送っていると「仁王、」と柳に呼ばれ振り返った。
「お前も付き添ってやれ」
別に何かあるとは思えないが昨日の説教もありお目付け役をつけたいのだろう。過保護じゃの、とぼやきながら先を行くと跡部の後を追った。
「…何だ、テメェも来たのか」
追いつけば部屋の前で跡部が壁に寄りかかっていて呆れた顔を向けてきた。
「は中か?」
「ああ。今メイドに任せている」
任せているって…。跡部はそれでいいかもしれないが普通の感覚のがメイドに見られながら着替えるというのは落ち着かないんじゃないだろうか。がいるという部屋を見れば何やら騒いでる声が聞こえる。言葉まではわからないが声を上げているのはだろう。
「のことだ。着替えるか着替えないかで悩むくらいならさっさと終わらせちまおうと思ってな」
「なるほど、」
確かにあの顔は着替えたくなさそうな顔だった。だったら強制的に着替えさせてしまおうという魂胆か。仁王がドアを見ていたのでそれを読み取ったらしい跡部はそういうと「そっちは俺のお目付け役ってところか?」と嫌味をいうように口元を吊り上げる。
「残念だがそういう意味でを呼んだ訳じゃねぇぜ」
「わかっとるよ。あくまで牽制じゃ」
欲深い氷帝の元部長さんは他校のマネージャーまでヘッドハンティングしようとしてるからの。そういって肩を竦めれば鼻で笑った跡部が「有益な人材は多いことに越したことはないからな」とドアの方を見やった。
「見る目がないお前らじゃ持て余すんじゃねーのか?」
「……そうでもなか」
脳裏に幸村との確執を思い出し、眉を寄せたがその表情を跡部に見られることはなかった。
ガチャリと開いたドアに2人は一緒に視線を向ける。メイドに押されながら出てくるのは勿論で、その姿に思わず目を見開いた。
は白地にオレンジラインのワンピースタイプのウェアを着ていて、仁王がやったリストバンドとウェアと同色のサンバイザー、それにテニスシューズまでしっかり履いていて、まるでこれからテニスの練習でもするのか?といわんばかりの格好だった。
「跡部さん。なんでノースリーブなんですか。寒いんですけど」
「用意したのは俺じゃねぇ。忍足だ」
「忍足アノヤロウ…」
半袖焼けを隠すように両腕を摩りながら苦情をいうに「似合うじゃねぇか」とあっさり褒めた跡部は、驚く彼女の頭を撫でた。何断りもなく撫でとるんじゃこいつ。
「…見た目はテニスができそうじゃの」
「え、本当?って、見た目はってどういうことよ」
「お前さんは運動音痴じゃからの」
「違うし!そこまでじゃないし!!つーか、運動音痴だったらマネジできないじゃん!」
「まぁ見た目はいいとして、アンダーは穿いとるんか?」
「ぎゃあああ!何スカート捲ってんのよ!!」
制服のスカート丈より短いウェアにピラっと手触りのいい生地を捲ればが悲鳴と共に距離をとった。前を押さえながら「お前は小学生か!!」と怒るになんだか可笑しくなってくつくつ笑うと「おいコラ仁王!何笑ってんだよ!!」と怒る声が聞こえる。
その格好なら絶対穿いてると思って捲ったのに。反応良すぎだろ、と肩を震わせれば溜め息を吐く跡部が視界の隅で見えた。
跡部にはバレバレだと思うが仁王は少し動揺したのだ。
制服やジャージ以外の格好なんて見たことなかったしさっきまで着ていた男物よりも女物の格好は意外にも衝撃が大きくて。
思ってたよりしっかり出ている華奢な身体のラインに抱きしめた感触も相まって変に意識してしまった。そこら辺の同い年の男よりそこそこ経験してる仁王だったが、変に反応してしまったのは彼女が部活仲間で気軽な友達だったからというのが一因だろう。
自分を置いて跡部とコートに向かう後ろ姿を見ながら腰のラインからスラリと伸びた脚に目がいって、そんな目で見てる自分にハッとなって慌てて視線を逸らした。
「…あれ、ちょっと待って」
そろそろコートに着く手前で止まったは何かに気づいた顔でこちらを見やった。
「これって勝った忍足くんが見れればいい格好だよね?なのに何で私がみんながいるコートに向かってるの?」
「…今頃気づいたんか」
というか、今迄気づかない方がおかしくないか?という目でを見れば彼女は慌てて引き返そうとしたので逃げられないように手を掴んだ。そう考えていたのは跡部もで同じようにもう片方の手を掴んでいる。
「ちょ!何ですか2人して!!放してってば!!」
「どうする?」
「どうしようかの」
互いに視線を合わせてこいつも似たようなことを思ってるなと思った。忍足の下心が見え見えなテニスウェアは思ってたよりも男共の目を刺激するように思えてならない。かといって連れて行かなければ後々面倒なのも確かだ。
「…あ、やっぱり」
「お、鳳くん…!」
堂々としていればそうでもないが恥ずかしがっていると余計にからかわれそうで、如何にも苛虐心がくすぐられそうな顔で睨んでくる。
どうしたものかと悩んでいるとコートの方からひょっこり鳳が現れ「遅いから見て来いといわれまして。あ、先輩可愛いですね!」とへらりと笑う顔に仁王と跡部は溜め息と一緒に肩を落とした。タイムオーバーじゃな。
「ちゃん!よう似合っとんやん!」
「ちょっと!!それデジカメじゃない!!何構えて…ぎゃああっ撮るな!」
「ええやん!俺勝ったんやで?写真1枚くらいええやん!脚めっちゃ綺麗やん!!」
「キモっ!もう撮ったでしょ!1枚撮った!はいおしまい!!」
コートに入ればテンション高い忍足がデジカメを構えていて(ただの変態じゃな)、は悲鳴と共に逃げた。それを跡部が捕まえ押し問答が始まっているが仁王はそそくさと丸井達がいる方へと避難した。
後ろで「仁王くん!逃げるとかひどっ薄情者ー!!」と叫んでいるがシカトしてやった。これ以上面倒事はごめんじゃ。それにこれだけいれば誰かしら止めに入るだろう。
「何だ。思ってたよりまともだな」
「丸井、お前さんはどんな格好を考えとったんじゃ」
「え?うーん。こうなんか着ぐるみみたいな?」
「…確かに笑えるが、それじゃ罰ゲームじゃの」
「…ある意味にとっちゃあの格好も罰ゲームみたいなもんだけどな」
避難したと思えばそんな話を振られを見やった。嫌がるに自分のラケットを持たせてる忍足はとことん拘って写真を撮るつもりらしい。あいつはいつからカメラマンになったんじゃ。
周りも呆れて引いているのが見える。試合をしていた真田や宍戸、柳生に向日、それから柳に日吉も手を止め煩い方を見ていた。
カメラを構える忍足は絶妙な格好をしているが当の被写体は映る気が全くない為顔はしかめ面だ。
仁王のすぐ近くには正座で目隠しをさせられてる赤也がいて、ことあるごとに反応してキョロキョロと見回しているのが不憫でならない。正直何とかしてやりたい気もしないでもないが傍らのベンチに座る幸村に心の中で赤也に謝っておいた。
しかしいつものように機嫌良くこの状況を楽しんでるのかと思えばじっと騒がしい方を見ていてその視線に変な違和感を感じた。は幸村が自分のことを嫌いだといっていた。しかし、あの目はむしろ。
「もーやだ!もーやだ!!」
「……何じゃ、もう逃げ帰ってきたんか」
「逃げたくもなるよ!!何で私が写真撮られなきゃいけないの?!」
「写真?!」
「テニスウェア着てるを忍足が激写してたんだよぃ」
「は?マジっスか?!俺も欲」
「負けた奴にもらう権利ないで〜。それからちゃん撮ってええんは俺だけやから。他は網膜にでも焼き付けておくんやな」
「いりませんよ!誰もほしがんねーし!忍足くんだけだよ。阿呆!!」
「褒め言葉おおきに」
「褒めてないし!!!ていうかそのデータ消去して!!」
「いややもーん」
そこそこ離れてるこちら側まで逃げてきたは仁王の後ろに隠れると忍足に抗議の声を上げたが奴はヘラヘラとデジカメを持って笑うだけで意に返さなかった。というか、「もーん」とかキモいんじゃが。
調子乗りすぎじゃろ、と跡部を見やると奴は溜め息を吐いて我関せずと樺地がいる氷帝サイドのベンチに行ってしまった。
「つーか、あんなん撮って悪用とかしねぇよな?」
「…一応個人で使用するだけでネットにアップしたりとか変なことはしないっていってたけど」
「「「………」」」
大いに問題じゃねーか。と3人の考えが一致していたが「多分、着信画面とかに使うんだと思う」というの言葉に夢を壊すのもどうかと思ってそのことについては誰もつっこまなかった。
現実は知らない方がの為だろう。いや、その現実もあったらあったで困るのだが。
「つーか、のそういう格好新鮮だな」
「私は落ち着かないよ。ジャージの方がいい」
「ついでに打ってみるか?」
「え、やだよ。ど素人の私がアンタ達とまともに打ちあえるわけないじゃん」
今日は一応試合でしょ?とコートを見やれば丁度試合が終わったのか向日がコートの外に走りに行き、真田と宍戸が腹筋をしている。……あいつらは勝っても負けても関係ないようだ。
それから日吉はこれでもかと眉を寄せ考え込んでいるようだった。そういえばあの2人の賭けは負けた方がモノマネをする、だった気がする。
「っつっても、これじゃ試合の意味なくね?それに下にスパッツ穿いてるんだろぃ?」
「ぎゃああっちょっと!何アンタまでスカート捲ってくんのよ!!」
「ちょ!丸井先輩!!何そんなガキ臭いことしてんスか?!」
「ああ?別に見られて困るようなもんじゃねぇだろ」
「こ、困らないけど!ビックリすんでしょうが!!」
目隠しをされているというのに反応が早い赤也を見れば顔を赤くしていて"あー見たいんだろうなぁ"と生温かい目で見てしまうくらい悔しそうだった。
その後ろにいる幸村といえば丁度のスパッツが見えたのか驚いた顔で固まっていて、仁王がじっと見ていると慌てて顔を逸らし咳払いをしていた。
ほんのり赤い顔にコイツも人の子だったんだな、としみじみ思ったのはいうまでもない。
「ていうか私にはもうジャッカルしか味方いないし!仁王くんも敵だし!!」
「…は?何言うとんじゃ」
そんな観察をしていればこっちはこっちで話が勝手に進んでいて思わずつっこんでしまった。「だって用もないのにスカート捲って喜ぶの小学生かあんたらしかいないじゃん!」という言葉に眉を寄せた。
誰も用がないとはいっていない。スキンシップの一環だ、一応。
「別に喜んでなどおらん。自意識過剰じゃろ」
「そうだぜ。そんな格好してるが悪い」
「……」
「…ブン太。お前な」
「それに、嫌がられっと余計にやりたくなんだよな〜」
呆れた顔でジャッカルと見やれば、それはもう悪巧みをしてるなといわんばかりに笑う丸井がいた。きっと悔しがる赤也をからかいたいのもあるのだろう。
楽しそうじゃの、と思っていれば顔を青くしたが逃げ出し丸井も追いかける。まぁ、すぐに追いつかれたのだが気づけば何故か芥川と向日まで混ざってスカートめくりのターゲットにされ、最終的にが真田に泣きつきそこでやっと収拾がついたのだった。
赤也…www
2013.02.16