Cultural festival preparation.




□ 26 □




本格的に文化祭シーズンに入った立海の放課後はどこもかしこも賑やかだった。
もクラス準備に追われていたが今日はジャッカルと共に被服室に来ている。

「ぶはっジャッカルヤベー!!マジヤベーっ!!」
「うっせーな!俺だってやりたくてやってるわけじゃねー!!」

被服室からどっと笑いがあがったのはジャッカルがいるところだ。今日は軽い衣装合わせで、馬役になったジャッカルに頭部分の被り物をつけさせたら丸井が爆笑したのだ。間近にいた皆瀬さんも被せたも吹き出し笑っている。


「怒らないでよジャッカル。超似合うって!ぶふっ」
「おい!お前も笑ってんじゃねーよ!!」
「よくやった!こりゃMVP獲ったもんだよぃ」
「何で俺でMVPなんだよ!」
「でもそれだとみんな内容に集中できないんじゃない?」
「じゃあ俺のドレスもいらなくね?」

お互い親指を立て喜びを噛み締め合ったがジャッカルにつっこまれた。
だってジャッカルの地肌に近づけて色塗るの大変だったんだよ?!本当は白馬にしようかと思ったけどそれじゃ悪目立ちするじゃん!私なりの優しさだよ!とどうでもいいことをいってジャッカルを黙らせたら丸井がチラリと自分が着る予定のドレスを見て顔を引きつらせた。


実は文化祭でのテニス部の出し物は演劇でしかもシンデレラらしい。まだちゃんと彼らの練習を見ていないが脚本は柳がアレンジしたものだという。間違いなく幸村も1枚噛んでるはずなので普通のシンデレラではないだろう。

しかし今のところ衣装作りはいたって普通で(ほぼ女装だけど)まともだ。
「えーダメだよー折角私ら作ってるのに〜」と笑う家裁部の子達にお前らなあ、と溜め息を吐いてる丸井はそう思ってないみたいだ。



「つーか、ドレスはと皆瀬でよくね?俺じゃなくてジャッカルでもよくね?」
「だからなんで俺を出すんだよ!」
「私ら着てもしょうがないじゃん。シンデレラはテニス部レギュラーが主体でって幸村くんいってたし」
「そうそう。丸井だって似合うよ?ドレス」

ニヤリ、と皆瀬さんと笑えば丸井は不機嫌そうに眉を寄せて「うれしくねーよぃ」とそっぽを向いた。
ご機嫌斜めでも幸村には逆らえないもんね。諦めたまえ、と励ましていればガラっとドアが開き、猫背のように背を丸めた気だるい仁王が被服室に入ってきた。


「あっやっときやがった!仁王、何度もメールしたんだぞぃ」
「おーそれはすまんの。寝とったぜよ」

怒る丸井に謝っているが一切そんな気持ちがこもってない仁王には苦笑した。日に日に寒くなってるっていうのにどこで寝てたのやらだ。
じゃあ合わせようか、と少し高いトーンで家裁部の子達が立ち上がると面倒そうにしてた丸井と仁王の周りに集まって服を着付けていく。


今回はドレスとあって達だけじゃ無理だからと家裁部にお願いしたのだ。本当は演劇部などから借りる予定だったが生憎他の部活に取られてしまい、市販品と合わせて作ることになっている。
家裁部も家裁部で予定があったみたいだが、幸村の声ひとつで1発OKをもらったらしい。さすがテニス部レギュラーである。


「おーおーモテモテですな」
「さすがだよね〜」
「こうやって見ると本当にテニス部って人気高いんだって思うよ…」

馬のたてがみと尻尾を縫い付けながら、きゃあきゃあとはしゃぐ家裁部の子達を遠目に見ていると馬の足の具合を確認してたジャッカルも顔を上げたが興味なさそうに視線を元に戻した。

今彼らはファンにサインを強請られてるアイドル状態だ。
1トーン高い声と紅潮した頬で迫られてるのだが当の本人達は平然としている。いや、若干丸井は満更でもないような顔してるな。可愛いとか似合ってるとか褒められて笑顔を見せている。その度に歓声が上がるものだから何度か指に針を刺しそうになった。

部活とかバレンタインとか目にしてた光景ではあるけど間近で見るのは初めてかもしれない、と思った。



仁王に視線を移すと丁度家裁部の子が彼の肩に触れているところだった。ローブの長さを調整してるところらしい。やりやすいように屈んでる仁王と顔を真っ赤にして作業してる彼女をはなんとなく気になって手を止めた。

話し声は丸井達の声にかき消されて聞き取れない。だけど楽しげに会話してるみたいで、彼女が笑ってるのが見えた。仁王も小さくだけど笑ってるようにも見える。


「?ちゃん、どうかした?」
「…ちょっとトイレ行ってくる」

手が止まってたを気にして声をかけてくれた皆瀬さんに、「さっき水分取りすぎちゃった」と笑って立ち上がったはそのまま被服室のドアを開け出て行った。



*****



用を済ましトイレから出ると空は殆ど真っ暗でこりゃご飯買わなきゃダメかも、と考える。
明日はクラスのことをしなきゃいけないから担当してる馬はもう少し仕上げておきたい。

?」
「あれ?幸村?」

被服室に戻る途中、後ろから声をかけられ振り返るとそこには幸村がいて少し身構えた。


柳裁判官が下した罰則に伴い部活に無事復活することになっただったが、幸村の気持ちは聞いていないままだ。柳の意見など簡単に覆せそうな幸村だけど、その気配は今のところなく、なんでもないように見られている日々が続いている。

時折、もう忘れたか気にしてないんじゃないかって思うこともあるけどでもそれは第3者がいればという話で2人きりは一向に慣れない。
最近お互いを呼び捨てで呼ぶようになってもその心境は変わることはなかった。


「今日はクラスじゃなかったっけ?」
「そうだけど進行早いから今日はもういいかってことになってさ。は被服室戻るの?」
「うん」
「どう?進んでる?」
「まあぼちぼちってとこかな。今日はもうちょい頑張る予定」
「そうなの?俺も手伝おうか?」
「え?いいよ。今日はたてがみ縫い付けるだけだし」
「でも人手があった方が早く準備できるだろ?」

にっこり微笑む幸村にこれはいっても無駄なパターンだ、と瞬時に理解した。幸村まで来たら家裁部の子達失神してしまうんじゃないだろうか。

そんなことを危惧しながら歩き出すとその隣を幸村が歩いてくる。その近さに緊張してバレない程度に距離をとった。折角部活に復帰できたのに気に障ることをして追い出されたらたまったもんじゃない。



「そういえば台本の方ってどうなってるの?」
「ああ。明日辺りにでも柳が配布してくれるみたいだよ」
「なんか柳くんが作る台本って市販品でも通用しそう」
「ははっかもね」
「シンデレラっていうけど、内容違うんでしょ?」
「ああ。普通じゃみんな知ってて面白くないだろうしね」
「シンデレラが赤也ってだけでも十分面白いと思うけど…」

そう。何を隠そうシンデレラはあの赤也がやるのだ。どこからつっこんでいいのか分からないけど幸村がキャストを発表した時笑いの最高値を叩き出したのは確かだろう。本人は未だに嫌がってるみたいだが。


「そういえば、柳がいってたんだけど赤也がサイズを計りに来てないんだって?」
「うん。柳生くん達とか放課後探してくれてるんだけどいつも逃げられるんだって。とりあえず柳くんからデータもらってるしそれに合わせて作ってもらってるけど…」

嫌だからって逃げてもしょうがないし、無駄な足掻きだと思うんだけどね。今隣を歩く人物と参謀に目をつけられたら逃げれるものも逃げれませんて。
内心遠い目になっていると「そう、」と悩ましげな声で顎に手をかける幸村が立ち止まったのでも少し後に止まった。


。頼みがあるんだけど」
「…え゛」
「別に変なことじゃないよ。時間がある時にでも赤也を呼び出してサイズ測ってもらえない?って頼みたかったんだけど」
「ああそういうこと……でも私、一応クラスの仕事あるんだけど」
「知ってる。だから時間ある時でいいよ」
「近々模試もあるんだけど」
「俺が教えてあげようか?」

範囲とか大まかな予測してあげるよ?と微笑む幸村に喉から手が出るほど欲しいと思ったが、涙を飲んでお断りした。だって後が怖いもん。

正直赤也のサイズなんて柳のデータだけで十分間に合うと思ったが、むしろサイズ図る役は私以外の人の方がちゃんと測れると思ったが魔王には逆らえないので一応頷いておいた。呼び出しても来なかったらそのまま報告すればいいし。



「遠慮しなくてもだったら喜んで教えてあげるのに」
「…ソレハアリガトウゴザイマス。オ気持チダケアリガタク受ケ取ッテオキマス」

ごめん。その優しさ怖くて受け取れない。


「…俺じゃ頼りない?」
「っい、いや!そういうわけじゃないんだけど…ていうか、教えてくれる人いるから大丈夫っていう意味で」
「そうなの?誰?」
「え………仁王、くん」

まさかつっこまれると思ってなくて面食らってしまったけど、いった後にこれいって大丈夫だっけ?と頭を捻った。

なんせ相手はとても面倒そうにパンか飲み物片手に毎回付き合ってくれるのだ。これで誰かに依託出来るとなったら喜んで先生役を降りてしまいそうでならない。
いくら面倒臭がりの仁王でも幸村との確執を知ってる彼なら幸村が何をいってきても適当に流してくれるだろう。そうであってほしい。


「ふぅん…仁王と仲いいんだ」
「どうかな。別に休みの日に遊んだりしないし。普通だと思うけど…」

仲がいいっていうよりからかい相手という方が正しいかもしれない。でも外から見たらこれって仲がいいことになるんだろうか?
一瞬、被服室で見た光景を思い出しあれも仲がいいってことなのかな?と考える。

「みんなと大して変わらないよ?」と幸村を見ればぎこちなく笑い返されてしまった。…言葉のチョイスを間違えたのだろうか。



「…俺、やっぱりに嫌われてるんだな」
「え?!な、何の話?!」

嫌う、という単語に反応して声をあげれば幸村は1歩こちらに歩み寄ってきた。それに合わせて1歩引けば幸村は悲しそうに笑った。何故そんな顔をするのかわからなくて、でも目が離せなくては幸村をじっと見つめた。

「仕方ないってわかってるんだけどさ」と視線を落とす幸村の顔はなんとなく影が漂っていて魅惑的だ。目が囚われる。



「……。俺はね、」

長い沈黙の後、幸村は自嘲気味な笑みを作って何かをいいだそうとしていた。それを固唾を飲んで見守っていたのだが誰かの足音が聞こえ、一気に現実に引き戻された。
廊下の角から出てきたのは丸井、仁王と家裁部の子達で何やら楽しそうに話をしていたがこちらに気づき丸井が声をかけてきた。


「あれ?幸村くんじゃねぇかよぃ。どうしたんだ?もしかして衣装作りの手伝い?」
「…ああ。そのつもりで来たんだけど丸井達はどこに行くんだ?」
「俺達は飯買ってこようかってことになってこれからコンビニ行くとこ」

幸村が来る、というので家裁部の子達が湧き上がり、一緒に行かない?と誘ってきたが幸村は丁重に断った。私としては是非とも買い物に行って欲しいのですがね、幸村さん。


は何食う?」
「おにぎり。シーチキンか鮭あったらよろしくー」
「じゃあ、よろしくー」
「仁王!テメーは行くんだよぃ!」

リクエストをいったの隣で手を振る仁王に丸井が怒ったが「えー」という声は本当に嫌そうだ。
こっちを見て助けを求めてくるが、それ以上に丸井側からチクチクと痛い視線を投げかけられにっこり笑って仁王に手を振った。



「裏切り者ー」


チラリと責めるように振り返った仁王を苦笑して手を振ってやれば溜め息を吐かれ丸井達についていく。隣にはさっき仁王と話してた子が寄ってきてまた何か話す姿を眺めながら、はふぅ、と息を吐きだした。

「…やっぱり仲いいじゃないか」
「いや、あれはただ面倒だっただけだと思うよ」

丸井と家裁部の子達に無理矢理連れ出されたんだろうけどそれを引き止める手段を私は持っていない。ていうか、睨まれてる時点でそんなことしたら敵認定確実だ。
面倒事はいたしません、と首を振れば「冷たいね」と笑われた。


「あーあ。道のりが長いなあ」
「?何の話?」
「……内緒」


肩を竦め、息を吐き出すように笑った幸村にさっき何を言おうとしたのか聞けばそれも似たようなバツの悪い顔で笑ってなんでもない、と返された。




馬でMVP(笑)
2013.02.17