□ 27 □
放課後、数日ぶりに部室に来たは皆瀬さんと一緒にある人物を待ち構えていた。逃げ回ってる奴も部活とあれば行かざる得ない。西田達と綿密に連絡を取り合ってこの日に決めたは自信を持ってドアの前に立っていた。
「やる気満々だね」
「まあね。面倒事は早めに解決しないと…いい加減衣装合わせしないと家裁部にも迷惑かかるし」
腕を組み意気込んでるに「何か真田くんみたい」と笑った皆瀬さんの手にはメジャーとメモ用紙がある。
台本も出来て練習も大詰めに入った今、未だに練習に顔を出さない赤也が心配になっていたのだ。
台本は本人に渡してあると柳がいってたから内容は知ってるだろうけど主役がいないことには話にならない。今日は家裁部が用意してくれた衣装を片手に説得を試みようと皆瀬さんと一緒に赤也を待っているのだ。
「あ、私ちょっとトイレ行ってくるね」
「うん。わかったー」
そろそろ赤也が来るかなって時間になり、皆瀬さんが申し訳なさそうに出ていくのを見送ったは椅子に座って袋に入ってるドレスを眺めた。
シンデレラにふさわしいフリフリピンクのドレスにですら顔を引きつらせてしまう。逃げたくなる気持ちはわかる。私だってここまでのものは着たくはない。もう少しシンプルな形と色合いがいいな、と考えていると西田達の声が聞こえ、ガチャリとドアが開いた。
「え?…あ、おい!!」
と目が合うなり驚くワカメににっこり微笑むと、後ろにいた西田達が赤也の背中を押してドアを勢いよく閉めた。第一段階クリアである。
後は皆瀬さんが早く戻ってきてくれれば、と考えているとガチャガチャと赤也がドアノブを回したりドアを叩いたりしている。残念だが赤也、中の鍵を回しても意味ないぞ。外で西田達がドアを押さえてるからな。
「な、なんなんスか?これ!つーか、何で先輩ここにいるんスか?!」
「マネジの私がいたっていいじゃん」
怯えるようにこっちを見てくる赤也になんとなく悪い気がしたがメジャーを取り出しおいでと手招きしてみる。
「……それ、メジャーっスか?」
「見た通りね」
これでメジャーじゃなかったらなんだというんだろうか。だけど赤也はドアの前で「…マジかよ」とか「そういうプレイ?」とかブツブツ言っている。よくわからないが顔を真っ赤にしてる辺りろくでもないことを考えているんだろう。
「ホラ、そこいないでこっちに来なよ。すぐ終わるから」
「……う、」
「力抜いて。ちゃんと測れないでしょ」
「む、むむ無理っス」
こっちによって来てくれたまでは良かったが、身体がカチンコチンでうまく測ることができない。何を緊張してるんだか。やっぱり皆瀬さん待ってたほうがいいかな、とも思ったが赤也を見るとすぐにでも逃げ出しそうな顔をしていたのでハァ、と溜め息をついた。
「赤也ってくすぐったがり?」
「え、まあ。脇とかよく丸井先輩に…って!ちょ、何すんだっって!ぎゃははは!」
手を構えながらすぐ目の前の赤也を見上げると彼は視線を明後日の方向に向けながら答えてくれた。いつもならそんな弱点なんて教えてくれないのに今日は何か他のことに囚われてそんな余裕はないらしい。
いいことを聞いたと思ったは早速赤也の脇腹をくすぐるとビクッと肩を跳ねさせ身を捩った。それを追いかけながらくすぐっていると「やめろ!」と赤也が両手を掴んだ。
「あ、アンタ…何考えて…」
「どう?少しはリラックスできた?」
「………は?」
ゼェハァ、と肩で呼吸してる赤也にそう問いかければ奴は間抜けな顔でこちらを見てきた。なんだよ、笑うとリラックスできるって知らなかったのか?
「なんだよ、それ…」
「だって赤也が測らせてくれないからじゃない」
「だからって………」
「?どうかした?」
すぐ終わるっていったのに。少しくらいいうこと聞きなよ、と赤也を見れば奴は何故かこっちを見て固まっていて。何だと首を傾げれば赤い顔をしたままの赤也が眉を寄せて睨んできた。
「この状況、なんとも思わないわけ?」
「……動けない」
「………」
「わわっちょっと、」
掴まれてる両手を後ろに押され、そのまま机に押し倒されたは「痛っ」を顔を歪めた。頭をぶつけた。目の前には天井をバックにした赤也が見下ろしていて、その視線に息を呑む。何でそんな真剣な顔してんのよ。顔真っ赤だけど。
「これでも、なんとも思わない?」
「…イラっとしたから赤也を殴りたい」
動きを封じられて怖いって思ったけど気取られたくなくて赤也を睨み返せば「…そうじゃなくて、」と眉を潜めてくる。
「先輩、俺のこと…どう、思ってるわけ?」
「腹立つ後輩」
「……っ」
投げやりな言葉に赤也は肩を揺らすと何故か悲しそうな顔をして視線を逸らした。
え、何?私が苛めたみたいな顔しないでほしいんだけど。ここは俺だってアンタのこと嫌いですよ!っていうところじゃないの?ていうかいつもの赤也ならそうなるよね?
あれ?と首を傾げた途端にもしかして本気にしたのか?と気づき慌てた。
「あ、いや!本当はそんなこと思ってないよ?!ちょっとは…ほんのちょっとだけイラっとするけど、でも赤也だってそう思ってるじゃん?私口煩いし面倒だし!」
「…そんなこと、思ってないっス」
「嫌いだっていつもいってるじゃん!」
「いってないっスよ!つーかいってもそんなの本気じゃないってわかるじゃないっスか!」
わからないよ!!何を思ってそんなこというのかね君は!今迄その言葉に何度傷ついたかわかってるのか?!と言い返してやりたかったが今にも泣きそうな顔になってる赤也に言葉を飲み込んだ。これ以上は本気で泣かしてしまいそうだ。
「あー私が悪かったよ。ごめん」
「……」
「だから放してくれないかな」
「嫌っス」
「…放してくれないとサイズ測れないんだけど」
「そんなの、どうでもいいでしょ」
「どうでもよくないから。みんなに迷惑かかるから」
「…俺のことはどうでもいいんスか?」
そう来たか。拗ねるように睨んでくる赤也には吐きたい溜め息を堪えて「赤也、」となるべく優しく声をかけた。
「ごめん赤也」
「………」
「本当にごめん」
「……」
「どうしたら許してもらえるかな?」
「……後夜祭、」
「ん?」
「後夜祭の時、俺と踊って」
ぼそりと呟かれた言葉に、また面倒事が増えるなと内心思ったがはにっこり笑って承諾した。今はこの状況をなんとかしなくちゃならない。ついでにまだ自分の任務も完了していない。
手を離してくれるまで根気強く赤也を見つめていると何度か歯噛みした後、嬉しいのか怒ってるのか判断がつきづらい顔で「いいんスか?」と聞き返してきた。
「いいに決まってるじゃん。それとも冗談だった?」
「そんなわけっ…ないっス!…その、」
約束っスよ。と再度確認してくる赤也にどんだけ信用ないんだと呆れたが、耳まで真っ赤にしてる彼が何だか可愛く思えて何も言わなかった。
「その、…先輩」
「ん?」
そろそろ手、放してくれないかなあ、と考えていると外が何やら騒がしくなり赤也と一緒にドアを見ればガチャっと音を立てドアが開いた。
もしかして皆瀬さん帰ってきたのかな?とのほほんと考えていた。
「…………何、してるの?」
しかし、入ってきたのは綺麗顔で女装させたら間違いなくそこら辺の人よりよっぽど美人になる人物だったが、どう見ても皆瀬さんではなかった。
心なしか彼の声が冷たさを含んでるのは気のせいだろうか。
「幸村、部長…っ」
その声と共に赤也の顔が赤から青に変わっていくのをは他人事のように見ていた。
次の日から練習に真面目に出てる赤也の姿があったと記しておこう。ついでにドレス姿も似合ってたよ、赤也。
*****
文化祭当日は天候にも恵まれ大盛況だった。のクラスは展示物なので受付に1、2人残し、後は自由行動となっていた。
演劇に出るテニス部の裏方もあったが時間まで余裕があった為、友達と一緒に練り歩いていると長蛇の列が目に入り、野次馬よろしくと教室を覗きみた。
「あ、真田!」
「…か」
眉間に皺をこれでもかと寄せてる従兄には大いに驚いた。なんとまあ、スーツがお似合いで。
看板を見れば『執事喫茶』と書かれていて思わず吹き出してしまう。
そんなを見て弦一郎は機嫌を悪くしたみたいだったが友達が褒めそやしたので「何を言っている!」と照れ隠しに叫んで奥へと隠れてしまった。
「ああ。さんいらしてたんですか?」
「わあ!柳生くんも似合ってるねー!」
入れ代わるように顔を出してきたのは柳生くんで、これまた似合う執事服に笑った。執事というかホストである。あ、でも柳生くんには失礼か。
テニス部でホストやったら荒稼ぎできるんじゃないかと内心思いながら少し話してA組を後にした。
優しい柳生くんが入りますか?と聞いてくれたけど行列長かったしあんまり長居すると周りの目も痛いしでこそこそと逃げ出した私は間違ってないだろう。
それからB組を覗いてみたがこちらはお祭りの屋台風らしい。家庭用のプールにスーパーボールや水風船がある。あ、あっちには綿飴の機械もあるぞ。間違いなく丸井の仕業だな。ただしこちらはA組みたいな賑やかさはなくて少し眺めて達は教室を出た。
「はー折角来たのに丸井くんいないんじゃなー」
「え?亜子丸井くん狙いだっけ?」
「狙ってるわけじゃないけど、目の保養はしたいじゃない?」
F組の中を見て皆瀬さんに手を振って挨拶を交わしていたらそんな声が聞こえ笑った。確かに格好いいからね。「でしょー」と亜子が返せば「この面食いが!」と友達につっこまれていた。
「それをいうなら、仁王くんもいなかったね」
「あーどっかでサボってるんじゃない?」
「そういや。噂で聞いたんだけど仁王くん家裁部の子と付き合ってるって本当?」
「へ?」
仁王がどこでサボってるのかわかるようでわからないから探しにも行けないだろう。あいつと店番組んだら大変だな、と考えていたら予想外な言葉を聞いて目を瞬かせた。
どうやら家裁部の子と帰る姿を見た誰かが噂を広めたらしい。
「えーそうだっけ?大抵みんなと帰ってたからなあ…ていっても私チャリだから途中までだけど」
そういえば文化祭準備中は一緒に帰ってなかったな、と思った。
「あー何かショック」
「何が?」
「仁王くんはと付き合うもんだと思ってたのにさ」
いつも1人で帰る姿を見てた気がしたけど気のせいだったのかな?と首を捻らせれば亜子が面白くなさそうに口を尖らせ爆弾発言をかませた。
は?と聞き返せば何故か他の友達にも似たようなことをいわれ、思わず「ええ〜?」と眉を寄せた。
「そんな空気一切ないよ?」
「またまた〜」
「いやマジで」
だって、数ヶ月間私の存在に気づかなかった奴だよ?!といってやれば「あーそんなこともあったね〜」と友達が笑った。そんなことだけど私のとってはなかなかの衝撃でしたよ。
それにあいつ面食いじゃん。どう転んでもありえないよ。と肩を竦めれば「頑張れよ」と何故か肩を叩かれた。
ツンデレラと魔王。
2013.02.21