Friendly king.




□ 28 □




他クラスを冷やかしたり、赤也のクラスで飴を貰ったりと歩き回ってさすがに疲れた達は一旦カフェテリアに入って休んでいた。一般解放されているカフェテリアはどこも満席状態で、丁度席が空いた達は運が良かったといえよう。

飲み物を片手に今度はどこ行こうかと話しているとの携帯が震えだした。


「あれ?着信だ………もしもし?」
『だーれや?』
「え、忍足くんでしょ?」
『…ちゃんいけずやなあ。ここは"え?誰?"って聞くとこやで』
「それはどうもありがとう」
『誰も褒めてへんて…自分ホンマ岳人に似てきよったなあ』

あしらい方がまんま岳人やで。と溜め息混じりに溢す忍足くんに苦笑してしまった。岳人くんにもこんな会話してるのだろうか。だったらちょっと引くなあ。と思ったのは内緒である。


『まあそれはええとして。今どこにいると思う?』
「え?忍足くんが?」
『せや』
「いや、わかるわけないし…。あ、もしかしてうちの文化祭来てたり?」

まさか、と笑ったら『せやで』と軽い感じで返された。マジでか。

「うわ、本当に来たの?冗談じゃなくて?」
『俺が行きたいいうたのにすっぽかすわけないやろ』
「今どこ?」
「ちょっ…!」
「ああ、ちょっと待って。忍足くん今どこにいるの?」
「今?…隣におったりして」

友達が慌てだしたけど構ってる暇はない。あんな目立つ人校内に放ったら大騒ぎだ。
迎えに行く?と聞こうと思ったが電子音を通してではない、あの如何わしい色気のある声が反対側からダイレクトに鼓膜を揺らした。

ビクッと肩を揺らし恐る恐る声のする方を見やればドアップに忍足くんの顔があって思わず目を見開く。



「ぎゃあああっ」
うるせぇぞ!」
「ぅえ?!跡部さんも?!」

「…何も俺の顔見て悲鳴あげへんでもええやん」

傷ついたわ。としょんぼりと頭を垂れる忍足くんに眉を潜めて、頭を叩いてきた跡部さんを見て思わず「ええええっ?!」と声をあげてしまった。
何でよりにもよってこの2人がここにいいるのよ!注目されるじゃないか!と思ったが自分の声も十分大きかったと気づき、突き刺さる視線に肩を竦めた。申し訳ございません。

「本当に来たんだ…」
「俺様が来ちゃいけないっていうのか?アーン?」
「いえいえ。滅相もない…というか、もしかして他のメンバーも?」

腕を組み、さも傲慢に見下ろしてくる跡部さんに引つりながら伺うと案の定YESと返ってきた。恐ろしい現実である。ていうか仲いいな!氷帝!!

どうやらいろいろ見ていく内に他のメンバーとはぐれてしまったらしい。迷子呼び出しでもしてやろうか、と悪戯げに忍足くんが笑ったけどそんなこと出来ないし、彼らの名誉の為にもそっとしておいてあげた方がいいと思う。


「まあガキやないし、こっちはこっちで楽しもうか思うてちゃんに声かけたねん」
「え、岳人くん達探さなくていいんですか?」
「その内合流できんだろ?それよりも、お前案内しろよ」

こう人がいちゃ面倒で仕方がねぇ。そういって跡部さんが腕を引っ張り、「ちょおちゃん借りるけどええか?」と忍足くんが友達に微笑むと彼女達は頬を染めて大きく頷いた。おい亜子!お前イケメン好きのくせにこんな時に限って尻込みすんな!私を生贄にしないでくれ!!

必死に助けてくれ、と目で訴えてみたが友達は『後で詳しく教えろよ!』と暗号だけ送ってを送り出したのであった。酷い。



「…じゃあ、どこに行きます?っていっても私もそんなに時間ないんですけど」
「何かあるのか?」
「午後からテニス部の演劇あるんですよ」
「ああ、そないなこといっとったなぁ。ちゃんと皆瀬ちゃんも出るん?」
「いえ、私らは裏方で出るのはレギュラー達ですよ」
「…あいつらに演劇なんかできんのかよ」
「男だらけの劇かいな…一気に見る気失せたわ」

顔をしかめる2人には苦笑して「これが結構面白いんですよ」と言ってみたが跡部さんと忍足くんの表情を和らげることはできなかった。シンデレラをやるって言ったら益々訝しがられたし。
こうなると俄然見せたくなるな、ツンデレラ。


カフェテリアを出て校舎に入った達はとりあえず3年の教室に向かうことにした。あそこなら顔馴染みもいるし話もできるだろう。
人を弾くようなキラキラオーラを纏った2人のお陰で難なく3年校舎に辿り着いたがそれと比例してお前誰だよ視線がさっきから突き刺さって仕方がない。もういっそ私を従者かメイドと思ってくれよ!通りすがりの女性陣!


「そういえば、氷帝って文化祭あるんですか?」
「アーン?当たり前だろうが」
「へぇ、どんな感じなんですか?」
「ああ?まあ、こんな風に学校ではやらねーな」
「へ?」
「せやな。セキュリティの関係とかで一般開放できないねん。うちの学校は」

去年もどっかの会場貸し切ってやってたな、と話し合う2人には「へぇ、」としかいえなかった。
だってさ、屋台にローストビーフとか出るんだよ?!ジュース代わりにシャンパンとか出ちゃうんだよ?!それって普通じゃないじゃん!学生の文化祭じゃないじゃん!!


「あ、ちょお待ち。岳人からや」

氷帝マジありえないわ、と再度しみじみ思っていると忍足くんが立ち止まり電話に出た。どうやらあっちも探してるらしく怒ってる声がこっちまで聞こえてきた。

携帯から耳を離す忍足くんを笑っていると肩を引っ張られる感覚がした。え?と見れば跡部さんが流れるような仕草での肩に手を回しぐいっと前へ押し出してくる。それに気づいた忍足くんも跡部さんに声をかけると「少しに話がある」といってなんでもないように歩き出した。



「ちょい待ち!ちゃん連れてくなら俺も」
「お前は向日達と合流して、それから連絡してこい。待ち合わせは…そうだな。体育館前でいいだろ」

こいつも行くだろうしな、と頭にぽんと手を置いた跡部さんはその手をまた肩に回して歩いていく。
その速さに慌てたが後ろの忍足くんはもっと慌てたようで、「跡部!ちゃんは置いてけ!!」と叫んでいる。だが、丁度人の波が来て遮られてしまい彼が追いついてくることはなかった。



人の流れが少ない中庭に下りてきた達はベンチに座ると隣から長い溜息が聞こえてきた。跡部さんである。髪をかきあげる仕草は色気を感じるが表情は少しお疲れである。でもそこがまた色気を感じて近寄りがたい空気を出してるからタチが悪い。
1人分くらい空けて座ったは校舎の騒がしい声を遠くに感じながら視線を跡部さんに戻した。


「何か飲み物でも買ってきます?」
「いや、いい。つーかお前よくあんな人混みにいてそんだけ元気でいられるな」
「…もしかして跡部さん人酔いしました?」

疲れた顔をしてたのはそのせいか。意外だ、と思っていれば「あんな狭苦しいところに何時間もいるとかいわねぇよな?」と不審な目で見られは苦笑した。立海はそれなりに広い学校だと思うんだけど氷帝はそれ以上なんだろうか。行った時も全景見たわけじゃないからなぁ。そうかも。

「もしかして跡部さんってお祭りとか花火大会とか行ったことないですか?」
「アーン?そりゃ行ったことくらいある…」
「出店とか行きました?」
「…それはねぇな」


花火が終わった後の帰りの駅とか花火に近い場所とかかなりの人で死にそうになったことがある。跡部さんが通勤ラッシュとかは縁がなさそうだけどお祭りとかの洗礼も受けてないのは予想通りというかなんというか。

「あの廊下はあんな人数が何時間も歩く場所じゃねぇよ…景観が崩れるだろうが…」という意見は間違っていないだろうがお祭りでいうセリフじゃない。お祭りは人混みも醍醐味というやつである。



「それはそうと…お話って何ですか?」
「ああ…最近幸村達とうまくいってるみたいだな」
「お陰様で」

その節はお世話になりました、と頭を下げれば「気にするな」と頭を撫でられた。おおぅ。跡部さん、こそばゆいです。


「そういえば鳳くんは元気ですか?」
「ああ。空元気、というのが本音だろうがな。日吉辺りが発破かけてるみたいだぜ」
「そうですか」

日吉の名前を聞いてはフッと微笑んだ。正直仲良くやれるかどうか怪しいところだが、鳳くんが乗り越えるまで日吉に頑張ってもらうしかないだろう。鳳くんも日吉も実力はあるのだ。どちらが欠けても氷帝の痛手にしかならない。


「何だ。氷帝のマネージャーにでも興味あんのか?アーン?」
「ち、違いますよ!ただちょっと気になって」
「気になるならこっちに入学してきても構わねぇんだぜ」
「出るもの出ないので遠慮いたします」

が微笑んだのを見て氷帝に興味あるのかと勘違いしたのか跡部さんは変な勧誘をしてきて焦った。いやだからテニス本気な人達と一緒にしないでください。
好きは好きでも氷帝に入学しに行くほどじゃないしお金も持ってませんから!


「そういえば、跡部さんて高校でもテニスやるんですか?」
「まあな。力を出し切ったとはいえ3位なんつー経歴は俺には似合わねぇ。借りは返すつもりだぜ」
「でも、手塚くんってドイツに行くんですよね?」

「…情報が早いな。そうらしいぜ。腕の治療が主だがあっちでプロとしての練習も始めるらしい」
「わあ、凄いですね」
「俺から見りゃ遅いくらいだがな」
「跡部さんもプロになるんですか?」
「アーン?…どうだろうな」
「ならないんですか?」



あれ?そうなのか?
てっきり手塚くんを追いかけて借りを返すつもりだ!っていうもんだと思ってたのに。言葉を濁す跡部さんに首を傾げれば、彼は眉をあげ少し不機嫌そうな顔での頬を摘んだ。

「お前、俺様が怖気付いてると思ってるんじゃねぇだろうな?アーン?」
「い、いえいえ!」
「別にプロになろうと思えばなれるが……お前、跡部グループが受け持ってる仕事、知ってるか?」

「……ううん」
「全部説明してもわからねぇだろうからな。まあとにかく仕事も責任も相当あるあの会社を継ぐのも悪くねぇって思ってんだよ」
「…相当、大きいんですよね?」
「まあな。今は使いっぱしり程度しか手伝ってねぇが…ゆくゆくは俺に回ってくるだろう。テニスは勿論続けていくと思うが、テニスばかりにかまけて俺が使い物にならないなんてことがあれば本末転倒だ」


やるからには世界を牛耳るつもりでかかった方が面白れぇ。そういって口元を吊り上げる跡部さんに目を見開いた。この人、もう将来のことまで考えてるんだ。私なんて高校を決めるだけでも手一杯なのに。

しみじみと「素敵ですね」と零せばフッと目を細めた跡部さんが抓ってた頬を放し、代わりにの髪に指を絡めた。


は高校に行ったらどうするつもりなんだ?テニスはやるのか?」
「ええ?いや、テニスは手伝うくらいしかできませんよ」
「それでもだ。外部に行くかもしれねぇんだろ?」
「(どこからその情報を…あ、忍足くんか)外部にしても立海にあがるにしても運動部には入らないと思いますよ」
「…何でだ?」
「だって、高校に入ったらもっと本格的になるじゃないですか。さすがに体力の限界です」

弦一郎と前に話したことを思い出し肩を竦めれば何ともいえない視線で跡部さんに見られた。本気ならなんだって出来ると思ってる人だろうけどスペック違うので同列に並べないでほしいです。



「…まあ、何を思ってそこに辿り着いたかわからねーが、もう少しやる気出してもいいんじゃねぇか?」
「ええー…」
「別に真田みたいに熱血バカみたいなことしろとはいってねぇよ。ただ、好きならどっかで関わるくらいいいんじゃねぇかっていってんだ」
「あ…」

「好きなんだろ?テニス」


お前を見てりゃわかる。と優しく微笑まれ、胸が熱くなった。まさかテニスを本気で好きな人に認めてもらえると思ってなくて、不意打ち過ぎて目頭が熱くなる。

嬉しい。嬉しい。私も好きでいいんだ。

そう思ったら自然と涙が溢れた。驚く跡部さんに見せられなくて慌てて俯くと後ろ頭に温かさを感じてグイっと引っ張られた。気づけば目の前に跡部さんの服が見えてほろりと落ちた雫が染みを作った。


「バァカ。泣くまで我慢してんじゃねぇよ」
「…うぅ。すみません」
「誰が謝れっていったよ。アーン?」
「う、ごめんなさ…いたたた!」

ごめんなさい、ごめんなさい!謝るなっていいたいの分かりましたから実力行使やめてください!跡部さんの握力半端ないんですから!!アイアンクローマジ痛いですから!!


「…でもまあ、外部に行ってもテニス部だけは入るのやめとけよ」
「え??」
「お前がいたら、本気で戦えなくなる奴がいそうだからな」


握力を弱めてもらってホッと息をつけばそんなことを言われたがには難しくてよくわからなかった。だから跡部さん。私高校行ったら運動部になんて入りませんから。文化部一筋になりますから。

そう思ったけど彼の言葉がの心になんとなく残ったのだった。




跡部と忍足いたら順番待ちというものはなさそうだ。
2013.02.21