Underground activities.




□ 32 □




合間に幸村との仲直り事件が起きたがそれ以外は特に状況が変わることはなかった。
未だに幸村へ告白する気配はなく、皆瀬さんへの嫌がらせも以前変わらぬままだ。

唯一の救いはその嫌がらせが悪化してないことだろうか。
柳の助言でも嫌がらせ対策の為教科書類を避難させているが今のところこっちに被害はない。そしてこいつもなんの進展もなくウザさだけが酷くなっていた。


「なぁなぁ!クリスマスにさ、皆瀬誘って俺ん家来いよ!みんなでパーティーしようぜ!」
「…みんなって誰よ。ていうかあんたん家に何で行かなきゃなんないのよ!」

何そのハードルの高さ!大した友達でもないのに小向の家に行ってクリスマス祝うとか意味わかんないんだけど!私をダシに使うのもいい加減にしろよ!と怒れば「ケチー」と口を尖らせる馬鹿がいる。

現在休み時間中なのだがこのバカは大声でこの話をするもんだから慌てて教室から追い出してやったのだ。それでも声量を下げないこいつに意図的な何かを感じるが詳しく聞く気にもならない。


「えっとまっつんだろー三谷だろーやべっちーもりやんー…」
「それ全部知らない奴なんだけど」

しかも女いないし!しかめた顔でそれをつっこめば奴は慌てて「いるっているって!」と「だから誘ってよ!な!」と可愛くお願いのポーズをとってくる。全然可愛くない。むしろキモい。


「無理無理。友美ちゃん先約あるし私も予定あるし」
「えーっ嘘だろ?!少なくともお前はぼっちなクリスマスだろ?」
「…小向、1度本気で殴られたい?」
拳を作って構えれば小向は逃げるように離れ、しかもタイミングよく予鈴が鳴ってしまった。
「じゃ、皆瀬にいっといてくれよ!あ、くれぐれも俺の名前は出すなよーっ」
「バッカじゃないの?!誰が誘うか!!」

それじゃ騙して連れてこいっていってるようなもんじゃないか!あいつ最低だな!!と勇み足で自分の席に戻ればやや引いた顔のジャッカルが「お疲れ」と労ってくれた。全くだよ!



「あいつマジありえない!真田にいってシめてもらおうかな」
「お前、あいつの友達じゃねぇのかよ」
「友達?!…はっ!あんなの友達なら赤也と恋人になってるよ!」
「……相当嫌いなんだな」

嫌いだがどうしても振り払えないのは小向が想像以上にしつこいからだ。恋は盲目といったもので、のことなどお構いなしでベラベラベラと話してくる。聞いてなくてもだ。それでたまに内容を確認するような質問をしてきてそれに答えられないとまた最初から話してくる。とんだ地獄だ。

それを本鈴がなるまでグチグチいっていれば、頭の後ろを掻いたジャッカルが「そうだな、」と溜め息混じりに切り出した。


「それはそれでそろそろ何とかした方がいいかもな」
「ん?なんとかって?」
「皆瀬と柳生だよ」
「ああ。でも今?」
「今だからこそだろ?それにを放っておいたらそのうち傷害事件起こしちまうだろうしな」
「失敬な!……否定はしないけど」
「否定しないのかよ……だから、まずは部室行って作戦練らねぇとな」

「そうだね。ってこの話ってみんな知ってるの?」
「知らねぇのは真田くらいじゃねーの?」
「あー…それは勿論。むしろそうでないと困る」
「……お前、本当に真田のいとこか?」

厳しくね?と呆れるジャッカルには鼻で笑った。初心な弦ちゃんが色恋沙汰がわかってたらあんなテニスバカになってないっての。
鼻息荒くそういってやったら「あーまぁそうかもな」となんともいえない顔で同意された。



*****



放課後、部室に集合すると既に丸井と柳が席についていた。今回集まるのは3年のレギュラーとだけだ。といっても弦一郎は事後連絡にするつもりで今回の話し合いには呼んでいない。
どうせ横ヤリ入れて面倒になるし、あいつ嘘つけないから後々のことを考えて外したのだ。可哀相だけど。

あと柳生くんは皆瀬さんと一緒に帰宅しているので参加は不可能だ。とジャッカルが席に着き、勉強道具を出せば「こんな時も勉強かよぃ!」と丸井につっこまれた。


「仕方ないでしょ。試験間近なんだから。話し合いの時にはやめるって」
「…がどんどんガリ勉になっていくぜ」
「それはないだろうな。は元々勉強自体が苦手だ」
「さすが柳くん!」
「…それでいいのかよ、

よくわかってらっしゃる!と褒めたらジャッカルが頭が痛そうに押さえた。


「あ、みんな集まってるね」
「あれ?幸村は真田担当じゃなかったの?」

少しして幸村が部室に入ってきたので不思議に思い声をかければ「それがさ、」と肩を竦めた。


「進路のことで先生と話すみたいで先に行けって追い出されてさ」
「うわー嬉しくない優しさ」
「…仕方ない。少ししたら俺が行こう」
「頼む、柳」

の隣の席に座った幸村はの手元を見て「ああ、そういえばそろそろだったな」と教科書を覗き込んでくる。



「んで、どっちから話すよぃ?」
「そうだな。精市、相手の出方はどうだ?何か変わったことは聞かれなかったか?」
「…うーん。ほとんど他愛のない話だったけど…ああそうだ。クリスマスと初詣の話題は出たかな」
「定番だな」
「…定番だが、きっかけとしては十分だな。予定は聞かれたか?」
「いいや、まだだけど毎年どう過ごしてるかは聞かれたかな」
「フム。、記念日が好きな女性が告白に使うとしたらどちらだと思う?」
「え?そりゃクリスマスじゃない?」


まず初詣で告白したりしないと思うよ。そう返せば柳が幸村を見て「だそうだ」と繋げた。

「可能性として、バレンタインまでもつれ込みそうな気配があるが、さすがにそこまでは付き合いきれん。ということで幸村、クリスマスの予定はなくなったと伝えてやってくれ。それから、"1人は寂しい"というのも忘れるな」
「「「ブッ!」」」
「……それ、いわなきゃダメか?」


さらりと柳の口から出たセリフに達は一斉に吹き出した。幸村がしおらしく『1人は寂しいんだ』というのを思い浮かべてしまったせいだろう。
当の本人も引きつった顔で言いたくない、と口外にいっていたが柳は首を縦に振らず「クリスマスで決着をつけるぞ」と意気込んでさっさと部室を出て行ってしまった。見切りの早い参謀である。


「んじゃ、次は皆瀬とヒロシな…と仁王じゃねーかよぃ!」
「…おお?何じゃ、揃いも揃って」

次の話題に移ろうとしたら部室のドアが開き、一斉に見れば久しぶりの仁王が入ってきた。彼も彼で驚いているようでメールを送っただの電源落としてんじゃねーよ!と丸井に文句を言われていたがそれを軽い感じでかわし、こっちを見て一瞬固まった。



「…おんしら、いつから仲良しになったんじゃ?」
「は?何言ってんだ?仁王」
「……」
「別に"仲が悪かった"わけじゃないけど最近勉強教えてるから、前よりよく話すようにはなったかな?」

じっと見つめてくる仁王に丸井とジャッカルはわけがわからなかったようだが、幸村は何をいいたいかわかったようでにこやかに笑ってこっちに同意を求めてくる。その笑顔に私はどう答えろと…?いや、決まってるんだけどさ。


「試験が間近で背に腹は変えられなかったのですよ」
「…ふぅん」

「それよりも、だ。どーすんだよ。皆瀬と柳生!」
「ああそうだった!えーと、告白させる機会を作ればいいのかな?」
「…何じゃその話。傍迷惑な話じゃの」
「そうもいってらんねーんだよぃ。早くしねーとが傷害事件を起こしちまうんだ」

「待て待て!私がいつ事件起こすっていった!」
「だってお前そいつのこと殺したいほど頭にきてるんだろぃ?」
「殺したくはないっての!そりゃ腹立つけど!」

憎しみと勢いで人殺せるほど私は自分見失ってないっての!
誰それ?と一々つっこんでくる仁王には後で説明するとして柳生くんをどうやって告白にまで持ち込ませるかということになっていた。


「時期的に言えばやっぱクリスマスがよくねーか?」
「ていうか、そもそも柳生は何でここまで引き伸ばしてんだって話だよ」
「あれかな。紳士的に卒業するまで大事にとってあるとか?」
「俺が皆瀬だったらとっくにフってるけどね」

みんないいたい放題だが、内心やっぱりクリスマスしかないかな、と思っていた。なんせ今迄そっと見守ってた組としてそっと見送ったことはあってもあの後2人でどう帰ってたかまではわからないのだ。
で詳しく聞いてなかったから思わず打ちひしがれてしまった。



「…別に今のままでも十分だと思うんじゃが」
「なんだよ仁王!お前は皆瀬がこのままいわれのない嫌がらせされても平気だっていうのか?!」
「そうはいうとらん…じゃが今は今で堂々と一緒に帰れる理由ができて柳生はそれなりに楽しそうだったぜよ」
「「「「…………」」」」

あんのヘタレ紳士は…!!


仁王の言葉に全員が閉口したのはいうまでもない。そこは楽しむものじゃなくて怒るところでしょうがー!と脳内で卓袱台返しをしておいた。

「…よし、決めた!テニス部でクリスマス会をしよう!」
「おっいいじゃねぇか幸村くん。その案乗ったよぃ!」
「つっても、全員呼ぶのか?」
「今回はレギュラーだけでいいと思うよ。あまり多くてもまとまりきらないし、それで告白が失敗しても困るしね」

「どっちから告白させるの?」
「勿論柳生からだよ。当日まで俺が直々にみっちり伝授しといてあげるよ…」
「……ほどほどにな」


煮え切らない柳生くんに痺れを切らしたのか幸村はぽん、と手を叩くと案というか決定事項を述べた。それなら私も小向を断る理由ができる。あとは赤也も誘わないと寂しがるだろうから、ということで本当にレギュラーだけのクリスマス会になりそうだと思った。

黒い笑みを浮かべながら暗躍する幸村の顔も見えたがプレゼント交換とかする?と丸井と話しつつ、まだこないクリスマス話に花を咲かせたのであった。





*****





「クリスマス会?」
「そ!丸井がテニス部でやろうっていいだしてさ。どう?友美ちゃん予定ある?」
「大丈夫。空いてるよ」

後日、休み時間にF組に来たはさも丸井が言いだしっぺのように皆瀬さんにクリスマス会のことを教えた。事前に柳から予定はないと聞いていたから倍の安心感を得た。
の視界の奥では小向が今にも泣きそうな顔で立ち尽くしてるのが見える。無視しておこう。


「やった!あ、柳くんはどう?」
「ああ。俺も空いてる…だが、幸村はどうだろうか」
「あれ?幸村くんってクリスマス予定あったっけ?」
「家族で旅行に行くと言っていた気がしたが…確認をとってみた方がいいかもな」
「あ、そうなんだ。じゃあ聞いてもらえる?」
「わかった」

これも事前に打ち合わせていた通りだ。毎年家族で過ごすというのは幸村家の恒例行事のようだが今回はギリギリになって予定がキャンセルになりクリスマスだけ穴ができてしまう、という手筈になっている。
テニス部のクリスマス会をキャンセルするのは表向きでここにいる嫌がらせ仲間へのアピールでもある。


「今メールで確認したのだが、やはり幸村は家族と過ごす予定らしい」
「じゃ!じゃあ俺が幸村の代わりに行こうか?!」
「(……小向、お前はまた余計なことを)」
「いや。今回はテニス部だけで行うつもりなんだ。悪く思わないでくれ」
「そ、そうか…」


さもメールが来たような素振りで溜息を零す柳に役者だなあ、と内心思っていると小向がしゃしゃり出てきて内心ヒヤヒヤした。しかし、柳のあしらいは慣れたものであっさりと小向を切って捨てたのであった。




ヘタレ紳士(笑)
2013.02.24