Assorted.




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今日もヘトヘトになりながらも交換部誌を書き終え、自転車置き場に行けば携帯を弄ってる仁王と鉢合わせた。というよりも彼が待っていたという方が正しいだろう。

「お疲れさん」
「…お疲れ様です」

今日はさっさと帰って宿題をしよう、と思っていたのに目の前の人物のせいで早くも計画倒れの予感しかしない。自転車を引っ張り出しが跨れば当たり前のように仁王も荷台に跨った。


「…もしもし仁王さん。ひとつ質問があるんですがね」
「何じゃ?」
「足治ったよね?」
「一応」
「彼女いるよね?」
「…関係あるんか?」
「一緒に帰らないの?」
「今日はそういう気分じゃないのぅ」

ないのぅ、じゃねーよ。自転車に跨りながら振り返ればまだ仁王は携帯を弄っていた。どうせ彼女の横田さんだろう。だったら一緒に帰りながら話せばいいのに。送迎自転車じゃねーぞ私は。


「そういって晴れてる日殆ど乗せてる気がするんですけど」
「気のせいじゃ」
「…その内お金取るよ?」
「じゃあその間に金でも貯めとこうかの」

なら今日からお金をとってやろうか。冗談としか受け取ってない仁王にはムッとしたが彼が顔を上げなかったので意味はなかった。仕方ない、と盛大に溜め息を吐いたは足に力を入れると「落ちないようにね」といって重いペダルを漕いだ。

「そういや仁王くん。今日の部活で気づいたことなかった?」
「気づいたこと?……何かあったかの?」
「あれ?赤也か丸井くんに何か言われなかった?」



赤信号になり、自転車を止めて振り返れば何の話だ?という顔で見られた。この前仁王が作った悪趣味な折り鶴をどうしようかと柳に聞いてみたのだが案の定千羽鶴には入れられないと突き返されたのだ。
行き場のなくなった鶴をそのまま捨てるのは可哀想だということで丸井と赤也が仁王のジャージの中に詰め込んでおいたといっていたのだが気づいてないのだろうか。

「ピンクの折り鶴見なかった?」
「…ああ、あれか」

どうやら気づいてはいたらしい。「微妙な鶴じゃったの」と零していたが作ったのはあなたですよ、仁王さん。


「それ、その後どうしたの?」
「いらんかったから赤也の制服の中につっこんでおいたぜよ」

明日が楽しみじゃ、と笑う仁王に何をしたんだと思ったが赤也がからかわれてる姿は面白いので「そうだね」と返しておいた。
信号が青になりまた走りだし段々街の灯りが増えていく。駅はもうそろそろだ。


「仁王くんって人のことからかうの好きだよねー」
「…ほんに、お前さんはマネージャーだったんじゃな…」
「まだ引きずるか!!前回納得したんじゃなかったのか?!」
「納得はしとるが、俺のことを知ってるといわんばかりのお前さんのセリフを聞くと不気味に聞こえる」
「何それ!私ストーカーじゃないんですけど!」

結局納得してないんじゃん!とつっこめば「はストーカーだったのか」とさも驚愕する声が聞こえて本当に落としてやろうかと思った。


「仁王くんがテニス部レギュラーで柳生くんとダブルスのパートナーで、真田が苦手で、からかうのが好きで彼女がいるってことくらい誰でも知ってることでしょ?」

むしろ誇張されまくった噂もあるだろうが自分がどれだけ目立ってるのかわかってるのか?といってやりたかった。しかし仁王は「やっぱりお前さんは不気味じゃの」とビビられた。私はアンタの中でどんな扱いなんだ。



「俺ばかり知らないなんて、ほんに不気味じゃ」
「…別にこれからわかればいいんじゃない?」

ぽつりと呟かれたことに私じゃなくて自分のことかと気づいたはなんだかホッとした。ホッとしたついでに仁王に返せば「それもそうじゃな」と納得した声が返ってきた。



*****



昨日夜遅くまでテレビを見ていたせいか久しぶりにヤバい時間に起きたはしっかりお弁当を忘れカフェテリアに来ていた。
無性にカレーが食べたくなったという友達を連れて長い行列に並んでいると後ろの方で聞き覚えのある声が耳に入り後ろを振り返る。あのうねうねとした髪はワカメだ。否、赤也だ。
どうやら丸井達と話してるらしく赤い頭とスキンヘッドも見える。おや、白い頭は仁王もか。


「目立つねー」
「まあ煩いのが一緒だからね」

丸井も騒がしい方だが赤也がいない時はいたって静かなのだと最近気づいた。いや、落ち着いてるといった方が正しいだろうか。
声かけないの?と聞いてくる友達にそうだねーとどうでもよさそうに返しながら前の人が進んだので「何食べよっか?」とメニューを見るフリをした。


「あれ?お前って弁当派じゃなかったっけ?」
「忘れたんだ」

空いてる席に座ると同じように考えていたのかジャッカルがこちら側の空いてる席に寄って来た。友達と一緒に座ってるのを見て「珍しいな」といったジャッカルはひとつ席を空けて座りそこへ丸井と赤也も座った。

「ゲッ何でジミー先輩もいるんスか」
「何?私がここで食べちゃ悪いっての?」
「べ、別にそんなこといってないっスよ!ただ、部活も一緒でここでも一緒かよ、って思っただけっス!」
「アンタだって丸井とジャッカルにベッタリじゃねーかよ」

友達いないのかよ、とつっこめば「いるに決まってるじゃねーっスか!」と怒られた。いつもは友達と食べてるが時たま丸井達と食べていて今日がたまたまその日だったというだけの話だった。



「あ、そう」
「そういう先輩こそ何でここにいるんスか?やっぱ地味だからいつ来てもわからなかったんじゃ」
「私は弁当派だ!いつもは教室で食べてるっつーの!」

お前、いつか本当にしばくぞ。

「…そういや仁王くんは?さっきまで一緒じゃなかったっけ?」
「ああ?仁王はさっき彼女に呼び出されて出てったな」
「俺はマジ助かりましたよ。におー先輩に奢らされると小遣い全部なくなりますもん」
「全部じゃねぇだろぃ?数円くらいは残るだろ?」
「数円しかですよ!パックジュース1本だって買えないじゃないっスか!」


財布の中身見せてないのに何でいつもギリギリの金額知られてるのかマジ意味わかんねーっス!とぼやく赤也にお前カツアゲされてるの?と不憫そうに見やった。だが本人は文句はいうものの真剣に悩んでる節がなかったので深刻な問題ではないんだろうと思い直した。

「…彼女ってC組のあの人かな?」
「だと思うよ」


隣に座ってた友達がこそこそと話しかけてきたのでも合わせて返し手作りのお弁当でも食べてるんだろうな、と勝手に想像してみた。なんだかゾッとした。ラブラブな仁王ってちょっと違和感。

「あの、丸井先輩」
「あん?何?」
「ご飯食べ終わってからでいいんで、あとで少し付き合ってもらえませんか?」

優しい仁王って想像しづらくね?と考えていると2年と思しき女の子が丸井に声をかけていた。
あ、あの子よくコートで応援しに来てる子だ。
何度も来ていたのではわかったが、丸井は気にもとめない様子で「ああ、わかった」とだけ返し食事を再開した。仁王といい春過ぎたっていうのにそこらかしこで花が咲いてるようだ。



「…またっスか?」
「なんだよ赤也。羨ましいのか?」

ニヤニヤと笑う丸井に赤也は不貞腐れた顔で「別に」とそっぽを向いた。その方向がの方だったので目が合うと「何スか!」と睨まれた。八つ当たりしないでほしいんだけど。

「安心しな赤也。アンタのファンからしっかり私が手紙もらってるから」
「…何の話スか、それ」

ジト目で睨んでくる赤也に「不幸の手紙だよ」といってやりたかったが、放って置かれた丸井が「俺の話を聞けよぃ!」と赤也につっこんだため会話は終了した。まあ別にあえて報告する必要もないのだけど。



*****



皆瀬さんに借りたものを返しにF組に行くと、柳と顔を突き合わせ弦一郎と何か話してるようだった。A組の弦一郎がわざわざ顔を出すなんて珍しい。

「何かあったの?」
「ああ、ちゃん」

これありがと、と皆瀬さんに渡すと練習試合の選抜メンバーを決めてるところだと教えてくれた。へぇ、と頷いているとこちらに気づいた柳と弦一郎がこちらに来いと合図してきたので皆瀬さんと顔を見合わせながらも彼らに近づいた。


話はやはり氷帝との練習試合のことで幸村がいない分をどう埋め合わせるかということになっていた。実力的には決まってるのだがその彼をシングルで使うかダブルスで使うか迷っているらしい。

準レギュラーは見知ってる仲だけど実力云々まではよくわからない。なので私が口出すことじゃないかな、と黙っていると皆瀬さんと3人で話が進んでいく。結局シングルで決まりのようだ。


はどう思う?」
「へ?私?……うーん。何事も経験だと思うけど…気になるなら練習でダブルスやらせてみたら?」
「それもそうだな。ここで討論をしていても仕方がない」
「といっても、柳くんの確率はほぼ確定だから別に迷う必要もないと思うけど」
「いや、のいうことも一理ある。俺も迷っている部分もあるしな。皆瀬、今日のメニューを少し変えるが構わないか?」
「うん。大丈夫だよ」

問題ない、と微笑む皆瀬さんに「決まりだな」と腕を組んだ弦一郎と柳を見てなんだかマネージャーらしい仕事をしたな、と思った。



。もっと発言していいんだぞ」

予鈴が鳴り、弦一郎と教室を一緒に出ると別れ間際にそういわれた。部活の仕事は勿論あるしマネージャーとしての自覚ももうさすがにできたけど、でもやっぱりどこかにラインを感じていて。それ以上は踏み込んではいけないと思う時がある。

弦一郎を見れば相変わらず堅物の真剣な眼差しを向けてきていて、冗談ではないな、と思った。そもそも弦一郎は冗談とか器用なことはできないタイプだった。

「いや、だって平ならともかく準レギュは私もわからないって」

それは皆瀬さんの担当だ。でなければもっと発言してるよ、と方便でもいってやれば弦一郎は少しホッとした顔で「お前の意見は参考になった」としっかり頷いて自分の教室の方へと歩いて行った。何とも生真面目な従兄だ。


自分も教室に入るか、と身体をずらすと視界に白い頭を見つけて踏みとどまった。やっぱり仁王だ。
どこに行くつもりなのか横切る彼をじっと見つめているとその視線に気づいたのか仁王が振り返った。

「おーお前さんか。こんなところで何しちょるん?」
「…ここ、私のクラスなんだけど」


I組のクラスを指していえば仁王が驚いた顔をした。初めて知ったらしい。もはや何も言うまい。

「仁王くんこそこんなとこで何してるの?そろそろ本鈴鳴るよ?」
「……屋上が俺を呼んでる気がしたからの」
「サボるつもりか」


よくもまあ堂々と、と呆れた顔で見やれば何か食べるものはないか?とせびられた。どうやら持っていたおやつを丸井に取られてしまったらしい。ご愁傷様である。

「それじゃアレをあげるよ」
ぽん、と手を叩き自分の机に戻ったは鞄の中からアポロを取り出すと仁王に差し出した。



「…チョコ…」
「ん?嫌いだったっけ?」
「…いや、でもあまりいい思い出はないのう」
「贅沢だな。んじゃ余り物だけどプリッツでどうだ!」

既に封を切ってあるが食べきれなかったプリッツを出せば「それがいい」といって箱から袋を引き抜いた。

「仁王くん!部活は出るんだよね?」
「当たり前じゃ」

できれば授業も出た方がいいと思うがつっこむ暇は与えてもらえず、仁王も「じゃあの」といってさっさと教室を離れていってしまった。

途中、先生とすれ違ったのか早く教室に戻りなさいという声に「わかりました」と標準語で返してる彼が妙にツボっては教室の出入り口でブッと吹き出したのだった。
先生。そいつはサボる気満々ですよ。




仁王詰め合わせ。
2013.01.08