Rumor.




□ 40 □




放課後、皆瀬さんの呼びかけで新旧マネージャーが揃っていた。今日は部活がなく、気晴らしに遊ぼう!ということで近くのショッピングモールを冷やかした後ファーストフード店に入り、話に花を咲かせていた。
最近通過儀礼のように飯田ちゃんと吾妻っちにも嫌がらせが出てきたらしいが思った程酷くはないらしい。かといって増えないとは言い切れないので自分や先輩達がされた嫌がらせとか対策の話をして友達や仲間にもちゃんと頼ること、ということを話しておいた。

この手のものは大抵溜め込んだ方がよくない方向に行きやすい。
誰でもいいから愚痴を言うこと、呼び出してくれても構わない、といえば吾妻っちが涙を溜めて頷いていた。最近靴捨てられたりしてたもんねぇ。

それから程よい時間になったので店を出ると丁度目の前を見知りの奴が通り過ぎた。


「切原!」
「おー飯田じゃねぇか。何だよ、こんなとこで…て、先輩?え?」
「あれ。新旧マネージャーが勢揃いだな。何してたんだよぃ」
「お茶してたの。そっちは?」
「俺達はゲーセン。金もなくなったし帰っかってなって店出たとこ」

最初に気づいた飯田ちゃんが声をかけ振り返った赤也達が一斉にこちらを向いた。後ろにいたに赤也が驚いた声をあげると丸井とジャッカルも声をかけてくる。
「偶然だね!」と皆瀬さんが笑いかける方向には柳生くんがいて目を見開いた。珍しい組み合わせだな。


増えた人数は道なりに歩いていくと自然と人が組まれていっては柳生くんの隣になった。前を見れば皆瀬さんは丸井となにやら楽しげに話してる。

「珍しいね。柳生くんが丸井達と一緒なんて」
「帰りがけに丸井くん達と会いまして、1人で帰ると言ったらこういう流れになりました」

ということは強制的に連れてこられたのか。「ご愁傷様です」と同情すれば「それなりに楽しかったですよ」と返してくれた。


「毎日はさすがに遠慮したいですがたまにならゲームセンターというのも悪くありません」
「へぇ」
「いい気分転換になりました」

なんだかんだいって丸井くんは周りを見てますからね、と眼鏡のブリッジを上げた柳生くんには感心して丸井を見やった。能天気そうに笑ってるけどそういうこともできるのか。



「…気分転換って、何か悩んでることでもあるの?」
「……大したことではありませんが、仁王くんのことで少々」
「まだ話せてないの?」
「そうですね。顔は合わせたり声をかけることはあったんですが話はまだです」

仁王くんのことですから、そこまで心配する必要はないと思うんですが。そういって前を見据える柳生くんは少し元気がなかった。

もあれから時々屋上でぼんやりしてる仁王を見ているがそれくらいで特に会って話すということはしてなかった。は新島さんのことがあってなんとなく会いづらいと思っていたが、それを察知してかそれとも何も考えてないのか仁王も会いに来なかった。

そのことに少なからずショックを受けていたが、まさか柳生くんがまともに話せてないとは思いもよらず驚きと共に理由が知りたくなった。


「もしかして仁王くんに何かあったの?」
「あった…というか、然程問題ではないのかもしれませんが、仁王くんから何か聞いてませんか?」

むしろ話してないのか?という問いには眉を寄せて首を横に振った。皆瀬さんも柳生くんも何で自分が仁王のことを知ってるって思うんだろう。自分の知ってることなんて大したことないのに。

「…そうですか。なら仁王くんはさんを心配させたくなくていわないのかもしれませんね」
「心配するもなにも理由が分からなきゃ心配もできないし」

知ってるなら教えてよ、と柳生くんを見たが「そうですね、」と何故か渋られた。そこまで教えたくないのか。


「仁王くんは、というか男は格好つけたがりですからね。特に気になる女性の前では」
「…それ、私にやっても意味ないと思うんだけど」

言いたくない理由がそれとかどうでもいいんだけど。
「え?」と驚く柳生くんになんとなく呆れてしまっては「…男って面倒だね」とどうでもいい感じに返して随分前の方に進んでしまってる皆瀬さん達の方へと足を向けた。


格好つけたいとかマネージャーや友達の前じゃ意味なくない?怒られるようなヘマして怖くていえないだけじゃないの?
言わない理由がそんな風にしか感じれなくて苛々と歩いていれば何とも珍しい組み合わせが目に入った。



斜め前でジャッカルと吾妻っちが話してる。話題も続いてるようで吾妻っちがクスクス笑ってる姿が見えた。おお、さすがジャッカル。感心感心。
そんで、と1番前を歩く赤也と飯田ちゃんを見て「おお?」と思った。てっきり皆瀬さんの横をキープするかと思ってた赤也が飯田ちゃんといい感じに話をしていて少しだけ驚いた。

そういえば、皆瀬さんと以外仲良く女の子と話ししてる赤也の姿を見てなかったように思う。


「なんだよぃ。気になんのか?」

珍しいものを見た、と感心していればニヤニヤとした顔で見てくる丸井の声に「え?」と振り返る。さっきまで皆瀬さんと話してたのに、と彼女を探せば後ろにいる柳生くんと話していた。お菓子の話は終わったのね。

「赤也でも仲良い女の子いるんだなーって思ってさ」
「そりゃいるだろうよぃ」
「だって私が知ってるのデスレター送りつけてくるファンしか知らないからさ。あーでも安心した。あれなら部活もうまくいきそうだね」
「……まーなー」
「ん?何?そのどうでもいいよって顔は」
「別にぃ?」

飯田ちゃんも吾妻っちもいい子達だから大丈夫だって思ってたけど赤也とあれだけ仲がいいなら部活も安泰だろうな、とか弦一郎みたいな気分で微笑めば丸井が面白くねぇな、という顔で見てきたので眉を上げた。

なんだその態度は、と聞いてみても溜め息を吐かれるだけで教えてもらえなかった。何なんだよ、一体。


「それはそうと、よくお腹出ないよね」
「そりゃそうだろ?俺とお前とじゃ運動量が違うんだよぃ」

最近何のお菓子を食べたとかコンビニの食べ比べの話で相変わらずお菓子の探究心は果てしないなと感心したがそれがどこで消化されてるのか不思議で聞いてみればたいしたことない言葉が返ってきた。そんなことは知ってるけどそれじゃ補えないくらいお菓子食べてますよね?丸井さん。

「…ブン太。そうはいうが、お前さすがに気をつけた方がいいんじゃねぇか?」
「そうっスよ。最近運動不足で身体重くなったっていってたじゃねぇっスか」
「ちょ!テメーら!!黙ってろぃ!!」



最近腹が出てきたかも、とかいってただろ?とか半笑いで零すジャッカルに丸井は顔を真っ赤にして「うっせ!」と彼の丸い頭を叩いたが笑い声を止めることはできなかった。なんだかんだ話聞いてたんだ、とも笑うと「お前も笑うんじゃねぇよぃ!」と軽く叩かれた。

「大丈夫っスよ丸井先輩!デブっても比嘉中の田仁志みたいになればいいんスから」
……赤也。テメー俺にケンカ売ってんのか?

赤也がいい笑顔で親指を立てたが、丸井のご機嫌は急降下して低い声と一緒に睨まれた。そのまま向かってきそうだと顔を青くした赤也は素早く距離をとったがしっかり頭を叩かれていた。


駅に着き、電車組とバス組他で別れた達がバス停近くのコンビニで時間を潰していると思い出したように丸井が声をかけてきた。


「そういやあよ。お前仁王とケンカでもした?」
「…何で?」
「仁王がお前からの返信がこねぇって不貞腐れてたよぃ」

ホットのミルクティーを飲みながら隣に並ぶ丸井にギクリとしたが「何の話?」ととぼけた。しかし丸井には通じなかったようで「いつもならどうでもいい内容にも返信してんだろ?俺はお見通しなんだよ」と肉まんを頬張り「んで、何があったわけ?」と聞いてくる。筒抜けらしい。

と丸井だけ先に外に出てきたのと夜とあって人通りはないが、コンビニの中にいる赤也達が戻ってくるのも時間の問題だろう。
トボけたところで放っておいてくれる奴でもなかったよね、と諦めたように白い息を吐いた。


「別にちょっと距離置こうと思っただけ」
「……また嫌がらせでもあったのか?」
「そういうんじゃないけど、似たような感じ」

曖昧だけどあながち遠くもない答えに丸井は眉をひそめ「は?」と聞き返していたが詳しく語る気は毛頭ない。「もう少し経ったら元に戻ると思うよ」と返せば面倒くさそうな顔で見られた。

「前みたいな嫌がらせじゃなきゃいいんだけどよ……あ、もしかして仁王の奴彼女でもできたのか?」
「知らないよ」

そんなのそっちの方が知ってるんじゃないの?と返せば仁王は秘密主義だから俺もよくわからねぇ、と返された。ついでに授業サボってんのも友達なら引き止めてやれよといってやれば「それこそ知ったことじゃねぇし」と返された。
何気に丸井よりも成績がいいから妬んでそう言ってるのかもしれないがそれにしても薄情な奴である。



「ま、どっちにしてもよ。あいつ女友達いねぇから気長に見てやれよ」
「…女友達いないことを指摘はしないのか。ていうか友美ちゃんいるだろ」
「俺が言ってんのはあいつに近づく女はみんな好きになっちまうってことだよぃ。仁王の奴、その辺適当にしてっから勘違いする女も多くてさ。だったらそういう心配もねーしな」

皆瀬は別のカテゴリだろ。ダチの彼女じゃん。そういって丸井が呆れた顔をしてくるがそれは友達じゃないのか?そしてアンタは口外に仁王にはつり合わないって言ってるのか?それとも身持ちが硬いから大丈夫とかいう意味なのか?

ていうか近づく女全部に手を出すとかどういう神経してんの?と若干引いた目で見やれば「男にも事情があるんだよぃ」と突き放すような言葉で返された。それこそどうでもいい言い訳なんですけど。
内心、丸井のいう近づく女の中に自分も入ってるのかと思うと傷つく上にげんなりした。


「…まあ、新島先輩もいるし別に寂しくもないんじゃない?」

不貞腐れるように新島さんのことを吐き出せばじくりと胸が痛くなった。いわなきゃいいのに、と思ったが気づいた時には口にしていたから仕方がない。あーあ、と胸をさすりながら丸井を伺えば何ともいえない顔で「…あーあの人な」と零した。

「知ってんの?」
「ん、まあ」

歯切れの悪い丸井に首を傾げると「俺、あの人苦手なんだよな」と溜め息を吐くので思わず目を見開いた。どう考えても新島さんは美人で丸井も好きじゃないにしても苦手とか嫌いとかには絶対ならないタイプだと思っていた。


「…あの人テニス部嫌いなんだよな」
「え、仁王くんテニス部じゃん」
「だから余計にテニス部が嫌いなんだと」

私から仁王を取った!と思ってるんじゃね?と零す丸井には益々わからなくて眉をひそめた。どう考えても新島さんのイメージと異なるからだ。本当にテニス部が嫌いなんだろうか?テニス部には仁王がいるのに。



「仁王くんが1番活き活きしてんのテニスなのにね」
「……そういうとこ、お前なくすなよ」

テニスを取ったら仁王はただのダメ人間じゃん、といえば丸井は「よくわかってんじゃん」と嬉しそうに笑った。


「その手の話で思い出したけどさ。お前好きな奴いんの?」
「は?!」

突拍子もない話には思わず声を上げると丸井は益々笑みを深めてこっちを見てきた。何をどう考えたらその話になるんだよ!

「噂じゃお前幸村くん好きなんじゃね?って出回ってんだけどよ」
「はあああ?!なにその噂!!意味わかんないし!!ていうかそれ、私に死ねって言ってる?!」

悪意しか感じないんだけど!!久瀬さんのこともあって幸村の彼女になる人大変だねーって思ってるのに何故そうなる!皆瀬さんの次は私かよ!と憤慨すれば丸井はゲラゲラ笑って「だよなー」と肩を叩いた。


「そこまで否定されると幸村くんがちょっと可哀想な気もすっけど、ま、だしな!」
「…え、なんかそれ、色々失礼なんだけど」

丸井アンタやっぱり私のこと見下してない?と不審な目で見やれば「だってお前モテる奴、面倒くせーって思ってるだろ?」と笑われた。確かに。

「マネージャーになったら前は違くてもみんな然程変わんねー考えになると思うぜ?」
「特に今年の3年はね」

アンタも含めて面倒この上ありませんでしたよ、とぼやけば「まぁまぁ、その分楽しかったんだからいいだろぃ?」とドヤ顔で窘められた。…素直に頷きたくなくなるからやめてほしい。


「とりあえず好きな奴はいないんだな?」
「…あーうん。まあ、そういうことだね」
「だとよ!よかったな」

ニヤついた顔で覗き込む丸井に否定する気も起きなくて適当に頷けば、奴は何故か後ろを振り返りもそれに習った。うわあ。お揃いで。



「…聞いてたんだ」
「そんだけでかい声じゃ聞きたくなくても聞こえますよ」

振り返ればコンビニ袋を下げた赤也と吾妻っち、それからジャッカルがいて遠い目をしてしまった。
犯人は、きっと吾妻っちだな。顔を真っ赤にして俯く彼女を見てれば「ろくでもない噂っスね」と赤也がこっちに寄ってきた。

「その噂に振り回されてたのはどこのどちら様だっけな?」
「し、知りませんよ!誰っスかね?!」

鼻で笑った赤也に丸井はニヤニヤとしたがワカメは声を荒らげて通り過ぎる。それに続いていけば奴はニヤリと笑って振り返った。


「ジミー先輩と幸村部長じゃ美女と野獣じゃないっスか」
「…何かうまいこといったみたいな顔してるけど、それ明らかに私にケンカ売ってるよね?つーかジャッカル!笑うんじゃない!!」
「俺じゃねーよ!ブン太だろ!!」

どっちでもいいわ!
ゲラゲラ笑うハゲガムを睨みつけ「ま、先輩が美女じゃないのは確かっス」と上機嫌にのたまったワカメには足を踏んで憂さ晴らしをしてやったのだった。




田仁志っていいよね。
2013.03.16