You know what?




□ 四天宝寺と一緒・3 □




次の日、学校に来てみると四天宝寺の人達が皆それぞれ練習を始めていた。そしていち早くを見つけた遠山くんが「おはよーさん!」と手を大きく振り声をかけてくれたのでも返すように手を振った。

「白石くんおはよう」
「おはよーさん。さん自転車通学なん?」
「え、何で分かったの?」
「冬並に寒そうな恰好しとるで」

マフラーに手袋なんて徒歩組はしぃへんやろ、と微笑む白石くんには慌ててマフラーを外した。途中から暑いとは思ってたんですよ。


「随分と早いな」
「あ、柳くんおはよう」

挨拶したと思ったらすぐに練習に戻った遠山くんを微笑ましく眺めながら近くにいた白石くんと話していると後ろから声がかかり振り返った。

声の主に察しはついていたがこれまた珍しくジャージ姿の柳がいて目を瞬かせる。昨日もそうだったんだけどね。繁々と私用のジャージ姿を眺めていればどうした?と参謀が可愛く小首を傾げた。


「レギュラージャージ以外のジャージって新鮮だなって思って」
「…昨日も着ていたが?」
「それはそれ。これはこれ」

弦一郎以外はろくに見たことなかったもん、と返すと「自分ら普段一緒に遊んだりしぃへんの?」と問われ、柳と顔を見合わせた。そういえばまともにみんなで遊んだのはクリスマス会だけじゃないだろうか。



「ジャッカルと今度みんなで遊園地に行こうって話してたけど…お流れになったぽいしね」
「それは俺も入っているのか?」
「絶叫系に乗る柳くんに興味あるから行けるなら連れていきたい」

ちなみに弦一郎は絶叫系に乗ると直立不動で奇声をあげます。自分もカウントされてることに驚いてるらしい柳に勿論メンバーに入ってるといえば、いつの間にか話に入ってきた忍足謙也くんが「なんや羨ましいな」とぽつりと零した。


「忍足くんおはよう。……あ。忍足くんにちょっと聞きたいことがあったんだけど」
「なんや?」
「もしかして氷帝に親戚いない?」
「?あ、侑士のことか?おん。親戚やで」
「そうなんだ」

やっぱりそうか。とやや引くと隣にいた柳が資料を見てなかったのか?と聞くのでは肩を竦めた。

「だって真逆じゃん」

片やエロボイスで何考えてるかわからない忍足侑士くんと、片や純情青少年の代表みたいな忍足謙也くんじゃ親戚といわれてもピンとこないよ。共通点が関西弁しかない、と素直に答えれば白石くんが噴出した。


さん。自分正直すぎやで」
「え?そう?…あ、失礼だった?」

ごめんね、と忍足謙也くんに謝れば別に気にしてないと軽い感じで返された。同じようなことを定期的に言われているらしい。似てるといわれるよりはいい、という彼に柳は何故かノートを出して何かを書き込んでいた。書き込む内容なんてあったのだろうか。



「それはそうと、1人姿が見えないようだが」
「ああ千歳か。あいつ朝飯食うた後どこかに消えてもうたな」
「学校の敷地内にはいると思うんやけど……いや、昨日の場所には行かんと思うで?」

柳の言葉にコートを見渡せば確かに千歳千里の姿がない。まさか、と目を吊り上げると白石くんが焦ったように言い繕ったがはむすっとしたまま「あいつめ…」と低い声で零した。


さん。千歳は放浪癖あるけどそういう趣味はないで?あれはたまたま、事故みたいなもんで」
「昨日から固執して千歳を敵視しているようだが何があったんだ?」
「んーいや、その」
「…うちにも放浪癖のごんたくれいるし探すの大変なのわかるから気になってしょうがないのよ」

ごんたくれが遠山くんのことを指すなら千歳千里も同様だと思って「しかも本人飄々と悪びれもしないじゃない?こっちは心配して探してたのに」と口を尖らせると忍足謙也くんは納得してくれたみたいだ(…もう謙也くんでいいだろうか)。


覗きの件は時間と共にどうでもよくなってきている。今が千歳千里を気にしてるのはその放浪癖の方だ。折角県を跨いでまで練習しに来たのにフラフラとしてるのは勿体なくないのだろうか?
仁王も千歳千里も首輪かGPSでもつけてやろうかな、と半分本気で考えているとじっとこちらを見つめる4つの目には「何?」目を瞬かせた。何気に柳は開眼してるんですけど。


「あーいや。さんが予想以上に千歳のこと気にかけてくれてたんやなって思ってな」
「…。心配なのはわかるが、仁王はともかく他校のことまで首を突っ込むべきではないと思うぞ」
「わかってるよ」

そういう奴に限って本人が1番迷惑だって思ってるのは仁王で散々思い知らされてるから口を尖らせたまま肩を竦めれば、「なんや羨ましいな」と今度は白石くんがしみじみとした顔で零した。



「?羨ましい?」
「…!…ああ。こないに心配してくれるマネージャーがおれば千歳の放浪癖も治るんちゃうかと思ってな」
「え、治らなよ。全然。マイペース過ぎて腹立つくらい」
「ホンマか?治らへんの?」
「治らん治らん。それくらいで変わるような神経してないから…あいて」

白石くんがいおうとしていたこととは別のことを話し出したような気がしたが、仁王の放浪癖を思い出してうんざりした顔で手を振った。その返事に謙也くんはひどく驚いてて関西弁を少しマネしながら仁王への悪態をつくと頭を小突かれた。

振り返ると同時に謙也くんが「あ、立海のごんたくれや」という声が聞こえの顔にたらりと冷や汗が流れる。後ろに立っていた詐欺師は一通り周りを見回した後、の顔を見て目がスッと細くなった。ヤバい。


「俺がいない時に悪口とはいい度胸ぜよ」
「え、いってないし…いった!いたたたた!」
「そういう悪い子にはお仕置きせんとな」

ぐにっと頬を抓られたは結構な痛さに軽く悲鳴をあげたが仁王はまあ当然ながら放す気などなく更に引っ張ってくる。吊り上げようとする手にギブアップと奴の腕を叩けばその振動が余計に響いた。

「なんだよぃ。朝っぱらから暴れてるのか?」
「暴れてないよ!仁王に苛められて…痛い!」
「ホレ、ぼんやりしとると練習が始まるじゃろ。さっさと歩きんしゃい」
「いった!引っ張らないへよ!丸井っちょっバッグ取るな!」
「お前、新作のアレ買ってこいっていっただろ?何で持ってきてないんだよぃ!」
「それは昨日寄ったコンビニになかったから…もういったい!仁王くん放して!!」
「ホレホレ。練習するぜよ〜着替えに行こうな〜」
「キャラ違!!」



ぐいぐい引っ張られ痛みに耐えられずつられて歩けば丁度そこへ丸井とジャッカルがやってきて、何故か丸井はの鞄を奪い中を漁りだした。お前、女の子の鞄を勝手に漁るなよ!と慌てたが頬痛みのせいでろくに喋れなかった。
というか練習に前向きな仁王とかキャラブレしてるじゃないか!いつもはのらりくらりのくせに!とパンチをしたが奴はの頬を摘まんだまま華麗に避けやがった。腹立たしい。


それから視界に呆気にとられたままこちらを見ている白石くん達が見え、は苦笑しながら「また後でね〜」と申し訳なさそうに手を振った。白石くん達に引かれたら仁王達のせいだからな。




釣られヒロイン。
2018.11.09