You know what?




□ 四天宝寺と一緒・4 □




空に薄い雲がかかり肌寒く感じる気温の中、達は屋外コートから移動し体育館に来ていた。が提案した言葉がそのまま通り、現在レクリエーションという名の球技大会が行われている。
遠山くんは頑なにテニスをしたがったが白石くん達に宥められ今は別のボールを追いかけ元気に走り回っている。遠山くんはバスケやらせても強そうだな。


本当はもテニスでシャッフルマッチをすればいいと思ったのだが弦一郎曰く、四天宝寺の金色さんを警戒してそれはやめたらしい。金色さんの話をする時弦一郎含め何人か顔色を悪くしていたが結局それはわからないままレクリエーションが始まっている。


IQ200もあるからみんな怖がっているのだろうか。
見た目も人あたりもいい人そうに見えているにはいまいちピンとこなかったのでそれを丸井に話したらさも残念そうに溜め息を吐かれた。

その丸井も私用のジャージ姿でバスケの試合に参加している。突進する遠山くんの前に出た丸井は、彼がドリブルしていたボールを絶妙なタイミングで奪い、そのまま反対方向へと走り出す。
ムキー!と怒る遠山くんを尻目にディフェンス陣を華麗に避け、シュートを決める姿は丸井のファンもうっとりするような光景だった。

「うわ。普通に格好いいことしてる」
「だろい?」
「いや、聞こえなくていいから」


こりゃ落ちるわ、と呆れながらも感心しているとそれなりに離れていてぼそりと呟いただけなのに耳に入ってたようで「惚れるなよぃ」とにっかり笑って試合に戻っていった。アイツは私を落としたいのか?恐怖の方が大きいから落ちることないけど。

「姉ちゃん姉ちゃん!ワイ頑張るから応援してな!」
「うん。頑張れ遠山くん!」
「おおきにー!よっしゃいくでー!」
「はあ?先輩!応援するならお、俺もしてくださいよ!!」
「普通に頑張れー」
「なんスかその棒読み!」



だってあんたの対戦チームには赤也が頭上がらない面々しかいないじゃないか。ちゃんとあみだくじで決めたのに異様に偏っていて丸井、柳、白石くん達のチームと赤也と遠山くん達のチームが戦わなくてはならない。
下剋上するにも勝てる試合とは思えない光景には半笑いで手を振って憤慨する赤也を見送った。


「うわ!何?」

ズドンという物々しい音に視線を向けると隣のコートでは石田くんが丁度スパイクを決めたところだった。バスケの隣ではバレーが行われていて、こちらもこちらで白熱してるようだった。
石田くんのプレイスタイルとその結果を知ってるせいかはぶるりと身体を震わせる。あの石田くんに打ち込まれたら手なんか粉砕してしまうんじゃないだろうか。

近くにいた仁王が微動だにせずボールを見送っていたので真田に怒られている。いやいや無理だよ。弦ちゃんだって怪我しちゃうレベルだよアレ。
それから石田くんが働いてるからって優雅に構えてる幸村さんよ。こっち見てこれまたいい笑顔で手を振ってこないで。品が有り過ぎて怖いわ。皇室の新年一般参賀かよ。後が怖いから振り返すけども!試合する気微塵も感じられないのが恐ろしいわ。


ついでといわんばかりに全体を見回せば吾妻っちと飯田ちゃん達が金色さんと一氏くんの漫才を見て笑っている姿を見つけた。あそこはあそこで楽しそうだ。観戦する気はなさそうだけど。

その流れで皆瀬さんを見つけ、視線を止めると謙也くんと何やら話してるようだった。どうやら謙也くんが突き指したらしい。これまたわかりやすく顔を赤らめ話している彼の姿に思わず「ぅわあ…」と声が漏らすと誰かとハモった。


視線を手前に戻せば耳に恐ろしい数の派手なピアスをしている財前くんと目がかち合う。なんとなしに軽くお辞儀をされたのでもつられてお辞儀をするとハッと我に返り抱えていた救急箱を手に彼に近づいた。

「財前くん手首捻ってたよね?テーピングしとく?」
「え、ようわかりましたね」



これからまだ試合するだろうから出るなら手当てしといた方がいいよ、といえば「試合に出たないんでこのままでもええですか?」と返された。面白い子だな。

「残念。白石くんに手当てするように言付かってるから出ない理由にはならないよ」
「チっ」

舌打ちしたぞこの子。確かに赤也とか日吉と気が合うかもな、なんて考えながら救急箱を開けて手を差し出すと財前くんはの手をじっと見てそれからおずおずと自分の手を乗せてきた。


「…手慣れてるっスね」
「フフ。そりゃあね」

マネジですから、と昨日丸井に返された言葉を思い出しながら微笑むと財前くんはそっスか、とどうでも良さそうにそっぽを向いた。痛みはそれほどないらしいから簡単にテーピングを巻いて救急箱に仕舞うと手当ての際に外したリストバンドに目が止まった。

「リストバンドはどうする?はめる?」
「いや、いいっスわ。切原に自慢するんで」
「自慢??」

何故そこで赤也?と首を傾げると財前くんは小さくニヤリと笑ってバスケの試合を見た。も倣ってそちらを見やると丁度赤也が顔でボールを受けるところだった。うわ、痛そう。
ついでに点数を見たらなんだこりゃ、みたいな点数差になっていた。もうコールド負けでいいんじゃないの?


「(うーん。まだ話してるなぁ…)…財前くんさ。ちょっと変な質問していい?」
「内容にもよりますけど何スか?」
「忍足くんて惚れっぽい?」

無残な点数表を見てドン引きしたがその向こうでは皆瀬さんと謙也くんがまだ話していて、それを見ながら聞いてみると「見ればわかるじゃないスか」と呆れた声が返ってきた。



「やっぱりか…」
「落ちるのもスピード勝負とか阿呆な先輩らいうてましたけど…あないにわかりやす過ぎると逆に弄りづらいっスわ」
「だよねー」

鼻血が出たらしい赤也に皆瀬さんが走って行ったのを見てようやく会話が終わったのだとわかったが、分かりやすいほどに謙也くんが哀愁を漂わせていては視線を外した。

小向や乾くんと違って謙也くんは色々真っ白で表立って牽制しづらいんだよなぁ。かといって彼氏いますよ、て教えるのも昨日の今日知り合った人にいうのも失礼だろうし。まあ、皆瀬さんもわかってる感じだったし今のところ柳生くんも静観してるようだからいいといえばいいんだけど。


「……もしかして、謙也さんのこと気になるんスか?」

ただなぁ、と手当てされてる赤也を見守っている柳を見ていると隣から変なことを投げかけられたので視線を彼に戻した。何その驚きというか引くわ〜みたいな顔。違う違う、と手を振って財前くんを手招きすれば眉を寄せながらも近づいてくれた。

君が人と距離を取りたがってるのはわかってるけど私に捕まったのが運のつきだ。諦めたまえ。
そう思いつつ内緒話をするように手で口を隠し彼のジャラジャラと穴をたくさん開けて痛そうな耳に顔を近づけ「友美ちゃん彼氏いるからどうしたものかなって」と正直に教えてあげた。

そしたら財前くんは間をあけずに噴出し顔を逸らしたまま肩を震わせた。うん。君の謙也くんの扱い位置が何となくわかったよ。


「それホンマですか?」
「残念ながらマジな話なのだよ」
「クッソ笑うわ」

失恋もスピードオチとかコントのネタやで。とおよそ後輩とは思えないバカにした態度で口元を笑わないように歪める財前くんは「ええこと聞きましたわ」と何故か携帯を取り出した。何をするんだ?と聞いてみるとブログのネタに書くといわれ慌てて止めた。



「それは流石に可哀想だよ」
「そうっスか?おもろいと思いますけど」
「いや、知らない人ならともかくかなり知ってる人だから私は心が痛い」

実名は出さないとのことだがなんとなく危険な感じがしたのでとりあえず本当に失恋するまでは書かないでほしいとお願いしといた。


「というか、早く携帯しまった方がいいよ。真田に見つかったら怒られるから」
「そうっスね……あ、」
「どうしたの?」
「おもろいいうたら今朝の自分も結構おもろかったですわ」
「今朝って……いやおもろくないし」

何か思い出したように動きを止めた財前くんを見やれば「ブログのネタにしていいっスか?」とお伺いをたてられたので丁重に断った。あれが面白いとは思えませんよ。

「単に私が痛かっただけだし」
「それが良かったとちゃいます?小春先輩らも全体練習始まるまでさんのことマネしとりましたよ」
「なんでやねん」

財前くん達にもと仁王のやりとりは見られていたのはなんとなくわかっていたがまさか金色さん達の目にとまるとは思ってなくて打ちひしがれた。あれのどこが面白かったんだ?笑いのツボがわからない…。


「なんや楽しそうやな」
「白石くん…試合終わったんだ」
「あれ?さん落ちこんどる?」
「今朝のさんがコントのネタになったって教えたんですわ」
「財前…余計なこと教えんなや」

それでか、と納得したらしい白石くんは視線を合わせるようにしゃがみこみ「さんが嫌なら止めるよういうとくで」といってくれたがそれには首を横に振った。



「それは、まあ、いいんだけど…面白かったのかな?」
「んー…まあ、見てる側はおもろかったかもな。けどユウジらが使う時は大分誇張されてオーバーになっとるやろうからそれがさんだってわかる奴はおらんと思うで」
「…だとええですけどね」
「財前ー」

折角の白石くんのフォローも財前くんの言葉で撃墜され、引き攣った顔でエクスタくんがピアスくんを見ていた。財前くん、謙也くんどころか先輩達全体にクールな対応なんだね。


「しかし、おかしいな。さっきはもっと2人で楽しそうに話しとると思ったんやけど」
「何試合そっちのけで見とるんスか」
「珍しく財前の表情が動いてたんや。俺は見逃さへんで」

話を巻き戻し、白石くんは自分が見た光景を呟くと財前くんはより一層『無』の顔になっていた。しかもぼそりと「キモ」と呟いたのをは聞き逃さなかった。


「何話してたん?」
「……謙也さんが駄々洩れ過ぎて引くわ、って話してたんですよ」
「ざ、財前くん…」
「あー皆瀬さんか。せやな。わかりやす過ぎるのも問題やな」

あれじゃ皆瀬さんも対応困るで、と苦笑する白石くんの視線の先を辿れば柳生くんと話す皆瀬さんを眺める謙也くんがいて居た堪れなくなった。

「けどまぁ帰る頃には謙也も気づくやろ」
「え?」
「皆瀬さんいるやろ?彼氏」

困ったように微笑みながらこちらに顔を向けた白石くんには面食らった。知ってたのか。と驚きながらも頷くと「よぉわかりましたね」と財前くんも感心するように目を瞬かせた。



「なんとなくやで?確証はないけどそんな気ぃするな思ってん」
「へぇ」
「あ、せや財前。新入生用の部活披露のネタはもう考えたか?」
「……考えてますけど、正直釣れるとは思えんスわ」

姉と妹がいるせいかもな、と付け足す白石くんにそういうものか、と感心していると財前くんに新入生歓迎会の部活紹介の話をしだした。しかし、『ネタ』という言葉に首を傾げてしまう。
確かにみんなの前で宣伝するのは緊張するよな、と思っていたが四天宝寺はその名に恥じない笑いとネタで部活を紹介しなくてはならないらしい。どんなノルマだ。


「朝晩寝ても覚めてもお笑いしか考えとらん人らならともかく、部活動紹介くらい普通にやらせてほしいっスわ」
「ま、新入生を笑かしても部員がぎょーさん入る訳ともちゃうしな」
「…なんか大変だね」

笑いをとっても部員数に繋がらないのか。お笑いの道は険しいんだね。とわかってるようなわかってないようなことをいうと財前くんは胡坐で頬杖をついたままじっとを見ていてなんだろ?と視線を合わせた。なんか妙に様になってて格好いいけどなんなの?


「マネージャーがいれば部員もいくらか釣れそうな気がしたんスけど」
「あー」
「けど、ネタになりそうな人なんてそうおるわけやないし」

そういえばマネージャー引き継ぎの時幸村ですら女子がいた方がやる気になるのではとかいっていたな、と思い出し同意するように返すと「さんもっかい中学からやり直さへん?」とさも普通に誘われた。

「なんでやねん」
「テンションひっく」

いやお笑いのことは見るの専門で演じるのはわからないよ。しかも発音間違ってるとかいわなくてもわかってるから。むしろテンションの高さは財前くんと同じだろ、と突っ込めば白石くんが同意してくれた。



「しーらいしー何話しとるん?」
「おー金ちゃん。今2人と部活披露で何のネタやろか話してたねん」
「財前ネタやるんか?」
「阿呆。1人で何のネタやんねん」
「えー1人でもコントできるやん」
「遠山くんは部活動紹介に出ないの?」
「何しでかすかわからん奴をホイホイ出すわけないやろ」
「テニスやってええならワイも出るで!」
「阿呆!そないなことしたら部活披露どころでなくなるわ」

遠山くんこの短い時間で2回も阿呆って言われてる…。
財前くんと白石くん両方にお前は出るな、と念押しされた遠山くんは「部活披露ならテニスすればええやんかー!」と一応正しいことを叫んでいた。正しいけど遠山くんのプレイは激しいからな。

適当に遠山くんに話を振ってしまった手前、大人しく話を見守っているとコントやら遠山くんの声の大きさで金色さんと一氏くんが反応しこちらに駆け寄ってきた。ああ…財前くんが凄く嫌そうな顔してる。


「ネタなら俺が仕込んだる!」といってくれる一氏くんを財前くんは鬱陶しそうに肩にかけられた腕ごと跳ねのけ「自分らは卒業したんやから放っとけや」とご機嫌斜めに毒舌を吐いていた。

みんな嫌がる財前くんを構いたくて仕方ないんだなぁ、という空気に何となく噴き出すと、渦中のピアスくんにこれでもかと睨まれたが周りのお陰か威力は半減している。
頑張って、とジェスチャーでエールを送るとムスッとしたまま眉を寄せるので更に笑いを誘った。満更でもないのか財前くん。

思ったよりも可愛い後輩くんなんだな、と思いながら視線を上げるとバレーコートの方から声がかかり、白石くんに声をかけたは救急箱を持ってそのままバスケコートを後にした。




四天宝寺も可愛い。
2018.11.09