You know what?




□ 四天宝寺と一緒・5 □




「げ、何してるの?」

バレーコートに着けば、いや遠目からでも目視できてたんだけど弦一郎が幸村に土下座していた。どうやら弦一郎が打ったスパイクが幸村の指に当たって痛めたらしい。
スポーツなのだからそれくらい当たり前なのにいとこの皇帝はさも死刑宣告を受ける手前の罪人のようだった。

「やめろっていってるんだけどね」
「まぁ仕方ないよ。真田だから」

こちらも困った顔で笑う幸村には肩を竦めコート脇の端に座ると、幸村の手を取り他に痛いところはないか調べた。うん、他はないようだ。


「とりあえず固定で小指と中指も巻いちゃうけどいい?」
「構わない」

思ったよりも腫れあがってる指にうわ、と顔をしかめたが幸村は平然とした顔でいた。痩せ我慢め。自発的に隅の方で正座をして反省している可哀想な皇帝を視界の端に入れながら幸村の指を治療していると「真田、もういいから」と呆れた声が聞こえた。

「むっ、しかし…」
「審判達にも参加させたいんだ。そこにいるだけなら代わってくれないか」


顔を上げると幸村は棘を含んだ言葉で弦一郎の1人反省会を止めさせ追い払っていた。こっちもこっちで酷い扱いだな。
いそいそとバレーの審判と交代する献身な姿をなんともいえない顔で見送っていると「放っておくと赤也が悪戯しに来るだろうしね」と肩を竦める幸村にそれは確かに、と同意した。



日焼けが少ない白めの肌は思ったよりも赤さを引き立ててきて異様に痛そうに見える。確かにこれを見たら弦ちゃんも慌てるか。などと考えながら彼の指に包帯を巻いていると「あっちで何内緒話をしてたんだ?」と問われ、思わず眉を寄せた。

「幸村。仕事を石田くんに押し付けてた上に余所見してたの?」

そりゃ怪我するわ、と呆れれば「気になったんだから仕方ないだろ」と何故かあっさり自白した。仕事放棄してたことを石田くんに謝りなよ。


「まったく……内緒話っていうか、忍足くんはわかりやすいねって話してたの」
「ああ。……フフ。それをがいったの?」
「え?悪い?」

バレーコートでは違うチームが試合を始め、その奥のバスケコートを見やれば財前くんは赤也に絡まれてるようだった。白石くんが仲裁に入っているようだが参謀とガムは遠巻きに笑って見ているだけらしい。
その放任主義なんとかした方がいいよ、と思いながら答えたら幸村が「ってそういうのわかるんだ」と噴出していた。


「忍足くんは特別だよ。知らないのは真田と本人くらいじゃない?」

あともしかしたら遠山くんとか恋愛興味なさそうな人達はわからないかもだけど。飯田ちゃんも吾妻っちもわかってたからな、と優雅に微笑む悪魔のような神の子を恨みがましい目で見れば「確かに彼は分かりやすいよね」と同意をくれた。

「あとは新入生歓迎会のことを話してたけど、四天宝寺って部活紹介の時お笑いのネタをやらなきゃダメなの?」

とりあえず無事包帯を巻き終え、幸村に感触を確認してもらいながら身体をずらして、神の子の後ろにいる石田くんと小石川くんに話を振ってみた。幸村も幸村で部活紹介でそんなことをするのか?と気になったようで振り返り彼らを見やる。



「絶対に必須ってわけやないけど校風が校風やからウケ狙いに発表する部活は多いで」
「そうなんだ」
それはセンス持った人間じゃないと辛い催しですね。

「それに来年のテニス部は実質、財前はんと金太郎はんだけやからな…財前はんも頭を悩ませてるみたいやで」
「そっか。石田くん達みんな3年だったよね」

石田くんも小石川くんも金色さんや一氏くん、謙也くんや白石くんも、ついでに千歳千里もみんな3年生だ。「それはかなり手痛いね」と辛そうに顔を歪ませれば額に軽く痛みを感じた。何すんだとデコピンをしてきた幸村を見ればこっちもこっちで呆れた顔でを見ていた。


。うちだって3年がごっそり抜けたんだけど」
「でもうちらは部員がたくさんいるじゃん」

そりゃ幸村達3強に比べたら西田達は、もしかしたら赤也すらも足元に及ばないところが多々あるかもしれない。けれど新生立海が動き出し、王者奪還に相応しいチームになりつつあるとは思っている。心配なのはわかるけど歩き出した後輩達をしっかり見守ってあげなさいよ。

「あんた達が赤也達をしっかり鍛えてるんだから、きっと大丈夫よ」と幸村の頭を撫でてあげれば彼は目を見開き後ろから「うわ、」という引いた声が聞こえた。振り返れば異様に近い距離で座っている仁王がいての顔を見て不味そうに顔を歪めた。


「?な、何よ」
「……お前さんはそういう奴じゃったと思っての」
「???…え?幸村?大丈夫??」

仁王の表情に眉を寄せたが顎をしゃくられ前を見れば幸村が顔を押さえ俯いているので驚いた。もしかして指以外も怪我してる?と聞いてみたが何でもないとしか返してもらえなかった。本当に大丈夫なのか?



「ええなぁ。マネージャー…」
「せやな。幸村はんも認めとるくらいや。マネージャーのあるなしは重要なことかもしれんな」

心なしか耳の辺りが赤い気がして熱でもあるのかと心配してると、石田くんと小石川くんがのんびりそんなことをのたまった。幸村って一応、元重症患者だったんですけど。


でもまあマネージャーがいて楽な部分はあると思うのでそれとなく同意すると「いっとくけどうちのマネージャーはやらないからな」となんでか幸村が対抗意識バリバリに石田くん達にケンカを売っていた。
落ち着けよ幸村。そんなこと石田くん達一言もいってないじゃん。小石川くんなんか引き攣った顔になっていてなんだか申し訳なくなり幸村の頭にチョップしたのだった。



******



昼休憩はそれぞれ自由にとることになり達は解放されているカフェテリアに来ていた。
残念ながらキッチンはお休みなのでそこで温かい料理を食べることは出来ないがテーブルと椅子があるということで達以外も何人かカフェテリアで食事をしている。


「ま!金ちゃんらそないなことしてたん?」


最初はマネージャー女子4人で食べていたのだが気づけば4人席のテーブルに椅子を追加して5人で食事してる。
彼(?)、というか四天王寺は体育館か、宿泊している海風館で食べていると思ったが金色さん…もとい小春さん(半ば強引に呼び方を強制された)は支給されたお弁当を持ってきて自然な流れで混ざってきて達と食べている。

そんな小春さんだからか異性という感じも少なく、話し方も上手くてみんなすんなりと受け入れていた。話の内容もマネージャー業から始まって、部活に学校の話をして気づけば恋の話もしていて内心舌を巻いていた。小春さん話やす過ぎじゃないの?


その小春さんもこの流れでイケメンハンターだと判明した。小春さんのテンションが高過ぎて女子力通り越してちょっと怖かったのは内緒だ。もしかして弦ちゃん達が微妙な顔になってたのはこのせいだろうか?小春さん、弦一郎の顔好きみたいだし。

お弁当を食べ終わっても話が途切れることなく盛り上がっていると四天王寺の話にもなり、自然と初日の覗き見事件の話になった。


「みんな健全な男の子やけどそのメンバーはそういうことしいへん人らやから程々に堪忍したってな」
「こっちこそ鍵かけ忘れてたからお互い様だよ。それにうちのお兄ちゃんも同じことよくするし。気にしてないよ」
「いやいやいや友美ちゃん。兄妹と他人は別だから」
「そうですよ。今回は別にしても気をつけた方がいいですよ」

皆瀬さんの危機管理に飯田ちゃんと一緒に物申していると吾妻っちも大きく頷いていた。柳生くんもそんなこと聞いたら相手の目を潰す勢いで怒ると思うよ。



皆瀬さんは特に気をつけてね!といえば「ええ〜?!それをいうならちゃん達だって気をつけなきゃ!」と返されたが後輩2人ならともかく私はどうなのだろう?そんなこといいだした日には赤也やら丸井に鼻で笑われそうだけど。

「友美さんだけやのうて女の子はみんな気を付けるべきやで。男はいつどこで狼になるかわからへんのやし!」
「………例えば一氏先輩みたいに、ですか?」


力説する小春さんに吾妻っちがそろりと視線を向けたので達も倣ってそちらを見た。ここからカフェテリアの出入口が見えるのだがそこの柱の陰からじっとこちらを恨めしそうに見ている人物がいる。

達が見るまではいっそ怨念めいた顔で見ていたのだろうが小春さんがそちらを見た途端、一氏くんはパァっと顔を輝かせ「小春!!」と切なそうに頬を染めていた。


「んもう!ユウくんはあっちいってていうたやないの!ここは男子禁制やで!」
「小春ぅぅぅ〜!!!」

それなりに広いカフェテリアだからどこにいようと構わないしいっそ少し離れたところには幸村達もいるのだが一氏くんは頑なに小春さんから離れようとせず、かといって小春さんの話しか聞かないからその本人に追い出されたのだ。
その為一氏くんはあそこで健気にもじっと小春さんを見つめていたのだが、彼(?)は一氏くんを視界に入れながらずっと無視していた強者だ。


そろそろ許してあげてもいいのでは?というのとそろそろ昼休憩も終わるよね?というのでお弁当を仕舞っていると、「ああ、せやった」と小春さんが思い出したように一氏くんからに視線を合わせてきた。
何?と問えば頬に手を添えた小春さんが困ったように微笑み「さんて彼氏おる?」と明け透けに聞かれ目を大きく見開いた。



「ぅえ?!な、何で?!」
「あ!アタシがさん狙っとるわけやないで?んーただなぁ…」
「な、何?」
「珍しい人がさんに悪戯しとっててな。淡い恋心ならアタシも応援するんやけどなんやちゃうみたいやから一応報告しとこ思てな」
「は、はあ…」

嫌な思いしたらアタシにいうてな!という小春さんの言葉には不思議に思いながらも一応頷いた。小春さんの言葉を鵜呑みにすれば四天王寺に悪戯しようとしてる人がいるということだろうか?
そこまで意地悪そうな人いなかったと思うけど、と考えながら再度聞かれたので彼氏はいないよ、と質問に答えた。


「え!そうなの?!(仁王くん!)」
「そうなんですか?!(じゃあ幸村先輩とは…?)」
「ええ〜………(切原ヘタレ過ぎ)」
「え?な、何???」

思ってもみないところから反応されて驚いたが、先程恋の話をしたから乗ってきてるだけかもしれない。マネジしてたらできないよ、と肩を竦めると飯田ちゃんと吾妻っちが同意するように死んだ目になった。ごめんよ後輩達。


「せやかてこない近くにイケメンばっかおるんやで?恋のひとつやふたつくらいあるんとちゃうん?」
「小春くん。そんなことしたら私らの命いくらあっても足りないよ……」

あいつらを好きになるということは毒を食べるようなものだよ、とそれこそ魚が死んだような目でいうと小春さんが「アカン!恋の話をしとるのにそないな死んだ目をしたらアカンて!」悲鳴混じりにの肩を掴んで揺らした。
いや、あいつらのファンに命狙われてることを知ったら誰もが死んだ目になると思うよ。



「それをいったら皆瀬先輩は凄いですよね。柳生先輩のファンから何もなかったんですか?」
「勿論あったよ。呼び出しとかしょっちゅうあったし………まあ、それよりも幸村くんや丸井くんのファンの方が、ね」
「だよね……」
ちゃんも赤也くんのファンから目の敵にされてたもんね」
「あはは………」
「本当にスミマセン」

同学年の同性としてご迷惑をおかけしました。と飯田ちゃんが謝り、も「卒業するまでだから頑張ってね」と彼女の肩を叩いた。多分次のターゲットは飯田ちゃんだろうからね。

そんなやり取りを見ていた小春さんは涙目になり「苦労したんやね!!ええで!とことんアタシの胸で泣きや!」とが無理矢理抱き締められ首と側頭部を痛めた。小春さん。思ったよりも胸板固いんですね。




はぴば!小春おめでとう!
2018.11.09
2018.12.10 修正
2018.12.28 加筆修正