You know what?




□ 四天宝寺と一緒・7 □




西門に続く中庭には小さな桜並木がある。そこは丁度校舎の陰に隠れない絶好の日当たりスポットで千歳千里がいうようにさぼるには最適な場所でもあった。

たこ焼き食べたい歌を即興で歌っている遠山くんをBGMにみんなで向かえば目の前に綺麗にライトアップされる桜が見えた。
暗くて少しだけ怖い気もするが照らされた桜がより際立って白く輝いているようだ。


「満開は明日辺りかな」
「そうなの?」

の隣にやってきた幸村がそんなことをいうので彼の顔を見やると全部はまだ咲いていないとのことだった。そうなると入学式前には散っちゃうのか。
桜綺麗なのに勿体ないね、と噛み合わない行事に呟けば幸村が小さく笑った。

「散る前にみんなで花見でもしようか」
「いいね。あ、でも昼間がいいな」

手には丸井からもらったお菓子があるけどいまいち盛り上がりに欠ける。遠山くんじゃないけどたこ焼きとか屋台で買えるものを買って食べて桜が見たいなといえば「は花より団子か」と頭が重くなった。


「何よ。仁王くんだって屋台のあったかいやつ食べたいでしょ」
「別に俺は絶対食べたいわけじゃないぜよ」
「なら仁王は欠席でいいな」
口外に来なくていいから、という神の子に仁王はの頭に乗せていた腕に体重をかけてきた。

「ちょ、重い!重いから!!」
「幸村から受けた傷の重さじゃ。も味わいんしゃい」
「へぇ。仁王にも傷つくなんて言葉あったんだ」

そんな愁傷な心なんてないと思ってたよ、と朗らかに笑う神の子に仁王は本当にダメージを受けてを抱きしめてきた。いや違う。これはホールドだ。



「ぎゃあ!いたたたたっギブギブ!お腹押すな!中身出るでしょ!…いやいやいや!プレスかけないで!潰れるから!!」

無言でを潰してくる仁王に悲鳴を上げれば弦一郎がやってきて「馬鹿者!!」と雷が落ちたと同時に仁王が逃げた。闇に紛れた詐欺師に追いかけた弦一郎も苦々しい顔で戻ってきたので、あいつは当分帰ってこないな。と諦め気味に溜息を吐いた。


。大丈夫か?」
「真田ありがと。一応カレーはお腹で留まってるよ」

結構真面目に助かったとお腹を擦れば噴出す声が聞こえ、視線をやると柳と話していた白石くんがくつくつと声を抑えながら笑っていた。またですか。

「堪忍な。自分らのやりとり何度見てもおもろい思ってん」
「??えええー……そこ!マネすんな!!」

そこの小春&一氏組!ラブルスでもなんでいいからマネしないで!と視界の隅で先程の仁王とのやりとりを再生する2人指摘すると「自分、ええツッコミするな!」と何故か一氏くんに褒められた。嬉しくない。
嬉しくないが吾妻っちや小石川くん達にもウケてるのを見てそれ以上は怒ることもできず肩をがっくり落とすと慰めるように幸村が肩に手を置いてきた。同情するなら癒しをくれ。


「なんや。立海てもっと怖い思っとったけど本当はとっつきやすかったんやな」
「はあ?どういうことっスかそりゃ」
「気づいとらんのか?自分ら個々に話す分にはまあええけど、他ん時は妙にピリピリしとって近寄りづらい空気出しとったんやで」

小石川くんのいう意味が理解できなかった赤也に謙也くんが引き継ぎ「今回の練習試合もそうやけど、今は大分ようなったとちゃうか?」とこちらに投げてくる彼に何でか幸村達はに視線を向けてきた。



「え、何?」
「うーん。そういう空気に自然とさせる人がいるからね」
「こちらが気を張って計算したところでペースを崩されるのは目に見えているからな」
「それも俺達にとって必要なことだと認識している」
「まぁ、いいかどうかは別として飽きねぇのは確かだな」

うっせーけど、と笑う丸井になんとなく眉を寄せたがなんとなく突っ込めない空気を感じて黙っていると、にっこり微笑む白石くんと目が合いは眉間の皺を隠すように手で押さえそっぽを向いた。

「くしゅっ」
「大丈夫か?」
「あら!冷えたんやないの?ウチの上着貸したるわ」
「あ、ありがとうございます」
「小春には俺の上着貸すで!」
「嬉しいけどユウくんも優樹ちゃんに上着貸したってや」

女の子は身体冷やしたらあかんねんで。と背中の方にいたラブルスがくしゃみをした吾妻っちに上着を貸していた。小春さん言葉遣いに反してめっちゃ紳士…!


小春さん格好いい、と思っていたが風が吹くと「きゃー寒ぅー!」と自分を抱きしめ震えるので思わず噴き出した。辛うじて長袖シャツの小春さんよりも半袖の一氏くんの方が寒そうなのに「大丈夫か?小春ーっ死ぬなー!」と騒ぐ様がまた可笑しい。


「み、皆瀬さんも大丈夫か?寒いならおおおおお俺の上着、貸そか?」
「結構です。こんなこともあろうかとホッカイロを持ってきてますから」
「ありがとう。比呂士くん」
「謙也さん上着いらんなら俺に貸してください。あ、でも謙也さんの匂い移ったら嫌やからやっぱええですわ」
「ざーいーぜーんー!!!」
「あははははっ謙也臭いんか!」
「臭ないわ!ちゃんと柔軟剤もつこたぴっかぴかのおろしたてや!」
「謙也。洗濯したらおろしたていわんわ…」



互いの肩に腕を回し踊りだすラブルスを眺めていれば謙也くんが暗がりでもわかるほど緊張した声で皆瀬さんに上着を貸そうとしていた。しかしそれはあっさり柳生くんに阻止され、茶々を入れてきた財前くんを追いかけて暗がりに消えていった。

足元気を付けてね!と声をかけたが謙也くん達は声だけで会話していて学校じゃなかったら近所迷惑な程の大声で遠山くんが笑っていた。


「冷えてきたしそろそろ帰ろうか」
「そうだな。これ以上遅くなると皆の親も心配するだろうしな」

幸村と弦一郎の会話に同意しながら「これであったかくなるで!」という声に視線を向けると今度は吾妻っちを挟んでラブルスが踊りだしたのでは慌てて回収しに行った。

「あらん!さんも混ざるん?」
「いや混ざらな、ちょっと!えええええ!」
「ぶはっ!何やってんだよぃ」


混ざらないっていったのに小春さんはの手を取ると肩に手を回してきてなんでかラインダンスが始まってしまった。その光景を見ていた丸井達は一斉に吹き出しゲラゲラ笑っている。
は恥ずかしくて仕方なかったが小春さんは放してくれるどころか振り付けを丁寧に教えだし、足を上げるタイミングも揃えるように指示してきたから乗らざる得なかった。

そのうちどこからともなく音楽が流れだし(後で聞いたら財前くんがスピーカーにして音楽を流していたらしい)、恥ずかしさもうっすらどこか行くと踊るのがちょっと面白くなってきて最終的には結構な人数で円を作って踊っていた。



「あははっ!マイムマイムをこんな早く踊ったの初めて!」
「これで温かくなったやろ?」
「汗半端ないけどね」

何が悲しくてキャンプファイヤーもない薄暗い外灯と桜の木の下で踊らなきゃならんのよ、と思ったけどみんなと踊ってみたら結構楽しかった。息切れしてるけど。


暑そうに手で仰ぐ皆瀬さんに小春さんはにっこり笑うのでそれでも笑った。だって肩から湯気出てる。「冷えるといけないんで」と吾妻っちが上着を返せばとてもいい笑顔で微笑んでいた。おかま紳士だ。
半袖の一氏くんにも上着を返したが謙也くん共々まだ暑いらしく上着を肩にかけてマント代わりにしている。さて今度こそ帰らなくては。

「キャンプファイヤーでもこんな真面目に踊ったことねぇよぃ」と笑う丸井に同意しながら鞄を持てば「何ニヤついてるんだよぃ」と何故か小突かれた。


「ったく。が巻き込まなきゃジャッカルなんかと手を繋いでマイムマイム踊ることもなかったのによぃ」
「何よ。楽しかったんだからいいじゃない」
「フォークダンスの醍醐味は女子と踊る為だろぃ!」
「いやそんな力説されても…」

モテ男なんだからそのくらいいいじゃないか。小さい男め、と眉を寄せれば近くで聞いていた謙也くんが「せ、せやった!俺としたことが…」と打ちひしがれ「今頃気づいたんか」と白石くんにつっこまれていた。そういえば謙也くんは仲良く遠山くんや白石くんと手を繋いでいたな。



「いやでもマジな話、先輩の巻き込み方ヤバくないっスか?なんかバキュームみたいでしたよ」
「バキュームっつーか入れ食いの魚並に釣ってなかったか?」
「いっそクモかアリジゴク並の捕まえ方だったぜぃ」
「あんた達マジ失礼だな!」

本人目の前にしていいたい放題なワカメハゲガムに憤慨すると遠山くんがゲラゲラと笑った。


「確かにさん周りを巻き込む天才かもな。立海の大半巻き込んだのさんやし」
「ええええ?白石くんまで…でも、幸村と柳くんは捕まえられなかったよ?」
「真田を躍らせただけでも凄いと思うけど?」
「そうっスね。真田副部長が手を繋ぎながらステップ踏んでるのとか、ぶふっ」
「ムッ何か言ったか赤也?!」
「い?!な、なんもいってないっスよ!!」

四天宝寺は小春さんや一氏くんが遠山くん達を巻き込んだけど立海は皆瀬さんが柳生くんを呼んだくらいで、その皆瀬さんや他の人達もが巻き込んだのは確かだ。
だってこういうのはみんなで踊った方が楽しいじゃない?巻き込んだ方が恥ずかしさも忘れられるじゃない?そんな邪な考えもあったけどでもだからといってその例えはないと思うんだよね!


唯一自分達だけは蚊帳の外にいた幸村は火の粉がかからないように弦一郎のことを出すと、1番後ろで歩いていた彼が赤也だけを名指ししたのでワカメは脱兎のごとく校門の方へと逃げ出した。




傍から見たら黒ミサか何かだと思われそうだ。
2018.11.17
2018.12.10