You know what?




□ 四天宝寺と一緒・11 □




立海に帰り着く頃には空の真上が藍色に染まりだし1番星も輝く時刻だった。

てっきり練習試合も終えてみんな帰ってると思い財前くんを海風館に送り届けて帰ろうとしたのだが、何故かテニスコートの野外用のライトがついて明るかったり、元レギュラーが全員残って練習していたりしていてこのテニスバカ共は、と頭を押さえたのはいうまでもない。
四天宝寺はともかく何でみんな残ってるのよ。


「それで、手首はどうなん?」
「2、3週間は安静にしとけいわれたんで先に離脱させてもらいますわ」

お疲れさまでした。と頭を下げた財前くんは白石くん達の心配を他所に帰ろうとし、そしてそのみんなに取り押さえられていた。流石四天宝寺。しこみ芸にしか見えない。
財前くん半分本気だろうけど呆れ半分、面白半分で眺めていればじっと見つめてくる視線に気がつきは肩を竦めて小さく笑った。


「本当だよ。2度の捻挫だって」
「そうか。更新されたデータがあったからもう少し見ておきたいと思ったのだが……残念だな」
「右手は使えないのかい?」

本当に残念そうにノートを閉じる柳に続いてさも当然のように右手を所望する神の子に吹き出しそうになるのを抑えながらもみくちゃにされてる財前くんを見ると、彼は一旦を見返し、それから眉を寄せ逸らした。

「利き手でしか練習したことなかったんで」
「でも素人程度には打てるみたいだよ」
「そうか。ならばフォームの確認と素振りから始めるとしよう」
「え、」
「打ち合う相手ならたくさんいるしその間にフォームを固める方向でいいんじゃないか?」
「えぇ……?」

とても言いづらそうに財前くんが告白してくれたのだが、参謀と神の子はが合いの手を入れたと同時に合宿の予定を組み替え、ほぼ出来上がったメニューを白石くんに相談していた。



その光景にたまらず吹き出せば、困惑顔の財前くんがギロリ睨んできて慌てて手で口を隠した。少し離れた場所では話を聞いていたらしい仁王とジャッカルが手を合わせて拝んでいる。面白過ぎるからやめてほしい。

「私も似たようなことされたから。ま、諦めて」

ドンマイ、とにこやかに親指を立てれば恨みがましい目で睨まれ、の指を折らんばかりに握られたのはいうまでもない。


それから白石くん達に呼ばれ、財前くんはをひと睨みしてまた親指を握りしめると「後で覚えといてくださいよ」と不良の捨て台詞のようなことを吐いて去って行った。あの子、テニス部じゃなかったらヤンキーにでもなっていたのだろうか。

ジンジンとする親指を振って痛みを分散させていると、財前くんと交代するように丸井がやってきてと同じようにピアスくんを視線で追いかけた。


「気になるなら声かければいいのに」
「うっせーよぃ」

憎まれ口をたたく割に丸井の表情は微妙そうだ。また違った意味の違和感に苦笑すると「後で謝っておきなさいよ」と隣にいる丸井の腕を肘でつついた。
視線を財前くんに戻せば、彼は一見真面目に話を聞いてるようだけど見える横顔からは勘弁してほしいっスわ…という呟きが書いてある。幸村はそういう子苛めるの好きだから気を付けなよ。

「…お前、どこまで知ってんの?」
「あ、やっぱり財前くんに何かいったのか」

隣を見れば驚いたようなムッとしたような顔の丸井が探るようにこっちを見ていても負けじと眉を寄せた。アンタが財前くんに吹っ掛けるから彼無理して怪我したんだからね!といってやれば丸井は不機嫌な顔をバツの悪い顔に変え、口を尖らせた。



「ああいう奴は適当なところで手を抜くと思ったんだよぃ」

丸井がいうには財前くんはもっと要領よく動くと思っていたらしい。だから怪我をする前にセーブをしてさっさと負けるものだと、そう考えたようだった。


「それは間違ってないと思うけど……ただ思ったよりは負けず嫌いだったんじゃない?」
「俺もそう思った」

気づいたのはあいつが病院行ってからだけど。そうぼやいた丸井は首の後ろ辺りを掻いて溜め息を吐いていた。こっちもこっちでそれなりに反省してるらしい。

話し合いが終わり、財前くんがこちらを向いたのを確認したは丸井の腕を再度つつき同じ方を見させると彼の背中をポンと押してやった。
「合宿後まで引き摺る話でもないんだからさっさと謝ってスッキリしたら?」と丸井だけに聞こえるようにいってやれば奴は迷惑そうに眉を寄せていわれなくともわかってるよぃと何故か髪をぐしゃぐしゃにしてきた。酷いなお前。


!」

さっさと行ってこいよ!との髪をかき混ぜる丸井の手を押し退けようとしたら、聞き覚えのある声がの名を呼び、背中に何かぶつかったと思ったら子泣き爺いが乗ったかのような重みと温かさを感じた。

「丸井くん達ここにいたんだ!」
「え、ジローくん?!」
「芥川?!」

驚き振り返るとすぐ真横にふわふわ頭のジローくんがにっこり笑ってを抱き締めた。それがジローくんの毎回の行動なのでそれなりに慣れはしたけど、「の耳冷たくね?」と温めるように頬擦りされる等新しい行動が1つ追加されただけで途端にテンパってしまう。
そしてがアワアワすると何故かジローくんが喜ぶという謎の図式が出来あがっていた。

いやいや、笑ってないで放して!くすぐったいんですよ!更にぎゅうぎゅうと抱きしめてくるジローくんに放して〜!と狼狽していると見かねた丸井がの腕を引っ張りジローくんを引き離した。



「ったく、いつもいつも飽きねーな」
「えへへ〜だってって抱き心地いいC」
「はあ?!」

お願いだからジローくん黙って!謙也くんが赤面してるから!いや、赤也は聞こえなくていいから。こっちに来なくていいから!
いやいやいや、ジローくんは「こっちにおいで〜」とか満面の笑み浮かべて両手広げないで!一瞬何も考えずに足踏み出しそうになったから!丸井が背中に隠してくれなきゃ完全にジローくんの胸に吸い込まれてたから!!ジローくんなんて恐ろしい子!


「なんや、立海は四天宝寺と合宿かいな」
「?!?!?!」
「ねぇねぇ丸井くん!俺ともテニスしよーよ!」
「えぇ…これからか?」

丸井の背中に隠れさせられただったが、その後ろから両肩を掴まれ肩が跳ねた。恐る恐る振り返れば伊達眼鏡で存在が中学生とは思えないその1のエロボイス忍足侑士くんが立っていて、ワンテンポ遅れて気づいた丸井と一緒に悲鳴に近い声で叫んだ。

「……なんやちゃんまでそない驚かんくてもええやん。傷つくわ〜」
「驚くよ!!!」

だって目下今1番会いたくない人がここに現れたのだ。驚かない訳がない。読めない顔でにっこり微笑む忍足くんにの顔からぶわりと冷や汗を流した。



「なんや侑士。ここ神奈川やで?どないしたん?」
「俺らはちゃんに用があってここに来たんや。なーちゃん」
「あは、あはは………」

やだ怖い!忍足くんの笑顔が夕暮れと相まってホラー並に怖いんですけど!は泣きたい気持ちになりながらも引きつった顔で笑った。こんな威圧感ある笑顔でも普通に会話する謙也くんってば勇者過ぎるでしょ。

「逃がさへんで」と恐らくにしか聞こえない囁きに身も凍る気持ちになった。今日が私の命日かもしれない。


「あの、忍足くん、どういったご用件で」
「ああ、それは本人から聞くとええで」

ついっと顔を上げ別の方を見る忍足くんに怖々とした気持ちで倣うと、テニスコートの反対側から優雅に歩いてくる人物が見えた。

その人は夕暮れの薄暗さなどものともせずスポットライトが当たってるかのように姿がよく見えて、隣にいる従者がより影で見えなくなるくらい輝いていた。存在が中学生に見えない人その2の人も来ちゃったよ。


ああヤバい。あの人私服だ。いや忍足くん達が私服だからなんとなくわかってたけど。卒業したから制服なんて着て来るわけないのだけど、私服はまだ見慣れてないから目のやり場に困るんですよね……!
逃げるように視線を逸らせば幸村達も少し驚いた顔でコートの反対側から歩いてくる人を見ている。ついでに「跡部。こんな時間に何の用だ?」といわなくてもいい名前をいう我が従兄には心の中で頭を抱えた。



はどこだ?」
「ム?!」
ならここだよー」

無慈悲にも密告するジローくんには泣きたい気持ちになった。くそう。知ってたけどジローくんは氷帝だもんね!目の前にいる丸井が壁になってくれているものの、後ろにいる忍足くんのせいで丸見えも同然の光景にガックリと肩と視線を落とした。


「何の用だよぃ」
「アーン?俺はに用があるんだよ」

一応丸井が隠そうとしてくれたみたいだけど跡部さんの声の近さを考えるとどこをどう頑張っても丸見えだろう。現実逃避するように見ていた地面だったが丸井の足とは別の高そうな革靴がスッと視界にお目見えして顔を上げた。や、無理。無理だ。死んだ。


「よお。テメェはいつも俺様に探させるよな」
「あはは…お、お手数をおかけします」
「跡部。何度も聞くがこんな時間に何の用だ。今日の練習はもう終わってるのだぞ」
「別に練習しに来たわけでも、ケンカしに来たわけでもねぇよ」
「だったら何しに来たんだ?」

忍足くんという足枷というか肩枷に囚われながら憤慨間近の弦一郎と跡部さんを伺っていると幸村も混ざってきての表情がどんどんなくなっていった。
しかも「から何も聞いてねぇのか?」という跡部さんの追い打ちに立海メンバーの冷たい視線が一気にに注がれ居た堪れなくなる。


「跡部。ちゃんはなんも知らんで。俺のメール全部読んどらんし」
「あぁ?忍足。テメェなら必ず連絡がつくっつーから任せたんだぞ」
「……やって?」
「…………ご、ごめんなさい……」

だって気づいたら新着メールが20件以上も来てたんだよ?しかも全部忍足くんなんだもん。怒る跡部さんなどものともせず忍足くんは笑顔で圧力をかけてくるのでは謝るしかなかった。怖くて見なかったフリをしましたなんて言えない。



はそこにいる財前の付き添いで病院に行っていたんだ。だから連絡できなかったんだと思うよ」
「幸村……」

本日の残量ライフをじわじわ削り取られる中、幸村の助言に少し顔色が戻った。跡部さん達を呼び寄せたのお前だろって顔で見てたの忘れてないけどありがとう幸村。
「そういうことならしょうがねぇな」と組んでいた腕を解いた跡部さんはモデルのように腰に片手をあて、「」と相変わらず強い視線でを呼んだ。


「海外にも氷帝の姉妹校があるのは前に教えたよな」
「あ、はい」
「そこが雑誌を刊行しているんだが今度の特集が俺なんだよ」
「は、はあ…」

頭にぼんやり『跡部景吾特集!』と大々的に書かれた表紙を思い浮かべたが、想像はなんとなく出てきたもののクエスチョンマークが浮かんだ。中高生が雑誌の特集??

「俺の撮影は粗方終わったんだが、昨日ページを増やすからテニス部の奴らも載せられないかと連絡があってな。急遽撮影することになったんだよ」
「す、凄いですね」
でも何人か撮られるの嫌がりそうな人いそうですね。

「時間も限られてることだし、だったらを呼ぶかって話になってな」
「そうですか……え!な、何で私が?」
「よろしくねー!」


途中からよくわからない規模の話に思考を止めたまま聞いていたら自分の名前が出て思わず声が裏返った。
何故?!と驚けば忍足くんの手が放れたと思ったらジローくんがに抱きつき「1発でジローを起こせるんはちゃんだけやからな」と忍足くんがつけ足してくれた。そういえばそんな特殊能力ありましたね。



「ジローくん。自力じゃまだ起きれないの?」
「うん。頑張って起きてようとしたんだけどやっぱり寝ちゃうんだよね〜」

というわけで、よろしく〜!とにっこり微笑んだジローくんだったが次の瞬間頭に拳骨が落とされた。ジローくんから引き離しの腕を掴んだ相手は勿論弦一郎で、顔を真っ赤にしながら「婚前前の女子に無闇に抱きつくな!!」と頭を抱えてしゃがみこむジローくんにヒステリックに叫んだ。


「ま、そういうわけだから明日から頼むぜ」
「(スルーした…)明日から、ですか?」
「明日と明後日だったな?樺地」
「ウス」
「何をいっとるか!はマネージャーの仕事があるのだ!行けるわけないだろう!」
が1、2日いなくなるくらいで回らなくなる部活じゃねーだろ」
「(そりゃまあ確かに)」
「残念ながらたくさんマネージャーがいる氷帝と違ってうちは1人減るだけで回らなくなる部活だから辞退させてもらうよ」

随分急だなと思ったが跡部さんの言い分に詰まった弦一郎の代わりに幸村が加勢してきて驚いた。皆瀬さんなら立海と四天宝寺両方面倒みようと思えばできると思うけど。

「写真なら今迄の大会の写真でも使えばいいだろ」

もう行くの決定じゃないか?と思ったのが良くなかったのか幸村は身も凍るような声で言い放つのでも姿勢を正した。怒った幸村は怖い。
ひええ、とこっそり肩を竦めれば「相変わらず過保護だな」と跡部さんが面倒そうに頭を掻いた。



「んじゃテメェらも来いよ」
「は?」
「そんなに心配ならテメェらもこっちに来ればいいだろっていったんだ」
「え!マジマジ?!そしたら丸井くんと打ってもいい?」
「おいおい跡部。こいつらまで呼んだらアレも争奪戦になるとちゃうか?」

丸井も来るかもしれないとわかったジローくんが頭を押さえながらも喜んだ。まだ涙目だけど。けれど忍足くんはあまり面白くないらしい。

「さすがにこの人数で押し掛けるのもどうかと思うが……それにアレとは何のことだ?」
「ああ、人数は特に気にしなくていい。そういう場所を借りるつもりだからな。アレっつーのはこっちに写真が苦手だとゴネた奴がいてそいつらを大人しくさせるためにあるものを用意したんだよ」
「あるものって?」
「モニターだ」


訝しげに聞く柳と幸村に跡部さんは淡々と説明してくれた。写真嫌いな人(恐らく宍戸くんや日吉辺りだろうな)を撮影で釣るためにラケットやシューズのモニターを同時に行うことにしたようだ。
色んなブランドの新しいモデルを無料で好きなだけ使えるということで撮影を渋ってた面々がふたつ返事で返してきたということだから流石としかいいようがない。

テレビ等で食べ物や化粧品のモニターの話は聞いたことがあったけどスポーツ用品でもあるのかーと近くにいた丸井を見たら、なんか目の色が変わってた。ついでに幸村達も見たらみんな丸井と似たような目になっていた。マジか、弦ちゃんもかよ。

赤也はブランド名を聞いて雄叫び上げるし四天宝寺組なんか何やら金額を計算しだして戦々恐々としている。小春さん何の計算してるの??


「よくそんなお話まとめましたね」
「元々何社かスポンサーで繋がってたからな。宣伝代わりにもなるっつーんで一通り声かけたんだよ。ま、これだけいればデータも撮影もなんとかなるだろ」

跡部さんだから何でも有りといえば有りなのだけど忙しいのによくやりましたね、と心底感心すれば「既に次の全国の戦いが始まってるからな。こいつらにももっと強くなってもらわねーと困るんだよ」といって俺様は不敵に口元をつり上げたのだった。




台風の目参入です。特効ガチャで跡部様来たよ!!!(私事)
2018.12.08