You know what?




□ 四天宝寺と一緒・12 □




「せやった。ちゃんにこれのこと聞きたかったんやけど……メール見てくれてへんから知らんと思うけど」
「だからごめんって……」

モニターに釣られた幸村達は跡部さんと予定を組むべく話し合いをあっさり始めた。確かにラケットもシューズも高いけどそんな目の色を変えるほどだったのか…。
まさか柳や柳生くんも賛同するとは思ってなかったので感心半分、呆れ半分で見ていると忍足くんがポケットから携帯を取り出し、言葉のトゲをの心に刺しながらとある画像を見せてくれた。


「え?」
「…こんなん送られてきたんやけど、どういうことなん?」

詳しく聞かせてぇな。
そういった忍足くんはいつもより威圧感に微笑んでらっしゃいました。

忍足くんが見せてくれたそれは昨日更衣室で財前くんに撮られたらしい写真だった。らしい、というのは未だにその画像をが見てないからなのだけど、それでも白石くんと密着してるシーンはそれしか思い出せなかった。

しかも忍足くんが持っている画像は大層煌びやかなデコレーション加工がされていて意図したのかしてないのかの後ろにいた金太郎くんがものの見事に装飾品で消されていた。
その為あたかも白石くんと2人きりでいたところを激写されたみたいな光景になっていては声にならない悲鳴をあげた。


「ざ、財前くんんんん!!」
「え?なんですか?」


幸村達との話も終わり、今は1人携帯を弄っていた彼にいきなり話を振ると、財前くんはそれなりに驚いたようだったが忍足くんの画像を見て驚いたように目を見開いていた。

「……い、いや。これ俺知らないっスよ。ネットにもあげてないし……あ、」

隣では「ああ?んだよこれ」とまた不機嫌に眉を寄せる丸井が視界に入り、は逃げるようにまた財前くんを見た。



撮ったのは君で消してくれるっていったよね?!どういうこと?と涙目で訴えれば彼もこれは知らないようで少し慌てた様子で答えると、ハッと思い出したかのように後ろを振り返った。彼の視線の先には小春さんがいて、小春さんは小春さんで何で見られてるのかわからない顔で首を傾げた。

「もしかして、小春先輩っスか?」
「え?アタシ??」
「あの画像勝手に持ってったやないですか」
「ああ!それなん?え?でもあの画像は加工した後ユウくんにしか送っとらんけど…?」

そこそこ離れてるところにいる小春さんは忍足くんの携帯が見えない為説明されて合点がいったようだが、その画像は一氏くんにしか流してないらしい。

それだけでもは途方に暮れていたが、その一氏くんを見たら金太郎くんや千歳千里、飯田ちゃんや吾妻っちが彼の携帯を覗き込んでいてとても悲しい気持ちになった。嘘の情報が拡散されていく。


「俺は忍足に送ったりしぃへんで。小春に内緒やいわれとったしな」
「そやったな。んーアタシも送っとらんし……あ、忍足くんのアドレスならいつでも電話帳空けて待っとるからな!」
「うっ…そ、そか…(教えるつもりないけどな…)」
「小春!浮気か!!」

いっそ他人事のように遠くを見ていればそんな会話が聞こえ、だったら誰が忍足くんに流したのだろう?という話になっていた。


「いるやん。ここにいてる中に俺と真っ先に繋がる身近な奴が」

そこまでヒントを出されて別の答えを選ぶ人は早々いないので一斉に謙也くんを見ると「え?!」と集まった視線に肩を揺らしていた。



「あ、もしかして俺か?」
「阿呆。自分以外に誰がおんねん」
「せやかて、ただのネタやで?白石に彼女出来たいうたら侑士がどんな反応するか気になってん」
「はぁ?!」

なんてこった。
もう殆ど脱け殻になりつつあると入れ代わるように今の今迄蚊帳の外にいると思っていた白石くんが自分の名前を聞きつけ驚き声をあげた。モニターの話はもういいらしい。

ついでに謙也くんが加工されたツーショットの画像を見せたようで顔を赤くして「何しとんねん!」と彼の今日一番の声を張り上げた。そりゃそうだ。


「謙也!他に回すのは厳禁いうたやろが!……わ!小春!堪忍や!これは全部謙也が……っこ、小春ぅううう!!」
「せやかて白石も侑士の悔しがるとこ見たい思うやろ?!」
「思うかど阿呆!さんに迷惑かける嘘はアカンに決まっとるやろ!」
「ああ〜捨てんといて小春ううぅ〜!」

この阿呆!と一氏くんと白石くんに叩かれた謙也くんは「ただのネタやのに」、と涙目でぼやいたがの顔を見てを流石に悪いと思ったらしく「か、堪忍な……」と謝ってくれた。後ろではラブルスが解散の危機に陥っているようだが見なかったことにしておこう。


「せやったらあの写真は?」
「あれは事故みたいなもんやで。金ちゃんがさんにぶつかって、たまたま近かった俺にぶつかっただけで……」
「せやで!あん時は友美さんらやアタシ達も全員おったし。アタシも調子乗って加工の時隠してもうたけど、さんの背中に金ちゃんもちゃんとおったしな」

ビックリしとる2人が初々しくてつい魔が差してもうたんよ。忍足くんの質問に白石くんや前に進み出た小春さんが昨日の状況を説明してくれ、「さん堪忍な」と手を合わせて謝ってくれた。



「あの画像は現場知らん人にはビックリする思てユウくんにちゃんといいきかしとったのに!」
「堪忍や小春ぅううう!!」
「何で俺いないん?」
「フレームに入りきらんかったとちゃうか?」
「えー!ワイが映っとる写真ないん?」

ワイもと映りたかったわ!と本気なんだかよくわからないことをぼやく金太郎くんに力なく苦笑すると「なっ何でテメーが先輩を名前呼びしてんだよ!」と赤也が怒りだしあっちも変な小競合いが起こっていた。あ、仲裁はジャッカルと石田くんが行ってくれるらしい。

千歳千里は止めに入らないのか。と薄目で見ていると「ふぅん。さよか」と納得した声が聞こえ視線を前に戻した。


「だからいっただろ。と白石が付き合うわけねーんだよ」
「え!ホンマに侑士信じたんか?」
「阿呆。嬉しそうな顔すんな。きしょいわ」
「せやかてあの侑士が騙されるなんて思わへんやろ!流石やな白石!」
「……全く嬉しくないわ。それに謙也、ちゃんと反省しとるのか?」
「お、おん。しとるで………」
「…はぁ。俺かてちゃんに会う口実ができた思て来ただけや………(まあ、相手が相手やからついでに牽制も兼ねて顔見に来たのもあるが、)謙也も性質の悪いネタ送ってきたもんやで」
「俺もまさかそこまで侑士が信じるとは思っとらんかったわ」
ちゃんは別枠や。次やったらシバくで」

どうやら謙也くんの中では忍足くんを驚かせることの方が優先だったらしい。まあ本気で驚く忍足くんなんてなかなか見れないだろうし、白石くんとちゃんと話しだしたのも今回の合宿からだからそういう素振りも互いにないと踏んでのことだろうけど。

でもこれがもし謙也くんと皆瀬さんだったらどうするつもりだったのだろうか?と、考えたらちょっとムカついてきてた。



「堪忍なちゃん。謙也のことは後でシバいとくさかい許したってや」
「結局今シバくんかい!」
「うん。よろしく」
「ほらな、さんは優しいからそないなこといわな……え?!」
「謙也ぁ。後で校舎の裏来いや」
「ええええっ!」

なんとなくムカついていたせいもあり安易に忍足くんの言葉に乗ると謙也くんがかなり動揺しだした。どうやら私なら許してくれると思ったらしい。甘いな謙也くん。
分かりやすく指の関節を鳴らす忍足くんに笑ってしまいそうになったがビビる謙也くんは面白かったのでそのまま放置した。忍足くんってケンカ弱そうだよね。


さん、ホンマ堪忍な。謙也にはちゃんというとくわ」
「いや、白石くんが謝ることじゃないよ。元々は財前くんが画像を早く消してくれてれば問題なかったんだし」

この光景ちょっと面白いけど関西弁って怒ったり脅したりする時って異様に怖く聞こえるよね。と変な感心していると白石くんも謝ってきては手を振って私は大丈夫!と返した。白石くんだって被害者なのに。

私は画像消してくれればそれでいいし、と財前くんの方を見れば彼は肩を竦め「わかってますわ」と携帯を取り出し画像を消してくれた。
「これでええですか?」と『消去しました』という文字を見せてくれた財前くんだったが携帯を見た後おもむろに丸井に視線を向けた。


「あの勝負って謙也さん達はまだ続行しとります?」
「は?あ、ああ。じゃねーか?」
「丸井…勝負って」
「いや、別に大したことねーって!な!財前!!」

やっぱりかよ、と丸井を睨めば奴は慌てたように財前と肩を組み、仲直りアピールをしてきた。コイツは…と呆れ交じりに見ていたが財前くんは特に嫌がることもなく「…ま、男同士の話なんでさんは気にせんといてください」と特に感情を込めずに返した。



「俺はこの通り再戦もできひんので」
「お、おう」
「明日から俺だけ特別メニューらしいんでさんよろしくお願いしますわ」

というか、いいだしっぺは自分なんやからちゃんと面倒みてくださいよ、と半分脅すようにを見てきたので苦笑いを浮かべるしかない。
しかしそこで驚きというか声を荒げたのは丸井で、飄々と「明日柳さんからメニュー貰う予定なんで頼みますわ」とにお願いする財前くんを苦々しい顔で見ていた。


「…お前、いい性格してんな…」
「別に、事実しかいうとりませんよ」

右手の練習を最初に振ったのはさんですから、と矛先をに向けてきた財前くんには「え、」と丸井を見るとじと目で睨まれた。


「何だお前ら、おもしれー話してんな」
「大したことねぇよぃ」
「そうっスね。大した話じゃないです」

不穏な空気というか勝負の中身を察したらしい跡部さんはニヤついた顔でに肩を回すと俺も混ぜろ、とガラ悪く話に割って入ってきた。もしかして跡部さんって結構賭け事好きなのだろうか?それとも勝負内容が面白うそうと思ったのかな?

には全く勝負内容が見えてないので首を傾げるしかなかったが、肩に置かれた手と密着した部分に呼吸が止まりそうで思考は殆ど機能せず止まっていた。


「……お前にいわれるとなんか……いや、なんでもねぇ」

丸井は丸井で財前くんをなんともいえない顔で見ているが、いおうとした言葉は『なんかムカつく』だろうか。やっぱり仲直りできていないようだ。



そして丸井は視線を跡部さんに戻すと「それに勝負も有耶無耶になるだろうしな」と付け加えてくる。さっきは続いてるっていってたと思うけど。それは跡部さんも気づいてるようで「ふぅん」と含みのある声で返していた。もしかして跡部さんと対戦したくないってことだろうか。

背中の方で弦一郎が跡部さんに怒っているのだが彼は特に気にした素振りもなく、の名を呼ぶので意を決した気持ちで彼を見上げた。至近距離で目が合えば本日の残量ライフが半分くらい吸い取られた気がする。


「まあ、もう始まっちまってる勝負に無理して乱入しようとは思わねぇが」


じっと何もかも見透かすように見つめてくる跡部さんに何のチキンレースだろうか、と思いながらも必死な気持ちで見返した。そうじゃないと逃げ出しかねないのだ。
顔の温度と心拍数が上がっていくのを恥ずかしいような、ハラハラとした気持ちで見上げていると彼の目が柔らかく細められたのを間近で見てしまった。死にそうだ。



「俺様が認めねぇ限り、は誰にもやるつもりはねぇよ」



そういって跡部さんはの肩に回した手を抱きしめるように引き寄せ丸井達に向かってニヤリと笑った。

やるつもりはないってどういう…?と考えたが思考が飛んで何も考えられない。宣戦布告のような跡部さんの爆弾発言と行動はあまりにも衝撃が大き過ぎて、の残り少ないライフをごっそり吸い取って心臓を木っ端微塵に砕きトドメを刺したのはいうまでもない。




跡部の塩梅を忘れました。
2018.12.08
2018.12.10