You know what?




□ 四天宝寺と一緒・13 □




財前くんが怪我をして跡部さん達が奇襲してきた次の日、達は予告通り撮影会に参加していた。なんだかんだと文句をつけていたがみんな自分の欲求に逆らえなかったらしい。

思ったよりも早い時間に集合しなきゃいけないとわかった時は病欠したい気持ちになったけど、その先手を打つかのように忍足くんが昨日の帰り間際に撮った自分とのツーショット写真と一緒に『これ消去してほしかったらちゃんと来るんやで』とハートマーク付きで送ってきやがったので行く選択しかなかった。

丁度写真を撮られた時は跡部さんに根こそぎライフを抜かれて死人状態だったから忍足くんと自分の表情の温度差が半端ない。こんな不細工顔の私の横で何でそんな嬉しそう笑ってんの忍足くん、とドン引きしたのもいうまでもない。
造形いい奴の隣にいるだけでも落差半端ないのにこの顔面パンチ力…と、起き抜けにそんなメールを見たものだからやる気と顔がデッドラインを超えたのもいうまでもない。


気持ちは布団の中に置いてきたままゾンビのように何も考えず撮影会場まで来てみたのだが、が想像していた撮影会はこれぽっちもなかった。それはそうだ。ここはU-17の合宿でも使われた場所なのだから。


「むしろただのテニス合宿では…」


バスで向かうからにはそれなりに近いんだろうと思ってたけどどんどん山奥に進むし着いたら着いたでやたらと設備とコート面積が広い合宿所に辿り着いていた。しかもばっちり電波が入るという。

青学との合宿先よりも山奥だね、と皆瀬さんと心配していた数分前が懐かしい。
てっきりコートっぽいところでラケットを構えて撮影隊が囲むように写真を撮ると思っていたが見かけた撮影隊は(海外の人ではあったけど)10人満たない人数で既にコートで練習している宍戸くん達をコートの外から撮影しているだけだった。



「案外、普通の撮影なんだな」
「ちょっとは安心した?」

来る途中で撮影の話を幸村ともしていたので隣に来たついでに話しかけると、視線をこちらに向けた彼が「俺には関係ないし」と返してきたのでまぁね、と肩を竦めた。けしからん!と怒ってたのは弦一郎くらいだ。

「でも、これなら普段通りのテニスができそうだ」
「…いっとくけど、モニターも宍戸くん達がメインなんだからね?」

少しは自粛しろよ、と釘を刺してみたが「さぁ、どうかな?」と神の子は笑って返してきた。神の子も俗物だったか。


荷物を下ろした達は一旦選手達と別れると合宿所のスタッフや氷帝のマネージャーさん達と合流した。そこで館内の説明やスタッフの紹介、日程の説明などひと通り話を聞きそれが終わると幸村達も入ってきて今回の撮影会の話になった。

合宿の代表説明として跡部さんが出てきたがメインはあくまで合宿練習らしい。紹介されて出てきたイギリスの先生も流暢に日本語を話しながら選手の邪魔にならないようたくさん写真を撮るつもりだ、と意気込んでいた。

跡部さんと冗談を交えたりしながら終始和やかな感じに話している2人を眺め、ふと視線をずらすと白石くんと目が合った。
なんだろ?と首を傾げたら彼はぎこちなく笑って前を向いてしまった。


それからまた選手達と別れた達は動きやすいジャージに着替え、屋内の掃除から始まり布団干しやお風呂掃除まで行う羽目になった。自分達も使うからやった方がいいのはわかるけど200人規模を収容できるこの合宿所は思った以上に広くてやっぱり帰りたい気持ちになった。

元々スタッフが定期的に掃除してるので目立つ汚れも殆どなかったけど、でも窓を開けたら残っていたホコリっぽさが消えたから掃除をやらざる得ない。風呂…もとい大浴場が広すぎてドアを開けた時は「なんじゃこりゃ!」と叫ばずにはいられなかったが。



「飯田ちゃんや吾妻っち達は来なくて正解だったかも…」
「だね、」

汗を拭いながら皆瀬さんも同意するように笑った。遊びに来るだけならいいけどマネージャーとしては楽しむところが少なすぎる。
掃除が終われば本業のマネージャー業に戻る訳だが案の定水道しかなくて顔をしかめたのは言うまでもない。しかも山の中のせいか水もキンキンに冷えていて氷のように冷たかった。

ちゃん。それどうしたの?」

四天宝寺のドリンクをなんとか用意したはこっそり忍ばせていたデジカメを取り出し起動させると皆瀬さんが小首を傾げて聞いてきた。その問いにはなんとなしに肩を落とし「それがさ、」と話を続けた


「合宿先で撮影会があるって親に話したら昨日たまたま来てたおばあちゃんにも聞かれてて。それだけならまだ良かったんだけど今日起きたら玄関口でこれで真田の写真を撮ってこいっていわれちゃってさ。撮影は真田達じゃないって何度もいったのに……」

の家に遊びに来てる祖母は弦一郎の祖母でもあり、大の弦一郎ファンだ。孫の写真撮影があると思った祖母は嬉々として朝早くからを出待ちし、自分のデジカメを押し付けてきたのだ。

一応母親に話した時にちゃんと氷帝の撮影といったのだが祖母は撮影してもOKな練習、と勘違いしたらしい。
まあ大体の人は学生で練習と撮影が両立することは殆どないと思うので仕方ないのだが、満面の笑みで待っていた祖母を想うと撮らずに帰るわけにもいかず、幸村と柳にそれとなく話してさっさと写真を撮ってしまおうと思っていた。


「デジカメよりも携帯の方が撮りやすいしおばあちゃんも携帯持ってるのにさ。何でか写真を現像したがるんだよね」
「きっとアルバム作りたいんだよ」
「ああ…そうかも」

「へぇ。さんも撮影するのかい?」



確かにおばあちゃん弦一郎が出た新聞やら雑誌の記事ファイリングしてるわ。と妙に納得したところで後ろから声がかかり何センチか飛んだ。
危うくデジカメを落としそうになったのを防ぎつつ振り返ると私用ジャージに身を包んだ不二くんが立っていて「久しぶりだね」とにこやかに微笑んだ。どうやら不二くん達がいる青学の練習コートから見えたらしい。

「び、びっくりした…」
「そう?さっきの説明会にもいたと思うけど」
「それはそうだけど」

そっちじゃなくて今の話だよ。いきなり現れないでほしい、と心の中で呟けば「さんはいい反応してくれるからつい悪戯したくなっちゃうんだよね」と恐ろしい告白をしてくれた。私はいつか不二くんに心臓発作で殺される日がくるかもしれない。


「フフ。そこまではしないよ」
「………」

相変わらず何でもお見通しですね。怖い、と思いながらも手元のデジカメを見た不二くんは「あ、最新機種だね」とあっさりデジカメ事情を教えてくれた。手ブレ補正や連写もできたりするらしい。もしかしてうちの祖母はその最新で弦一郎を撮りたかったのだろうか。
益々撮らなくちゃいけなくなったな、と考えていると水飲み場の柱の陰からヌッと大きな巨体が出てきてビクッと肩を揺らした。


が驚く確率75%……読み通りだったな」
「……お願いだから普通に出てきてくれないかな」

乾くんよ。ノートを携え不敵に笑う眼鏡くんには呆れながら彼を見上げると「フム。不二より驚きが少なかったな。今度はもう少し趣向を変えて…」というので本気で止めろ。と思った。あんた達は私の寿命を断つつもりか。



「乾くんも久しぶりだね」
「ああ。皆瀬も元気そうで何よりだ」

ここも相変わらず片思いを続行してるようで。情報通なら皆瀬さんと柳生くんが付き合ってるって知っててもおかしくないのに。

皆瀬さんを見る乾くんの雰囲気(目が逆光で見えないから)を伺う限りこのほんわかした空気は謙也くんのそれと同じ感じがして苦い顔をすれば、隣にいた不二くんが水飲み場に置いてあるドリンクを見て「これって四天宝寺のかい?」と聞いてきたので肯定した。


「何だ。今回もさん達が作ってくれるわけじゃないんだ…」
「いや、そっちは氷帝のマネジさん達が作ってくれるから大丈夫だよ」

何でそんな悲しそうにしてるの不二くん。これ以上働けとでもいうのか。

「仕方ない不二。四天宝寺は今回立海との合宿中に呼ばれたからな。あちらもマネージャーがいないとなればこうなるだろう」
「もしかして四天宝寺もマネージャーをとるつもりなの?」
「そういうのはないんじゃない?」

元四天宝寺の立海OB毛利さんの提案で合宿を組まれたらしいから多分そういうのじゃないと思うよ、という皆瀬さんの話に不二くんと乾くんは顔を見合わせ「やはりそうか」と乾くんが何やら物知り顔で頷いた。


「俺達と同じように四天宝寺も進学先がバラけているからな」
「あまり本音をいわない人だったけど後輩達が少し心配になったのかもね」

四天宝寺の部員、卒業してかなり減ったみたいだしね。と肩を竦める不二くんに今更ながらもハッとした。そっか。白石くん達も全員同じ高校に行くとは限らないんだ。そんな当たり前のことをうっかり忘れていたは楽しくテニスをしている彼らを思いだして少し寂しい気持ちになった。



「写真のことなら僕に聞いてね」と別れ間際に不二くんに言われた言葉を一応飲み込みながら白石くん達がいるコートに向かうと1人足りないことに気がついた。いや、千歳千里もいないけど…ああ、観客席で寝てるのね。

「財前なら別メニューもろたいうて別のコートに行ったで」
「ここ以外にもコートあるの?」

氷帝の件があるしテニス用の合宿所というからにはメイン以外のコートもあるとは思ってたけど本当にあるとやっぱり驚いてしまう。え、16面もコートあるの?テニスコートってそれなりに敷地使うと思うんだけど…広すぎない?


白熱した試合をしていたらしい謙也くんは流した汗を拭きながら、やや途方に暮れるに「俺が付き添おうか?」と申し出てくれた。

「それは嬉しいけど試合はもういいの?」
「んーまあ、今日のところはな」
「なんじゃ。もう仕舞いか?」
「うっさいわ。小休憩や!戻ってきたら再戦したるわ!」
「ほう。それは楽しみじゃの」

なんとなくまだ動き足りない、と思ってそうな雰囲気の彼に聞いてみたらその対戦相手である仁王が挑発してきて謙也くんは安易に乗っていた。多分謙也くんと仁王ってプレイスタイル的に相性は良くないんじゃないだろうか。

こっそり点数を聞けば案の定謙也くんの方が劣勢で今のやり取りを見る限り謙也くんは仁王の掌の上で踊らされているのだろう。謙也くん赤也っぽいところあるしな、とここにはいない煩い後輩を思い出しているとこちらを見てくる仁王と目が合いドキリとした。



さん」
「え、あ!樺地くん!どうし」
「どうしたじゃないですよ。自分が呼ばれた理由もう忘れたんですか」
「日吉くんもいたのね…」

うっかり視界に入らなかったからってそこまで怒るなよ日吉。仁王と目が合ったと思ったが呼ばれて振り返れば樺地くんと日吉が立っていて、こっちにいち早く気づいて見てきただけかもな、と思った。


どうやらジローくんの撮影が始まるらしく、2人が迎えに来てくれたらしい。
財前くんのところに行くのは起こした後かな、と彼のドリンクを抱えながら日吉達の後を追いかける。

財前くんタイプは練習に集中し過ぎて脱水症状起こしたりしないよね?ああでも思ったよりは負けず嫌いなんだっけ。ううむ、すぐ向かえばいいかなぁ?と考えながら振り返れば、また仁王と目が合い目を瞬かせた。
何故?と少し緊張した面持ちで伺っていると彼の方が先に視線を逸らし、何やら真剣な表情で内緒話をしている丸井達の輪の中に入っていった。一体何を話しているのだろう?


その悶々とした気持ちは氷帝がいるコートについても引き摺るように考えていた。なんせ立海・四天宝寺がいるコートを出る間際、白石くんや謙也くん一氏くんという例のゲーム仲間で話していたのだ。もしかして勝負の話をしているのだろうか?

「わぶ!」
「ぼんやりしていると怪我しますよ」

知らないところならまだしもこうも見えるところで内緒話をされると気になってしょうがない。そんな気持ちで考えていたら何かにぶつかりたたらを踏んだ。
前を見ればこれまた冷たい視線を送ってくる日吉が階段の前で止まっている。ああ、階段から落ちないように教えてくれたんだ。相変わらずわかりにくい優しさだな、と思いつつも礼をいえば「フン、」と鼻を鳴らして向こうのベンチへと行ってしまった。



「日吉も素直やないなぁ」
「あ、忍足くん画像消してくれた?」
「…ちゃんももっと会話を楽しむ交流をしてくれてもええんやで…?」

すぐ近くのベンチに座る忍足くんは達のやり取りを見て「俺寂しいわ」と嘆いたがあの画像消してくれなきゃ小春さんに忍足くんのアドレス流すよ、と脅したら音速の速さで画像を消去してくれた。そんなに嫌なのか。

ちゃん。恐ろしいこといわんといてや…俺の寿命縮まってまうやん…」
「寝起きに自分の不細工な顔を見なきゃいけない私の身にもなってほしいですよ」

しかも隣には妙に嬉しそうな顔面偏差値かなり高めの忍足くんがいたのだ。この落差の苦しみわかるだろうか?「え?そないなことないで?あのちゃんかわええやん。ええ顔しとったで」…わからないか。眼科行こう忍足くん。両目2.0なんて嘘でしょ。


「画像消したから新しいツーショット写真撮らへん?」という忍足くんの誘いを意図的に無視し、幸せそうに寝ているジローくんをあっさり起こして対戦相手である丸井の元へ送り出してあげた。

いつの間にか来ていた丸井は少し不機嫌そうにこっちを見ていたが楽しげに話しかけるジローくんには普段通りの顔で接していた。やっぱり何話してたか気になるなぁ。

「ていうか、丸井がいるなら私いらないんじゃない?」
「そんなことありませんよ。先輩が来てくれて日吉もやる気になりましたし!」
「?そうなの?」


丸井くんとテニスー!と元気にラケットを振るジローくんは一心不乱に丸井だけを追いかけていき、こっちには目もくれなかった。いやまあ、いいんだけど何かちょっと丸井に負けた気がして悔しい。そんな感想を吐露すれば、近くにいた鳳くんが拾ってくれにっこり微笑んだ。

日吉が?と後ろの方に座っている日吉を見ると彼は驚いたように鳳くんを凝視していたがが見ているとわかると途端にこっちを睨み「俺はモニター目当てでここにいるだけですよ!」とアンタになんか興味ないです、と吐き捨てるようにそっぽを向いてしまった。やっぱり写真撮られるの嫌だったのか。



機嫌が悪い日吉をそっとしておこうと視線を前に戻せばジローくんがわんこの様に元気に走り回っている。カメラマンも楽しそうに撮ってるな。
「日吉!先輩にそんな言い方はよくないよ!先輩といつも会えるわけじゃないんだから!」と横から微妙に油を注ぐ会話が聞こえる気もしなくないが私は参加しない方がいいやつだろう。振り返るだけで日吉が下剋上してくるやつだ。

ジローくんは大丈夫そうだしそろそろ財前くんの元へ行かなければ、と階段に足をかけると忍足くんが「せや。ちゃん」と引き留めるように声をかけてきた。


「謙也の奴、皆瀬さんに迷惑かけとらん?」
「んーまだ大丈夫だと思う」
「??どういうことだよ」

2人にしかわからないような会話に間に座っていた岳人くんが眉を寄せると忍足くんは「謙也が皆瀬さんに一目惚れしとんねん」とあっさり答えた。

「え、マジかよ」
「忍足くんいいの?そんなあっさりバラして…」
「ええよ。どうせ自分かてろくに理解してないまま皆瀬さんにアタックしとるんやろから…」
「そうなんだ…」
ちゃんも謙也に教えとらんのやろ?2人のこと」
「…う、うん。昨日今日話すようになった謙也くんにいうのは流石にどうかと思ってね…」
「もしかして皆瀬って彼氏いんの?」
「…うん、まぁね…」

しかも謙也くんのすぐ近くに彼氏がいます。表情は紳士のまま保っているけどいつまで持つのだろうか。気づくと謙也くん皆瀬さんと話してるんだよな。それが悪いことではないんだけど、と考えたところで膝を抱えてしゃがみこんだ忍足くんにと岳人くんは驚き彼を見やった。


ちゃん…なんでや。何で知り合ったばっかの謙也を名前呼びで俺は苗字呼びなんや…」
「あ、あー…」

指でのの字を書きそうなくらい落ち込む忍足くんにはしまったな、と思いながら岳人くんを見やると彼も肩を竦めてパートナーの背中を叩いた。



「名前呼びくらいでへこむんじゃねーよ!どっちも忍足なんだからしょうがねぇだろ?」
「せやったら俺の方が名前呼びちゃうん?」
「それは慣れというかなんというか」

内心なんとなく忍足くんは名前で呼びたくない、という固い決意があるとはいえない。

「謙也くんの方がいいやすいから、かな?」
ちゃんの浮気者!」

わぁ!と両手で顔を覆い泣くフリをする忍足くんにと岳人くんは同時に溜息を吐きながら「諦めろ。それがお前の宿命だ」と壮大でよくわからないことをいう岳人くんと一緒に忍足くんの背中を叩いたのだった。




フリではなくマジ泣き。
2018.12.15
2018.12.28 加筆修正