You know what?




□ 四天宝寺と一緒・14 □




落ち込む忍足くんのお守りを半ば押し付けるように岳人くんにお願いしたは、財前くんの元へ向かった。
メインコートの外に出れば他のコートもすぐに見つかるだろう、と思ったのだが立て看板の案内図を見て絶望した。16面コート以外にもあるのかよ…!
思ったよりも多いコート数に打ちひしがれているところで白石くんに声をかけられ振り返った。どうやら謙也くんの代わりに白石くんが付き添ってくれるらしい。

「ありがとう白石くん。この地図見てちょっと探すの止めようかと思ってた」
さん諦めるの早過ぎやで…まあ、コートが多くて面倒なのは確かやけどな」

大体の目星はついとるから1人で探すよりは楽に辿り着けると思うで。と笑う白石くんは神様のようだ。イケメンで神様のような優しさ!素晴らしいね。天は二物与えちゃったよ。ありがたやありがたや、と心の中で拝みながらは並ぶように白石くんの後を追いかけた。


「謙也くんは?」
「謙也はまた試合を始めてもうてな…」
「そうなんだ。でも大丈夫なのかな?」

休憩に入った時結構汗を流してた気がする。もう少しインターバル置いた方が体力回復するのでは?と思ったがテンションが高い内に決着をつけたいとのことだった。

「ちゅーか、さんていつの間に謙也のこと名前呼びになったん?」
「さっき。忍足くんと話しててごっちゃになりそうだから変えたんだけど……忍足くんが何で俺じゃないんだ、てへこんでた」
「あーなんとなく想像つくわ。忍足くんさんのこと"ちゃん"呼んどるもんな」


自分は名前呼びなのに相手は苗字なの気にする人は気にするで、と笑う白石くんには少し悩んだ。忍足くんが本当に傷ついていたらどうしよう、と思ったのだ。

苗字呼びよりも名前の方が親しみがあるように思うのはわかってるけど、「忍足くんのこと名前呼びしたら彼のファンにシメられそうでさ」と遠い目をすれば、白石くんも理解したような、むしろ共感したような顔になりそれなら仕方ないか、と苦笑でお許しをいただいた。



「…そういう白石くんもモテそう、ていうかモテる人だよね」
「えっそないなことないで?」

いやいやいや。そんな驚いた顔しなくてもわかるよ。だからさっき『俺もわかるわ〜』みたいな顔したんでしょ?そんな顔見せなくてもわかりきってたけどね!むしろ自覚薄そうな白石くんにビックリだよ。

「せやかてなぁ。跡部くんや幸村くんら見とると俺なんて大したことないように思えてなぁ…」
「その辺は人外レベルだから比べちゃダメだよ…」

辛うじて幸村はまだ人だけど跡部さんは理解不能レベルだから。芸能人だってアイドル最高位の人達と同等かそれ以上にバレンタインチョコ貰った人だから。
比べるにしても人間レベルじゃないと、と首を横に振ると白石くんが「えええ?人外て…さん結構厳しいな」と苦笑していた。


「ハッ!でもこのことは本人達には内緒ね。特に幸村にバレたら確実に私ヤバい…」

というか私の明日がなくなる。と顔色をなくして本気で怖がるとそこまでじゃないだろ、と白石くんが笑ったが幸村は笑顔で殺しにかかってくる奴なんですよ。あの笑顔で喜ぶのは奴の魔法にかかった女子だけです。

そう、言い返したかったが止めておいた。人間知らないままの方が幸せなこともある。あとこれ以上話して自分の寿命を縮めたくないと思った。命大事にだ。

「白石くん。高校に入っても幸村と友達でいてあげてね」
「お、おん…」

男同士ですら神の子は変なカリスマで他人を威圧するからな。白石くんにまでその効果を発揮するかはわからないけど赤也みたいにはならないようにね。と神様のように優しい白石くんの肩をポンと撫でた。



「そうだ。話変わるけど白石くん達って高校みんなバラバラなの?」

白石くんと道なりに歩きながら不二くん達に聞いたことをそのまま聞いてみると、高校が一緒なのは謙也くんと一氏くん、小石川くんらしい。テニスの強豪校に無事入れたそうだ。石田くんと小春さんもテニスが強い学校らしいが別々の道に進んだようだ。そこまで聞いてえ?と声を上げた。

「小春くんと一氏くん同じ学校じゃないの?!」

ラブルスどうなるの?!と驚けば白石くんは苦笑して「ユウジもめいっぱい勉強したんやけど落ちてもうてな…」と愕然と落ち込む一氏くんがありありと浮かんだ。
とりあえず学校外でネタ合わせをする方向でコンビを続けていくらしいが小春さん曰く学校で見つけられるなら近場で相方を見つけた方がいい、ともいっているらしい。シビアだ。


「そっか。寂しいね」
「……そやな」
「白石くんは?みんなと別なの?」

みんなそれぞれに将来があるのだからいつまも一緒にいれるということはないのだと分かってはいるものの、それでも別れというのは寂しく思えてならない。

そんな気持ちを呟きながら白石くんに聞くと「おん。別の高校やで。けど何でか千歳も一緒になってもうてな…」と重くならないように淡々と返してくれた。


「俺らが行く高校のテニス部そこまで強いわけやないんやけど…」
「なんでまたそんなことに」
「俺も聞いてみたんやけど、最初からそこ受けるつもりやったいうててな。千歳の奴、謙也達が行く高校から推薦もろうてるはずなのになぁ」
「そうなんだ…」
「高校は中学みたいに何かの拍子で全国に行けるわけでもないのに何考えてるんやろか…」

やっぱり千歳千里は訳が分からない奴だな、と考えていたが妙にこだわる白石くんの言葉には首を傾げた。高校に入ってみなくてはわからないけどいつどこに逸材みたいのが埋まっているかはわからない。
勿論強豪校の方が強さを求めるならうってつけかもしれないけど全国に行けないからダメだなんてことあるんだろうか。というか。



「千里くんって全国制覇したいって思ってる人なの?」

勿論強い、というか自分が興味ある人としかテニスしたくないっていうのは透けて見えてるけどそれは全国とイコールではない気がする。不思議そうにこちらを見る白石くんにも悩むような仕草をしながら「なんとなく、だけどさ」と口を開いた。

「千里くん、白石くんとテニスしたくて高校同じにしたんじゃないかな」
「え、」

ラブルスでもないのに男が男を追いかけるというのはあまり嬉しくないのかもしれないが、実は偏差値が謙也くん達の高校よりも高い場所を受けたという千歳千里のことを考えるとそう考えた方が自然に思えた。どう考えても成績良くないだろ千歳千里。
仁王並に良かったらフルネーム呼びに戻してやる。と思いながら白石くんを伺えば「えええー…」と眉を寄せていた。嬉しくはないらしい。


「というか、推薦ていうなら白石くんも来てたでしょ?」
謙也くんと同じ高校から、と彼を見やると眉を寄せていた顔を驚きに変えて「何で知ってるん?!」と本気で驚いていた。

「いや、千里くんに来るなら白石くんだって確実に来てるじゃん」
「そ、そないなことは」
「だって白石くんて強いでしょ」
「え、」
「だってうちらに勝ったあの不二くんに勝ったんだよ?推薦来るに決まってるじゃん」

驚き白石くんを見やれば彼も目を丸くしてを凝視し、それから頬を染め、「…次は不二くんに勝てるかはわからんけどな」と眉尻を下げてぎこちなく笑った。


「そりゃそうかもだけど、でもわかんなくない?…不二くんって強いだろうけど、でも負け知らずだった幸村が負けたんだよ?幸村に勝ったリョーマくんだってきっと敵わない相手がいると思う。そんな中で、しかも公式戦で勝ったんだよ?それってとても凄いことだと思うよ」

あの試合、真田も感服した!って言ってたし、と教えてあげれば白石くんは「参ったな…」と頬を染めた顔で困ったように頭を掻いた。



「今更推薦受けなかったこと後悔してきたわ」
「はは。確かに今更だ」

行きたい高校でなければ推薦が来たところで、と思っていたが白石くんはそれなりに後悔しているらしい。けれど彼を見ていたら顔が赤いまま笑顔を引っ込め思い耽るように視線を落とした。

「……さん、俺な。中学はテニスにつきっきりやったから、高校はもう少し別のこともしよう思っててん。推薦は確かに来とったけど、でもそれを受けてもうたらまたテニス漬けになって何も出来なくなる思って断ってん……それがまさか千歳を巻き込んどるとはな……あ、いや、なんとなくでもええんよ…合宿の頃は推薦蹴った後やったしな…」

何や。よう考えたら俺、無駄な空回りしとるな、と力なく笑う白石くんに、はもしかしてつついてはいけないことをつついてしまったのでは?と今更気づき汗が噴き出た。


白石くん達四天宝寺も優勝できなかった学校だ。幸村達だってまだあの夏を引き摺ってる奴がいるかもしれない。
合宿はU-17だとしてそれはほぼ冬休みだし、仮に合宿中に心変わりしても推薦された高校では一般入試しか受けられないだろう。もしかしたら一般で白石くんが受験していたかもしれない。

口にはしなかったけどジャッカルが他校を選びそうになったというのも、もしかしたら負けた反動なのでは?そこまで考えては焦った。ヤバい。私白石くんの地雷踏んだ。


「あ、あの、白石くん」
「……でもそやな。今更後悔してもしゃーないし。それなら今あるところで頑張るしかないな」
「え、あ、うん」
「千歳もいることやし、真面目に練習すればええとこまでいけるかもしれんしな」
「うん、」

なんとなく空元気で笑ってるようにも見えなくないが、「自分で自分のハードルあげてしもたわ」、と苦笑する白石くんには考えていることに蓋をして笑顔で頷いた。
悔しくないわけがない。辛くないわけがないんだ。あの場所で、それなりにちゃんと見ていたはずなのに、わかってたはずなのに。ごめん白石くん。そう心の中で謝った。



「幸村くん達は全員残るんやろ?」
「うん。みんな繰り上がりだから、ね…」
さん?」

強敵だよ、と務めて普通に返そうとしたらふと、白石くんの後ろが視界に入った。何で見ようとしたのかわからない。ただ、いつも目立つからどうしても目に入ってしまうから、気になる相手だったから、かもしれない。


メインコートの周りには小分けにされたコートがいくつもある。その合間に倉庫兼給水所もあるのだがそのひとつの前を通りかかろうとした時だった。一軒家ほどの大きさの給水所は他のコートに行く為の中継地にあり達からも良く見えた。

そこには見覚えのある男女が向き合い見つめ合う姿があった。片方は壁に手を置き、もう片方は追い込まれたように壁に背をつける様はあたかも少女漫画にあるような恋愛のそれに見えて息を飲む。
そんなの表情の変化に白石くんも振り返り同じ方を向く。と同時に泣きボクロの彼とその彼女が振り向いた。


「なんだ。お前達か」
「こ、こないなとこで何しとるん……?」

2人同時に睨まれ達はビクッと肩を揺らしたが白石くんが「ケンカでもしたん?」と気遣うように気軽に聞くと否定で返された。そこで瞬時に自分は立ち入らない方がいい、と察知したはそのまま立ち去ろうとしたが、何故か彼女に呼び止められてしまった。

さん。忙しいところ申し訳ないのだけど跡部に協力してもらえないかしら」
「え?」
「おい渡瀬、」
「煩いわね。変更したいといったのはあなたでしょう?」

私がダメなら他の人にやってもらうしかないじゃない。いかにも機嫌の悪い跡部さんにこれまた機嫌の悪い氷帝マネージャーの渡瀬さんが睨み合うように話している。た、確かにこれは異様かもしれない。



白石くんがケンカをしたのか?と聞いたようにも聞きそうになったがとても聞ける雰囲気に見えなくて口を噤んだ。

「あの、何をすれば…?」

ピリピリとした空気にあてられて財前くんのことをうっかり忘れたは用件を聞くと渡瀬さんに手を引かれ、さっき彼女がしていたように給水所の壁に押し付けられた。
それからハンディのビデオカメラを手渡され、「跡部が合図したらこの録画ボタンを押してもらえる?」と指示を受け、一応頷いたものの頭の中は混乱したままだ。一体何をするのだろう??


「カメラの位置はここね。ここから動かさないでOKというまで録画してほしいの」
「は、はい…」
「渡瀬。を勝手に巻き込むんじゃねーよ」
「先に巻き込んだのは跡部でしょう?まさか、さん相手じゃ恥ずかしくて出来ないなんていうんじゃないでしょうね?」
「ハッ!俺様を誰だと思ってる?」

売り言葉に買い言葉で話をどんどん進めていく2人にはどうしたらいいかわからなくて、唯一同じ気持ちにであろう白石くんを見やるとこちらも困惑した顔でを見ていた。
もしかして断った方が良かったのかな?と考えたところでの顎に指をかけられ視界から白石くんが消えた。


。どこ見てんだよ。お前が見ていいのは俺だけだ」

ぐいっと顎を持ち上げられ視線を絡ませた相手にの心臓はバクンと跳ね上がる。跳ねたけど、でもこれはいい方というより悪い方だ。
白石くんの代わりに視界に入ったのは不機嫌な顔の跡部さんで、じろりとを見下ろしている。その視線の強さに身を強張らせた。機嫌の悪い跡部さんに見られるのめちゃくちゃ怖い。

「跡部。さんが怯えてるわよ」
「ああ?!んなわけ…」



渡瀬さん、もしかしてこの跡部さんと見つめあってたの??まるで修羅場みたいだ、とドン引きしていたら渡瀬さんの言葉に跡部さんが声を荒げたのでそれでも肩が揺れた。
いや、このくらいならいつものことのような気がすると後から思ったが今はただ、目の前の跡部さんがいつもよりも怖く感じられて身を固くするしかなかった。

その跡部さんはというと、渡瀬さんに指摘されもう1度を見て驚いたように目を見開いた。
その間もは跡部さんを伺いながら指示が出るのを待っていたが、彼はを見たままぎゅっと眉を寄せると荒っぽく髪をかき混ぜ「これは後だ。……少し、頭を冷やしてくる」といってどこかへ行ってしまった。


「……えと、あの……」
「まったく。逃げるなんて情けない男ね」
「…………??」

だらしない、と呆れたように言葉を吐いた渡瀬さんは短く息を吐きだすとの元にやってきて「怖かったでしょ?ごめんなさいね」といってビデオカメラを受け取った。

どうやらの仕事は終わったらしい。やっと息をすれば「またお願いすると思うけどよろしくね」と肩を叩かれた。え?また?

「…大変そうですね」
「そうなのよ。他に撮らなきゃいけない撮影もあるっていうのに跡部が急に写真の変更をいってきてね…この忙しい時に何考えてるのかしら」
「た、大変ですね」


なんだか予想以上に渡瀬さんがブチキレてらっしゃる。最初会った時は物凄い美人だ、と引け目を通り越して平伏したが今は木の陰から見ていたい程距離を取りたい。睨まれたら生きていけない気がする。
近くでほぼ石化している白石くんを尻目にとりあえずどんな写真を撮るつもりなのかだけ聞いてみた。藪蛇なのはわかってる。でも渡瀬さんも話したそうにしてる気がしたから勇気を出して聞いてみると彼女は心底うんざりした顔で「壁ドンよ」と頭を押さえた。

「壁、ドン…ですか」

それはまた女子の夢?のようなシチュエーションですね。



「そのネーミングもどうかと思うけど…いえ、それはいいとして。彼がどこかで流行ったと聞いたらしくてね……まあ、恐らく向日か忍足辺りでしょうけど…面白がって変更してきたまでは理解できたけれど、練習台にされるこっちの身にもなってほしいわ。……何度あの顔を引っ叩いてやりたい気持ちになったことか…」

跡部さんが庶民の食べ物や流行に興味を持って試そう!という流れは大体察したがその裏で渡瀬さんがこんな苦々しい顔で怨念を抱いているとは知らなかった。というか知りたくなかった。

「興味のない男子に迫られるなんて鳥肌どころか虫唾が走ったわよ」とか恐らく世の中的に見てもかなりの美人の渡瀬さんにそんなこといわれたら普通の男子は息を引き取ってしまうだろう。声が本気過ぎる。
あな恐ろしや、と恐々と聞いていれば、苦々しい表情を一旦戻した渡瀬さんがの両肩を掴み真剣な眼差しで見つめてきた。


さん」
「は、はい」
「迷惑なのは承知でお願いするわ。あのバ……いえ、跡部に付き合ってあげて。なんならあのどうしようもないシチュエーションも潰してくれていいから!」
「は、はいっ……え?」

今、跡部さんのことバカっていいました?
しかも壁ドンをどうしようもないって?
しかも潰してって?

そんなにも嫌だったのか。いや、その気迫は伝わっていたけど。
でも、一応跡部さんってバレンタインチョコ4桁の人、ですよね…??


跡部さんに何かされたのだろうか?とか、流石に嫌い過ぎないか?とか思ったがそれが掻き消えるくらい渡瀬さんの目は本気で怖かった。そしてその渡瀬さんの気迫に呑まれたは振り子のように頷くことで事無きを得たのだった。




高校分散は模造です。あしからず。
2018.12.22
2018.12.28 加筆修正