□ 四天宝寺と一緒・16 □
「なんや。自分ら仲ええなぁ」
嫉妬するわ。といつの間にか近くに移動してきた忍足くんが羨ましそうに膝の上に頬杖をつきながらこっちを見ている。その言葉には眉を寄せて伊達眼鏡くんを見たが通じなかった。チッ。
「俺もちゃんとそないな風にいちゃつきたいわ」
「いっいちゃついてなんかないんですけど、」
「くれへん?」
「断る」
「……」
「フフフ。さんがまた面白い顔してるね」
またろくでもないことをいう忍足くんにが反応したが幸村まで乗ってきてしまい閉口した。そしてその顔をまた笑われ更にの顔が固くなる。不二くん、君もか。
美人達よ、もう少し一般層の顔にも優しくしようよ!とムスッとすれば試合を終えたらしい金太郎くんが嬉しそうにこちらに駆け上がってきた。しかし手にはラケットではなく彼の携帯が握られている。
「!!ワイと写真撮ろうや!」
試合後とあってテンションが高い金太郎くんはの了解もそぞろに不二くんに携帯を渡すと、と腕を組みピースサインをした。
「じゃあ、撮るよ」
いきなり手渡されたにも関わらず、すんなりシャッターをきる不二くんが凄すぎる。そして自分がまぬけ面で撮られたことに気づいたのは彼が金太郎くんに携帯を返した後だった。
「金太郎くん。それ、どうするの?」
「コシマエに送んねん!」
財前くんの件もあり、少し緊張した気持ちで聞いてみるとリョーマくんにその写真を見せつけたいらしい。何でそんなことを思いついたのかと幸村が聞けば乾くんの入れ知恵だった。
「あの兄ちゃんがと一緒の写真をコシマエに送れば89%の確率でここに来るっていうてん!」
「…いや流石にそれは」
思ったよりも高い確率にそれはどうだろう?と思ったが前の方に座っている乾くんがこちらを振り返り不敵な笑みを浮かべ眼鏡を光らせている。怖い。
「甘いな貞治。ただのツーショット写真ではあの越前はなびかないぞ。せいぜい85%だ」と何でか張り合ってきた柳に瞠目したがあっちはあっちで睨み合いを始めていた。
柳の代わりに隣に座った金太郎くんがメールを送るのを眺めていると、今度は菊丸くんや桃ちゃんがやってきて「なら俺も越前に送るぜ!」といってとのツーショットを撮りだした。何の撮影会だろうか。
「フフ。あっちの撮影会より賑やかなんじゃない?」
「いや不二くん。そんなこといいつつ何カメラ構えてるの?」
きゃっきゃとそれぞれ撮った写真を送っている3人を尻目に不二くんもに携帯のカメラを向けてきたので逃げ腰でいるとずいっと幸村がの前に現れシャッターがきられた。
「…うーん。僕はさんが撮りたかったんだけどな」
「残念だったな。その角度じゃは入らないよ」
入らないも何も思いっきり邪魔してたのは幸村だけどね。こっちはこっちで冷笑で戦ってる2人にドン引きしていると足元に誰かが来て顔をそちらに向けようとしたらぐいっと肩を引き寄せられ、ついでにフラッシュをたかれた。
「忍足くん酷い」
「ええやん。ほらついでに幸村とのツーショも撮ったるわ」
「え?」
また不細工な顔になったとチカチカする目で眉を寄せれば忍足くんはにこやかに笑って、幸村との写真を撮り「幸村にも送ったろか?」とニヤついた顔で聞いている。
聞かれた相手はむっつりとしていたので許可なく撮った忍足くんに文句でもいうのかと思いきや神の子は「ああ。送ってくれ」とその逆の承諾で返していた。
「なら僕も撮らせてもらおうかな。あ、どうせだから忍足も入りなよ」
「どうせて…まあ入るけども」
「さん。こういうのを両手に花っていうんだよ」
「花っていうには個性が強すぎると思います」
いっそどちらも食虫植物か毒草レベルの濃さですよ。携帯を構えた不二くんはを幸村と忍足くんに挟ませると「はい。笑って」と無理な注文を投げてくる。変顔でもしなきゃ精神保てないほどこの2人の間はとても心に悪いということをあの魔王様に誰か教えてあげてほしいです。
ぎこちなく口元を歪めながらもなんとか笑顔にして写真を撮ってもらったが、妙にくっつかれたというか、忍足くんから引き離そうと引っ張ってきた幸村のせいで寿命が数年くらい短くなった気がした。
忍足くんはからかってるだけだから。顔近づけてたら物理的に手で押し返してパーソナルスペースを守るから。だから幸村よ、忍足くんのついでに私まで五感奪わないで。
「…不二くんもリョーマくんに送るの?」
「いや、僕は手塚に送ろうと思ってね」
数分しか経ってないのに疲れ切った顔で不二くんを見上げると彼はにっこり微笑み別の人物の名を挙げた。そうか。手塚くんも携帯があるから時間差はあるにしても連絡しようと思えば繋がれるのだ。
そうとわかったは少しの元気を奮い起こすと前方の観客席に座っている弦一郎を呼んだ。
「何だ?」
「弦ちゃん写真撮ろう写真!」
「写真?」
何故だ?と首を傾げる弦一郎には頭の高さが合うように階段に上った状態で彼と並ぶと携帯を構え「イエーイ」とピースサイン付きで写真を撮った。
「よっし!私も手塚くんに送ろっと!」
「。その選択はよくないな。それでは折角の写真も効果が半減してしまう」
「え?」
「残念だが貞治のいう通りだ。弦一郎が映っている場合、手塚が来ない確率100%だ」
「えええええー……」
撮った写真をどうするのだ?という弦一郎に手塚くんに送るんだといったら変な顔をしたが「もしかしたら手塚くん来てくれるかも」なんていったら期待で目をキラキラとさせていた。
それが可笑しくも可愛くてもウキウキしながらメールを打っていたのだが、乾くんと柳のダブルデータマンがいきなり一刀両断してきてと弦一郎の上がったテンションは途端に萎んでがっくりと肩を落としたのだった。
******
途中、写真を撮って手塚くんやリョーマくんにメールしたり(なかなか面白い写真が撮れたので折角だから送ったのだ)、ジローくんを起こしたりもが辺りが暗くなったところで財前くんの元へ行き練習を切り上げさせた。夜間用のライトもあるが夕食の時間だ。
付き合いのいい白石くんと3人でレストランに向かうと、いい匂いが胸一杯になるまで漂ってくる。そんな美味しそうな匂いに自然と頬を緩ませると隣を歩いていた白石くんが「なんやさん食べる前から幸せそうやな」と微笑んだ。
「匂いだけで満足できるとか安上がりでええですね」
「ま、満足はしてないよ!食べるよ!」
丸井達なら「なら食べなくてもいいな!」というつっこみが入るので、慌てて返すと白石くんはクツクツ笑い財前くんは「さんて大喰らいキャラやったんですね」と変なキャラ付けをされてしまった。
いや別にそんないつも腹ペコにしてるわけじゃないよ?と言い訳しようとしたが、その前にお腹が鳴ってしまい羞恥で逃げ出したくなった。恥ずかしい。
回れ右をし、2人の前から逃亡しようとしたを捕まえた白石くんに連れられ、レストランに入ると途端に目を瞬かせた。ビュッフェ、だと…!!
「なんやさん。ビュッフェ好きなん? 」
「う、うん… 」
「そりゃ好きなもの選び放題ですからね」
固まるに白石くんはにこやかに話しかけてくれたが財前くんは「欲張り過ぎは太る元ですよ」と釘を刺してさっさとご飯コーナーに行ってしまう。ブレない子め。
トレイ持つの手伝おうか?と聞こうと思ったがその前に小石川くんが行ってくれたようだ。優しいな小石川くん。ん?あれ。ご飯じゃなくその近くにあるデザートを覗いてるな。洋風と和風があるらしい。和風はあんこと白玉…?
くそう。食べ慣れてる人達は迷いなく取り分けてるな!自分だけが出遅れた気がして悔しそうに顔を歪めながらとりあえずサラダから手を出した。決して財前くんにいわれたからじゃない。野菜は大事なんだ。
食べたいものを少しずつちまちま取り分けていると、後ろから「はまだ悩んどるんか?」と金太郎くんに声をかけられ顔が熱くなった。が悩みながら選んでいる間に金太郎くんは2回目のおかわりをしている。
そうだね。一旦席につくか、いやでもこ、これだけ…と悩むケーキに手を出したら「遅すぎっスわ。先に席取っておくんでさっさとしてくださいよ」とすれ違いざまに財前くんから声を掛けられその手を引っ込めた。
席?と聞き返そうとしたが財前くんはさっさと行ってしまい、だけがぽつんと居残ってしまった。
しまった。同じくらいに入ったはずの白石くんももう席について食べてる。とりあえずこれで席に着こう、とトレイを持って席に向かうとすぐ近くに弦一郎と幸村、柳の3強が囲むように4人席に座って食事をしていたのでは足をそちらに向けた。
「あれ。思ったより少ないんだな」
「う、うっさいな!悩みすぎただけだよ!」
「。食べ物は逃げないぞ」
ここ空いてるから座りなよ、と椅子を引いてくれた幸村に甘えて座るとてっきり山盛りで来るのかと思ったと笑う神の子にはうっと顔をしかめた。柳まで笑わないでよ。
「それは忘れて…そうじゃなくて。さっきいい忘れてたことがあったんだけど明日練習中の真田のこと写真に撮りたいんだけどいいかな?」
「ム。どういうことだ?」
「おばあちゃんに頼まれたのをさっき思い出したのよ」
携帯で撮ってた時に思い出すべきだったよ、とデジカメをポケットから出すと弦一郎は少し眉を寄せて「別に今回でなくともよくないか?」と珍しく渋った。
「お前もそれなりに忙しいだろう?」
「まぁね。でも何も撮らないで帰ったらおばあちゃんも可哀想じゃない?」
「…そうだな」
弦一郎も祖母のことが好きなので無碍にしたくないと思っているが一応合宿がメインということで迷っている、というところだろうか。流石の生真面目。どうかな?と幸村と柳を伺うと俺は構わないよと幸村が快く返してくれた。
「俺も構わない。他の邪魔にならなければ、が前提だが…しかし。動く被写体を撮るのはなかなか難しいぞ」
「そうなんだよね。でも一応手ブレ機能があるみたいだし、最悪ブレても撮ったという事実があれば…」
「それは撮れなかったと同じことにならないか?」
むしろ失敗してる方が悲しむんじゃないか?という柳達に口を尖らせると、見かねた柳がデジカメを貸すようにいってきたのでそれを預け席を立った。
「あれ、どこに行くの?」
「ん?お腹減ったし食べようと思って」
「ここで食べれば?」
「ううん。席取ってくれてるからそっちで食べるよ」
デジカメは後で貰いに行くね、といってトレイを持ったは幸村達を別れ、少し離れたテーブル席へと歩き出した。
途中またおかわりに出てきた金太郎くんとすれ違い、視線の流れで奥のテーブル席に座っていた皆瀬さんを見つけ手を振るとは目的の人物を見つけ、彼の斜め前の席に座った。
箸はやっぱり諦めたか。でも右手なのに上手に使えてるなこの子。
「…こっちで食べるんですか?」
「え?席とってくれるっていってたよね?」
4人座れるテーブル席でもう食べ始めている財前くんは少し驚いた顔でこちらを見てきたがも驚き見返した。もしかして聞き間違いだった?と固まっていると「まあ、別にええですけど」と特に追い払われることなく食べだしたので多分大丈夫なのだろう。きっと。
「あっちで食べるのかと思っとりました」
「ああ。ちょっと用事があってね…」
祖母の頼み事を話すと「携帯でええんちゃいます?」と返された。本当にね。
「でも携帯じゃ手ブレ機能なくない?」
「手ブレ機能あっても撮れん人は撮れないですよ。謙也さんなんかいつもブレブレでろくな写真ないですし」
「なんかいったか財前!」
まともな写真撮れたためしがない、と溜息を吐く財前くんに又隣のテーブルにいた謙也くんが反応しこっちに来たが何故かカラのトレイも持っていた。
「え、もしかしてもう食べ終わったの?」
「おん。飯もスピード勝負やからな!」
「さっきおかわりしてたよね? それももう食べちゃったの?」
「おん」
「謙也さん。食べるの早過ぎると女子にモテませんよ」
の記憶が確かならば達が入った後に謙也くんも来ていたはず。それなのにもう食べ終わったの?小食?と思ったが色々食べた上での完食らしい。その早過ぎる食事に驚いていると財前くんはちらりと皆瀬さんの方を見てから謙也くんを見てそうのたまった。
しかし達は財前くんがいきなりモテ術を喋りだした方が驚きで、戦慄したように固まって彼を見つめた。かなり珍しいところは白石くんと一緒に食べてる石田くんがこっちを見て開眼していることだろうか。
顔を真っ赤にして固まる健也くんにはハラハラした気持ちで伺っていると財前くんが「女子ってさっさと帰ろうとする男より待ってくれる男の方がええですよね?」とおもむろにこっちに聞いてきた。
「う…うん。まあ男女関わらずそうかな…」
待たれるよりも同じくらいに食事を終えてくれる人が理想だけど。謙也くんはちょっと早過ぎるかな、と控えめに同意すれば謙也くんが「そ、そういうもんか…」と空気が抜けるような声で応え、すごすご席に戻って行った。早めに出ることは諦めたらしい。
同じように席を立っていた金太郎くんが「謙也、見たいお笑いテレビあるいうたのに見ぃひんのか?」と聞いているがそぞろに返すだけで彼は動かず出て行く金太郎くんを見送っていた。極端だな謙也くん。
携帯はスマホ前のガラケー全盛期の感覚でお願いします。
2018.12.25