Intruder.




□ 46 □




雑誌と睨めっこしていても埓があかないので宍戸くんの好みを調査するべく忍足くんに遊びのメールをしてみた。
テスト期間も終わったということで気軽に応じてくれた彼らととりあえずボーリングをして遊んで今はファミレスでゆっくりとしていた。注文をしたメニューを見る限り甘党はジローくんと岳人くんだけだろう。他はあまり好きそうではないな、と思った。見た目からしても甘党だったらギャップが凄すぎる。

「そういえば宍戸くんっていつもサンド頼んでるね」

隣で固まってる亜子を内心微笑ましく思いながら見ていると友達が気づいたことを口にしていた。そういえば必ず2品頼む宍戸くんだったが片方はいつもサンドイッチだったように思う。量的なものかと思いきやサンドイッチが好きらしく特にチーズサンドが好きらしい。


「コンビニ行くと腹減ってるわけでもねぇのにチーズサンド取っちまうんだよなー」
「それもう依存症じゃね?大丈夫かよ」
「…岳人くん。チーズサンドで依存症ってないと思う」

ていうか、可愛いだろそれ。プッと吹き出した達に岳人くんは顔を赤くして「何だよ!」と怒ったが彼の手元にあるプリンアラモードに更に笑いがこみ上がった。可愛い嗜好だなあ。

。あの店はなんだ?」
「え?あ、お菓子屋さんですよ」


隣に座って優雅に足を組み窓の外を見ていた跡部さんの視線を追っていくと『激安!のお菓子屋さん』という看板が目に入った。駄菓子屋か?と聞いてくる跡部さんに少し驚きながらも違うと否定すれば困惑顔で眉を寄せられた。

「跡部。あそこは駄菓子屋やのぅて普通の菓子を安く売ってる店やで」
「そうか」
「跡部さんって駄菓子屋に行ったことあるんですか?」

丁寧に説明してる忍足くんに驚きながらも質問すれば肯定の言葉が返ってきて更に驚いた。跡部さんと駄菓子屋って合わないよね。



。行くぞ」
「え?」

どうやらそのお店に興味を持ったらしく、跡部さんはの腕を引っ張ると席を立った。みんなはどうするんだ?と亜子達を見ればここで待ってると返され、跡部さんも「すぐに戻る」といって背を向けてしまった。

「あ、待ち!俺も」
「お待たせしました〜」
「……」
「あー忍足くん。食べ終わったらおいでよ」

ガタン、と立ち上がったタイミングで忍足くんが注文していたものがやっと届き彼は肩を落としたのだった。ハン、と鼻で笑った跡部くんを恨めしそうに見ていた忍足くんがちょっと可哀想だった。


「忍足くん、何か欲しいのあったんですかね?」

激安のお菓子屋さんの店頭に並んでるチョコ類を眺めながら跡部さんに問えば「これが98円…っ」と驚愕していた。話は聞いていないらしい。興味津々で中に入っていく跡部さんについていきながらも安いお菓子を眺めつつ後で買おうかな、と視線を走らせてみる。


「バーベキュー味…?バーベキューは調理をする意味であって食えるもんじゃねぇぞ?」
「ああそれはバーベキューで焼いたような味が味わえるようなもので」
「なんだと?!あの肉の味がこの中に詰まってるのか?!」
「(あー…)そんな感じです。ああでも、本物とは少し違うかもしれませんが」

まさかバーベキュー味でこんなに食いつくと思ってなくてどうしよう、と誰もいないのにファミレスがある方を見たが助けは来なかった。

多分跡部さんが考えてるのはとっても美味しい高級なお肉のバーベキューだろう。
さすがにスナック菓子を見て食感までは同じだと思ってないだろうが不安はある。一応中はスナックですからね?といえばそれは知ってると返された。よかった。

「おもしれーじゃねーの。!好きなものを買ってやる!!どれがいい?」
「え?いいですよ。跡部さんが食べたいものを買えば」
「俺は味を知らねーんだ。お前がうまいというものなら食べても大丈夫なやつだろ?」
「ええええー」



そんなことをいわれるとプレッシャーだな。うーん、と見渡して美味しかったチョコを指させば「おい店員!このチョコをあるだけ寄越せ!」と声を上げた。

「ふおおおっ!ちょ!待って!!全部はいらなくないですか?!」
「アーン?俺も試し食いするんだ。多いことに越したことはねぇだろうが」
「……か、カードは使えませんからね」

跡部財力をハッと思い出したは恐る恐る現金じゃないとここは買えませんよ、といってやれば「何?!」とまた驚愕された。駄菓子を買った時に気づかなかったんだろうか。


「こういう場所は好きなものをちょっとずつたくさん買うのがいいんですよ」
「…そうか。ならこの店ごと」
「跡部さん。それは他の人が悲しむんでやめてください」

買えなくないだろうけど!跡部さんとみんなが食べれる分だけ買いましょう、となんとか説得したはカゴを持ってきてチョコを1つ入れた。12ダースなんだから試し食いにはこれだけで十分でしょ。

それから例のバーベキュー味のスナックをカゴに入れた跡部さんがキラキラとした目で他のを選別してる姿を眺めていると焼肉味というお菓子が目に入った。


そういえば立海テニス部の部室に常備してあるお菓子は甘いものとこういう味が濃いものが多かった気がする。気づいたら柳が回収してるけど(塩分過多とかなんとかいって)、たまには貢献してやるかとそれに手を伸ばした。

そしたら肩をぐいっと引っ張られ伸ばした手が空を切った。

「跡部さん?……あ、ごめんなさい」

ぶつかった相手を見れば跡部さんで近い距離に息を呑む。ゾクっとするような透き通った碧の瞳と目が合い、スノボに行った時のことを思い出してしまった。それを悟られないように視線を逸らせばすぐ横を男の人が通っていき、通路の邪魔をしていたんだとわかった。

「狭いんだから気をつけろよ」
「はい。スミマセン」

肩の置かれてる手にじわじわと熱くなってきて視線を落としたが、動く気配のない跡部さんを不審に思いチラリと視線をあげた。すると彼はまだ自分を見つめていて、彼の瞳に自分が映ったような気がして心臓がこれでもかと跳ねた。



「…そ、そろそろ戻らないと…忍足くん達待ちくたびれてるかも」
「アーン?んなの待たせときゃいいだろ」
「……そ、そうですか」
、」

肩に回った手が離されホッと息を吐いた。しかし跡部さんの手はそのままの頬に添えられ、その冷たさにビクッと肩が跳ねた。

「随分可愛い顔になってんじゃねーの。アーン?」
「か、可愛くなんかないです」

いや、跡部さんの手が冷たいんじゃない。自分の顔が熱いんだ。
頬を撫でられ、くつくつ笑う跡部さんには何か言い返してやりたかったが真っ白な頭では何も浮かばなかった。

ただ困ったように可愛くない言葉を吐いて顔を背けることしかできなかった。



*****



「アンタ、試験勉強しなくていいの?」
「だーかーら、それを聞きに来てんじゃないっスかー」

今日の休み時間も来ている赤也はの机を抱え込むようにして座っている。
そうはいうが勉強道具は一切持ってきてないじゃないか。呆れた目で見やればワカメは口を尖らせ「先輩だって勉強してねーじゃん」と返してくる。アンタが机を占領するように抱え込んでるから勉強も出来んのだよ!
ていうか揺らすな!と奴の頭を叩いた。危うく教科書類が散らばるところだったじゃないか。


「あいて!」
「赤也そのままを邪魔してろよぃ。そしたら期末試験の勉強できねーし高校も変える気になるかもしんねー」
「マジっスか?!」
「丸井はろくなこといわないよね」

ただ単に面白がってるだけだろ!と隣にいる丸井を睨めば「今度こそテストでに勝たねーと卒業できる気がしねーし」とどうでもいいことをほざいてくる。


「じゃあ卒業しなくていいから。赤也と一緒に3年もう1回やってくれば?」
「そういうお前こそ3年やればよくね?そしたら赤也も毎日しつこくこねーんじゃね?」
「俺のどこがしつこいっていうんスか!」

お互いが睨み合ってるとそれを邪魔するように赤也が割って入ってきて2人一緒に睨んだ。自覚ねーのかよ。
その光景を見てジャッカルが溜め息を吐いたが、そうなる前に助けてほしかったよ相棒。


「本当、やってられんわ」

トイレまでついてこようとした赤也を射殺さんばかりに睨んで置いてきたは教室に戻りながらまだいるんだろうな、と肩を落とした。
赤也は最初程しつこく高校について文句を言わなくなったが用もないのに入り浸ることが増えた。勿論丸井も一緒である。そうなると友達と話すどころか赤也達の相手をしなくちゃいけないから妙に疲れるのだ。

あいつらどうにかできないかな。



!ちょっといいか?」

教室に入る手前で呼び止められ振り返ればクラスメイトの男子が立っていた。彼の隣にはその友達がいて目が合い軽く会釈をした。
話の内容はI組のメンバーでカラオケにでも行かないか?というものだった。メンバーは来れる人だけで亜子達も誘うらしい。彼との友達が付き合ってるからきっと行くだろうな、と思って頷けば同じ日にH組も一緒にカラオケに行く予定らしい。

「俺とこいつが呼びかけてるから何かあったら俺達に聞いてくれな」
「う、うん?わかった」

クラスメイトならともかくH組の子に聞くことなんてあるのだろうか?そう思いながらもキラキラとした目でこっちを見てくる彼に、よろしく、と挨拶すればの前を遮るように何かが通り過ぎていった。


「赤也!」
「わわっすんませーん!!」

人が話してる途中でなんなの?!と怒れば遠くの方で振り返った赤也が謝ったがすぐに「ヒッ」と悲鳴を上げて走り去ってしまった。


「まったく。騒々しいな」
「…幸村」

お前が犯人か。
赤也が来た方から顔を覗かせたのは幸村で、I組から出てきた彼に驚けば「はい」とにこやかに微笑み本を差し出してきた。

「続きが気になるっていってただろ?」
「あ、うん!ありがとー!」


幸村に続きものをを借りているのだが今回はにとって大ヒットで1日で読んでしまったのだ。それを聞いた幸村が気を使って早めに持ってきてくれたらしい。
素直に礼をいえば幸村は「読み終わったら次貸すから」と綻ぶように微笑んだ。



「ああそうだ。って来月の休み中のどれか空いてない?」
「え?うん。特には用事ないと思うけど」
「だったら買い物付き合ってもらえないか?母さんの誕生日があるんだけどプレゼントのネタがもうなくてさ」
「うん、いいよ。じゃあ後で行く日決めようか」
「わかった。あ、予鈴だ。じゃあ俺戻るね」
「うん。本ありがと」
「…君達も教室に戻ったら?」

ずっと固まったように動けないでいたクラスメイトとその友達に声をかけた幸村はにこやかに去っていく。そんな彼らと目が合うとズシリと肩が重くなった。


「おま、何本なんか読んでるんだよぃ!本当にガリ勉になる気か?!」
「…本くらいでガリ勉になったら殆どの人がガリ勉でしょうよ」

ていうか早く教室戻ったら?と丸井を見れば彼は片眉を上げた後、「お前らは何してんの?」とクラスメイト達を見やった。

「え、いや…その」
「丸井が出口塞いでるから入れないんでしょ。邪魔邪魔」
「邪魔じゃねーよ!お前が邪魔だっての」
「はぁ?!って押すな!私の教室はここだっての!」
「お前が邪魔だから俺が出ていけねーんだよぃ!」
「避けろよ!ちょっとずれればいいだけじゃん!!」


ぐいぐいと押されて自分の教室が遠くなるにつれても押せば丸井がニヤっと笑ったように見えた。負けじと押し返してくる丸井と押し合いをしていればクラスメイトとその友達は「あ、じゃ、じゃあ」といって教室に入っていく。
気づけば廊下に残ってるのはと丸井だけで、意味もなく押し合ってるだけの構図になってしまった。


「……もう、なんなんだよ!」
「ああ?いい運動になっていいんじゃね?」
「何が運動だよ!」

2人がいなくなったところでやっと離れた丸井が簡単にの横をすり抜けた。それを見て憤慨すれば、奴は「ばーか」と笑って教室に戻っていった。




妨害。
2013.03.26