secret feeling.




□ 57 □




「マジでか!!」

お弁当を食べ終え、食後にまったりしながら話していると亜子の口からとんでもなく喜ばしいことが出てきた。


「マジで?宍戸くんとホワイトデーにデートすんの?!」
「ちっちが!ただお返しがあるから会うだけだって。そんなデートとか」
「いやいや!2人きりなんでしょ?会って渡してはいさよならってなるわけないじゃん!!」
「ええええっ」
「やったじゃん亜子!これはチャンスだよ!!」

人気ないところで襲っちゃえ!とはやし立てる友達に亜子は顔を真っ赤にすると「出来るわけないでしょ!!」と憤慨した。きっとそんなことされたら宍戸くんも逃げちゃうだろうしね。

いやしかし!これはかなり進展するのでは?とニヤニヤしていると亜子がプンスカ怒って「そういうこそ連絡来たんでしょ?!」と話を振ってきた。


「うーん。来たには来た、のかな?」
「え?お返ししなきゃなーってこの前みんなと会った時に忍足くんいってたよ」
「いくらみんな宛でもお返しはくれるんじゃないの?」

普通の野郎共ならともかく跡部くん率いる氷帝がそのイベントをすっぽかすとは思えないよ。と妙に断言してくる友達には肩を竦めて「予定は聞かれたよ」と返した。

「あけとけって岳人くんに言われたから多分そうなんだろうけど、待ち合わせとか約束はしてないんだよねー」

跡部さんはの家を知ってるのもあってまさか押しかけてこないよな?とちょっと心配してるんだけど。何を考えてるのか全く読めなくて困ってるんだよね、と零せば亜子達がニヤニヤとした顔でこっちを見てきた。



「…え?何その顔。もしかして何するか知ってるの?」
「知ってるっていうか〜聞いちゃったみたいな?」
「むしろ協力してる、みたいな?」
「えええ?」
「だってあんたテニス部ばっかで全然集まりに参加しないじゃない?ジローくんとかずーっと文句言いっ放しだったんだよ?」
「うわぁ…」

「んで、ホワイトデーに何かしてやろーっていうんで私らも協力した訳」
「…それ、いっちゃっていいの?」
「別にこのくらいなら問題ないっしょ」
「うん。ないない。むしろに他の予定入れられる方がやばいし」
「うわぁ…」

すんなり教えてくれるのはいいけど余計に不安になってきたわ。「期待しとけよ」とニヤニヤ笑う友達に顔を引きつらせれば「、」と呼ばれ振り返った。
その相手はドア口に立っていて、を手招きしている。滅多にこちらまで来ない相手だけに驚いたし、亜子達もクラスの女の子も一斉に注目した。


「どうしたの?幸村」
。公民の教科書持ってない?」
「あるけど…え?もしかして忘れたの?」
「そうなんだよ。鞄に入れてたと思ってたのにうっかりしてた」
「珍しいね」

しょんぼり溜息を吐く幸村に軽く笑ったは自分の机に戻り、公民の教科書を持ってドア口に戻った。お願いだから羨望の眼差しで見ないでほしい。背中の刺さる視線が痛い気がしては少しだけ背中を動かした。


「柳くん持ってなかったんだ」
「柳んとこは今日なくてさ。こういう時机に入れっぱなしの赤也が羨ましいと思うよ」

それは真似しちゃいけないことだけどね。うっかり自分も入れてる派です、とはいえずカラ笑いを浮かべれば教科書をチラリと見て「イタズラ書きとかしてないよな?」と意地悪そうな顔で笑ってくる。

「かいてないよ、多分」
「じゃあ俺がイタズラ書きしておこうかな」
「え、幸村でも落書きするの?!」



意外過ぎてちょっと気になるんだけど!と前のめりに見れば幸村は少し困ったように笑って「冗談だよ」と引いた。なんだよ、いつもは恥ずかしくなるくらい近づいて来るくせに迫られるのは嫌なのかよ。

…って、自分で言うと自意識過剰に聞こえるな。

「幸村、そういう時は嘘でも突き通さなくちゃ。身近に詐欺師いるんだからすぐバレちゃうよ?」

仁王とか丸井とか酷いんだから!といえば、はにかんだ笑顔の幸村が目をぱちくりさせてこっちを見てきた。


「……けど俺、仁王じゃないし」
「そりゃそうだ」

幸村が仁王の詐欺師の部分を手に入れたただの悪男である。ホストでもいいけど。
一生食うに困らない生活できるだろうよ。…今でも十分出来そうだけど、でも仁王と違って良心があるからな幸村は。黒いけど。

さっきと打って変わって表情を消した幸村におや?と顔を近づけると「仁王くんじゃないよね?」と聞いてみた。もしそうなら教科書忘れたのも頷ける。まあ忘れてもあいつはそのままにしそうだけど。


「…どう思う?」

覗き込むに幸村はいつもの顔で微笑んで見やすいように屈んでくる。後ろの幸村ファンが悲鳴を上げる声が聞こえた。あ、ヤバいかも。と今になって気づく。

「どう?わかった?」とどんどん顔を近づけてくる幸村には腰を屈めて回避しようとしたが、神の子は笑顔のまま追撃してきた。ここで止まって幸村待ってたらキスすんじゃないの?とタラリと冷や汗を流すと視界の端でうねうねしたワカメが見えた。


「ハッ!赤也!どうしたの?!」
「え?!先輩!!…ゆ、幸村部長?!何やってんスか?!」

腕組をしたまま何か考え込んだ顔で目の前を通り過ぎようとしていたワカメこと赤也に声をかければ驚いた顔でこっちに駆け寄ってきた。出会い頭に「丸井先輩知らねーっスか?」と聞いてくるのはいいけどこの体勢につっこみはないのね。



「見てないけど、どうかしたの?」
「あ、いやその…何でもねーっス」
「……赤也。なんの辞書ないの?」

チラチラと幸村を見ながら溜め息を吐いてる赤也に何気なく聞けば目を見開きこっちを見てきた。「何でわかるんスか?!」と口にしたワカメに小さく笑うと「ホレホレ、休み時間あとちょっとなんだから早く言いなさい」と促した。


「ジャッカルは見つからなかったの?」
「見つけたんスけど丸井先輩に貸したまんまだっていってて」
「柳生くんは?」
「真田副部長がいるのに行くわけないじゃないっスか!」

皆瀬先輩も以下同文っス!と豪語するワカメに、まあそうだよね。と納得した。仁王は持ってても絶対貸さないだろうしな。
赤也に同意しながら辞書を渡すとニヤリと奴が笑ったので「落書きしないでよ」とクギを刺しておいた。


「何スか!俺何もいってないっスよ?!」
「その顔に書いてある」
「別に変な絵なんて描きませんよ!!」
「…それは私にいってんのかな?」

慌てる赤也にはにっこり微笑むと奴は捕まらないように後ろに逃げた。最近ちゃんと逃げることを覚えたので面白くないぞ後輩くん。


「つか何で俺が辞書忘れたってわかったんスか?」
「なんとなくだよ、なんとなく。アンタ表情にモロ出るしね。それにこの辺うろつくのなんて忘れ物か文句言いにしか来てないでしょ?」
「べ、別にそれだけじゃねーっスよ!!」

「どうかねぇ」と笑えばちゃんとした理由くらいあります!と怒られた。ついでに鳴った予鈴に赤也がハッとした顔になる。

「今日はもう使わないけどちゃんと返してよ」
「わ、わかってますよ!すっげー落書きかいて返しますから!」
「余計なことしなくていいから!」



変なの書いたら承知しないからな!というと赤也は嬉しそうに笑って「じゃ、ありがたく借りまーす!あと幸村部長、失礼します!」といって自分の教室の方へと走っていった。
ああ、誰かにぶつかった。謝れよ、もう!知らない男子生徒にスミマセン、と謝れば不思議そうな顔で見られた。まぁそうだよね。


「…幸村は戻らないの?」

赤也と話してる間も何気に残ってた幸村を見やれば赤也を見送っていた視線がこっちに向く。教室に帰らなくていいのか?


「…赤也はダメで俺は落書きしていいんだ?」
「?…あ、うん。だって幸村は変なの書かなそうだし」


前に赤也に貸したら変なところをマーカーで引かれて困ったことがあるんだよね。しかも筆圧強いから次の次とかのページにまで変な落書き残ってたし。それを後になって丸井に貸したらすごい笑われたし。やったのは私じゃないってのに。

まさかあんなとこにチェックされてると思わなくて嫌な思いをしたのさ、と溜め息を吐けば幸村が苦笑して「後で叱っておくよ」といってくれた。うん、ありがとう部長。


「……まぁいいか」
「?何の話?」

そろそろ本鈴も鳴るし戻ったら?と言うつもりで幸村を見やると彼はを見て、言い聞かせるように呟いた。
何か言いたいことでもあるのか?といえば「にはまだ内緒なんだ」と返され特に急ぐでもなく歩き出した。その背を見ていれば視線に気がついたのか幸村が振り返った。

その微笑みが少しだけ寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。


も準備しないと先生に怒られるよ」
「わかってるよ」

急がないといけないのはむしろ幸村じゃないか、と思ったがガタガタと自分の席に戻ってくクラスメイトに少しだけ焦って「じゃあね!」と幸村に手を振って教室に戻った。



*****



連絡事項も終わってさっさと教室を出て行く担任を見送り、生徒達もガタガタぞろぞろと音を立てて動き出した。今日は真っ直ぐ帰るか、とも立ち上がると丁度そこへ黄色人種よりも黒くて骨ばった手がの机に置かれた。まるで机に生えた枝のようだ。可哀想だから言わないけど。

、今日ちょっと付き合ってくんねーか?」
「?いいけど珍しいね」

ジャッカルからお誘いをもらうと思わなくてぱちぱちと目を瞬かせると彼は困ったように頬を掻いて「あー俺というか、な」と言葉を濁した。

ー。うちら寄り道がてらマック行くんだけどどーするー?」
「ごめーん。用事できたからパスするー」

振り返れば亜子達が鞄を持ってこっちを見ていて「わかったー」と手を振って教室を出て行った。きっとホワイトデーの宍戸くん対策の相談だろう。私も参加したかったな〜と名残惜しそうに見送ったがジャッカルが動き出したので慌てて鞄を手に取った。


「遅いぞ!!」
「…ねぇジャッカル。私何で怒られなきゃならないの?」

その為に呼んだの?と隣のハゲ頭を睨めばそんなつもりはないんだ?!と激しく首を横に振っていた。
達が向かった先はB組で久しぶりに足を踏み入れたのだが何でかプンスカ怒ってる丸井に出迎えられた。

お怒りの丸井だったがの手を取ると自分の席に座らせ、その前に丸井が座りの隣をジャッカルが座った。B組はI組よりも解散が早かったのか日直ですら残ってなく外から聞こえる運動部の声の方が騒がしく聞こえる。

「…あっちは混ぜなくていいの?」
「あいつはほっとけ。寝てるだけだから」

教室に入った時から気づいていたが机の上に突っ伏している白頭を指摘すると、丸井がハァ、とわざとらしく溜め息を吐いた。


「…んで、お前を呼んだのは赤也のことなんだけど」
「へ?」
「ぶっちゃけどー思ってるわけ?」

どうってどう?意図が掴めなくて首を捻ったがとりあえず「生意気な後輩?」と返せば丸井とジャッカルがガックリと肩を落とした。

「だよなー。やっぱそうだよなー」
「何?どこで納得したの?」

眉を寄せて丸井を見るが「いや、お前が悪いわけじゃねーんだ」とよくわからないことをいってはぐらかしてくる。だから何なの。



「…。赤也から何も言われてねーのか?」
「何もって何を?」
「あーだから、その、こ」
「好きな奴の相談とかそういう恋愛話のことだよぃ」

歯切れの悪いジャッカルを食い気味に聞いてきた丸井には目を瞬かせた。赤也が?自分に?恋愛相談?

「ぷっあははははっ!あるわけないじゃん!!赤也が私に相談する前に友美ちゃんかアンタ達に相談するに決まってるでしょ?!」

あまりにもありえない話にケタケタと笑えばジャッカルと丸井が何とも言えない顔で頭を垂れた。


「うるさか、」
「あいて!」

頭にチョップをされ、振り返れば不機嫌顔の仁王がいて「起きたんだ」と頭を撫でながら返した。放課後なんだしいい時間じゃん、といってやればまたチョップされたけど。

「…んで、話は終わったんか?」
「………おー。まぁな」

なんともいえない顔のまま仁王に返した丸井は疲れきった顔で「あのバカどーするつもりなんだ?」とジャッカルに投げかけたが「知らん」と首を横に振られていた。


「ねぇ。一体何の話なの?」
「あー……進路相談?みたいな?」
「……それを私にしてどーすんの」

頭を掻いた丸井には溜め息混じりに返すと「帰るぞ」と仁王がいつの間にかのカバンを持って歩き出したので慌てて追いかけた。その後を丸井とジャッカルが続き4人で教室を後にする。



「あーそうだ。、」
「ん?何?」

カバンを返しなさい!と持ち手部分を仁王と引っ張り合いをしていると、丸井が声をかけてきたのでそちらを見やる。

「もしさ、赤也の奴が好きな人いるっつったらどうする?」
「え?良いことじゃん?告白はもうしたの?」
「「………」」
「…ん?」

後ろを歩く2人が固まったのであれ?と仁王に助けを求めれば、詐欺師は丸井達を見ていた視線を泳がせ首の後ろを掻いた。それからの頭を何故か撫でると「お前さんは気にせんでよか」そういってニヤリと笑い歩き出したのではまた追いかけていく羽目になった。




赤也…。
2013.04.12