□ 114a - In the case of him - □
「機嫌治せよ」
「別に悪くありませんよ」
お腹を満たしてお店を後にした達は再び跡部さんの運転で車を走らせていた。時間はとっくに日付を跨いでいて見える街灯の数も心許ない。ナビを見る限りの家の方へと向かっているのだろうが、はそれよりも先程まで一緒だった亭主の言葉が頭に張り付いて離れなかった。
『景吾坊ちゃんのことをよろしくお願いしますね』
別に他意なんてないだろうけど、何故か意味深にとってしまってどうにも落ち着かない。軽くスルーしたけど女性をあそこに連れてきたのは初めてらしい。あんだけ噂があって婚約者までいたというのにだ。
勿論お腹が減ってて食べるのが好きだから、という理由で連れて来てくれたのかもしれないけど、それがただの友達としてなのかそれとももっと違う意味でなのかどうなのか、というところでなんとなくモヤモヤしてる自分がいて不愉快だった。
別に友達でいいのに何かしっくりこなくて落ち着かない。そのせいで跡部さんには機嫌が悪いとか勘違いされてる。今だって窓の外を眺めてるをチラチラ気にしながら運転してるのだ。
「、」
「っはい」
信号が赤になり緩やかに止まった車内でやんわりと手を握られ肩が揺れた。見れば外灯と信号機の光で照らされた跡部さんがまっすぐこっちを見てるのがわかる。その視線に思わずゾクリとした。
「このまま、送ってやることもできるが……どうする?」
「どうするって…」
「俺はお前とまた飲みてぇなと思って、一応ホテルをとったんだが」
「…っ」
「来るか?」
さっきは運転するからといって跡部さんは一滴も飲まなかった。は少しだけ飲んだが。それもあって誘ってきたのだろうか。いや、というよりも事前に予約していたみたいな素振りだ。またラウンジで飲むのだろうか。飲んだらまた泊まることになるのだろうか。
そう思い出した途端、顔が火を噴くように赤く染まった。
反射的に引っ込めようとした手を跡部さんが逃がさないように強く握る。痛くはないけど確実にが動揺してる様は知られてしまっただろう。顔を見なくてもいわなくても手で全部ばれてしまう。それくらい自分の手が熱かった。
「…そろそろ、お前の答えが聞きたい」
信号機が青に変わる。ここは人も車も通らないのか前後に行きかう車もなく跡部さんの車が動かなくても誰も文句をいわない。ただ静寂だけが達を取り巻いた。
「そんなの、いわなくても…」
「直接お前の口から聞きたいんだ」
「でも…」
「いっとくが、俺は否定の言葉は受け付けねぇ」
「…え、」
「帰りたいっていうなら帰すが、その前にすることはする」
「ええ?!」
することはする?!その意味深な言葉に大いに狼狽すれば跡部さんは小さく笑って「まあ、お前を傷つけるようなことはしねぇよ」と気軽に返してきた。そうなのか。いや、しかし。
この前のこともあるしどうしたってただじゃすまない感がひしひしと伝わってくる気がしてならない。そんなことを考えていれば自ずと顔の温度も上がって無意識に唇を噛んだ。
意識すれば跡部さんはとてもわかりやすく態度で示していた。マメに連絡はくれたし、パパラッチもものともせずこうやって連れ出したりもしてくれる。
手塚くんの連絡を心待ちにしてる間に跡部さんと何度もやり取りしていたら、いつの間にか跡部さんからの連絡を楽しみに待つようになってたのも確かだ。
なんとなく気づいているんだ。跡部さんは前の私を知ってるのかもしれないって。だから、もしかしたら前みたいな辛い想いはしないんじゃないかって楽観的に思う自分がいて。
でもそれをと同じくらい胸を巣食う恐怖も感じていた。昔の古傷が彼を心の底から頼れない、信用してないと思っている自分もいて、そのせいで答えを先延ばしにしていた。でも、それも今日までらしい。
跡部さんの過去を考えたら不安になることは多々あるのだ。自分じゃ見合わないことだって知ってる。でもここにいたいと思う自分もいる。彼の瞳に声に頷いてしまいたいと願う自分がいる。
「好きだぜ。」
「…っ」
「…お前は?」
「……」
「今日はいうまで逃がさねぇ」
かちゃりとシートベルトが解かれる音がした。跡部さんは器用にシートベルトを外すと、を覆うように寄って来て距離を縮めた。
急に近くなったせいか跡部さんの宣言のせいか急に身の危険を感じたは身体を強張らす。この密室で誰もいないここでふと襲われるんじゃないか?と思ってしまった。
「……すき、……かもしれません」
ふと、零れ落ちた肯定的な言葉に自身が驚いた。そんなことをいうつもりはなかったのだ。ただ、この距離をどうにかしたくて離れてほしくて打開策を提案するつもりだったのに。
発してしまった自分の言葉に動揺していれば、跡部さんの手に力が入りぐいっと引き寄せられた。
シートベルトに阻まれながらも傾いた身体に空いてる方の手をシートにつけば頬と耳に跡部さんの指が掠った。するりと撫でられ髪に指を差し入れられたは否応ナシに跡部さんと見詰め合うことになった。
「もう1回、いってくれ」
「…え?」
「お前の気持ち」
信号がまた赤に変わる。しかし2人にはそんなことなど目に入っていなかった。目の前には見透かすようにじっと見つめる赤く染まった瞳が見える。
そこに自分が映りこんでるように見えて、逃げたくて、逸らしたくてしょうがなかったが、うまい切り替えしが思いつかない。何度か歯噛みして乾ききった喉を動かした末はゆっくりと口を開いた。
「多分、好きです」
言葉にして無性に泣きたくなった。いってしまった、という解放感と後悔に似た感情がグルグルと回って心臓がバクバクと騒ぐ。まるで死ぬんじゃないかっていうくらいの心拍数に心臓を吐き出したくて仕方ない気持ちになった。
そんな緊迫した表情のとは正反対に跡部さんは射抜きそうなくらい真っ直ぐ見ていた視線を和らげるとフッと微笑み、それから意地悪そうな顔で「多分かよ」と笑った。投げやりな言葉とは裏腹にゆっくりとの頬を撫でる親指がこそばゆくて仕方ない。
「俺も好きだぜ。」
そういって微笑んだ跡部さんにビリッと全身に電気が走った。じわじわと上昇する体温にはなんて返したらいいのかわからなくて、彼がすることただ見ていることしか出来なかった。
ホテルについても車内の空気を纏ったままは前回と同じように跡部さんと手を繋ぎ、彼に誘導されるままエレベーターに乗った。
カーペットが敷かれた柔らかい廊下を歩きながら跡部さんの背を見やる。嬉しいような逃げたいようなそんな気持ちがせめぎあってちゃんと直視できなかった。
けれども、握られた手は振り払いたくないって思っててちぐはぐな自分の感情に益々混乱した。
「っ?!…あと、」
カードキーで目的の部屋に入るとドアを締め切る前に跡部さんに手を引かれ抱きしめられた。驚いたが目を白黒させていれば今度はドアに身体を押し付けられやや乱暴に唇を塞がれた。
その熱烈過ぎるキスに翻弄されたが、ほんの少しの理性が打ち勝って覆いかぶさる彼の胸を突っぱねた。
渋々、といった様子で隙間を開けた跡部さんはじっとを見つめている。羨ましくなるほど形のいい唇が赤くテラテラ光ってるのが見えて、どうしてそうなったのか、自分の唇に塗っていたものを思い出したまらず視線を逸らした。
「…あの、さっきいったことは、やっぱりナシに」
「するわけねーだろ」
「…っ」
「今更、帰さねぇよ」
掠れた声が鼓膜を揺らす。ダイレクトに聞こえる声に視線を戻せば跡部さんはの首筋に顔を埋め、そして掠るように辿りながら耳朶を甘噛みした。
ビリッとした感覚に足元をふらつかせただったがドアを背にしてるのと跡部さんの腕に支えられ転ぶことはなかった。が、跡部さんはそのまま唇で過敏になっている首筋をなぞるように触れたり息を吹きかけたりしてくる。
そこは自分ではどうにもならないほど反応してしまう場所で、隠すことも出来ずビクッと反応すれば今度は生温かいものがの首筋を撫で上げた。
「ぅわ、っ」
驚いたような引きつった声を漏らせばそれが合図みたいに跡部さんは露出しているところを食むようにキスをする。ゾクゾクと何かが這い上がってくるような感覚を逃そうと身を捩ったが支えてくれてる跡部さんの腕が邪魔で逃げることもできない。やめて、と腕を突っぱねてみてもうまく力が入らない。
耐えようと唇を噛んだが跡部さんは意図も簡単にの弱点をついてきて、腰砕けのようにその場に崩れ落ちた。
「…その顔、やべぇな」
「……っ」
「んな泣きそうな顔するなよ……違う。そうじゃねぇよ」
へたれこんだお陰で跡部さんの攻撃をかわすことが出来たが、余計に追い詰められたような格好にも見える。涙目になりながらも「不細工で悪かったですね」とぼやけば腕でバリケードを作っている跡部さんは苦笑して、それから顔が見えるギリギリまで近づいた。
「のことが好き過ぎて抑えられねぇってことだよ」
ぶるりと身体が震えた。寒いわけではないのに震えが止まらない。この前と同じだ。跡部さんが怖いわけじゃない。でも怖い。
まるで見知らぬ町で一人ぼっちで迷子になったかのような不安な感覚で堪えた涙を零すと、それを拭うように跡部さんが指で頬をなぞる。普通に考えたらこんな時にそんな発言をするを空気読めとか怒ったり嗜めたりするだろうに、跡部さんはただ静かに微笑んだ。
「……本気で、いってるんですか?」
「俺が嘘をついてまでこんなことをすると思うか?」
「……」
「俺は欲しいものにはとことん向き合うって決めてんだ」
「……」
「だからお前も本気で俺を見ろよ」
俺はお前と一緒にいて見劣りする奴か?と問われ首を横に振った。跡部さんが本気だってのはわかってる。多分きっと。見劣りしてるとしたら私の方だ。こんな私が跡部さんの隣にいていいのかわからない。それが一時期なものだとしても。遅かれ早かれ終わりがあるとわかっていても。
「それにな。が思ってもいないことを口に出したりしない女だと俺は思ってる」
「……え、」
「お前は人を思いやれる人間だ。特に人を傷つけるようなことはいったりしない。…違うか?」
「……ち、がわない……と思います」
「さっきも冗談でいったんじゃないだろ」
車内でいった言葉に嘘はないんだろ?と確信めいた声で、優しく聞いてくる跡部さんにはゆっくりと頷いた。多分、そう。惹かれてるんだ、跡部さんに。中学の頃と同じように彼を好きになってる。
それが怖い。
あんな風に上っ面だけのミーハー的な好き、だったらどうしよう。それが見抜かれてバレてしまったら跡部さんはなんというだろうか。落胆するのだろうか?軽蔑するのだろうか?だったらここで終わらせてしまった方が…そこまで考えたら身体が拒絶するようにボロボロと涙が零れた。
「でも、私、跡部さんに見合わないし、顔も才能も勉強だって…何もなくて、何もできなくて。この気持ちだって本当かどうか」
「、」
「……っ」
「余計なことは考えなくていい。俺が今欲しいのは"が俺をどう思っているか"の答えだけだ」
「……」
「そんなことを考えて気持ちに線を引くくらいなら考えなくていい。何もなくたっていい、何もできなくたっていいんだ」
そこで選んだわけじゃねぇよ。そういって跡部さんは触れていた手を放した。急に冷たくなった頬にまた不安が募る。子供のように涙が止まらなくて瞬きする度に小さな水滴がぱたぱたと足や床に零れ落ちた。
いいのだろうか。跡部さんを好きになって。恋をして。重くて引かれないだろうか。うんざりされないだろうか。そんな言葉がぐるぐると回って指先が、手が震えた。
なら逃げてしまおうか?
でもこのまま断ってしまったらきっと跡部さんとの関係はここで終わってしまう。確実に。
それでいいのか?
このままでいいのか?
嫌だ。
それは嫌だ。
跡部さんを想いながら後悔するのはもうしたくない。
あんな想いはもうたくさんだ。
「あと、べさん………跡部さん」
震える手をぎゅっと握り締める。震えは全身にまで広がっていたけどそれを叱咤して腹に力を込めた。喉はカラカラになり、呼吸もうまく出来ない。
今にも吐きそうで苦しい。
怖い。
嫌だ。
逃げたい。
でも。
それでも。
私は。
「…ん?」
「私、跡部さんが好きです」
吐きだした言葉はまるで全身の体力を根こそぎ持っていくくらいの気持ちだった。全力疾走で疲れ果てたかのように一気に身体の力が抜け落ちる。にとって彼への言葉はそれだけの熱量がこもっていたらしい。
でも、目の前の彼が真剣に聞いてくれたからその熱を孕んだ瞳を見て抱えていた不安は一気に霞んで見えなくなった。そして力が抜けた身体の奥からぼんやりと温かくなるのを感じて、また鼻がツンと痛くなった。
これ以上泣けないっていうくらい泣いているのに。そんなことをぼんやり考えながら抱きしめる腕が心地よくては静かに瞼を閉じたのだった。
******
気だるい。瞼が異様に重い。でも白く感じる眩しさが起きろと意識を引っ張りあげてくるのでは仕方なく、瞼を抉じ開けた。
「よぉ、」
「………?」
「…フッ……寝惚けてるみたいだな」
「ぁ……おは、よ…ござぃま……っ」
ぼんやり見上げた先には頬杖をついて微笑む跡部さんが見下ろしていて、ぼけっと見つめるに笑うと彼と一緒にシーツが擦れる音がした。それで『挨拶しなきゃ』などと思い声を発しようとしたが見事なまでにガラガラで軽く咽た。
酷い声だ。と思っていると跡部さんはスタンドに置いていたペットボトルを取り出し飲めと進めてくる。それを受け取り飲もうとしたが寝たままでは飲めないと思い身体を起こそうとした。
「っ………」
「?」
起こそうとした身体は重力と痛みの回避の為ぐるりと横に転がった。その珍妙な動きに跡部さんは目を丸くするが背を向けたには見えなかった。
なんだか物凄く身体がだるい上に背中と腰が痛いというか重い。何この鈍痛みたいなの……っと思ったが答えはすぐに出てきてうつ伏せのまま固まった。あぁ…そういうことね。いや、まあ、はい。
何があったのかどうしてこんなに声がガラガラなのか一気に理解してうな垂れるように頭を垂れた。耳まで熱い気がする。
しばらくそのまま動かず悶絶していたが意識が覚醒して途端に喉が渇いてきたと思い、散漫な動きで少しだけ起き上がった。だって腰は相変わらず重いから。
微妙に力の入らない手でペットボトルのキャップを開け、立て肘になり水を飲むとふと後ろ側が急に寒くなりについでに持っていたペットボトルを落としてしまった。
「ぶっ!………へぁ?あの、…あと、??」
水を噴出したのと同時に背中にゾクリとするような甘い刺激が走る。零れた水はの首や胸元に飛んだがシーツに作る染みの方が気になって慌ててペットボトルを起こした。
そのペットボトルを両手に持ったまま後ろを振り返ろうとしたが真後ろに彼がいるらしくの後ろは寒くて仕方がない。その上さっきからチュ、チュと如何わしい音が室内に響いている。
の両脇に手をつきマウントポジションを獲った跡部さんは執拗にの背中にキスをしていた。時折なぞるように舐めたり、肩甲骨の辺りや肩を甘噛みしてはの反応を伺っているようだ。
「っあとっ跡部さん!待って!それ以上は…っ」
背中への刺激は少しくすぐったいくらいで特に過敏になるところではなかったので黙って跡部さんの好きなようにさせていたのだが、そのキスが段々下に降りて行き腰のくぼみ辺りではびくりと反応した。いや、そこ自体は別に、なんだけど。
そこに近い場所が気になって思わず身を起こせば知ってるといわんばかりに跡部さんがそこを突いてきてベッドにダイブした。いやいやいや!そこ食むとこじゃないですから!舐めるも違うし!いやだから、その…っ
「跡部さん…っ!」
懇願するかのように彼の名を呼べばピタリと動きが止まった。そして腕を掴まれくるりと身体を反転させられる。
「わぶっ…」
「…ふはっ!お前、何でそれ持ってんだよ…っ」
ばしゃっと顔にかかったのは手に持っていたペットボトルで、キャップも締めず必死に握り締めていたに跡部さんは思わず噴出した。何も笑うことないじゃないですか…。
じと目で彼を見上げれば、跡部さんはくつくつ笑ってのペットボトルを受け取り、残り少ない水を飲み干した。
上下に動く喉仏や引き締まった肢体にまた昨夜のことが思い出されて心臓が馬鹿みたいに跳ねた。微妙に肌寒いことを考えれば自分も跡部さんと同じ格好をしているんだけどどうにも直視できなくて目を閉じてしまいたくて仕方がない。
この光景も妙に気恥ずかしくて何となく目を逸らしたくなったが、ずっと見ていたい気持ちもあって彼が空のペットボトルをぽいっとベッドの外に捨てるまでただひたすら跡部さんを見上げていた。
「ククっ髪までびしょびしょじゃねーか」
「跡部さんがいきなり引っ張るからですよ…」
「アーン?がそこまで必死に掴んでると思ってなかったんだよ」
頬や額に張り付いた髪を避けながらぺろぺろと舐めてくる跡部さんにワンコみたいだな、と思ったが耳にも零れたらしい水を舐め取られた時はぎゅっと目を閉じワンコじゃないかも、と思った。ワンコはこんなやらしい舐め方しないし!
ぎゅっと近くにあった枕やシーツを握り締めれば彼は何故か苦笑しての両手を取った。
「ちげーよ。手はこっちだ」
「?……あ、」
そのまま跡部さんの首に回された己の腕に何度か目を瞬かせると一気に近くなった彼との距離にドキリとする。今迄もそれなりに、だけど、昨日今日でいろんなことがあったけど、でも、今だからというかこういう関係になったからというか、とても、凄く、恥ずかしいというか顔が熱いんですが。
密着する部分がダイレクトに伝わってきて、感触も体温もリアルすぎて眩暈がする。ぼっと火がついたかのように頬を染めれば跡部さんはニヤリと笑っての唇を舐めた。そして意図も簡単に歯列を割っての中に入ってくる。
与えられる刺激にたまらずぎゅうっと彼の背中にしがみつけば益々キスが深くなった。
「っ……あの、跡部さん」
「ん?」
「あの、えーっと……その、あの………………つかぬことをお聞きしますが」
「クっ…なんだよ?」
「今日のご予定は?」
「とこうやってイチャイチャする以外なにもねぇぜ」
「え、あ、そ、そうですか……」
イチャイチャ…およそ、跡部さんの口から出る言葉とは思えなくてちょっと驚いたがそれよりも何よりもさっきから気になって仕方ないものがあっては困ったように眉を下げると赤い顔で「あー…えと、その」ともごもごと言葉を濁した。
よく考えればと一緒にいること以外に予定はない、といわれたことに咆哮すべきだったがこの時はまだ気づかず、さっきから太股の辺りで主張してくる彼の本心というか本能というか、自分にはないものがあからさまに、わかるように伝えてきてなかなか言葉に出来ない。
言葉にしてみたが跡部さんに笑われてしまうような変な敬語を使ってしまう始末だ。
「あー」「うー」と唸るを跡部さんは面白そうに見ていたが、彼女が何に戸惑っているのかわかってたようでシーツが擦れる程度に身体を動かせば見てわかるほどにの身体が跳ねた。
「そういうは今日何か予定あるのかよ?」
「え?!あ、ないです。…………あ!えと、」
「何もねぇなら俺とここにいても問題ねぇな」
跡部さんの行動に気を取られて素直に答えれば彼はにんまり笑ってがいい直そうとした言葉を飲み込ませた。だとしたら、その、えと。もしかしなくても、そういうことですか…?
チラリと見えた電子時計は13時過ぎを指している。その時間にもう?まだ?という気持ちがない交ぜになって益々顔が赤くなった。
自分1人だったら咆哮してしまうくらいに恥ずかしくて悶絶していたことだろう。
それなのに跡部さんはそれ以上にを恥ずかしくさせ、翻弄して、嬉しそうに濡れた唇で微笑んだ。
それがときめくほど魅惑的で胸を締め付けるから、はたまらず彼にしがみつき2人一緒にベッドの海に溺れていくのだった。
おめでとう。ようやくここまでこぎつけました。
2016.01.21