You know what?




□ 122a - In the case of him - □




今日は梅雨前とあって天気が不安定で雨が降ったり止んだりしていたが、がいる場所は終始賑やかだった。

「ちょっと!今日は私が主役なのに何で立たなきゃなんないの?!」
「だってここの家だC〜」
「キッチンはのテリトリーだから入んじゃねぇって跡部いってたし」
「いやあ、できる奥さんはちゃうな〜」
「そこ!エロメガネ!!黙らないと酒出してやんないかんね!!」

指をさして指名すると「何で俺だけ?!」と嘆いたが顔はニヤニヤしたままだ。マジムカつくんですけど。


今日は3月に受けた試験が無事受かったのでそのお祝いに集まってくれたんだけどこの男集団はお祝いしに来たんだかただ飲みに来たんだかよくわらないことになっていた。どうせなら宅飲みしようぜっていうからあげたのに、お酒とかつまみを配膳してるの私なんですけど。

キッチンから大量に冷蔵庫にあったお酒とつまみを持ってくるとリビングのテーブルにどかっと置いて「もう私動きませんから!」と缶のプルタブを開けた。
その際、キラリと光る左手の薬指にジローくんと忍足くんが微笑ましそうに見てきたが素知らぬ顔で岳人くんが食べてるおつまみに手を伸ばす。

先日再びお付き合いをすることになり、ジローくんにお知らせしたら『すぐに会いたい!』と言われて待ち合わせをしたのだ。言われた通りに会いにいくとなんでかジローくんに抱きしめられて。え?と驚けば『良かったね』と心底嬉しそうに祝福され、思わず泣いてしまった。

微妙に内情を知っている忍足くんもそれを察して微笑んだのだろう。


がはめているのは跡部さんがくれた指輪だ。彼曰く「虫除けだ」そうな。そんなことしなくても大丈夫だと思うんだけど彼の好意はやっぱり嬉しくて気を抜けばニヤニヤしてしまう。

「つーか。その指輪ってペアリング?」
「岳人ぉ。そのボケは跡部が帰ってくるまで待ったりぃや」
「違うよねー婚約指輪でしょ?」
「うん、実は」

貰った時は嬉しくて有頂天になったのだけど、日常生活で人目に左手を晒すようになったらやっぱり恐れ多い気がして指輪を外そうか迷ったことがあった。ネックレスならなくさないし、と思い跡部さんに相談したのだけど彼は頑なに譲らなくて今に至る。

なくしたらどうするんだ?といえば新しいいのを買えばいいだろって。簡単に言うけど跡部さんは私を喜ばせすぎじゃないだろうか。



「まぁ、跡部のことやから他の男が勘違い起こさんように"虫除け"でつけさせたんやろ。可哀想になぁ。邪魔ならとってもええんやで?」
「何いってんだよ侑士!むしろお前がこれを見て自粛しろよ。は跡部と付き合ってるんだからもう隠れて写真撮るんじゃねぇぞ」
「わかったわ。今度からちゃんとちゃんに承諾を得てから撮るわ」
「それを止めろっていってんだよ!」
「えーでもさ。ウエディングドレスくらいならよくね?」
「は?え?じ、ジローくん?!」

何故そこでウエディングドレス?!とおののけば何でか忍足くんと岳人くんまでニヤついた顔で「それはいいな」とのたまった。


「ほなら今の内に予約しとこ。ちゃん結婚式は俺が付添い人になるで?」
「何でだよ!」

そこは写真係だろうが!と岳人くんにつっこまれた忍足くんは「えー嫌やん。みんなが楽しんどるところをちまちま写真撮るなんて寂しくてかなわんわ。それはプロに任せればええやん」とあっさり放棄した。ていうか、付添い人になるならお父さんいるし。

「……結婚とか、正直想像もつかないんだけど…」
「けど、跡部の奴見てるとわかんねぇぜ?その指輪だって結構するんだろ?それをあっさり用意してんだから結婚も早いんじゃね?」
「ねー。まだのこと狙ってる奴いるみたいだし、跡部もきっと準備してると思うよ?」
「あ、それ俺のことやん」
「チゲーし」
「忍足なんか眼中にねぇし」
「…ごめん。忍足くん」
「酷い!ちゃんまで!!」

指輪の話題になったと思ったら今度は結婚の話になってしまい、はたじたじになった。こういう話は亜子や皆瀬さんと話したりはしたけど雑談の一部だったしそれほど気にならなかった。

でもこうやってジローくん達と話してると妙に現実味を帯びた気がしてどんどん顔が赤くなってくる。どうしよう。私、そこまで現実的に考えないまま受け取っちゃったよ…っ



「にしても、跡部の奴遅くね?」
「仕事だから仕方ないよ。急いで終わらせるとは言ってたけど」
「…それ、俺らがいること教えたん?」

つまみを食べながらそんなことを聞いてくる岳人くんに時計を見やると予定の時間にはまだ早かった。遅くなることはわかってるから気にしてないんだけど。
忍足くんの問いに首を横に振ると「よおっし!俺連絡しよ〜!」といってソファに寝転がっていたジローくんが起き上がり、なんでかカメラを起動させた。


何故カメラ?と目を瞬かせていれば岳人くんと忍足くんは目を輝かせ、に引っ付くようにポーズをとるとカシャッとシャッター音が聞こえた。

「ジロー急げ!はよ送ったれ!」
「…っし、そーしん!」
「っかー!どんな反応してくっか楽しみだな!!」
「…すごい楽しそうだね」

そういえばここに来て随分お酒飲んでるもんね。ゲラゲラと笑う3人に何とも言えない顔で眺めながら缶を煽ると「そーいえばさー」とピーナッツに手を伸ばしたジローくんが携帯を握ったままこっちを見てきた。


って跡部と一緒の部屋なの?」
「ブッ!」
「…直球やなー」
「え?だって気にならね?」
「…ちゃんと自分用の部屋があるよ」

元客室だけど。パラパラと降ってきた雨に外を見やりながらだったので完全に不意を突かれた。辛うじてカーベットにはこぼさなかったが高そうなガラスのテーブルは霧状にビールが飛び散っている。

「なにやってんだよ!」と騒ぐ岳人くんに黙ってテーブルを拭いていたら「なんや、一緒やないんか」と気にならないはずの関西メガネが残念そうにそうのたまった。



「それ、どうでもよくない?」
「なんや。早速倦怠期かいな。俺が慰めてやろか?」
「結構です」
「おいやめとけよ侑士。バレたら跡部がブチきれんぞ」

フッと流し目で誘ってくる忍足くんにきっぱり断ると、岳人くんが彼を足蹴にして「お前はから離れろ」とと忍足くんの間に座り込んだ。

「でもさ、よく一緒に住むの許してもらえたな」
「え?」
「ほら、真田とかお前の保護者いたじゃん」

あいつら煩そうだもんな。と覗き込む岳人くんには遠い目をしながら「許してもらっては、ない…かな」と返した。


実はあの後引越し先のアパートに住むか跡部さんのマンションに住むかでひと悶着あったのだ。
としては引っ越したばかりで出て行くなんてそんなお金をドブに捨てるような真似はしたくなかったが、跡部さんの並々ならぬ説得で最終的にが折れた形だ。

手続きはあっという間に跡部さんと佐々原さんがしてしまって、あそこにあったの私物も全部マンションの専用の部屋に詰め込まれている。ご満悦な跡部さんを見てなんとなく納得してしまったが、弦一郎にはこっぴどく叱られた。


「丸井くん達にいったんだ?」
「……いった。跡部さんが」

気づいたら立海のメンバーに伝わってて、それを思い出したはその時と同じようにゲンナリと頭を垂れた。

アパートの件と同じくらいに幸村に話そうと連絡をしたんだけど電話に出た途端『跡部から先に聞いちゃったんだけど』とにこやかで、でも怒りを含んだ声が聞こえてきて対峙してもいないのにずっと土下座で話していたのは言うまでもない。
そしてそれを聞いた弦一郎がブチ切れて『誰が認めるものか!!』と電話を切られたまま音信不通になっている。



「…弦ちゃんに縁を切られたらどうしよう…」
ちゃん落ち着きや。真田はいとこであって親やないんや。勘当されても別にかまへんやろ」
「つっても1番大事にしてたのあいつだろうしな。それを跡部…つーか他の男に盗られたって思ったら怒りたくもなるんじゃね?」
「大丈夫だよ。時間が解決してくれるって!」
「…1番当てにならない慰めだよジローくん」

ポン、と気軽に肩を叩かれは長い溜息を吐いた。当分立海組には顔向けできないよ。


「テメェの祝杯で何辛気臭い顔してんだよ。アーン?」
「っ跡部さん!」
「あれ?!跡部だ!」
「つか早くね?!」
「連絡するより車飛ばす方に専念したんやな…」

お酒をチビチビ飲みながら時間を潰しているとガチャリとドアが開く音が聞こえ、視線をそちらに向ければ少し濡れた跡部さんが花束を抱えてリビングに入ってきた。

「えっ何で濡れてるんですか?!」
「近くの花屋に寄った時に濡れたんだよ」

出た時が丁度土砂降りだったんだ。と零す彼に慌てて立ち上がったはタオルを持ってくると跡部さんの頭の上に乗せた。
そのまま拭こうかと手を伸ばしたがその前にずいっと花束を出され目をぱちくりとさせる。


「試験合格おめでとう」
「あ、ありがとう…」

よかったな。と頭を撫でられも綺麗な花束を見て微笑み、跡部さんを見上げると彼の顔が近づいてきてそのまま目を閉じた。

「うーわ、」
「やりおったわ」
「アーン?嫌なら見なきゃいいじゃねーか」

目を開けると同時にそんなことをいわれ声がする方を見やると「あまりにも自然すぎて逸らすヒマなかったんだよ!」と岳人くんが赤い顔で嘆いていた。申し訳ない。



「それよりも、あの写メなんなんだ!テメーら今すぐあの画像を消せ!」
「え〜?!何でだよ!よく撮れてんじゃん」
「そんな画像残してたらが汚れる!特に忍足!テメーにくっつきすぎんだよ!!」
「なんや、嫉妬かいな。男の嫉妬は醜いで?」

ジャケットを脱いだ跡部さんが座り、その隣に座ると何故かそんな話になってジローくんは必死になって携帯を隠したがなんでか岳人くんも隠していた。君は写真撮ってなかったじゃん。
そして忍足くんそれわざと言ってるでしょ。確実に火に油を注いでるんだけど。そう思っていたらやっぱり跡部さんがテンションを上げてきて急遽飲み比べ大会が始まってしまった。元気だな。


買ってきたお酒を飲み干し、跡部さんが仕舞ってたお酒も粗方飲んで引き分けで決着がついた頃、祝賀会というかただの飲み会はお開きとなった。

あれだけ飲んでケロリとしてる忍足くんはさっさと動き出したが、最初から泊まる気でいた岳人くんとジローくんは(後者は既に寝ていた)帰れと跡部さんにいわれプンスカ抗議していた。
けれど明日が早いとか色々跡部さんに言いくるめられ、結局追い出されてしまった。


「…跡部さん。朝早いとか嘘でしょ」

ガチャン、と2重のドアロックまでかけてる跡部さんを見ながらそう呟くと彼は酔った顔でこっちにやってきてぎゅうっと抱きしめてきた。

「アイツらがいるとお前気にしてゆっくり抱きしめさせてもくれねーだろ」
「……んーまあ」


跡部さんのスキンシップに慣れてきたからさっきみたいに人前でキスされてもうっかり忘れてしまうことがあるんだけど。でもこうやって彼の背に回してギュッと抱きしめ返すのは2人きりの方がしやすいかもしれない。

「…ただいま」
「おかえりなさい」

見つめる瞳に目を閉じれば唇に温かい感触が伝わってきて。しばらくそのままキスを味わい再び瞼を開けると酔いで少し顔が赤くなってる跡部さんがふわりと微笑んでいた。



「ねみぃ」と欠伸をかきながらの手を引く跡部さんについて行く。彼の左手薬指には自分と同じデザインの指輪がはめられていてそれがキラキラと光を反射する度ドキドキフワフワとした気持ちになる。今もそれを見て余計に頭がクラクラしてきて、ああ、お酒大分残ってるなと思った。

「あ、片付け」
「んなの、明日でいーだろ?」

そんなことを思いつつも、半分くらいは冷静でいる自分がいるらしく現状を思い出した。
せめて缶だけは洗っておきたい、と跡部さんにお願いして空き缶をシンクに持っていくが、洗っている途中で視界が急に高くなった。

「にゃっちょっと!」
「やっぱ明日にしろよ。こんな数洗ってたら明日になっちまう」

言うが早いか、跡部さんはを抱えるとそのままキッチンを出て寝室がある部屋へと歩いて行く。跡部さんに抗議したも確かにあの数じゃ途中で飽きて寝ちゃうか、と思い直し諦めた。


「っおい、俺のホクロ押してんじゃねーよ」
「えーだって目の前にあるんだもん」

抱えられて楽チン、とクスクス笑っていたら丁度跡部さんの泣きボクロがあって、もう一度指を伸ばしたら彼に噛み付かれそうになった。

「やだー食いちぎられる!」
「アーン?食いちぎられたくなかったら大人しくしてろって」
「はーい…ん?跡部さん。私の部屋こっち」

ズンズンと歩いてく跡部さんの肩を叩いたが、彼は下ろすどころか「今日はこっちだ」といってそのまま奥にある自分の部屋に歩いていこうとする。


「えー。そっちは私の部屋じゃないもん」
「お前の部屋でもあるだろ」
「……」
「……」
「……ん、」

口を尖らせてみたものの、跡部さんの言葉とキスにさっきよりも酔いが回ったは堪らず彼に抱きつくと「じゃあ、好きって言ってくれたらいいよ」と耳元で囁いた。



「愛してる」
「…えー…」
「嬉しいくせに」
「うー…」
「んでお前はどうなんだ?
「……私も好きです」
「愛してるじゃねーのかよ」
「もう少し経ったらいえるかも」

跡部さんの顔がこっちを向いたので自分も顔をずらせば鼻先が頬に当たり、そのまま彼の頬に唇を押し付けた。

好きっていうのは大分慣れたけど、愛してるって意味合いが結構大きいと思うんだよね。それを言葉にするのってちょっと恥ずかしい。だからもう少し待って、と彼の頬にチュ、チュ、と音を立ててキスをしていれば彼の唇がやってきてそのままの唇を食べた。


「…しょーがねーな」

の唇を美味しそうに食べた跡部さんはぺろりと自分の唇を舐め妖艶に微笑んだ。その顔にゾクリと震えて息を呑むと、彼は抱えていたの身体を下ろし壁に押し付けた。
お互い床に足をつけているが背中は逃げられない壁があり跡部さんも肘をつき絶妙な距離を作りつつキスをしてくるのはベッドにいる時となんら変わらないように思えた。

何度も食べるようなキスを繰り返し、熱い吐息と一緒に瞼を開けばご満悦に微笑む跡部さんがいてもつられるように微笑んだ。お許しはもらえたらしい。


顔の輪郭をなぞるように額から頬に下りた指先が首筋をなぞって肩から腕に降りていく。その掠っていくような心許ない触れ具合に「はふ」と息を漏らせば腰を撫で上げられた。
ゾクリと粟立つ刺激にたまらず跡部さんにしがみつけば彼は笑うように息を漏らし、どうしたのかと問えば答えの代わりに首に吸い付かれた。



「あ、とべさん…っ」
「ん?」
「…っ」

弱いところを攻めながら器用にのシャツのボタンを外していく跡部さんを妙に感心して眺めていたがあることを思い出し声をかけた。
しかしこの状況で声をかけたものだから声は吐息に混じっていて、彼に触れられたところと一緒にネックレスが絶妙な感じに肌を擦るのでの身体は思った以上にビクンと跳ねた。

「…お前、感じすぎ」
「だ、だって…んぅ」

自分がしてるネックレスにも感じてしまったに気づいたらしい跡部さんは噴出すように笑ってそう耳元で囁く。ネックレスなんてするんじゃなかった。
余計に体温が上がって恥ずかしくて死にたい気持ちで顔を下げるとボタンを外し終わった跡部さんの手がの頬を捕らえそのままキスをした。

歯列を割って入ってくる舌に思わず眉を寄せたが逃がさんとばかりに追いかけて絡めてくる様は性急に求められてるみたいで薄っすらと目を開いた。

目を閉じてる跡部さんはやっぱり格好よかった。お酒のせいかこの状況のせいか赤くなってる頬がいつも以上に可愛くて色っぽくてドキドキしてしまう。
そんな彼に応えるように自ら舌を絡めれば跡部さんの足がの足の間に割って入り、もっと欲しがるかのように腰に回した手をぐっと密着するように自分に引き寄せた。どうしよう。すごく、気持ちいい。


崩れ落ちないように跡部さんの首に腕を回したら更に隙間が埋まってく気がして心臓が破裂しそうなくらい早鐘を打っていく。しかも跡部さんはネックレスを使ってを翻弄するから頭の芯がぼうっとしてきた。

跡部さんも完全にスイッチ入っちゃったみたいだし、もう、ここで、このまましちゃってもいいかな…?ああ、でも。できれば、今聞いておきたい。



「あ、とべさんって、結婚式、とか、興味…あるんですか?」
「…なんだよ、いきなり」

口を解放され、鎖骨や胸元辺りにキスをしている跡部さんを眺めていたは乱れた呼吸を少し整え、問いかけてみた。口にしてみて今話す話題だろうか?と疑問も浮かんだが聞きたかったのだからしょうがない。

婚約指輪をもらった時、そういう予定も含まれてるのだといわれてはいたが、まだまだの中では結婚は夢物語に近く、アクセサリーとたいして変わらずに思ってる部分もあった。だからジローくん達と話して、少し現実を帯びた気がして何となく聞いてみたくなったのだ。


彼を見下ろすという不思議な体験をしつつ伺っていれば、跡部さんはこちらに視線をくれた後何故か視線を胸元に戻し、皮の薄いところをチクリとするまで吸ってから口を開いた。

「そういうお前は興味あんのかよ。結婚式」
「私は……まあ人並みには、あるかと」

好奇心ゆえの質問だったが跡部さんに問い返され、は自分の答えにそうなのか、と自分で自分に納得した。ふわふわとした答えだが夢物語と思うほどは遠くに置いていないらしい。
ウエディングドレスを着れるなら着てみたいし、式も教会とかそれっぽいところであげられたらとても幸せな気持ちになるのかな、なんて。

跡部さんも私のウエディング姿見たいって思ってくれたりしてるのかな?そう思いつつ、キスマークをまたひとつ増やした彼を見つめた。あー。跡部さんは白スーツ凄く似合いそう。和物も悪くないけど跡部さんはスーツが似合うなぁ。


結婚式の衣装に身を包んだ跡部さんをぼんやり想像し、その跡部さんと目が合った途端、は気恥ずかしくなり慌てて視線を逸らした。しまった。今この状況で白スーツ着せたらダメだよ私。

とても神聖なものを汚してしまったような、物凄くいけないことをしてしまった気がして、チラリと見上げてきた跡部さんにも指摘された気がしてはソワソワと視線を動かした。



「ひゃ!」
「…そうだな。のウエディングドレスは興味あるが、披露宴はそうでもねぇな。恐らく家の奴らがああだこうだいうだろうし、面倒クセーこの上ないことになるのは簡単に想像がつくしな」
「へ?…あ、それは、まあ、なんとなく、わかります…」

太股やお尻の辺りを円を描くように引っ掻くように擦ったりしていた手がタンクトップの中に潜り込み弱い腰のラインを撫でられ思わず声が出た。熱い手だけならゾクゾクはするけど声まではあまり出したりしないのだが、硬く冷たい指輪が妙にいやらしくなぞってくるのでどうしようもなかった。

感じてしまったタイミングで返され、一瞬頭が真っ白になったが何とか答えるも微妙に恥ずかしい気持ちになった。いけない想像をしてしまった直後だからだろうか。

そんな顔で跡部さんを見つめていると彼は笑って「ああ、ウエディングドレスを着る時はキスマークはつけねぇから安心しな」と触れるだけのキスをした。それは、はい、よろしくお願いします。


「式をするなら2人きりか、親族以外の気軽な面子でやりてぇな。お前の両親が式を見たいっていうなら考え直すが………ああ、あと子供にも興味あるな」
「えっ」

自分もどうせやるなら形式ばったものより身近な人達で小さくもお祝いしてもらいたいって思ったから跡部さんの言葉に同意していると、最後にとんでもない言葉が飛んできて目を見開いた。

そこまでは考えてなかった。といわんばかりに声を上げれば跡部さんは笑って「だがまあ、」と続けてくる。


「まずは呼び方を変えるとこから始めるか」
「呼び、方…?」
「ああ。いい加減恋人らしく名前で呼び合いたいだろ?」


折角同じベッドで寝るんだからよ。ドキドキさせる言葉をぽんぽん投げてくる彼を見やるとニヤッと悪戯っ子のように微笑んだ。その目は明らかにその後のことを予測させるには十分なものではまた体温が上がる。

ぐいっとまた抱え上げられたは気恥ずかしいのと嬉しいのとごっちゃになった顔で「えーでも呼び慣れちゃったし」と足をばたつかせると「逃がさねぇよ!」と跡部さんがいきなり走り出した。

まさか走り出すとは思ってなくて驚いたが、担がれてる自分とか担いでる跡部さんが妙に可笑しくなったは「きゃー」と笑い混じりに悲鳴を上げ彼にしがみついた。



そしてそのまま2人は自分達の部屋へと消えていったのだった。




これでおしまいです。ありがとうございました!
2016.02.05