You know what?




□ 51a - In the case of him - □




休み時間になり、は項垂れるように机に突っ伏していた。その行為を休み時間ごとに見ているジャッカルはさすがにそろそろ聞いた方がいいか?と気遣わしげな目で眺めている。

しかし彼が声をかける前にガラっと荒々しくドアが開けられ、みんなの視線と女子生徒の黄色い悲鳴がドア口にいる人物に向けられた。その悲鳴に何事だとは顔を上げたが、目の前の彼を見て後悔したのはいうまでもない。


「何?。俺の顔を見て背けるなんて」
「いえ、何でも…ていうか、ご機嫌な斜めですね。幸村様」
「ああ。俺今日とっても不機嫌なんだ」

それは見ればわかります。にっこにこと微笑む幸村だけど纏う空気はマイナスの方だ。低い。限りなく気温が低い。極寒の地か?!とつっこみたくなる程に寒い。
近くにいたはずのジャッカルがドア口に逃げてる程度には寒い。

クラスのみんなも気づいた方がいいよ!これ全然優しくない笑顔だから!!むしろ針のむしろだから!!あ、私今うまいこと言った?


「ん?何かいったかな?」
「イエ、ナニモイッテマセン…」


口答え?何それ。と口外にいってる幸村に連れられて教室を出ると廊下の隅の方で向き合った。これから私は処刑されるんでしょうか。私何かしたんでしょうか。

「昨日」
「…き、昨日?」
「昨日、柳生と一緒にどこに行ったの?」
「…え?」
「皆瀬じゃなくと一緒に帰るなんてただごとじゃないだろ」

恐る恐る顔を上げれば、幸村は不機嫌な顔をしているが声に少し心配の色が含んでる。もしかして2人がケンカしたとか心配してるのかな?私が仲介役とか?いやいやそんなことはないのですよ。あの2人は防犯ブザーとスタンガンを共有する程ラブラブです。



「えーっと、仁王くんのことで…ちょっと、さ」
「仁王?」

眉をピクリと動かした幸村にこれいっていいのかな?と不安になったが怪我をしてることは幸村も知ってるよね。と思い直し素直に喋った。その代わり、自分のことは内緒である。

「ああ、その人ね。噂では聞いたことあるけど」
「うん、でね。柳生くんは仁王くんに復帰してほしいからその手伝いをしてくれないかって」
「…そういうことなら、じゃなくて俺にいえばいいのに」
「幸村じゃ仁王くんを崖っぷちに追いつめそうだからやめといたんじゃないかな」

なにその「ふぅん」って。何その不満そうな顔。どう考えても仁王が苦手な顔だよ。

弦一郎じゃないけど怒ったら幸村の方が怖いもん。それにかっこつけたがりだから心配させたくないんじゃないかなといえば、「それは同意するけどね」と元部長が頷いた。そこは同意するのかよ、と呆れたのはいうまでもない。


「仁王が捕まらないのは今に始まったことじゃないし、でも折を見て話しとくよ」
「くれぐれも心折ったり、イップス使ったりしないでね?」
「…。俺のことそんな風に思ってたの?」
思うも何も周知の事実ですがな幸村様。



とりあえず仁王のことは不本意ながらも幸村にも協力を仰ぐことになった。それを柳生くんに伝えれば何とも言えない顔をされたがぶっちゃけ私にはどうしようもないので諦めてもらうしかない。というか強気の幸村に逆らうなんてできないのだから。

「お前、幸村くんまで巻き込んだのかよぃ」

お昼休み、珍しく丸井がこっちの教室にまでやってきて「お前、幸村くんに何かいったか?」と問われた。始め何のことやら?と首を傾げたがもしやと思って仁王のことかと聞けばあっさり頷かれ先程のことをいわれた。


「え、マジで幸村攻めて来たの?」
「来たぜ。お陰で仁王が教室から消えた」

正確には更に寄り付かなかくなった、らしい。うわちゃー、と顔を歪ませれば丸井に「余計なことすんなよな」と怒られた。


「まあ、ヒロシと皆瀬がお前に話を回した時点で限界だってのは目に見えてたけどよ。あいつ下手すると留年だぜ?」
「義務で留年ってマジ笑えないね…」
「何だ、昨日の話はそれだったのかよ」
「まぁね」

購買で買ってきたパンを片手に零す丸井にジャッカルもこちらを見てきたが彼の方はあからさまにホッとした顔になっていた。「後で赤也に教えてやんねーとな」とか独り言を呟いている。


「で、実際どうなわけ?仁王くん」
「どうもこうもあいつマイペースだし聞いても答えねぇと思うぜ?」
「そうだろうけど……あーえっと、新島先輩とまた付き合って…んでしょ?」
「さぁな。まぁ付き合ってもまた別れそうだけど」
「…ふぅん」

脳裏にチラつく新島さんと仁王の姿に胸の辺りがじくじくと痛んだが丸井は適当に答えてきた。あまりにもどうでもよさげに言うので試しに「そういうの、部活と両立ってできないの?」と聞いてみたらジャッカルまでもが難しい顔をしてくる。



「やれなくはねぇとは思うけど、」
「仁王は要領いい方だけど相手があの人じゃ無理じゃね?つーか、最初は良くても途中で彼女のこと考えんの面倒になると思うぜ」
「ブン太も無理だったしな。「余計なお世話だっつーの」…皆瀬みたいにマネージャーっていうならある意味可能かもしんねーけど」
「皆瀬とヒロシは規格外じゃね?普通はもっとベタベタするだろうし、」
「しかも一緒にいれる時間短くても文句もいわねーしな」

全国区の部活ともなると勉強以外の時間を大幅に持っていかれるのは当たり前だ。しかも空いた時間はほぼ全部テニスに注ぎ込む奴らだ。そんな中でお付き合いをするというのは至難の業だろう。

だからこそ回転の速さなのか。と目の前の丸井と脳裏に浮かぶ仁王を見て溜め息を吐いた。
今迄別れた女の子に同情したくなるのはどうしようもないことだろう。勝手に天秤にかけられて、付き合ってるのに自分の方が軽いとわかってしまったら誰だって怒る。


「ま、仁王が調子戻してくればテニスも幸村くん達も問題ないってことだろぃ?」
「それはまあ、そうだけど」

それができなくて柳生君達困ってんのに。何か知ってんのか?と聞けば逆に「お前知らねーの?」と普通に返された。何の話だ。


「あの人かどうかは知らねぇけど、仁王の奴また女遊び始めたらしいじゃん?もう少しすればいつもの感じに戻るんじゃね?」
「……女遊びについてはいいのかよ」
「いいんじゃねーの?少なくとも幸村くん達とテニスやってる内はどっちもうまくできるなんて思う方が間違ってんだよぃ。むしろ気軽に付き合った方がお互いの精神的にもいいんじゃね?」
「…ジャッカル。こいつ自分のこと棚に上げて女の敵発言してんだけど」

つーか、テニスのせいにするのおかしくない?とムスっとした顔でいえばジャッカルは何とも言えない顔で頭を掻いた。


「胸張って言える話じゃねぇが仁王が前みたいにテニスをやるっつーならその辺は見て見ぬフリするしかねーのかもな」
「はぁ?ジャッカルまで?」

信じらんない!と軽蔑を込めて男共を睨めば「女にはわかんねーよ」と嫌な言い回しで突っぱねられた。そういうの、男も女も変わらないと思うんですけどね!




*****



朝から降り出した雨はしとしとと強くもなく弱くもなく短調に降り続いていた。は窓から見える雨雲に鬱々とした天気だな、と思いながら窓から視線を逸らした。

今日は跡部さん達や亜子達とテニスをすることになっていた。気遣いか天気を予測してか跡部さんは跡部家が所有してる屋内テニスコートを予約…というか貸し切ってくれている。
午後からカラオケでも、という話だったが亜子達を見てると今日はテニスで終わりそうだな、と思っていた。

〜!試合やるよ〜!!」
「わかった〜」

友達に呼ばれコートの中に入ると既に跡部さんもいてドキリとした。うおぅ。無意識に目を合わせてしまったよ。視線をくれてくる目から逃げるように忍足くんの隣につくとジローくんがいないことに気がついた。振り返ればベンチで横たわってる姿が見える。


「ジローくんは?」
「あいつは残りものでいいだろ」
「残りものには福があるっていうしね」
「お、亜子ちゃんうまいな。座布団2枚や」
「あはは。ありがとう」

宍戸くんを見れば彼は面倒臭そうに答え、その隣の亜子が引き継ぎ微笑んだ。赤い顔の亜子に忍足くんがニヤけて茶々をいれれば間髪入れず「侑士キモイ」と岳人くんがツッコミ、いつもの流れに達は吹き出すように笑った。


それから岳人くんが持っていたクジを引いてコートを後にする。ミスクド、というには達が素人過ぎるが跡部さん達と達それぞれタッグを組んで試合をすることになっている。
ちなみに第1試合は亜子&宍戸VS跡部&早百合だ。さっきまでラケットの持ち方とかコートの話をしたり教えてもらったりしていたが何気に運動部の亜子達は飲み込みが早く動きもいい。

下手をすると自分が1番下手かも知れない。そう思って冷や汗が流れた。さすがにそれはヤバいな。仮にもテニス部のマネージャーなのに。



「……」
「…何?」
「……脚」
「脚?」
「その格好じゃ脚見えへん」
「…………」
「はぁ〜…何でちゃんウェア、スカートにしてくれなかったん?」
「素人がそんなの持ってないし、持ってたとしても着るわけ無いでしょ」

スコア係としてと忍足くんが並んでつけているとおもむろにそんなことをいわれ半目になった。
ついでにいえばのペアは忍足くんである。

今回のテニスの言いだしっぺは勿論亜子だけど女の子はみんなただのジャージでウェアを着るようなやる気満々な子はいない。そして忍足くんや跡部さん達も普通にジャージである。
「そういうこと言うなら忍足くんも氷帝ジャージかマイウェアにすればよかったのに」といってやれば、忍足くんは何故か顎に手を当て考え込みだした。


「何?どうかしたの?」
「…いやな。ペアルックってなかなかキュンとくると思うてな」

フッと悦に浸るような顔で微笑む忍足くんにぞわっと全身の毛が逆だったのは言うまでもない。こいつ、マジ怖いんですけど。

距離をとって腕をさすれば「ええやん!お揃い!俺とちゃんで!ええコンビになると思うで!」と何故か力説されたが断固拒否しておいた。何が悲しくてテニスで漫才コンビにならなきゃいけないんだよ。四天宝寺のホモップルか。


「ええやん!ちゃんの生足見たいんや!」
「…それだけならまだ許せるものを」
「!ホンマか?!なら俺が持ってきたウェアに!」
「なんでやねん!」

何でまたウェア持ってきてんの?!女物だよ?!買ったのか?!お店でアンタが買ったのか?!

何やってんの!と裏拳でつっこめば「…そのツッコミ、嫌いやないで?」と満足そうに微笑むキモメガネがいては10m程距離をとった。「ちゃーん!冗談や〜帰っておいで〜!!」とニマニマしながら両手を広げる変態には嫌悪を露に拒絶したのはいうまでもない。



クソ、日に日に忍足くんがキモく感じてくるんだけど。友達でいれるか正直不安だ、とコートの反対側で審判をしていた岳人くんに相談すれば「諦めろ。あれは死ぬまで治らねぇ」と溜め息でもって一刀両断された。相方にも諦められてる忍足くんって…。


「何なに〜?忍足のこと苛めてんの?」
「あれ、ジローくん起きたんだ」

むぎゅっと伸し掛る重みと温かさに少しだけ振り返ればお目覚めのジローくんが「を怖がらせたらダメだろ!」と怒ってくれたが忍足くんは心外だったようで「ちゃう!イジってただけや!」と叫ばれた。どちらにしても願い下げである。


「……?」
「ん?何?」
「何かあった?」
「…え?」
「……テメーら。ちゃんと役目を果たしてんだろうな…?」

げんなりと溜め息を吐けば、ジローくんが覗き込みの顔を伺ってくる。その心配げな表情には目をぱちくりと見開いた。内心ギクリとしたのは言うまでもない。
しかし、ジローくんの言葉よりも絶対零度のような地を這う不機嫌な跡部さんの方が早かった為、何も言えずむしろ跡部さんの雷が落ちて有耶無耶になった。




キモメガネ。
2013.10.04