You know what?




□ 53a - In the case of him - □




「はぁー…」
休み時間に入るとは項垂れるように机に突っ伏した。その行為をまたもや見ていたジャッカルはさすがにそろそろ聞いた方がいいか?と声をかけた。
今回は誰も邪魔するもは現れなかったことに内心ホッとしたジャッカルであった。

「大丈夫か?」
「うん。まぁ」
「…いくら受験落ちたからって引き摺り過ぎじゃねぇか?」
「…あー、それもあるんだけどさ」

つい昨日、担任から不合格の連絡を受けたは次の日も落ち込んでいた。


こんなに落ち込むことになったのは一重に笑い者にした丸井と赤也、それに幸村のせいにほかならない。しかもあいつら平気な顔して「高校の部活はテニス部な!」とか言いやがるし。こちとら落ちたショックからまだ抜け出してないんですがね!!

「それもって、まだ悩みがあんのか?」
「…あるって言えばあるかも」
「もしかして仁王か?」
「おーさすがジャッカル。以心伝心だ」

突っ伏していた顔を上げ、にかっと笑ったにジャッカルは幾分かホッとして笑みを返すが、陰りができた彼女の表情に眉をひそめた。


「新島先輩ってさ。何で仁王くんと別れたのかな?」
「…詳しいことはわからねぇが、ブン太の話じゃ仁王がテニスを取ったから別れたらしいぜ?」
「柳生くんも似たようなこといってたわ」
「お前こそ何でそこまでその人にこだわるんだ?」
「んーなんとなく」

自分の記憶は初詣で止まってるけど、あの時の雰囲気からして悪いようには見えなかった。仁王も満更じゃない感じだったし。むしろ親しげだったし。頬杖をついてまた付き合っててもおかしくないよなーと考えていれば「あ、そういえば」と何か思い出したようにジャッカルが呟いた。



「仁王といえばちょっと前に殴られたっていってたな」
「え?!ケンカでもしたの?」
「ケンカっつーか、修羅場って1発殴られて逃げたってブン太がいってた気がすっけど…」
「…それどういう状況なの?」

修羅場って、1発殴られたってどういうこと?しかめた顔でジャッカルを伺えば「いや、俺も本人に聞いたわけじゃねーし」と困った顔で返された。だったら何でその話を振ったんだ。


「むしろお前が知ってるのかと思ってよ」
「知るわけないじゃん。修羅場るような話仁王くんが私に話すと思う?」
「そりゃそうか」

驚いた時点で気づけよジャッカル。


「つーか、それも女絡みなわけ?大丈夫なの?」
「まぁ元気みたいだし大丈夫なんじゃねーの?」
「…なんか、心配ゲージだけが伸びただけなんだけど」
「なんだそりゃ」

心配ゲージは心配ゲージだ。
ジャッカルに聞いて少しでも安心したかったのに余計に不安になったじゃないか。高校でもテニスする奴がケンカとかバカじゃないのか?つーかバカだろ。大事になってたら赤也達にまで迷惑が行くかもしれないのに何考えているんだ。

あまりにも軽薄な動きに「ていうか、これもいつも通りなわけ?」と奴の恋愛事情について訝しげに聞いてやればジャッカルは何とも言えない顔で頬を掻いた。



******



見つからない仁王が気になるものの、時間は待ってくれず刻々と卒業式が近づいていた。滑り止めで立海高校(not工業)を受けたので行き先は一緒だが昨日B組担任の渋い顔を見てしまった為心配の種は尽きない。
一応メールはしてるけど返ってこないところを見ると私とも話したくないんだろう。そう思ったら余計にやるせなくなった。


そして問題は仁王だけじゃない。


「……何でいるんですか」
「すべこべ言ってないでドア閉めてここに来なさい」

そして座れ。嫌そうに顔を歪める日吉にはムスっとした顔でミーティング室の椅子を指差した。彼は一瞬迷ったようだが諦めたように溜息を吐くとドアを閉め渋々椅子に座った。
ちなみにが指した隣の椅子ではない。反対側の斜め前だ。日吉の可愛くなさは相変わらずのようだ。

「部外者が何でここにいるんですか。ここ氷帝テニス部の部室ですよ」
「そっちこそ早速問題を起こしたんだって?」

まともに話す気もないのか顔も身体も背けた状態で話しかける日吉に益々ムッとしながらも指摘すれば彼の肩がビクッと揺れた。それから何故知ってると言わんばかりにこっちを見て睨んでくる。
君が睨んでも弦一郎で慣れてる私には春の木漏れ日並に弱いんですよ、新部長さん。


「……どこで知った」
「"ちゃんと面倒見てやる"っていうのは口だけだったのかな?それとも鳳くんだけ?」
「…違う。話を逸らすな」
「まず私の話に答えなさい。…だったら何でマネージャーがボイコットしてんのよ」
「…っ」

外はまだ部員が練習してるのか飛び交う声がここまで聞こえる。けれどそれだけでマネージャーが忙しく走り回る音もここを出入りする子もいない。
少し埃っぽい部室はブラインドが下げられ、真っ暗ではないが隙間から差し込む光くらいで薄暗い。そんな中と日吉はじっと睨み合うかのように見つめ合った。



「部活の邪魔をするなら出て行けっていったそうね。でもその意味を前もって理解できなかったの?日吉くんだってマネージャーがいるのといないのとでは大きな差があるってわかってたはずでしょ?」

どうやら新年に入って完全に3年から2年へ主導権が移動したらしく、日吉達が部活を動かし始めたのだが始めた早々に日吉とマネージャー達がケンカをして、それがきっかけでボイコットされたらしい。
お陰でマネージャー業は1、2年の平部員が交代制で賄ってるらしいが慣れない子達では他の部員まで行き届かないし、手伝うだけで自分達の練習ができない部員の不満は溜まる一方だ。


それをわかってて黙々と練習してる日吉に副部長の鳳くんが痺れを切らしてにヘルプをかけてきたのである。しかも休日の日曜に。それも今もれなく行きたくないと思ってた氷帝に。

後でたっぷりお礼をしてもらうからな、と言わんばかりのに正論をぶつけられた日吉は顔を歪ませると悔しそうに下唇を噛んだ。


「…何でそうなっちゃったの?」
「アンタには関係ない」
「関係ないけど、同じマネジとして侮辱されたならちょっとは言い返してやろうと思ってね」
「侮辱なんてしていない…!」

日吉に睨まれたらいくら訓練された氷帝のマネージャーでも怯んでしまうだろう、そう思って彼を見ればガタ!と立ち上がって否定した。その瞳は真剣そのもので嘘をついてるようには見えなかった。


「じゃあ何?日吉くんが怒っただけで勝手に嫌になってマネジが仕事を放棄したって言うの?違うよね?」
「……」
「立海はもう動いてるよ。赤也を中心に一丸なって挑んでくる。青学だって海堂くんや桃ちゃん達が全国を目指してるんだよ?」
「……っ」
「日吉くんは…氷帝はもう全国を諦めたの?」


イライラしている様子は見て取れたが日吉は立ち上がったまま逃げようとはしなかった。しなかったが拳を作ったまま苦しそうに眉を寄せていて見ているこっちまで息苦しくなる。
そうやって口に出さないのは日吉の悪い癖だ。だから鳳くんが私に連絡してくるんだよ。



「日吉くんは、それでいいの?」
「…っいいわけないだろ」

いい訳がない。それは十分にわかってる。けど策がない、といったところだろうか。何度か歯噛みをして迷った様子を見せていた日吉に「もう観念して喋っちゃったら?」と気軽な感じで話を促した。

「喋って楽になっちゃえよ」
「……軽く言ってくれるな」
「なんなら鳳くんか樺地くんに聞いてもらうとか。もしくは3年生とか」
「折角引退してもらったんだ。先輩達に相談するつもりはない」
「…さよですか」
「……」
「……」
「……ひとつ、確認がある」
「何?」
「誰にも言わないって約束できるか?」
「…約束するよ」


鳳くん達にも言う気がないのか約束を取り付けて日吉は気持ちを入れ替えるように大きく深呼吸をした。それから決心がついたのか挑むような目で見つめてくる。

「立海はマネージャーが2人しかいないんだったな」
「うん、そうだよ。氷帝は…結構いたよね」
「ああ。レギュラーと平合わせて20人近くいる。その内3年が10人いたから今は半分といったところだ」
「…本当に、結構な数いたんだね」


まあ確かに200人規模の部員を賄うとなったらそれくらいいてもおかしくないだろうけど。若干引き気味に聞いていれば跡部さん達が引退したと同時に3年生のマネージャーも引退したらしく、跡部さんの遺言…じゃなかった助言でことは一変したらしい。



「従来、レギュラーマネージャーの昇格は3年と部長副部長の認定が必要になる。引退する際も俺達がレギュラー昇格の試合を組むように、マネージャーも3年マネージャーの検定を受けなくてはならない」
「……(面倒くさいだろうなぁ)」
「だが跡部さんは俺達の代で変えれていけばいい、といってその"規則"をなくしてしまったんだ。規則がなくなれば統制なんてすぐに崩れる。奴らはこぞって自分をレギュラーマネージャーにしろと言い寄ってきたんだ」
「……」
「笑えるだろ?部長の俺が仕事に専念しろ、といったら今度はボイコットだ。来るように要請したところで交換条件をつきつけてくる」
「でも、実力は日吉くん達が見ても明らかにわかるんじゃないの?」
「…っそれで、俺専用のマネージャーを決めろっていうのか?!」

自嘲気味に笑う日吉に慎重に言葉を選びながら進言すると彼は近くにあった資料棚を勢いよく叩いた。その音にビクッと肩が跳ねる。俺専用のマネージャー????と瞬きすれば、日吉が苦々しく頷く。眉を寄せてるのに頬は赤くて変にミスマッチな表情だ。


「………それ、跡部さんにもいたの?」
「跡部さんだけじゃない。レギュラーには全員ついていた」


聞いて唖然、というか目眩がした。え、何それ。氷帝ってそういうところも規格外なの?
一瞬、脳裏に跡部さんの後を樺地くんのようについていくマネージャーという女子生徒が過ぎり、ぎゅっと眉を寄せた。胸がイガイガして気持ち悪い。

胸を摩りながら日吉を見やると薄暗いにも関わらず彼の顔は真っ赤になっていた。随分テンションが上がっちゃったみたいだ。


「……あ、もしかして、それが嫌で突っぱねたの?」
「当たり前だろ!何でテニスをしてるのに彼女みたいに女を引き連れなくちゃならないんだ!!」

うわー…。跡部さんと忍足くんなんて簡単に想像できたわ。そんな姿全然見たことなかったけど練習中はべったりだったのかもしれない。そう考えたらまた胸の辺りがじくりとした。



「ていうか、実際の彼女って訳でもないんだからそのくらい大目に見てあげたら?」
「………」
「………え?いるの?日吉くん好きな子いるの?!」
「俺じゃない!」

驚き!という顔をすれば日吉は真っ赤な顔を更に赤くして叫んだ。…シャレの通じない奴め。

まあ、テニス馬鹿で忍足くん達の所業(主に黒い噂)を見てきた日吉がおいそれと彼女を作ろうとはしないか。というか、そんな時間があるなら練習するぜ!というタイプだろうし。その辺は赤也と気が合いそうだけど。
そんなことを考えていたら隣の部屋からガタ、と小さな物音がした。彼は隠れる気はあるんだろうか。


「あーじゃあ日吉くんを好きな子がいるんだ」
「……」
「んで、その子を傍に置こうか悩んでるわけ?」
「…別に悩んではいない。そいつが1番手際が良く無駄口を叩かないだけだ」
「十分に悩んでるじゃねーか。いいじゃん。仕事できるんだから専用マネジにしたって」
「そんな不純な気持ちでマネージャー業を任せられるかっそれに、……その席を狙ってるのは1人じゃない」
「うーわー。随分おモテになるようで」

確かにテニスしてる姿は格好いいもんね。ツッコミきついけど。
半目でカラ笑いを浮かべれば赤い顔で鋭く睨まれた。威嚇失敗してますよお兄さん。




モテモテぴよし。
2013.10.06