You know what?




□ 54a - In the case of him - □




「選ぶ気はないの?」
「ない。そもそも俺はそういう目で見たことはないからな」
「へぇ…(これだからテニスバカは…)」
「そこでこの前…鳳には止められたが、この事態を収束するにはそいつら以外を選べばいいと思って実行しようとしたんだが……」
「ボイコットされたと。八方塞がりってわけか」
「そういう訳でもない。そもそも女を入れること自体間違っていたんだ。平部員も今は覚えたてだから不満があるだけで仕事を覚えれば問題はない」
「男子マネージャーを作るってこと?」
「そうだ。それに、女は人数が多ければ徒党を組むし、正直に言えば傷つけられたとすぐ泣く。こっちは部活がしたいだけなのに何で奴らのご機嫌取りまでしなくちゃならないんだ…!!」
「…あのねぇ日吉くん、」

「日吉!それは違うよ!!」


アンタは相手に機械にでもなれっていうのか、とつっこもうとしたらバーン!と扉を開けて鳳くんが堂々と入ってきた。彼は今にも泣きそうな顔で日吉を睨むとズンズンと進み、「日吉!」長机を叩く。

もしもし鳳くん。確か君は私に日吉を説得するようにいってませんでしたっけ?何で出てきちゃうかな?


「志木さんだってそんなつもりで日吉のバックアップをしてたんじゃない!いつも俺達の為に手伝ってくれてたんだ!!なのにその気持ちを否定するようなこといわなくたって!」
「(鳳くんにまでバレてたんだ…)」
「黙れ鳳。お前だって同罪だ。副部長の権限も生かせずあいつらを野放しにしてるじゃないか」
「うっ…」
「志木もあいつらも今頃、俺達を見て嘲笑ってるだろうぜ」
「そんなことはない!だって…だって志木さんは…っ」
「いい加減にしろ鳳。お前はどっちの味方だ?俺が嫌ならテニス部を辞めたっていいんだぜ?」
「……っ日吉!!」
「あーはいはい。ストーップ!アンタ達ケンカしないの」


今にも掴みかかりそうな雰囲気に水を差せば、殺気を孕んだ睨みと今にも泣きそうな縋る視線という両極端な2人がこっちを向いた。



「部外者は黙っててくれませんか」
「日吉!!」
「元々はお前のせいだろ?この人を呼んで部の恥を晒したいのか?」
「ちがっ…俺は、」
「ストップ、ストーップ!…おおよそ事情はわかったけど、結局のところアンタ達はどうしたいわけ?」
「「?」」
「このままマネージャーを解任したいの?それともマネージャーに戻ってきてほしいの?」
「迷うまでもない。勿論解に」
「勿論戻ってきてほしいです!!」

日吉に被せるように断言した鳳くんに、キノコ頭の部長は心底嫌そうに「お前にプライドはないのか?」と零した。


「奴らはテニス部を潰そうとしてんだぞ」
「彼女達はそんなつもりでボイコットをしてるんじゃないよ!ただ日吉とちゃんと対等に話をしたいだけなんだ!!」
「対等に…?」
「そうだよ!だって日吉は勝手に決めちゃうじゃないか!練習も人の割り振りも!」
「練習や試合の結果を見ての判断だ。その件についてはお前も納得しただろう?」
「そっちじゃなくて、マネージャーの方だよ!!日吉、その件に関して先輩達にも志木さん達にも相談してないじゃないか!」
「……っ」
「いくら自分のことが好きだからって、だから遠ざけるなんて酷すぎるじゃないか!」
「…だったら聞くが、あいつらのアプローチに下心がなかったと断言できるのか?」
「それは、」
「俺は、そんなことの為に時間を割くのはゴメンだ。全国の妨げになるのなら誰であろうと容赦しない」


「……っ!そんなのみんな同じだ!!全国に行って嬉しかったのも、負けて悔しかったのも!それを感じてるのは試合に出た俺達だけじゃない!応援してた部員だけじゃない!彼女達だってあそこに、あの場にいたんだ!……彼女達だって大事な俺達の"仲間"なんだよ?」


鳳くんが発した言葉でシン、と静まり返った。じっと見つめ合う2人は引くつもりがないのかどちらも目を逸らさない。
ただ1人置いてきぼりを食らったは頬杖をついたままその光景をぼんやり見つめた。相変わらず正反対だよね、君達。



「……それも含めて跡部さんが"なくした"なら、多分日吉くんが"規則"を作っていいんだと思うよ」
「え?」

やんわりと発した言葉に先に鳳くんが反応してこっちを向いた。目を丸くして首を傾げる姿と、水を差すんじゃねーよ、と言わんばかりに睨んでくる不機嫌な日吉は対照的だ。その2人を見て思わず吹き出してしまった。

あーやばいやばい。日吉の眼力が2倍になった。慌てて笑みを引っ込めると少しだけ身を乗り出した。


「ホラ、跡部さんには樺地君がいたけど正式な副部長はいなかったでしょ?それらしい位置に忍足くんがいたけどマイペースだし面倒なことには心閉ざすし…で、実質跡部さんしか動いてなかった」
「…確かに、そうですね」
「……」
「だから数を雇ってそれぞれに細かいところまで面倒見るようにマネジをつけてたんじゃないかな?」

あの跡部さんなら他レギュラーのメンテナンスするのもできなくないだろうけど、個性が強すぎるあのメンツじゃ反発するだろうし、自分の仕事も減るし、女の子なら嫌がらないだろうっていうことだろうか。
ああ、考えたらまた胸が痛くなってきた。


「だったらさ。いっそのこと専用とかレギュラーをなくして全部ただの平マネジにしちゃえばいいんだよ」


それで解決じゃない?と言ってのければ日吉と鳳くんがポカンとした顔でこっちを見ている。私も大概保守派だけど他校のせいかな、結構客観視できてるんじゃない?


「跡部さんの時は必要だったかもしれないけど、今は日吉くんが部長だし、鳳くんもいるし、君が煩わしいって言うならそれを壊したっていいんだよ」
「……」
「で、でもそれじゃ…」
「勿論、伝統云々とか色々煩いこと言われるだろうけど、君達はこの2年間、誰の下でテニスしてたの?」
「あ、とべさんです」
「そう。1年で3年の先輩すっとばして、ていうか全員叩きのめして部長になったっていう彼と一緒にテニスしてたんでしょ?だったら少しくらいハメを外しても笑って許してくれるよ」
「「……」」
「それに本気でアンタ達を応援したいって思ってるなら、マネジの子達だってレギュラーだろうが平だろうがそんなことにこだわったりしないよ」



まあ、アンタ達ならまた募集かけたってマネジの1人や2人…いや20人くらい簡単に釣れるでしょ。そう笑って言ってやれば「他人事ですね」と皮肉めいた言葉で日吉に返された。デジャヴである。

でも、少なくとも自由にしろって跡部さんがいってくれたなら他の誰かが文句を言っても彼だけは鼻で笑って味方についてくれるってなんとなく確信があって、ニヒルに笑う日吉に「どうすんの?新部長」と問うた。


「とりあえずは現在のマネージャーは解散だな」
「日吉!そんなことをしたら志木さんが…っ」
「志木もボイコットを促した自己アピールが過ぎたあいつらも解雇だ。二言はない」
「日吉っ!!」
「それで来週マネージャーの募集を行う。そこで来た奴をマネージャーとして受け入れる」

そういって組んでいた腕を解いた日吉は部室を出ていこう歩き出した。すれ違う鳳くんは驚いていたけどすぐに目を輝かせてた。


「日吉くん、」
「…まだ何か用ですか?」
「もし、その募集で今のマネージャーが来たらちゃんと謝るんだよ」

その志木さんが来ても。部活の邪魔だなんて彼女達にとっては心外もいいところのはずだから。
振り返った日吉がの言葉でこれでもかと眉を寄せたが反論せずに頷いてくれた。一応悪いとは思ってたのね。


「……下剋上だ…」


ぼそりと聞こえた言葉に首を傾げ日吉を見たが彼は素知らぬ顔で「先輩、」と呼んでくる。身体ごとこちらに向けまっすぐ見つめてくる姿勢に『おや?』と思ってなんとなく姿勢を伸ばした。弦一郎と道場で対峙してる時と同じ気分だ。

「何?」
「うちのバカ副部長がすみませんでした」
「っな!バカってなんだよ!!」
「バカだからバカっつったんだよ」



無関係な先輩まで巻き込みやがって。と口には出さず日吉は鳳くんをひと睨みすると形式だけだが軽くに会釈をして部室を去っていった。存外あいつも不器用で出来てる人間のようだ。

でも口元は笑ってたので多分もう大丈夫なんだろう。

荷物を手に立ち上がれば鳳くんと連れ立って部室を出た。初めてドアを開けてもらうという紳士的な光景に目を瞬かせながら校門までゆったりと歩いた。


先輩!ありがとうございました!」
「いやいいよ。宍戸くんを頼らなかったのは意外だったけど」
「…だって、宍戸さんは引退しましたし、これ以上迷惑はかけたくなくて」
「私への迷惑はいいのかな?ん?」
「えっちょっと、先輩?いたっ痛いですって!」

この子、部活はいいのかな?と内心不安になりながらも柔らかい頬を摘んで引っ張れば、首元のクロスを揺らし涙目で「ごめんなさい〜」と謝ってきた。まったく、いつ見ても可愛い大型犬だなもう。


「だって宍戸さんにいったらきっと日吉のプライドが傷つくだろうし、それに先輩ならちゃんと聞いてくれるって思ったから…っ」
「………本当、鳳くんっていい鼻してるね」

勘というより嗅ぎ分ける鼻だろう、そう思って摘んだ頬を離せば彼はまた不思議そうに首を傾げた。
いいのよ、君はそのままで。間違ってないから。私が弦一郎とか赤也に嫌味言われるだけだから。

「日吉には日吉のいいところがあるって早く気づいてもらいたかったから…こうやって先輩を呼んだことも、多分跡部さんは許してくれると思います」
「…鳳くんこそ宍戸くんから巣立っていけそう?」
「……どう、ですかね。正直このまま高校に行けたらなって今も思ってますけど」
「おいおい」



氷帝って飛び級あったっけ?と聞いたら首を横に振られた。体格的には問題ないだろうけど年齢差はどうしようもないよ鳳くん。

「でも宍戸さん達がいないテニス部で活動してみてわかったんです。俺に足りないところとか、日吉やテニス部が前とは違った角度で見えてきたのもあってちょっと楽しいんです」
「……」
「跡部さんのように、とはいかないと思うけど俺達なりにテニス部を盛り上げられたらいいなって思って。日吉もそうですけど樺地も頑張ってるみたいだし俺も頑張って来年はもっと強い俺になって宍戸さんとまた一緒にテニスできたらいいなって、そう思ったんです」
「そっか…」


宍戸くん、鳳くんはきっと一緒にいられるギリギリまで君から卒業する気はないようだよ。

校門前で止まり、守衛さんに挨拶したは清々しい顔で空を仰ぐ鳳くんの横顔を見つめながらそんなことを思った。頑張れ宍戸くん。じゃなかった亜子!アンタの幸せは多分高校1年までだ。来年には小姑というか本妻が確実にやってくるぞ。


「でも先輩ってやっぱり凄いですね」
「え?」
「マネージャーのこともそうですけど、跡部さんのことも他校なのに熟知してて」
「…っ?!」
「まるで渡瀬先輩(跡部さん専用のマネジ)のようでした!」

満面の笑みで賛辞を述べてくれたのであろう鳳くんは無邪気な顔でを赤面させた後、その笑顔で奈落の底に突き落としたのだった。




ダークホース長太郎。
2013.10.06