You know what?




□ 67a - In the case of him - □




「「スミマセンでした!!」」
次の日、食堂に行ってみると昨日ケンカした2人が揃ってに向かって頭を下げた。その後ろには跡部さんと観月さんがいては目を瞬かせ、それから眉尻を下げて笑った。
結局昨日、私を怪我させた子達と話せずに仕事を終えてしまったから気にしてたんだけど、まさか起きた早々に謝られるとは思ってもみなかった。

というか、これから朝食を作るってのに起きるの早過ぎでしょうよ。

仲直りが済めば、生徒達は観月さんが組んだトーナメント試合に入り熱い戦いを繰り広げている。午後に入っても熱気冷めやらぬコートに感心と溜め息を零しているとコートの外に見覚えのある姿を見つけた。

は驚きコートを出るとそこには姿がなくて辺りを見回した。小さな子供じゃあるまいし、見落とすわけないんだけど。そう思って土手を駆け上がり入口の方へ走っていけば先程見つけた人物の後ろ姿を捉えた。


「織田くん!」
振り返った彼はメガネを反射させ「おや、見つかってしまいましたか」とさも驚いた素振りをした。

「…わざと見つかるように歩いてたくせによくいうよ。ていうか、学校どうしたの?」
「丁度テスト期間で早く終わったんです。さんこそここで"給食のおばちゃん"をしてるんですか?」
「そうそう。あと何でかマネージャーもしててね」

そこまでいったら織田くんはまた驚いて「…そうですか」と腕を組み何かブツブツ言っている。「アイツめ…」とか憎々しい言葉が聞こえた気がしたけど聞かなかったことにしていいでしょうか。


ただならぬ雰囲気に話を変えようと思って、そういえば海外研修はどうしたんだろうと聞いてみたら「次回に見送りました」とあっさり返された。

「え〜でも、そういうのって時期があるんじゃないの?」
「そうなんですが、管理してくれる人がいないので諦めたんです」
「えええー…」

研修に行けないのは私のせいなの?と眉を寄せたが一応謝っておいた。でも私物を使う気軽さは榊さんちの方が断然上なのだよ。お詫びに何か奢るよ、と言ってみれば「では久しぶりにさんのご飯が食べたいです」と言われ目を瞬かせた。



「実は朝以降何も食べてなくて」
「ええっダメじゃん!あーでも家じゃないから作り置きなんてないしなー…あ、」

もしかしたら食堂に残り物があったかも、そう思って織田くんにここで待つように言い残しては合宿所へと戻った。

食堂に行けばご飯が残っている。夕飯は夕飯で新しく炊くからこれを食べるのはやスタッフだけだ。食堂に残ってたスタッフに断りを入れておにぎりを作ったは急いで織田くんの元へ戻った。


「あ、あれ?」

合宿所の出入り口にかかる並木道まで戻ったが織田くんの姿はなかった。もしかして帰ったのか?と見回していれば木の陰からひょっこり顔を出し手招きしてる彼を見つけそちらに駆け寄った。

「よかった。帰っちゃったのかと思ったよ」
「帰りませんよ。それより本当に持ってきたんですね」
「さすがにお腹空かせてる学生をただ帰すわけにもいかないでしょ。でも持ってこれたのはこれだけだけどね」
「…とんでもない。これで十分ですよ」

並ぶように木陰に座り込み、持ってきたおにぎりを見せれば織田くんは小さく笑って受け取り、ラップを剥いて1つを頬張った。

「…やはり、さんの味付けはいいですね」
「あはは。塩だけだけどね」
「この塩梅がいいんですよ」

そんな褒められると照れるな、と頬を掻けば織田くんは更に「お嫁さんに欲しいくらいです」とまで言ってきては「わーやめっやめて!」と手を振った。一言二言くらいなら笑顔で「ありがとう」って言えるようになったけどベタ褒めされるとどうしても照れくさくなってしまう。

熱くなった頬や首を隠すように手を当てたはもぐもぐと美味しそうに食べる織田くんを見てへらりと微笑んだ。



「おい!どこにいる?!」
「「っ?!」」

おにぎりを食べる織田くんの隣に座っているといきなり怒声が聞こえ、肩を揺らした。こっそり振り返れば跡部さんがイライラとした顔で辺りを見回している。うえええっ何か怒ってるんですけど?!

ハッそうか!マネジの仕事!自分の本来の仕事+αを思い出したは慌てて木陰から出ようとしたが、織田くんに腕を捕まれ阻止された。

「(おおおお織田くん!離して!行かないとみつかっちゃうよ!!)」
「(…どうせろくに探しませんよ。待ってれば勝手に戻りますから)」

そうなのか?と伺っていれば腕を組んだ跡部さんは苛立たしげに足を鳴らしたが数分もしない内に来た道を戻りだした。意外とあっさりしてるんだな。何かちょっと寂しい気持ちになったんですけど。
「言ったとおりでしょう?」と零す織田くんを見れば「貴女がわざわざマネージャー業をしなくてもいいんですよ」との手を取り、手の平を見て眉を寄せた。


「転んだんですか?」
「う、うん。まぁ…でも大丈」
「他にも怪我をしたんですか?」
「夫って………うん、膝もだけど、ぉった!」
「ドジですね。何をやってるんですか」
「あはは…」

逆光メガネなのにじろりと睨まれた気がして苦笑すると織田くんが本当に大丈夫なのか?ともう1度聞いてきた。心配性だな。「全然大丈夫だって!」と手を振れば彼は何でか諦めたように息を吐く。何かこの微妙に腹が立つ態度誰かさんに似てるんだけど。

「大丈夫というならこれ以上何もいいませんが気をつけてくださいよ?ふらついてボールでも当たったら一大事なんですから」
「そこまでヘマはしないよ」
「そう願います。それからそのマネージャー仕事も無理してやる必要はないと思いますよ。彼らは自分で自分のことはできますし、やろうと思えばコーチであるあの2人も他のスタッフもいるんですから」
「…た、確かに、」
「その分もちゃんとお給料は頂けるんでしょうね?」

貴女を見てると無料奉仕をしていそうで心配です。と不安げに見られたがその件については観月さんがちゃんと計算してくれると聞いていた。火事に遭ったことが漏れてるのかそれを含めての仕事量らしい。



色々考えてくれてて頭が下がる思いだ、と思っていたが織田くんも考えてくれてたとは思わなかった。は笑みを作ると彼の肩をを撫で「ありがとう」と礼を述べた。

「大丈夫だよ。私には今回心強いデータマンがいるから」
「…ならいいんですが」

少し面白くなさそうにする織田くんの肩から手を離すとはゆっくり立ち上がった。近くにはもう跡部さんの姿はない。


「今日のことは内緒にしてあげるけど、もうここに来ちゃダメだよ?見つかったらただじゃすまなくなるんだからね」
「…入り放題でしたけどね」
「簡単に入れても入っちゃダメなの。ここ人様の敷地なんだから」

め!と怒れば織田くんが「わかりました」と肩を竦めた。よろしい。

「私は戻るけどちゃんと帰れる?」
「私をいくつだと思ってるんですか。勿論見つからずに帰りますよ」
「ならよかった。じゃあテスト頑張ってね」

それでテニス続けてたらまた会おう!と手を挙げたら「テニス以外の日も会いに行きますよ」と言って彼は手を振り返した。テニス以外も…?
何か変な宣言されたぞ?と思いながら織田くんと別れ、コートに急ぐと前を歩く跡部さんを見つけた。思ったよりゆっくり戻っていたらしい。このままだと追いつくな、と思ったらさっきの剣幕も思い出しスピードをぐっと落とした。

そしたら彼がいきなり振り返ったので危うく口から心臓が飛び出るところだった。

「よお、」
「ど、どうも」


丁度コートに向かう土手の上で立ち止まった跡部さんにも数メートル距離を保って止まったが彼は長い脚でもって一気に距離を縮め目の前に立ちはだかった。勿論は内心悲鳴を上げた。



「どこで油売ってたんだ?アーン?」
「ちょ、ちょっとそこで野良猫を見つけまして…」

戯れてました。と咄嗟に思いついた言い訳をすれば彼は鼻で笑って「野良猫、ねぇ」と探るような目つきでこっちを見てくる。そんな目で見られる筋合いはないんですけどね!
そんな挑発的なことを思ってたせいだろうか。次の瞬間は跡部さんに頭を鷲掴みにされていた。


「いたっいだだだだっ!」
「ハッ!相変わらずテメーの頭は掴みやすいな!」

勝手にいなくなった罰だ、とかなんとかいっての頭を掴んだ跡部さんはクレーンよろしくな感じで上へと引っ張ってくる。首!首が伸びますって!!
ぎゃあ!とじたばた暴れれば跡部さんはゲラゲラ笑って更に引っ張った。そして観月さんが呆れた顔でやってくるまでそのやりとりが続いたのだった。ジーザス。



******



に怪我をさせた後輩共に謝らせ、トーナメントの試合をしているといつの間にかあいつの姿が消えていて慌てて探した。そんなことをしなくてもすぐに戻ってくるとわかっていたのになんとなくじっとしていられなくてそれらしいところに向かったがは見つからなかった。

いないことに焦れる気持ちはよくわからないが、もしかしたら先日観月にいわれた言葉が脳裏を過ぎったからかもしれない。

『合宿参加者の大半は佐藤さんを意識してるんですよ』

に恋したり告白するくらいどうってことはねぇ。どうせそれが成就することはないだろうし、あいつらだって一時期の気の迷いで結局はテニスを選ぶに決まっている。ただ、それをわかっているであろうがわざわざ呼び出しに応じてその場所に行くことがなんとも腹立たしかった。


そういう期待をさせるから相手は図に乗るんだよ。襲われでもしたらどうすんだ。断れないように迫られたらどうするつもりなんだよ。お前押しに弱いはずだろ?
考えれば考えるほど悪い方にしか行かなくて跡部は内心苛立ちと焦りでいっぱいになっていた。クソっあいつは仕事をサボって何してやがるんだ。

仕方なく来た道を戻っていると背後に彼女が現れ、さも今出会いましたみたいな顔をするから腹が立って頭を鷲掴みしてやった。
テメェが俺の後をついてきてたのはお見通しなんだよ!!隠れてやがったな?!


ぴーぴー騒ぐ彼女に鼻で笑った跡部は観月に呼ばれコートに下りると、先に下りた彼と目が合い何だ?と視線で返した。

「まったくあなた方は何をやってるんですか。遊びに来たんじゃないんですよ」
「アーン?遊んじゃいねぇよ。教育的指導だ」
「…僕にはただのじゃれあいにしか見えませんでしたが?」

じと目で睨んでくる観月に跡部は何言ってんだと、呆れた顔で視線をコートに向けると「まさか探しに行ったと称してよからぬことをしていたんじゃないでしょうね?」と追い討ちをかけてきて思わず眉を寄せ奴を睨みつけた。そこまで無作法じゃねぇよ。

「テメェは俺をサルか何かとでも思ってんのか?」
「少なくとも僕を含めてここにいる全員がそう思ってますよ」

その言葉に生徒達を見ればじっとこっちを見ていたり慌てて顔を逸らしたりしている。そういえば、テレビやネットじゃまだ騒がれてた話題だったな。



コートの出入り口付近でドリンクとタオルを回収しているややへこんだ顔のを見やり、視線を戻した跡部は溜息をついてこめかみを指でグリグリと押さえつけた。


「…佐藤が誰かに呼び出されてたんだよ。"告白にすら至らない"っていったのはどこの誰だっけなぁ?」
「?おかしいですね。合宿参加者は全員コートにいたはずですが」
「お前の目を掻い潜って抜け出したんじゃねぇのか?」
「そんな度胸がある者がいれば見てみたいですが…跡部くんの勘違いでは?佐藤さんだってたまたま見えない場所にいただけでしょう?」

そういわれると確証のない跡部は引き下がるしかない。だが、自分の中では確実に佐藤が誰かと、恐らく男と会っていたと確信しているから余計に不満だけが溜まっていく。コートにいる後輩達を見ながら後で探ってみるか、と睨むとその視線の方向にいた何人かがビクッと肩を揺らした。

「ところで観月。お前は俺の話とゴシップのネタ、どっちを信じてんだよ」
「テニスの実力は認めていますがそちらの方はゴシップの方が正確だと思わざる得ない部分が多々ありますね。僕が情報を集めていた頃もろくな噂話が回ってきませんでしたし…それに先程のことを見せられれば、多感な彼らは妙に勘ぐってしまうでしょう」
「別に何もしちゃいねーだろうが」
「何かしたら追い出しますよ。僕らの時と違ってここにいる生徒達は"告白すらままなってない"純粋な子供が多いんです。少しは自粛してください」
「ハッ!高校になって初心とか笑えるじゃねーの。観月お前マジでいってんのか?」
「本気じゃなければそんなことはいいませんよ」

元々突飛な自分を自覚したらいかがですか。と呆れる観月に跡部は目を瞬かせ自分より年下ではあるが体つきは大人と大差ない子供達を見やった。
殆どが羨ましそうに睨んでくるか顔を赤くしてやがる…。そういえば、ここでははあいつらの憧れの的みたいな立ち位置だったな。


「めんどくせーな…」

呆然と見つめる跡部に盛大な溜め息を吐いた観月は「先日もいったとおり近年はストイックに好きなことを没頭する子が多いんですよ」とのたまった。マジかよ。俺達が高校の時はあの宍戸ですらこの手の話についてこれるようになってたんだぞ?

こいつら大丈夫なのか?とこれからの日本について少しだけ不安になった。


「それはそうと、仲直りしたんですか?」
「は?何の話だ」
さんとの関係、を、ですよ」

跡部の一抹の不安など素知らぬフリで話を振ってきた観月に片眉をあげて返すと話を引き戻された。彼がチラリと見やった方に視線を送ればしょんぼりしたものの一生懸命に働くの姿があってなんともいえない顔になった。

「仲直りも何もケンカすらしてねーよ」

ケンカ以前の問題だろ。そういい含めて返せば観月は胡散臭そうな目でこっちを見て、それからわざとらしく溜息を吐いて視線をコートに戻した。



「貴方にも子供っぽいところがあったんですね」
「…何が言いたい」
「その顔を鏡で見てきたらいかがですか?」

練習してる彼らと左程変わりませんよ、とまたわざとらしく溜息を吐く観月に跡部は益々疑問に思い眉を寄せた。
相変わらず頭痛は治らねぇしもよそよそしいままだ。仮にケンカしたとして、これのどこが仲直りだっていうんだ?

「はぁ?!ち、違うよ!!何いってんの?!」

眉間に皺を作ったまま声がする方(といっても女の声は1人しかいないが)を見れば、後輩達に囲まれたが困惑した顔で「違います!!」と否定していた。
その焦った顔に何してんだと見ていれば視線に気がついたのか彼女はバッとこちらを向いてきたので思わず構えてしまった。いや、構える必要なんてなかったのだけれど。


バチっと合った視線にお互いが動けずにいれば、先にが視線を逸らしそそくさとコートを出て行ってしまった。

「…ガキかよ…」

逃げていった彼女にそう吐き捨ててみたがそれ程苛立ちも沸かなかった。多分、あっちもあっちで自分が観月にいわれたことを後輩達に聞かされたんだろう。
ほんのり赤く動揺した顔を見たらむしろ笑みすら浮かんで、ニヤニヤと彼女の後姿を見ていれば隣にいた観月が「やれやれ、」と肩を竦め、また溜息を吐いた。




ジリジリ。
2013.10.23
2014.03.30 加筆修正