You know what?




□ 76a - In the case of him - □




最近頓に携帯が騒がしい。『幸村ショック』以降学生時代の友達は特に、それ以後の友人や同僚ともあまり連絡しないのだが最近埋まったアドレスの面々がやたらと連絡してくる。

「そういえば、このメンバーってマメ通り越して中毒者だったかも」

氷帝組はまさにそうだ。学生時代は忍足くんだったが今は岳人くんの連絡が多い。特にたいした内容はないんだけどこんな頻繁に会話して彼女とは大丈夫なのか?と心配になる程度には連絡を取り合っている。

あとこいつからの連絡が異様に来るようになった。

『暇なんじゃが』
「暇っていわれてもこれから出かけるんですけど」


学生時代では想像できないくらい仁王がメールなり電話なりしてくるのだ。昔にちょっとだけクイズ形式で頻繁にメールのやりとりをしたことがあった気もするが今の方が断然多い。何があったんだ。

『…どこに行くんじゃ』
「どこって、友達とご飯食べに行くんだけど」

時間は夕方に差し掛かるところで呑み会兼食事に行くところだ。少し低くなったような声になんだよ、と構えれば『俺が誘っても断るくせに』と拗ねられた。仁王が遊びたがりってキャラブレしてるんだけど。


「仕方ないじゃん。アンタ突然誘ってくるんだもん。こっちにだって予定はあるんです」
『じゃあ来週は?』
「あー無理。忍足くんの誕生会やるとかいってた」

岳人くんが意気揚々と『はケーキ作ってきてな!』とかいうものだからジローくんも乗ってきてしまって引くに引けなくなったのだ。忍足くんって絶対彼女と2人きりで誕生日祝うタイプだって思ってたのに。

パウンドケーキでも許してくれるだろうか、と考えていると『まだあいつらとつるんでたんか』と不機嫌そうな声で仁王がぼやいてきた。

「あれ。アンタって忍足くん嫌いだったっけ?」
『別にどうでもいいと思っちょるが、ムシが好かん連中というのは覚えとる』
連中ときたか。



『悪いことはいわん。あいつらと関わるのはやめときんしゃい』
「そういわれても」
『アドレスなんて着拒でもしとけばええじゃろ』
「…仁王にそこまで言われる筋合いないと思うんだけど」

ケンカを売るような発言に言い返せば、仁王は盛大な溜息を吐いて『はほんにド阿呆じゃな』と嘆いた。

「べ、別に忍足くん達は悪い人達じゃないし。むしろいい人達だし」
『……お前さんは思い出したくないかもしれんが、跡部にされたこと忘れたわけじゃないじゃろ?』
「っ?!え、なん…」

何で知ってるの?ジローくんや忍足くんはともかく、立海メンバーにはそんなこと誰にも相談してなかったのに。驚きを隠せない声で返せば仁王は呆れたように溜息を吐いた。


『あの時はいわんかったが、お前さんが跡部を好いとってボロボロになっとるのは知っとった』
「……」
『その原因も知っとる』

原因、といわれの心臓がギクリと揺れた。寒いわけでもないのに手が小刻みに揺れる。心なしか呼吸も苦しくなった気がしてくる。


「…それ、幸村も知ってる、のかな?」
『さぁ、それは知らん』
「…そう、」
『……。じゃが、幸村と付き合う頃には粗方区切りがついてたじゃろ?』
「………多分、」
『だったら問題ないと思うぜよ』

一瞬、幸村の顔が浮かんでギクリとした。けれど、確かにその頃には投げやりにだけど諦めがついていた頃だったし、もしかしたら幸村も知らないんじゃないかと思った。思いたかった。
不毛だとわかってるのにもうどうしようもないってわかってるのに焦がれて苦しんでた自分なんて知らないままでいてほしい。



『そんなを放置しとったあいつらとつるむ価値なんてないじゃろ。また傷つけられるのがオチぜよ』
「……そう、かな」

拒絶したのは自分だったし、ジローくん達が傷つけるなんて到底思えなくて仁王の言葉は半分くらいしか理解できなかったけど、心配してくれてるんだなってのはわかって強くは言い返せなかった。

『お前さんが泣かされるのを見るのは辛いんじゃ』
「仁王…」
『だから、遊ぶなら俺にしときんしゃい』

その点俺は無害で自由だから何の問題もない。と豪語する仁王には少し躊躇したが「考えとくよ」とだけ返した。仁王も私の知る限りではろくな目に合わなかった気がするんだけど。

この前は久しぶりに会えて感動したけど、やられたことはおよそ再会を喜ぶ事柄じゃなかったと思う。職場であのゾンビ映画見に行ったっていったら「よくあんな映画見に行きましたね」とかみんなにいわれたし。私も悪い意味で記憶に残ってるし。

どうせ見に行くならみんなと話題が合うようなものを見に行きたいなぁ。



******



今日は貸切、ということで気兼ねなくお店で騒いでいた。
騒いでる、といっても煩い方ではなく賑わってる、が正しい。

店内はこじんまりとしてるが品のいいお店で店先ののれんには『かわむらすし』と書いてある。桃ちゃんから『手塚さんの誕生パーティーするんでさんも来てくださいよ!』とメールが来てひょっこりと顔を出したのだ。

不二くんとか大石くんといった青学メンバーでお祝いすると聞かされて、最初は他校の自分が混ざっても大丈夫なのか?と思ったが店内を見ればちょこちょこと見知らぬ顔もあり、で久しぶりの面々にすぐにその考えは拭い去った。

テーブルに並べられたメニューは勿論全部お寿司だが、置いてあるグラスは大半がお酒だ。そう思うと感慨深くて少し不思議な気持ちになる。


さんは手塚ともう話した?」
「うん。来た時に話したよ」

座敷に座りちびちびとお酒を飲んでいると隣に不二くんが座ってきたので座りやすいように場所を空けてあげた。不二くん越しにカウンター席を見れば手塚くんと元不動峰の橘くんが話している。
手塚くんを挟んだ隣には見知らぬ女の人が楽しそうに2人の話を聞いている。

桃ちゃんに聞けばドイツで知り合った友達らしい。日本人とのハーフって聞いたけど顔の出来が全然違う。美人だなーと考えていると手塚くんがたまたまこっちを見てきたので手を振ってみた。


「フフ。手塚ってばわざわざこっちを見なくても何もしないのに」
「え、やば、私手を振っちゃったよ」

目が合った気がしたけど不二くんを見てたのか。やっちまった…恥ずかしいと早々に手をひっこめお酒を口にすれば不二くんが驚いた顔をしてきて「さんを見てたんだよ」とフォローしてもらった。

さんの隣に僕が座ったから手塚が牽制してきたんだよ」
「ははは。何それ」

逆はわかるけど、何で不二くんを牽制する必要があるの?面白いこというなーとケラケラ笑うと不二くんも笑って「逆の方がわからないよ」とつっこまれた。



「相変わらず青学は仲いいね。誕生会でこんなに集まるんだから」
「手塚の人徳だと思うよ。僕だったらこんなに人は集まらないだろうな」
「またまた」
「ひっそり祝う方が好きだしね」

好きな人と2人きりとか。とロマンチックなことをいう不二くんに「らしいなー」と笑った。

「手塚もどちらかというとそっち側なんだけど」
「え、そうなんだ」

まあ確かにみんなでどんちゃんって感じはしてなかったけど。それはまさに桃ちゃんと菊丸くんだろうけど。


「そういえばリョーマくんは来れなかったの?」
「桃が散々呼んだけどどこかで道草くってるみたいだよ」

乾がいうには日本にはいるんだって。なんだそのストーカーみたいな発言は。それもデータなのか?と反対側の奥の方で飲んでる乾くんを見やれば何故かこっちを見ていて不敵に微笑んでいた。声なんか届いてないはずなのになんでこっち見てんのよ。

ワサビ寿司を平気な顔で食べてる不二くんに驚愕しながら普通のお寿司を食べていると「立海はこういうのしないの?」と突然不二くんがこちらを覗きこんできた。


「やってるみたいな話聞いたけど全然行ってないね」
「神奈川なのに?」
「いや、これがまた結構時間がかかるのよ」

地方と違って行くには微妙に時間がかかるし、時間を短縮しようと思うと距離の割にお金がかさむしで行きづらいんだよね。なんてぼやけば「確かに今はお金貯めたいもんね」と同意してくれた。

「今更だけど引越し祝いに何か足りないもの買ってあげようか?」
「おおう。すっごい嬉しいけど何気に困ってないんだよね」

なくて困ってるとすれば参考書とか服とか化粧品とかだし。それを買ってもらうのはさすがに気が引ける。そう返すと「だったら手塚に買ってもらったら?」とさも簡単に不二くんがのたまった。



「いや、さすがに気が引けるっていったばっかなんだけど」
「大丈夫だよ。余るほど稼いでるから」
「そういう問題じゃない気がするんだけど」

何で手塚くんの財布事情を不二くんが知ってるの。確かに稼いでるだろうけど。
さんが欲しいっていったら手塚は何でも買ってくれるよ」と笑う不二くんに手塚くんの将来が不安になった。悪い女に捕まらないといいね手塚くん。



お腹も気持ちも程よくいっぱいになったところでそろそろお開きにしようか、という空気が流れたんだけどはまだかわむらすしに残っていた。

今は二次会モードで明日が早い人達以外はまだ居残って楽しんでいる。一部は飲みなおそうぜ!と居酒屋を指定したがかわむらすしに行き慣れてる桃ちゃん達はお酒を買ってきてここで飲もう!と提案しさっきコンビニから帰ってきたところだ。

おじさんはともかく河村くんの顔は少し引きつって見えたのをは見逃さなかった。
聞けば前にそうなった時お店の座敷を散々散らかして寝るわ、自分の部屋も漁られて寝れたのが朝方だったかららしい。ご愁傷様である。


「あったあった!これですよ!」
「結構あるね」
「そうなんスよ。河村先輩物持ちいいから!」

酔った顔で笑う桃ちゃんにもへらりと笑って1冊のアルバムを受け取った。前回河村くんの部屋で漁られたのはこのアルバムらしく、「見てみたい」なんて気軽にいったら桃ちゃんが乗ってきて部屋まで案内されてしまったところだ。
ごめんよ河村くん、と心の中で謝りながらアルバムを開くと中学生だった桃ちゃん達がたくさん写っている。


「懐かしいねー」
「でしょ?越前なんかこんなに小さかったんスもん」
「可愛いねー」

桃ちゃんと河村くんの間に不貞腐れた顔で写ってるリョーマくんは彼らの肩ほどもなくて本当に可愛かった。そうだよね。1年生の頃だもんね。

随分伸びたよなーと感慨深く見ていると「みんなも見たいと思うから早く行きましょうよ」と桃ちゃんが立ち上がり二カっと笑う。も習って立ち上がろうとしたが思ったよりも酔っていたらしくふらついて座り込んでしまったので桃ちゃんに心配されてしまった。

「ごめん、ちょっと酔い冷ましてから行くよ」
「わかりました。でも早く戻ってきてくださいよ」

今回は河村先輩の人生ヒストリーもあるんで。と笑った桃ちゃんはとても悪どい顔だった。古そうな表紙にめちゃくちゃプライバシーなアルバムだと気づく。



絶対河村くん困るだろうなーと思いながらも桃ちゃんを見送るとはズルズルと移動し窓に寄りかかり息を吐いた。思ったよりも酔ってるらしい。
結構不二くんと喋ってたしな。途中から乾くんも参戦してきてたからペース速くなってたかも。目の前に座ってた菊丸くんと海堂くんは潰れてたもんな。

ドアの向こうから聞こえてくる騒がしい声にみんな元気だなーと微笑むと持っていたアルバムを再び開いた。あ、手塚くんだ。
ていうかこれレギュラー前のか?若い…若すぎる。こんな時代があったなんて。

やっぱり弦ちゃんと同じでどこかの秘密組織に改造されたんじゃなかろうか、という成長に目を凝らしたのはいうまでもない。


「…?」
「うわっ…あ、て、手塚くん?!」

2年の間に何があったんだ、と見ているとドアをノックする音が聞こえ、顔を出した手塚くんにおおいに驚いた。今まさに小さい手塚くんを見てたから余計に老けたように見えてしまった。ごめん、手塚くん。

「水を持ってきたんだが…大丈夫か?」
「わ、ありがとう!」

もう少ししたら行こうと思ってたんだ、と返すと手塚くんは「無理はしなくていい」といっての隣に座り込んだ。どうやら予想したとおり河村くんを辱める大会が勃発しておりその騒がしさに手塚くんは逃げてきたのだという。


「主役がいなかったらみんな心配すると思うよ?」
「いや、桃城達を見る限りそれはもうないだろう。皆好き勝手に楽しんでいる」

だから俺も好きにしようと思ってな。と息を吐く手塚くんの顔は疲れたお父さんみたいだった。




酒に強い弱いは私の希望的観測です。
2014.04.26
2015.12.17 加筆修正