You know what?




□ 89a - In the case of him - □




これがもし彼の病気が再発などしたなら必要有無に関わらず彼を助けたいって思っただろうけど、そうじゃなくてただに同情して手を差し伸べたならその手は掴むべきじゃない。

「……とりあえず、1歩前進、といったところかの」
「ようやくね」

ぽん、と頭に手を乗せ撫でてくる仁王を見上げれば「長かったのぅ」とさもずっとを見守ってきたようなことをいってきたので眉を寄せた。弦一郎ならともかく、仁王にそんな親みたいな目で見られる程お世話になってないんですけど。

「何をいっとるんじゃ。俺だってお前さんを見守ってきた1人じゃ」
「へぇ。それはそれは」

つい最近まで音信不通(にしていたのは自身だけど)の仁王はいわれたくないな。という目で見返せば「心外じゃ」といって傷ついた顔をしていた。


「俺もお前さんの近所でひっそり見守ってきたというのに」
「たまたまでしょ?!あそこに住んで1回もアンタとすれ違った記憶ないわよ?!」

そもそも連絡とってなかったのに何で私の引越し先の住所知ってるのよ。ありえないでしょうが。呆れて「ペテンの腕錆びついたんじゃない?嘘バレバレなんだけど!」とつっこめば奴はそれこそ呆れた顔になって長い長い溜息を吐いた。何だよそのコイツ何もわかっちゃいねぇわ、みたいな顔は。

「……それはそうと、その心機一転は何がきっかけだったんじゃ?」
「(話逸らしたな)うーん。告白?」
「……何で疑問系なんじゃ」
「…何か改めていうと照れくさくてさ」
「告られたんか」
「うん。驚いて断っちゃったけど」
「断ったんか」

何で驚いて断るんじゃ、と不可思議な顔をされたが絶対仁王だって驚くよ、と思った。

「仁王だって私に今いきなり"ずっと好きだったの!"て告白されたらビビるでしょ?」
「…そんな奴から告られたんか」
「誰かは教えないわよ」

誰じゃ?という目線に素早く釘を刺せば「チッ」と舌打ちされた。そんな世間話のネタ提供なんてしませんよ?それに相手が相手だから下手に話せないし呟かれたらいいカモ扱いだ。



そんなことを会話していたらあっという間にコンビニについてしまい、は仁王と別れようとしたが彼はコンビニなんか見えない素振りでそのまま通り過ぎていく。

「仁王?コンビニは?いいの?」
「んなもん、帰りでいいぜよ」

袖を引っ張ったがそんな調子で返され、財布は?と聞いたら最初からポケットに入ってると答えてきた。詐欺師め。


「え、ちょっと、」

じゃあ最初から奢る必要はなかったんだ、と息を吐くと袖を引っ張った手を掴まれ、そのまま引っ張られた。ぶつかった仁王を見れば「ちゃんと歩きんしゃい」といってこっちを見た後前を向いた。いやでも、これ結構歩きにくいんですけど。

仁王に捕まれた手は彼の手と一緒に彼のジャケットのポケットに納まっていてまっすぐには歩けない。その上、手袋をしていないから彼の体温が直に伝わってきた。


「待ってよ。仁王、放して」
「いーやーじゃ」
「…そんな可愛くいわれても」

困るんですけど、と眉を下げれば仁王はチラリとこちらを見てぶつぶつと何かいって白い息を吐き出した。

「え?何?」
「だから。俺ならお前さんの告白、OKするかもしれん、といったんじゃ」
「………うわーお心が広い」
「馬鹿にしとるんか?」
「いや、ここまで節操がないといっそ心地いいなと…いててて!」

暴力反対!と握りつぶされそうな手に抗議すれば仁王がこっちをわざわざ見て盛大な溜息を吐いた。いや、ここで嬉しい!とか赤面されても困るでしょうよ。



「本当に寂しいんだね。クリスマスも1人なの?」
「(コイツ腹立つ顔しとるな)……そうじゃ。だからお前さんがつきあいんしゃい」
「え、それは無理」

クリスマスまでのシフト出ちゃったし。しかも出勤だし。と返したら悲惨な目で見られた。お前と一緒なのになんでそんな目で見られなきゃならんのだよ。失敬だな!と怒れば「が鈍感だからじゃ」と文句をいわれた。

「えーじゃあ、みんなでクリスマス兼忘年会でもする?」
「…なんじゃその"兼"てのといかにもとってつけた人数が多そうな会は」
「仁王が寂しくないように今度はジャッカルと柳生くんと友美ちゃんも呼んで楽しもうかと思って」
「それ、お前さんが幹事やるんか?」
「…………あー……」
「面倒だと思っとるのにいうんじゃなか」


いや、みんなと会いたい気持ちはあるんだよ?ただちょっと準備が面倒くさいなと。それが顔に出ていたのか仁王はまた溜息を吐いての手を引っ張った。

「別にこうやって手を繋ぐだけでもええんじゃがの」
「ほう。仁王にしては謙虚な発言ですな」
「…そんなことばかりいうなら本気で襲うぜよ」
「ごめんなさい」

指を絡めぎっちり掴んでくる仁王にちょっと身の危険を感じて謝れば「チッ」と何故か舌打ちされた。お前は私にどうしてほしいんだよ。機嫌損ねるなよな、とぐいぐい引っ張る仁王に転ばないようにくっついていけば足元を照らす光が増えてきて、そろそろ駅が近いなと思った。

人も増えてきたしなんとなく他人の目が気になって手を引き抜こうとしたら仁王が立ち止まった。


「のう、
「え、何?」

抜けない、とぐいぐいと力を入れてみたが放してもらえる気配すら感じない。そんな仁王に声をかけられ仕方なく顔をあげれば真剣みを帯びた顔がを見ていた。



「さっきの話、現実にしてみないか?」
「さっき?」
「お前さんが俺に告白したらって話ぜよ」

光量の増えた外灯に照らされた仁王の顔はさっきよりもよく見えて、より一層冗談に聞こえなかった。その表情はさっき彼の家のキッチンで見たものと同じで思わず心臓がドキリと跳ねる。


「…何で?」
「お前さんの飯がうまかったから、もっと食べたくなった。じゃダメか?」

ダメか?って…。それじゃまるで仁王が告白してるみたいじゃないか。逸らさない瞳には呼吸を止めてしまった。逃がさない、そういわんばかりの強い視線に、捕まれてる手にいわれてるようだった。


「あ…や、その」
「……」
「ごめん、」

脳裏にぶわっと走馬灯のように仁王との記憶が蘇っては消えていき、感情だけが残ったが口から出た答えはそれだった。そういった瞬間、仁王の瞳がぐらりと揺れたが瞬きをしたらその揺れは消えていた。

「何で?」
「な、何でって……」
「……」
「……冗談っぽいから」

ぐっと握られた手には動揺して思ってもいないことを口走った。口にして一気に血の気が引く。見ていれば十分本気の仁王だとわかるのに。確かにこういう真面目な顔でからかってくることは多々あったけどそれを真に受けることはあってもこんな風に言い返したことはなかったから余計に動揺した。

暫くの間無言で見詰め合っていたが怒るでもなく、先に逸らしたのは仁王だった。

「ちぇ。騙されんかったか」
「…………だ、騙したの?」

おい本気か?本気で嘘だったの?マジか?最低だなお前!
ホッとしたようなショックのようなないまぜな顔で仁王を見れば、彼は「折角このままをお持ち帰りしてコンビニで奢らせようと思っとったのに」となんとも言い難い、感情を隠すような目で微笑んだ。



「…や、やめてよね。アンタがやると洒落にならないんだから。一瞬信じちゃったじゃんか。というか財布持ってるんじゃなかったの?!」
「あーあ、スレたは面白くないのー」

あの頃はあんなに素直で可愛かったのに。と溜息まで零したが、前にも言ったように私をこんな警戒心塗れにしたのはアンタのせいなんだけどね。

少し引っかかるところはあったけど冗談だった、と思ってしまった途端色々抜け落ちてしまっては、仁王の表情も本心も知ることがないまま溜息と一緒に肩を落とした。

まったく仁王と関わると気疲れが多くて困るよ。


「まあ、俺のことはええんじゃが」
「…まだ何かあるの?」

携帯が鳴り、幸村かな?とポケットから取り出そうとしたが、その手は仁王に掴まれたままで出るに出れない。反対の手をつっこめばいいんだけどそれはまた奇妙な格好になるのでちょっと恥ずかしくてできなかった。

それで放せといわんばかりに仁王を見たが電話の音が聞こえていないのか何故か別の話をしようとしてくる。話すにしてもせめて電話に出てからにしてくれないだろうか。

「幸村じゃが」
「…え?」
が自分の予定を繰り上げてまであいつと会う必要はないぜよ」
「え?」
「あいつには今、彼女がおる」


着信音がぷつりと消えたと同時に響いた仁王の言葉に目を見開いた。幸村に彼女?思ってもみない言葉に一瞬頭が真っ白になる。



「え、あ…そうなんだ」
「そうじゃ」
「……」
「……」
「いや、まあ。いてもおかしくないんじゃない?」

さっきまで自分と幸村は友達関係なのだから彼女を作ったっておかしくはない。そう断言できるほど思っていたのにいざ目の前で聞かされたら、よくわからない重いものがドスンと胃の中に落ちた気がした。

そうなのか、と頭の中で呟き、だったら自分が真剣に悩む必要はなかったんだ…とわかって溜息が出る。空回りとかマジ恥ずかしい。
胃の辺りがもやもやチクチクして微妙な気分になったが、それについて特に疑問は抱かなかった。むしろ幸村に彼女がいない方がおかしいし。


「ていうか、よく知ってるね。どこでみかけたの?」
「いや、俺じゃなくて丸井がちょっと前に見かけたんじゃ」

仲良く歩いてる姿を繁華街で見かけたらしい。さすがに尾行は後が怖いのでやらなかったようだが相手の顔はバッチリ見ていた。この前ハロウィンの時に行った病院先の看護婦さんだったらしい。所謂清楚美人だったので丸井の記憶にしっかり残っていたようだ。

そこまでいった仁王は、握っていたの手を引っ張り自分に引き寄せた。


「のう。そうじゃろ?幸村」
「…っ?!」

仁王にぶつかり、寄りかかる形のまま振り返れば暗がりから1人の男性がゆっくりと近づいてきた。
ウェーブがかった髪にドキリと心臓が跳ねる。外灯に照らされた顔を見ては思わず息を呑んだ。どうして幸村がここに?

「よく、ここにいるとわかったの」
「ジャッカルに仁王の家までの道順を聞いたんだよ」

当たってたようで良かったよ。と微笑んだ幸村はそのまま近づくと、空いてる方のの腕を取り「じゃあ行こうか?」と強引に引っ張った。しかし引っ張られたはそこから動けなかった。
見れば仁王がの手を握ったままじっと幸村を見つめている。



「待ちんしゃい。今の話、聞いとったじゃろ?」
「さあ、何のこと?」
「言い訳もナシか?」
「言い訳も何もなんのことか全然わからないんだけど」

にいうことはないんか?と挑戦的な声で仁王は睨んだが、幸村は意に返さず「今さっき来たんだけどな」と肩を竦めてくる。それを聞いて仁王は眉を潜めたが視線をに落とすと困ったように眉尻を下げ握っていた手を放した。


「また、連絡するき」


そういって別れを告げた仁王はとても寂しそうだった。



******



「あの、幸村?」

仁王と別れ、駅までの道のりを歩きながらは幸村を呼び止めた。捕まれた腕はとっくに放されていて、少し早い速度で歩く幸村に置いていかれないように足を動かした。
ずっと無言で何も喋らない幸村にたまらなく不安になる。背中からは何も伺えなくて焦れてたまらず「ごめんね」と謝れば少し間を置いて幸村が振り返った。

「何で?」
「な、何でって……だってあまりにも遅いから迎えに来てくれたんでしょ?」

迎えに行くっていったのは私なのに、と俯けば幸村が立ち止まり、も合わせるように足を止めた。後ろの方では疎らに車が通り過ぎていく。ヘッドライトが幸村を照らしては消えていき、残った光は高架下の自転車置き場と外灯の光くらいだった。


「別にそのことで怒ってたわけじゃないよ」
「え?違うの?」
「……。俺をそんな器の小さい奴だと思ってたの?」
「イエ、オモッテマセン」

そんないい笑顔で微笑まないでください。後ろに般若が見えるじゃないですか。顔を上げるんじゃなかったと口元をヒクつかせていれば「仁王といちゃいちゃしやがって。お仕置きだよ」といって額にデコピンをしてきた。不条理な。しかもいちゃいちゃなんかしてないんですけど。

これが器の大きい人がすること?と不満な顔をすれば幸村がこれまたいい笑顔でデコピン待機をしてきたので慌てて額を隠した。だから痛いんだって。アンタの指!


「…んで、どうしたの?私に用事でもあった?」
「特に用事って程じゃないよ。さっきの電話のとおりの顔が見たくなっただけ」
「……」
「それだけじゃダメ?」

警戒して幸村の指をじっと見ていたが小首を傾げた彼になんとなく眉を寄せた。そりゃまあ、会いたいって思ってくれるのは嬉しいけど、仁王の話を聞いた今じゃ微妙な気持ちになる。でも、嘘ついてるようには見えないんだよなぁ。
疑いたくはないんだけど、でもどうにもしっくりこなくて「あ、そう」と素っ気無く返したは駅に向かう道のりを歩き出した。



煌々と光るコンビニの前を歩きながら「ご飯は食べたの?」と聞いたらそれも含めた仕事でこっちに来ていたらしい。食事の時間まで接待とか疲れるよね。
「お疲れ様」と労えば少し後ろを歩いている幸村がフッと微笑んだような気がした。

「え、じゃあどうする?」
「どこか入れたらいいな。寒いし」
「そうだね。でも、時間はいいの?」

結構遅い時間だけど、と幸村を伺えば「の家に泊めてよ」とにこやかに申し出された。アンタね。


「…泊まるんだったら仁王のマンションにしなよ」
「入れてもらえるとは思わないけど」

仁王に憎々しく睨まれたし、と肩を竦めた幸村は、諦めきれないのか「の家でまったりと温かいものを飲みたい」と食い下がってくる。表情は暗がりであまりよくわからないが疲れてるのが見て取れては立ち止まった。

歩いているからそこまでじゃなかったけどやはり足先と顔は悴んで冷たい。マフラーに半分くらい顔を埋めながら大きく息を吐いたは「うちはダメ」ともう1度断った。

「アンタ今彼女いるでしょ」
「何それ?誰情報?」
「…とある神奈川県在住の方からです」

飲み屋とか喫茶店に入るのは構わないけど家はダメ、と断れば幸村は驚いた顔で見返してきた。驚いた顔にもしかして誤報を教えられたか?と怯んだが、さっきの話の流れで仁王が嘘をついてるとも思えなかったので堪えた。

というか、この情報先、どういってもバレるよね…。生きろよ丸井。


「いくら泊まるとこないからって、彼女いるのに元カノの家に泊まったら相手だって気分よくないでしょ」
「…俺だって彼女が元彼の家に泊まられたら正常な気持ちではいられないさ」
「だったら、」
「フリーだから、の家に泊まりたいっていってるんだよ」

彼女はいないよ。と断言する幸村には訝しげに見返してしまった。
じゃあ丸井が見た光景は何だというんだ?そう言わんばかりの顔をしていれば、幸村は肩を竦め「丸井か赤也か知らないけど」とトゲを含んだ声で静かに切り出した。



「今気にしてる男の子がいるっていっただろう?その子の容体が少しだけ悪くなってさ。…うん。今は大丈夫。持ち直したから。…長い期間のストレスとここ最近の気候の変化でちょっと身体が参ったらしいんだ。
それでその話を聞く為に外で彼女と会ってただけだよ。それがデートって言うならそうかも、としかいえないけど」

困った顔で微笑む幸村に嘘は感じなくて、理由が入院してる男の子のこととわかって、疑った自分が急に恥ずかしくなった。

「……そう。大変だったね」
「ああ。実際に大変だったのは彼の方だけど、俺も色々あったからに聞いてほしくてさ。何かあったら話し相手になってくれるっていっただろ?」
「……」
「それでも、ダメか?」


愁傷な顔で伺いを立てられたはハロウィンの時の自分に大バカ!と叫んだ。確かにあの時は心配でそういったけど、これじゃ自分の首を絞めてるだけじゃないか。
本気になれないくせに振り回すようなことだけいっていざいわれたら困るなんて最低にも程がある。

そう思ったが今更なかったことにも出来ないし、幸村を裏切ることもしたくないと思った。八方美人かもしれないが、困ってる幸村を、わざわざ東京まで赴いて頼ってきた彼を追い返すことは出来ない。
そう考え「わかったよ。お泊りを許可します」と返せば幸村は嬉しそうに微笑んだ。


だったら喫茶店に寄らないでまっすぐ帰ろう、ということになり駅のホームに向かった。階段を上がった先のホームは丁度電車が行った後で見る限りは人影がなかった。
誰もいないホームって電気がついてても不気味だな、と思いつつ適当な場所に立つとその隣に幸村も並んだ。くっつく腕の辺りだけ冷たい空気が当たらないから少し温かい。

「もしかして部屋が見せられないほど掃除してないのか?」
「一応してるけど…綺麗じゃないかも」

私物も増えたし、試験勉強を本格的に始めたし、ここ最近は天気が悪いから洗濯物も乾かない。乾燥機はあるけどどちらかといえば日光消毒派なんだよね。そんなわけで当初の美しさは半減してるな、と思いつつ返せば「それは楽しみだ」と幸村が意地悪そうに笑った。



「そうだ。手を出して」
「手?……っちょっと」

ポケットから手を出したらその手を掴まれ幸村のポケットに収まりギョッとした。何で仁王と同じことしてんの?!

「こっちの方が温まるだろ?」
「そういう問題じゃないでしょ。放して」
「何で?仁王とは繋いでただろ?"友達"なのに」
「あれは、仁王の悪戯で他意はないよ…」

そういいながら脳裏に仁王の顔が浮かんで微妙な顔つきになった。仁王はちゃんと家に帰っただろうか。

こそ、仁王といい雰囲気だったのを俺に邪魔されて怒ってるんじゃないのか?」
「な、んでそうなるのよ」


放っておいたら襲われてたんじゃないか?とまでいう幸村に何をいってるんだと見返した。そんなわけないだろう。あんだけシリアスな雰囲気だったのに冗談だって仁王自身がいったんだぞ。普通だったらもう少し食い下がるとか傷つくとか怒るとかあったはずだ。

むしろ怒ってるのは幸村の方じゃないの?と言い返せば「ああ。怒ってるよ」と正直に返され面食らった。

「丸井や赤也ならともかく、仁王だけは親しくしてほしくない」
「…何で今更、仁王だけ」
「今更じゃないよ。を好きになった時からずっと仁王が邪魔だった」

仲良く話してる姿も、ちょっかいを出されて怒ってる時もの視線を独占してる仁王が嫌いだった。そう告白する幸村に驚き目を見開いた。


今迄幸村の口からこんな悪口を聞いたことはなかった。時々嫌味みたいなことはいうけどそれこそ冗談で、大体は幸村の愛情表現みたいなものばかりだった。
幸村自身他人の悪口をいわない、むしろ毛嫌いしてるフシがあったからもいわないようにしていたんだけど。それがまさか今になって聞くことになるとは思ってなくて驚愕してしまった。

「で、でも、別に仁王と付き合ってないし、友達同士だし……っ」
「ここまでいってもまだ気づかない?」



ぐいっともう片方の腕を掴まれ強制的に向き合ったは、鼻先まで顔を寄せる幸村に息を呑んだ。久しぶりに見る、真剣な視線にギクリともドキリともつかない心臓の音が聞こえた。


「嫉妬してるんだ」
「…っ」
「気づけよ、バカ」


そう言い放った幸村は悲しそうに顔を歪め、そしての後ろ頭に手を回した。髪の中に差し入れられた指が頭皮をなぞってぞくりと震える。あ、ヤバイ。そう思ったがほんの少し幸村の方が早くて、彼を引きとめようと口を開いたが「ゆきっ…」といったところで言葉を飲み込まれてしまった。





2013.11.24
2014.05.24 加筆修正
2015.12.21 加筆修正