□ 98a - In the case of him - □
「やあさん。明けましておめでとう」
「ふ、不二くん…?!」
学生時代よりも寒さが堪えるぜ、と岳人くんや亜子と一緒に帽子とホッカイロとマフラーとマスクという外装完全防備で立ち向かったがやっぱり外は寒かった。
インナーもタイツもあったか素材なのに…!とポケットに手をつっこみながらブルブル参列していると何でか不二くん達と遭遇した。手塚くんやリョーマくんもいる。仲良しの青学はやっぱり仲良しらしい。暗くて見えない人もいるがほぼ全員揃ってる感じだった。
そのことに大いに驚いたが、更にこの格好とマスクによくわかったね、と感心すると「だって目立つ人いるし」と跡部さんと忍足くんを指差された。やっぱりか。
出る前に散々変装させたんだけど跡部さんが「俺の美に反する」と嫌がって半分以上放棄したのだ。帽子とかマスクとかね。そのくせサングラスならいいとかいうんだからマジで意味がわからない。夜にサングラスしたら何も見えませんよ。
忍足くんに関しては逆に「マスクした方がヤバさ半端ねぇ…!」と岳人くんが怖がったのでいつもどおりになったという。
参拝用にライトがあるが人込みはそこそこ多いので人を探すとなれば苦労しそうなのによく見つけたな、と思っていれば奥の方で乾くんがニヤリとメガネを光らせたので、「そうでした」と肩を竦めた。
「先輩。寒いなら俺が温めてあげようか」
「リョーマくんも来てたんだね」
「うん。桃先輩が煩くてさ。本当はさっさと帰りたかったんだけど、先輩が来るっていうから待ってたんだよね」
「あはは…」
まさかお前がバラしたのか?みたいな氷帝側の視線にカラ笑いを浮かべるしかなかった。
実は手塚くんにだけチラッと東京で初詣するっていったんだよね。クリスマス後に手塚くんから連絡が来たんだけど、なんだかんだと会える時間がなくて。その電話の時に出た話ではあったんだけど、まさか待ち伏せされるとは思ってなくて笑うしかなかった。
「つーか、テメーらは参拝終わってんだろ。だったらとっとと帰りな。他の参拝客に迷惑だろ」
「そういう跡部こそもう少し場に馴染めないの?悪目立ちしてるんじゃない?」
不二くんの隣で両手を広げるリョーマくんをどうしたものかと困っていれば跡部さんが割って入ってきてジローくんがを自分の後ろに隠した。しかし不二くんは「呟かれても知らないよ?」と挑発してくる。確かに周りでチラチラ見てる視線は感じてます。
忍足くんもいるからオーラが倍になってるんだろうなぁ。なんて思っていると列が進んだので達も動くと睨みあっていた跡部さんも動き視線が逸れた。
「じゃあ参拝が終わったら連絡してね」
「その前に帰れよ」
「だってさんと一緒に初日の出見たいじゃないか」
ね、手塚。と振り返る不二くんに、と手塚くんはなんともいえない顔で見合わせた。そんなこと一言も交わしてないのに何で初日の出見ること知ってんの不二くん。
じゃあまた後でね、と手を振る不二くん達に苦笑で振り返せば跡部さん達に冷たい目で見られた。
「。お前不二にいったのかよ?」
「いってない。いってないよ岳人くん!断じていってません」
「んじゃ何であそこまで知ってんだ?」
初日の出見るって話してなきゃおかしくね?と首を傾げる宍戸くんにこっちが聞きたいよと思った。いやでも恐らく全て乾くんのせいだろうけど。そんなプライベートな話もデータで算出できるもんなの?
「しかも、この神社までバレるとはな…どうする?跡部。日の出見るのやめて帰るか?」
「俺はそれでもかまわねーけどー」
「ジローは寒いだけだろ。まあ俺も寒いけど」
仲良く青学の奴らと一緒に初日の出見んのか?と聞いてくる忍足くんに跡部さんは少し考えの方を見やった。
「どうする?」
「どうするっていわれても…」
何もいわないで帰れるわけないし。そんなことをしたら後が怖いし(主に不二くんが)。「参拝が終わったら少しだけ話してくるよ」と返した。日の出はそれから決めてもいいと思います。
参拝が終わり、おみくじを引いたり甘酒を買ったりしてなんだかんだと遊んでから不二くんに連絡した。予告されたとおり彼らはまだ居残っていて今は肉まんを食べて暖をとっているらしい。
「え、羨ましい!」
「肉マンって屋台で売ってないよね?」
『裏を抜けると近くにコンビニがあるんだ』
そっちで今食べてる、という不二くんに達もそっちに行こうかという話になった。は内心反対されるかな?て思ったけど温かいものを飲める食べれるってことであっさり承諾された。跡部さんはやや不満そうだったけど。
神社の裏道を抜ければ本当にコンビニがあってその前で不二くん達がたむろっていた。これだけ長身がそろうと中々圧巻だよね。そんなことを考えていたら長身の仲間入りをしたリョーマくんに抱きしめられた。
「ほわっ!」と変な声を上げたら「俺もー」とかいって菊丸くんも混ざってくる。いやいやいや、私はホッカイロじゃありませんよ?!
「先輩顔つめたっ」
「いやいやいや。近い近い近い」
「じゃあ俺達で温めてあげるにゃ」
「待て待て待て!潰れる潰れる潰れるっての!」
確かに風除けになって寒くはなくなったけども。ぎゅうぎゅうとおしくら饅頭よろしくな感じで潰されていると途中でその圧迫感が消えた。見れば跡部さんが菊丸くんを、手塚くんはリョーマくんの頭を鷲掴みにしている。気が合いますね!菊丸くんなんか既に涙目なんですけど!!
「テメー余程通報されてーらしいな?アーン?…それとも社会的に抹殺してほしいか?」
「…越前。公衆の面前でそういう不道徳なことをすべきではないと以前からいっているだろう?」
「ひぃいぃぃ!」
「……」
どう考えても跡部さんの脅しの方が怖い気がするのは権力を持ってるせいだろうか。解放されたは怒られる菊丸くんとリョーマくんを不憫に思ったが援護せず(だって元部長ズの顔怖いんだもん)、ジローくん達に引っ張られるままコンビニへと入っていった。ごめんよ2人共。
「つーか、これからどうする?」
「そうだね、どうしようか」
「俺寒いし帰りてー」
「右に同じ」
みんなそれぞれに温かいものを買ってコンビニの前で食べながらそんな会話をしていた。人数が多いのもあっての周りにいるのは宍戸くんに亜子、ジローくんに岳人くんだ。
跡部さんと忍足くんは別の話をしてるようで少し離れた場所にいる。手塚くん達もそれぞれ少し離れたところで会話をしていた。
も話を聞きながら別に初日の出を見たいわけじゃないよなーと跡部さんを見やった。
残念ながらそれ程信仰心が強いわけじゃない。跡部さんが初日の出もついでに見るぞ、といったからだ。見れるなら1度は拝んでみたい気もするが絶対見たいというわけでもない。
どうする気なんだろう、と跡部さんを見ていればその視線に気がついたのかこちらを見てきたので咄嗟に逸らしてしまった。
「ねぇ。ひとつ提案があるんだけど」
やばい。目が合ったから反射で逸らしたけど挙動不審だった。と動揺すれば肩を叩かれ思わずビクッとしてしまった。振り返れば不二くんがいて驚くに首を傾げた。あ、跡部さんかと思った…。
「提案って?」
「乾と話してたんだけど、日の出を見るスポットって東京だと限られると思うんだよね。ビルが邪魔で見えなかったり、目ぼしいところは人も多いだろうし」
海に行けばいいけどこの人数で今からじゃ車の用意もままならないでしょ?と笑う不二くんにそれも一理あるかな?と頷いた。
「でね。英二が"なら屋上とかどう?"っていってきて」
「確かに屋上なら見えるかもな」
「けどどうせどこの屋上も立ち入り禁止だろ?」
飛び降り防止とかいってさ。と肩を竦める岳人くんにキラリとメガネを光らせたのは乾くんだった。
「確かに屋上に出れるビルは少ない。もし仮に屋上に出れたとしても角度や高さ場所を踏まえるとほぼゼロに近いだろう」
「ほーら、やっぱり」
「でも、どこか目処はついてるんでしょ?」
でなきゃそんなもったいぶらないよね?と乾くんを見れば嬉しそうに口元を吊り上げ、そして使い古されたノートを持ち出した。
「ならそういってくれると思ってたよ。ゼロに近いといったがゼロではない。俺のデータによれば唯一1人だけ条件を満たせる人物がいる」
「それって…」
もしかしなくても跡部さんじゃ、と一斉に彼を見やると「アーン?」といって眉を寄せた。できなくはねぇが何でテメーら全員の面倒見なきゃなんねぇんだよ。という顔だ。
「跡部に頼めば確かにこの問題は簡単にクリアできるだろうけど、でももっと簡単に見れる場所があるんだ」
「そうなの?」
「うん。さんの部屋だよ」
にこやかにそうのたまった不二くんには目を瞬かせた。私の部屋?と聞き返せば乾くんが丁寧に説明してくれた。
マンションのほぼ最上階に近い階に住んでいて尚且つ部屋が東側を向いていて朝日が昇る方向には障害物も殆どない絶好スポットなのだという。
部屋に1度も入れてないのによくわかったな、と後でつっこんだがその時はただただ驚くしかなくて「そうなんだ」としか返せなかった。さすがは榊大明神物件。
「でもさすがに女の子の部屋に僕達が大人数で押しかけるのは悪いって思ってね。事前にさんに許可を取ろうと思って」
どうかな?という不二くんには周りを見てうーん、と唸った。この人数か…ざっと15人くらいか。簡単にいいよっていうにはちょっと多いかも。しかも部屋がな…榊さんのだしな。
広さは問題ないけどそんな大人数を入れて大丈夫かな、と悩むと「やっぱりダメかな?」と不安そうに再度不二くんが聞いてきた。
「あ、いや。ダメってわけじゃないんだけど」
「いやダメだろ」
お前何いってんだよ、と小つかれ振り返れば呆れた顔の跡部さんがを見下ろしていた。
「実家に帰るつもりだったから冷蔵庫の中何も入ってないんですよね」
「そういう問題じゃねぇだろ」
「そうだぞ。無闇に男を部屋に入れるものじゃない」
数日とはいえ家を空けるから冷蔵庫の中に残ってるのは調味料くらいだ。そのことを聞きつけた桃ちゃんと菊丸くんがとても残念そうにしてるが見えた。
それから跡部さんと同調するように手塚くんもダメだといって不二くんを睨んでいた。「だってさんの手料理食べたいし」って可愛く肩を竦められても困ります不二くん。
「不二…」
「そういうことなら却下却下!青学は外で震えながら初日の出見ればいいだろ」
「ええーっずるいだろ!ちゃんちで日の出見えるって教えたのこっちだぞ!こっちにだって見る権利くらいある!」
「ダメダメ!も亜子も俺達にしかご飯作らねーもん!」
「その点なら問題ない。これだけ人数がいるんだ。それぞれ持ち寄って食べればいいだろう」
部屋を提供してくれるならその辺は諦める。と菊丸くんの口を押さえ愁傷に述べる乾くんにだったらいいかな…と頷いた。何かケンカ始めそうだったし寒いしもういいやって気分になってしまった。
だからその後ろでリョーマくんと不二くんがニヤリと顔を見合わせていたのは知る良しもなかった。
******
「うえええっ超マジ広すぎなんだけど!!」
「スゲー!これでマンションなんスか?!ホテルじゃないんスか?!」
「あーうるせーうるせー。騒いでねーでとっとと入りやがれ」
後がつかえてんだよ。と呆れた声の跡部さんに菊丸くんと桃ちゃんが子供のように靴を脱ぎ捨て「きゃっほーい」と中へと走っていった。楽しそうだ。それに続きジローくんや岳人くん達も中へと入っていく。
外は寒いから中がいいよね、という意見が多かった為達が住むマンションに向かったんだけど、日の出の時間まではまだ余裕があるからそれまで跡部さんの部屋で騒ごう、ということになったのだ。
は近所迷惑になったりしなければ構わなかったんだけど跡部さんと手塚くんに猛反対され日の出の時間だけの部屋に行こう、という話でまとまった。
それぞれビニール袋を揺らしながら中へと入っていくのを眺めていたはやっぱり広いとこれだけいても余裕だな、と思う。まだ玄関に靴が並べられるよ。
宍戸くんが脱いだ靴を亜子が揃えるのを見てなんとなく2人の関係性が垣間見えた気になったがこういう時その家庭の躾って出るよね、と思った。
しっかり靴を揃えて中へ入る手塚くんや不二くんにですよねー、と思う。きっと海堂くんもそうなんだろうけど生憎ここに来る途中でお別れしてきた。
どうやら家族旅行の途中で抜けてきたらしい。それ大丈夫なの?と聞いたら近くの温泉施設に泊まっているのだという。近くっていっても都を跨いでいるんだけどね。
電車ないのにっていったら「走るんで大丈夫です」ていわれて驚いたけど。相変わらず海堂くんのストイックさには頭が下がります。とりあえず何かあったら電話するようにとお願いして彼と別れた。
それから河村くんと大石くんもお店とお仕事でここにいない。それは仕方ないんだけど同じ職業なのにこっちは余裕だよな、と忍足くんを見れば「なんや?」とにこやかに微笑まれた。なんだろね、この格差的な感じがするのは。
「、」
大石くんは医者の鑑だね、と1人ごちているとドアを押さえていた跡部さんがを引きとめた。緩く、でもしっかり捕まれた手にドキリとする。それをバレないように顔を引き締め「何ですか?」と彼を見れば忍足くんが中に入っていったのを見て跡部さんが視線を合わせた。
リビングの方では「マジでここに住んでんの?!ありえねー!」、「あ!鍋やったのかよ!!俺も食いたかった!」とか騒がしい声が聞こえてくる。
「本当に大丈夫なのか?嫌なら嫌っていっていいんだぞ」
「…大丈夫ですよ。というか跡部さんこそいいんですか?」
荒らされてますよ?と部屋にいる話し声を聞けば戸棚を開ける音や驚愕とか食べ物を漁ってる話とか聞こえる。ここは無法地帯か。主にテンションが上がってるのは初めて来た面子だろうけど…一体、ここに来るまでに桃ちゃんと菊丸くんは何本お酒飲んだんだ。
飲み過ぎて吐いたりしないよね?と不安になりながらも跡部さんに視線を戻せば手で顔を覆っていた。ご愁傷様です。
「…俺のことはまあいい。あいつらをお前の部屋に野放しにするよりかはマシだ」
「…ははは、」
実はちょっとホッとしてます。誰かの靴を踏まないように玄関に入ると跡部さんも足を踏み入れドアを閉めた。
「本当はお前ともう少し静かに新年を迎えたかったんだが」
「……え、」
「お前もほとほとあいつらが好きだよな」
がやがやと聞こえる声を遠目に感じながらブーツを脱いでいるとフッと笑みを漏らした跡部さんが手を差し伸べてくる。その手をなんとなしに取れば遠くなった廊下の横渡しをしてくれた。
今なんか流しちゃいけないことを言われた気がするんだけど…と彼を見るとの手を掴んだまま靴を脱いだ跡部さんがひょいっと長い足を伸ばし廊下に乗り上げた。
「そういうお前も嫌いじゃねぇけどな」
並んだ跡部さんが少し屈んで耳元で囁くとそのまま頬に柔らかいものを押し付けリビングへと入っていく。「オラお前ら!何勝手に人の酒開けようとしてやがる!!」とさっきとは全然違う声で怒っている。
どうやらワインセラーから何本か拝借されたらしい。鍋やりたいとか飲ませろとか好き勝手に騒いでるのを聞きながらはぼんやりと頬を押さえた。
「〜?どうしたの?寒いんだからこっちにおいでよ」
「……うん」
遅いを心配してかジローくんが覗いてくる。それにぼんやりと返したが、顔も胸も燃えるように熱くて「?」と近づいてくるジローくんにやっと我に返った。バカだわ私。声に甘いとか苦いとかないでしょ。
何考えてんだ!と脳内で叫んだはそのまま「トイレ行ってくる!」といってリビングの横を通り過ぎたのだった。
2014.07.15
2015.12.24 加筆修正