□ 99a - In the case of him - □
とりあえず落ち着くまでトイレに篭って鏡で顔を確認してリビングに戻ればそこは動物園と化していた。どうなの大人。
「さんこっちこっち」
騒がしい面々を通り過ぎリビングのソファまで辿り着けば不二くんが手招きしていて彼に促されるまま炬燵に入れてもらった。
「あーズルイぞ不二ー!!俺達は入れてくれなかったくせにー!」と怒ったのは菊丸くんで、見ればリョーマくんと一緒に甘いお菓子を食べている。確かに全員炬燵には入れないか。
「レディーファーストだよ」
「ちぇ〜」
「んなことより不二。何俺様を差し置いて仕切ってんだよ」
「だって丁度僕達の隣が空いてたし。ね?手塚」
「ああ」
さん細いから丁度すっぽり入っちゃったね。とさも偶然に空いたように不二くんが微笑んでいたが、その後ろの方で飲み物をキッチンから持ってきた桃ちゃんがショックを受けている姿を彼越しに見てしまった。すまない、桃ちゃん。
因みにテーブルについてるのはなかなかの異色メンバーで、両隣は手塚くんと不二くん、誕生日席には跡部さんと乾くん。目の前には亜子と宍戸くん岳人くんが座っている。
忍足くんは間違いなく亜子にセクハラするとかいわれて全員から締め出しを食らったのだろう。寂しそうに手酌でお酒を飲んでいる。ついでにジローくんは炬燵の代わりにソファを占拠していた。
「さんは何飲む?」
「あー……じゃあチューハイで」
買ってきたお酒をとりあえず並べたから好きなの選んで、という不二くんにはウーロン茶かお茶がいいな、と思ったが視界の端で意味深に微笑む乾くんがマーブル状の何かを掲げていたのでお酒を指差した。
アレは間違いなく飲んじゃいけないやつだ。ソフトドリンクっていったらきっとアレを渡す気なんだ。
「じゃあさんも来たことだし何しようか」
「おい不二」
「跡部は何か提案でもあるの?」
「……特にねぇな」
「はい却下。次、」
「ゲームとか?」
「ここんち遊べるゲームあったっけ?」
「あんのはUNOとトランプだな」
「マジか。プレステとかWiiとかねーの?」
「ねぇな。新しいものが出る度に届くが親戚かこいつらに回してる」
「マジっスか…」
なんて羨ましい。羨望の眼差しで見つめてる桃ちゃんは炬燵の角に座りなんとか暖を取っているがやっぱり寒そうだ。もう少し詰めようかと手塚くんを見やれば「では、」と何か思いついたように切り出した。
「手塚。1年の反省と来年の抱負を述べるのはやらなくていいからね」
「……」
「ぶふっ」
しかし言う前に不二くんに先手を打たれ手塚くんは押し黙った。弦ちゃんと同じ思考…!!と噴出したのはいうまでもない。
肩を震わせるに手塚くんは不機嫌な顔で「何を笑っている」と睨んできたが全然効果はなかった。ごめんよ、私弦ちゃんで耐性あるから通じにくいんだ。代わりに「後でその話しようね」とポンポンと腕を叩いて慰めれば不機嫌な顔が萎むようになくなりコクリと頷いた。可愛いな手塚くん。
「ていうか、さっきまで何話してたの?」
「ん?さんが来る前はこの1年で知り合いがどれだけ女の子にフラれたかっていう笑い話」
「うわ、エグイ」
知り合いを酒の肴にしてたのか。確かに人の不幸は美味しいけども。「千石清純なんだけど知ってる?」という不二くんには首を傾げた。どこかで聞いたことがあるようなないような気がするけど思い出せない。
どうやら中学の頃からの知り合いらしく、テニス部にも所属していたらしい。緑のジャージのオレンジ頭だよ、と丁寧に乾くんが教えてくれたけど残念ながら顔が出てこなかった。部長の南くんなら覚えてるんだけど、といったらみんな驚愕してたけど。どの中学も部長くらいは覚えてますよ。
「…おかしいな。千石が女の子に声をかけ忘れてるなんて…」
「え、そんなに真剣に悩むところ?」
単に趣味じゃなかったかニアミスしてただけじゃないの?といってみたがそれはないと断言された。千石くんは無類の女の子好きで知ってたら必ず見に行くし、出会ったら必ずナンパする人なのだという。
「ニアミスやのうて、立海のガードが固かったんとちゃうか?真田なんかえらい煩かったしな」
「確かに真田は千石と馬が合わないだろうな。それ以前にの親戚でもあるし」
「あはは…」
「ていうか、真田に限らずみんな過保護だったぜ?試合前にちゃんや皆瀬ちゃんに挨拶しようと思って行ったら切原と柳生に難癖つけられて無理矢理追い返されたし」
「そういえば俺も先輩に会いに行った時幸村さんに追い返されたっス」
「え、ご、ごめんね?」
俺達普通に話しに行っただけなのに、と沸々と怒りが沸いた顔でぼやく2人に知らなかったこととはいえ申し訳ない気がして謝った。何してんだうちのテニス部共は。柳生くんまで何一緒になってんの。
「その点氷帝はオープンだったよね。まあ、仕事熱心な子が多くてろくに話したことなかったけど」
「そりゃそうだろ。俺らん時のマネージャーは完璧主義が多かったしな」
「けど中学生がオンオフきっちり分かれて仕事してるとか、今ならそこまでしなくてもいいのにっていってやりてーけどな」
渡瀬とかマジ怖かったし、と零した岳人くんにまあ跡部さん専属のマネージャーだからな、と思った。そのくらい気を張ってないとやり遂げられなかっただろうし、跡部さんもそれを望んでたしね。
「そういえば青学もマネジいれてなかったっけ?」
「入れたっスけど桃先輩がその人に告ったせいでなくなりました」
「おい越前!!」
「え、マジで?」
それは聞いてなかった、と桃ちゃんを見れば彼は「若気の至りっスよ!」と叫んでお酒を煽る。本当なんだ。
「ちなみに桃だけではなくテニス部の大半が告白をした為、キレた海堂が竜崎先生に直談判をしてなくなったそうだ」
「壮絶…」
海堂くんの憤怒の顔が目に浮かぶようだよ。
「何か青春って感じがしてええなー」
「およそ青春から程遠い奴がなんかいってるぞ」
「ええやん!甘酸っぱい恋!俺かてちゃんとそういう青春時代通ってきたわ」
「「「ありえねー」」」
きっぱりと断言する岳人くんと宍戸くん、ジローくんに当の忍足くんは「ひ、ひどい…」とソファの端でいじけだした。やっぱり日頃の行いというか見た目がね。そう思ったが誰もフォローしない空気に少しだけ可哀想に思えた。
「じゃあ初恋の話とかどうっスか?」
「よっし桃!お前1番手な!年齢と相手!」
「えっ早!…え、えーと、小5の時の音楽の先生っス」
「定番だな」
「あれ?でも桃先輩の好みってスポーツ好きな子とかいってませんでしたっけ?」
「初恋の時は違ったんだよ。その先生のピアノとか歌とかスゲー綺麗で、笑った顔が印象的だったんだんス」
「へぇ」
「でも6年になったら産休に入っちまってそのまま卒業になっちまったんスよね」
先生元気かなーと零す桃ちゃんに「……今聞くとなかなかえげつない話だね」とぼそりと不二くんが漏らした。
「んじゃ次エージ先輩!」
「うにゃ?俺?ん〜俺は幼稚園の先生」
「やっぱり」
「そんな気はしてたよ」
「俺のデータでも菊丸が恋愛に興味を示す年齢は誰よりも早いと出ている」
「だから彼女も先生縛りなんスか〜?」
「なっ!なっ!別にいいだろそんなこと!次乾!」
「俺のを聞いても面白くないだろう」
「んなこといって逃げんなよ!」
「俺の場合は…恐らく親戚の友人、かな」
「…恐らくって何だよ」
「感情は本能で嗅ぎ取るものだから、どう好きかと理由をつけるのは後付が多いんだ。一目惚れ、といえば片付く言葉だがその後の俺の付き合った女性を考えると何を思って彼女にそんなシンパシーを感じたか未だに理由がわからない。確率論として出したまでだが正直それが初恋だったか自信はないよ」
「あー…そう。じゃあ向日は?」
明らかにわけわからねぇ、という顔をした菊丸くんがさっさと次の人に振った。振られた岳人くんはこっちに来ると思ってなかったらしく大きく目を見開いている。
「え?俺?」
「そうそう。乾の熱弁聞いてると頭おかしくなるから早く!」
「菊丸、それはどういうことだい?」
「え、えーと、えーと」
「何恥ずかしがってんだよ。お前も菊丸と一緒で幼稚園ん時の先生だろ」
「ばっ何いってんだよ!!」
「そーそー。でも先生は俺が好きでずっと嫉妬してたんだよねー?」
「ちっが!それはジローがどこでもいつでも寝てっから小夜先生は仕方なくお前の面倒見てただけだ!!」
「フフ。小夜先生っていうんだ」
「そういう芥川はどうなんだ?」
「俺も小夜先生だったよ。すっげー好きだった。いい匂いだし柔らかいし」
「ジーロー!!」
「あははっそうそう!こうやっていつも向日が怒って…わーっ何投げてんだよ!!」
「うるせー!!」
顔を真っ赤にした岳人くんがの後ろにいたジローくんにお菓子のゴミやらミカンの皮やら投げるのでも被害をこうむった。岳人くんがその小夜先生大好きなのはわかったから投げるのやめてください!
「…まあ、こんな風によくやりあってんのを俺は遠目で見てたんだけどよ」
「何テメーだけ格好つけてんだよ!そういう宍戸だって小6の時、体育の女の先生にデレデレなってたじゃねーか!」
「んな!ち、ちげーよ!あれは初恋じゃねぇーし!!」
「じゃあ〇〇町の本屋のお姉さん?もしくは保健の先生?!」
「んなっ何で本屋のこと知ってんだよ!!」
「だっていつも誰かの回し読みを読んでた宍戸が毎週ジャンプ買うなんておかしいって思ったし」
「俺とジローとで追跡して写真まで収めたんだぜ」
あん時は面白かったな!と笑う岳人くんとジローくんに今度は宍戸くんが顔を真っ赤にして「はぁ?!」と叫んだ。仲いいなーと零したら「俺や忍足と違ってこいつらは幼等部から一緒なんだよ」と跡部さんが教えてくれた。それでか。
「まぁまぁ落ち着き。男の初恋話を聞いてもおもろないやん。ちゃんと亜子ちゃんのも聞こうや」
「ちなみに忍足くんは初恋いつなの?」
「俺か?俺は近所のお姉さんやな」
「え、何気に普通」
「面白みねーな」
「もっとマニアックだと思った」
「ええやん普通!」
これ初恋や、って気づいたのはこっちに来てからやけど。とうっとり気味に忍足くんが教えてくれたがみんなの返しは冷たかった。岳人くんなんか「つーか侑士、嘘ついてんじゃねぇだろうな?」とかいって信用してくれないし。パートナーに疑われる忍足くんって…。
「そんなことで嘘ついてどないすんねん!」と訴える忍足くんがより一層不憫に見えた。
「じゃあ忍足のリクエストに応えて2人に聞こうか」
「亜子は宍戸じゃねーの?」
「え、違うけど?」
「違うんだ」
「頑張れよ宍戸」
「うっせーな!」
ニヤニヤと幼馴染組が宍戸くんを見るので「別に昔はいーんだよ!今は俺が彼氏だし!」と酒を煽る。あらやだ惚気ですか?とつっこめば「便所行ってくる!」と逃げ出した。あらあらあらとみんなで見送れば「先輩は?」と真後ろからリョーマくんの声が聞こえてきた。
「うおぅ。いつの間に」
「ちょっと何にくっついてんだよ!」
離れろよ!とソファにいたジローくんがリョーマくんを引っ張ったが「何すんスか」といって拒んだ彼はのお腹に腕を回してきた。寒いらしい。しょうがないな、と彼が入りやすいように隙間を空けようとしたが誰も動いてくれなかった。酷いな上級生。
拗ねたリョーマくんが更にべったり背中にくっつき、見かねた手塚くんが引き離そうと手を伸ばしたが、を挟んで盾にするという攻防戦を繰り広げた為失敗に終わった。お陰で手塚くんの眉間の皺が3割り増しだ。
「それで?さんの初恋の人は誰なの?」
「えーっと、小4の時の同じクラスの子」
「どういう人?」
「え?えーと、髪が少しクセっ毛でウェーブがかってて物静かでいつもニコニコしてたかな」
「へぇ。それで?」
「本を読むのが好きで、身体があんまり強くなかったんだけどそんなの全然見せなくって…いつも宿題とか面白い本教えてもらってた」
「……なんかその人、幸村くんみたいに聞こえるね」
聞いてくる不二くん達に素直に答えればぼそりと亜子が呟いた。いやいやいや。幸村と似ても似つきませんよ?彼は笑顔の裏に般若を持ってるようなドSな魔王じゃありませんから。
「それに彼、別の中学だったし」と返すと調べたのかよ!とつっこまれた。だって気になるものじゃないか。初恋の人。
「私のことはもういいじゃん!あ、手塚くん!手塚くんはどうよ!!」
ストーカーしてないんだからいいじゃん!そのくらい知ってたっていいじゃん!と思いつつ手塚くんに話を振れば彼はお酒に口をつけたまま固まっていた。あれ?聞いてなかった?と思いつつ手塚くんを呼んでみるとビクッと肩が揺れ、それからみるみるうちに顔が赤くなった。
あれ?何も喋らない手塚くんにどうしちゃったの?とその奥に見えた桃ちゃんを見れば何故かニヤニヤしていて、不二くん達を見れば菊丸くんまでニヤニヤしながらを見ていた。
「え?……………………ええっ?!」
「え?何?どうした?」
の驚愕と共にトイレから戻ってきた宍戸くんは首を傾げながら亜子の隣に座ったが、岳人くんも似たような顔をしていた。「どういうこと?」と岳人くんが目で聞いてきたが答えられるはずもなく。はそ知らぬフリをしてリョーマくんに話を振った。
うわぁ〜顔が熱い〜っ何で手塚くんに話振っちゃったんだろ私。っていうかマジなのかよ手塚くん!
「俺?…俺は先輩」
「…はい嘘ー」
ぎゅっと抱きしめてくるリョーマくんに余計に力が抜けた。君まで何をいうかな。
2014.07.15
2015.12.24 加筆修正