You know what?




□ 青学と一緒・13 □




「え、もう復帰かよぃ。もっと寝込んでればいいのに」
「…化け物並の体力っスね」

さすが真田副部長のいとこっス。と怖々と見てくる不躾な男共3人にはグーでお見舞いしてやった。「…俺は何もいっとらんのに」とお腹を押さえる詐欺師に「痛くもないくせに」とチョップしようとしたらヒラリとかわされた。アンタが当たったフリをしたのはわかってるんだよ。

「もう大丈夫なのか?」と気遣ってくれるジャッカルを見習い給え。

「なんじゃ。本当に治ったのか。つまらん」
「つまらなくないっつの」
「弱りきったがほんの少しだけ可愛かったのにの」
「少しだけか!」

ほんに勿体ない、と肩を竦める仁王に裏拳を食らわせれば「ピヨ」とまた逃げられた。くそぅ。その後も攻撃を繰り出したがヒョイヒョイとかわされ、赤也達にとても残念そうに見られた。
お前ら一体なんなんだよ!弱ってる私がそんなにいいのか?!


一夜明けて起きてみれば身体はあっさり軽くなっていた。昨夜の吐き気もなく、体温も平熱に戻っている。やっぱり薬を早めに飲んでいたのがよかったのかもしれない。そういったら赤也に恨みがましい目で見られた。
勿論アンタの薬のお陰だよ、と言ってみたが遅すぎると拗ねられた。我侭な奴め。


「あ、さん」

一応これでも感謝してるんだけどな、と口にしないまま仁王達と食堂に向かっていると不二くん、菊丸くんとばったり会った。「おはよう」と声をかければこちらまで歩み寄って「風邪、大丈夫?」と気遣ってくれた。

「うん。迷惑かけてごめんね」
「迷惑だなんて…むしろ無理させてたみたいでこっちこそ悪かったね」
「え?!そ、そんなことないって!これは自己管理ができてなかった私のせいであって不二くん達のせいじゃないよ」



申し訳なさそうに零す不二くんに慌てて言い繕えば、彼はホッとしたように微笑んだ。それから菊丸くんに昨日貰ったホッカイロの礼を言うと照れくさそうに「気にしないで」と新しいホッカイロをくれた。今日はうさぎさんだ。

これまた可愛いものを、と顔を綻ばせるといきなり両腕を引っ張られた。驚き見やれば赤也と丸井がじと目でを睨んでいる。

「んなとこでボーッとしてんじゃねーよ。さっさと行くぜぃ」
「そうっスよ。飯食って体力戻さなきゃなんねーんですから」

不二くんと話すと途端に不機嫌になる丸井と、いつもどおりのぶっきらぼうな赤也に引っ張られ内心呆れたが、「じゃあ僕らも一緒に行こうかな」と怒らず流してくれた不二くんと菊丸くんには大いに喜んで頷いた。いい人達だ。


「…先輩、最悪っス」
「マジわかってねー」
「プリ」
「…何か言った?」

嫌そうに顔を歪める3人を睨んだが視線を逸らされただけでそれ以上は何も言わなかった。まったく朝から機嫌の悪い奴らめ。ジャッカルが溜め息吐いてるぞ。心配で禿げたらどうするんだ。
「ごめんね」と不二を見れば彼は可笑しそうに笑って「さん寝癖がついてるよ」と髪の毛を優しく撫でてを赤面させ、丸井達の機嫌を更に悪化させた。


!!」

食欲がそそられるいい匂いの食堂に入ると、奥の方で幸村と話していた弦一郎が驚いた顔でこちらに駆け寄ってくる。出会い頭に「何故寝ていないんだ!!」と怒られたがは彼の手をとって自分の額にあてさせた。

「ホラ、熱下がってるでしょ!体温計も平熱に戻ってました!」
「だが、しかし…」
「薬もあるし、重ね着して温かくしてるし、マスクも買ってきた!」
「だからといって熱が上がらないわけではないだろう!!」

何を考えている!!と叱る従兄に対抗するように「大丈夫だって!」と口尖らせれば、彼の後ろから幸村と柳がひょっこり顔を出した。



、弦一郎のいうとおりだ。身体を動かせば自ずと体温も上がるし、負担もかかる」
「治ったといっても昨日の今日だ。無理しない方がいいよ」
「…え、柳くんと幸村も反対なの?」

3強の言葉にうっと身構えれば当たり前だ、と弦一郎が腕を組んで頷いた。まるでお父さんみたいだ。後ろでは丸井と赤也が「そうだそうだ!もっといってやれ!」と加勢している。くそ、裏切り者め!!


「…本当に治ったんだってば」
「そうかもしれないけど、途中で倒れたらどうするつもり?」
「うっ…でも、折角の合宿だもん。ちゃんと最後まで参加したいの。無理はしないから…だからお願い、幸村」

手を合わせ、ダメ?と伺うように幸村を見上げれば彼は目を丸く見開いた後、何度か瞬きをして視線を逸らされた。
それがダメだ、と言われたみたいで肩を落とすと後ろで「プリ。幸村が絆されおった」と苦々しい声が聞こえてきた。そろりと視線をあげれば赤くなった幸村の耳がよく見えた。


「しょ、しょうがないな。今回だけだよ」
「ゆ、幸村!!」

ゴホン、と咳払いをしてOKをくれた幸村に顔を輝かせると、反対に弦一郎がぎょっとした顔で幸村を見た。まさかOKすると思ってなかったんだろう。けれど部長の言葉は絶対なので「仕方ない。は皆瀬と俺が見張っておこう」と柳が呆れ混じりに微笑んだ。すまん、でもありがとう。


先輩。風邪はもういいんスか?」
「あ、えち…じゃなかった。リョーマくん!桃ちゃん達もおはよう!」

幸村のお許しをもらって喜んでいると越前くんがこちらに寄ってきた。「良かったっスね!」とにこやかに両手を上げる桃城くんにハイタッチをしたら流れで菊丸くんや河村くんとまでハイタッチをしてしまった。なんだかむず痒い。



「えっちょっと!何スか今の!!"先輩"とか…っ何で越前のこと"リョーマ"なんて」
「それに、"桃ちゃん"って呼んどらんかったか?」

それ、桃城のことじゃろ?と詰め寄る2人ににんまり笑ったは越前くんと肩を組んで「いいでしょー」と自慢げに胸を張った。

「いや、別に羨ましくねーし」
「全くナリ」
「つーか、何肩組んでるんスか!」

離せよ!と引き離しにかかる赤也に逃げながら「男の嫉妬なんて格好悪いっスよ。切原さん」と越前くんが勝ち誇った顔でいうものだから余計に赤也が怒った。本当お前は沸点低いよね。


「アンタ達が仲良くしないから代わりに親睦を深めてるだけじゃない。悔しかったらアンタ達も名前で呼び合えば?」

そしたら少しは仲良くなれるかもよ?と言ってやればそこにいた男共全員(?)に「嫌だ」と拒否られた。なんでよ。


「リョーマくん。そこは"そうだね"って同意するところじゃないの?」
「何言ってんの先輩。先輩と切原さん達は別に決まってんじゃん」
「決まってんじゃん、じゃなくて…て、そこ!頷くとこじゃないよ!」

桃ちゃんと赤也!何でそこだけ仲いいの!それ間違ってるわよ!と指をさそうとしたら腕に何かがぶつかった。振り返れば顧問の先生、といっても信じてしまうような威厳のある顔でメガネを光らせる手塚くんが立っていた。


「あ、わ、ごめんなさい!」
「……」
「手塚。さんも悪気があってやったわけじゃないんだ」
「…ああ、わかってる」



慌てて謝るの前に出てきたのは不二くんで、思わず目を瞬かせた。庇うような手と言葉に驚いていると手塚くんは不二くんから視線をこちらに寄越し「、」としっかりした声でを呼んだ。

「おはよう」
「あ、うん。おはよう」

それだけいうと手塚くんは何事もなかったのように青学が座ってるテーブルへと行ってしまった。


「…?」
「………え?あ、な、何?」
「顔が、赤いぞ…?」
「え?そ、そう?やだなー風邪ぶり返したかな?」

恐る恐る声をかけてきた弦一郎にはハッとなって頬を隠した。熱い気もしなくもないが鏡がないのでよくわからない。けれど口が緩むのはどうにも止められそうにない。

昨夜のことは夢じゃなかったんだ。覚えてくれてたんだ。そう思ったらすごく安心して。律儀に名前を呼んでくれたことが嬉しくて有難くて思わず「えへへ」と漏らした。


その一方で、さっきまで和やかとまでいかないがそれなりにほんわかしていた空気が一瞬にして張り詰めたのを以外が感じ取っていた。



*****



全体ミーティングも終わり、準備運動も兼ねて走り込みを始めた弦一郎達を横目には試合に出ない西田達と協力してマネージャー業をこなしていた。
こなす、といってもコートとマスクという完全防備な上に背中にはホッカイロを貼っているので異様に暑い。そのせいで少し動くだけで汗をかくから微妙に勝手が悪い気がする。

マスクを下ろせばどこにいても弦一郎が走ってくるし、柳の目も光ってるからおいそれと外すこともできない。軽いイジメだ。


「お疲れ様でーす」
「ああ。ありがとう」

走り込みを終えた手塚くんにドリンクとタオルを持っていけば昨日までの冷たさはどこに行ったんだ?ていうくらい欲しかった言葉が返ってくる。もしかしたら自分が勝手に手塚くんは冷たいんだって思い込んでいたのかもしれないくらい、彼は優しかった。

それが嬉しくてニコニコとしていれば手塚くんは不思議そうにこっちを見て、それからタオルでのこめかみの辺りを拭った。

「え、な、何?」
「…汗を拭いただけなんだが」
「あ、そ、そうなんだ。ありがと」

いきなりだったからビックリしたよ。


。熱が上がってきたんじゃないか?」
「そう?あ、でもホッカイロはちょっと熱いかも」
「水分はとっているのか?」
「うん。ポケットに入れてるから大丈夫」

心配性だな、と眉尻を下げれば「お前は病み上がりだからな」と小さく手塚くんが微笑む。本当、昨日と今日じゃ見える世界が全然違うな。



。俺にもタオルくれないか?」
「あ、幸村。うん、ちょっと待ってね…とと、」
「っ?!」
「…大丈夫か?」

次々走り終えた選手がタオルとドリンクを受け取ってる中、幸村はに声をかけてきた。幸村の分は皆瀬さんが持ってるような気がしたけどご指名とあれば仕方ない。
そう思って踵を返せばカクン、と膝が抜けるように身体が傾いた。

あ、やばい。と手を出せばその手を手塚くんが掴み取ってくれ、転ばずに済んだ。


「ごめん、ありがとう」
「やはり熱が上がってるな。荒井、を風よけがあるベンチまで連れて行ってくれ」
「え、大丈夫だよ!」
「大丈夫じゃないだろう。身体を動かして熱が上がったんだ。水分を取って休んだ方がいい」


の額に手を当てると手塚くんは少し眉を寄せ、近くにいた荒井くんを呼んだ。
てきぱき指示する手塚くんに食い下がろうとしただったが、生え際の辺りをまたタオルで拭われた上に「汗が引いたらまた戻ってこい」と頭を撫でられ送り出された。くそ、さすがに手際がいいな。

子供扱い、と思ったが、それで怒る気も起きなくて、むしろ気恥ずかしくて両手で頬を隠しながらすれ違いざまに幸村に「ごめん。あっちで休んでくるね」といって荒井くんの後に続いたのだった。




和解後。
2013.07.27