□ 青学と一緒・15 □
ダブルス1の試合が始まり、フェンス越しに眺めながらは人知れず溜息を吐いた。折角熱が下がったというのに全然役にたてていない自分が恨めしい。気持ちは既にどん底まで落ち込みたいのだけれどこうも周りに人がいるとそれすらも難しい。
今両側には立海と青学がいてはその板挟みというか壁になっている。さっきからチラチラ見てくる両側の視線には部屋に帰ってしまおうか、と半ば本気で考えていた。
ちなみに現在の試合は柳&柳生ペアが優勢だ。試合直前に乾くんが『勝ったら皆瀬を貸してくれないか?』といいだした為、柳生くんに火がついた。そして柳も幼馴染の意見よりもチームメイトの意見を尊重したようでやる気満々らしい。
「負けたら乾汁だかんねー」と乾くんに向けて発せば彼は嬉しそうに口元をつり上げた。チッ余裕だな。
「意気込んだ割に、息はあまり合ってないみたいだね」
ぼそりと呟く不二くんにギョッとして彼を見やった。そうなのか?とコートを見たがにはいまいちわからなかった。
しかし聞こえているだろう立海の面々が言い返さなかったのでそうなのかも、と眉を寄せた。もしかして逆転されちゃう?と弦一郎と幸村を見れば「あの2人が組んだこと殆どなかったからね」と部長が肩を竦めた。
「柳生には既に仁王がいたし、蓮二はシングルの評価が高かったからな。能力的にもあの2人が組むことはほぼなかったといっていい」
「じゃあ何で今回組んだの?」
「高校のこともあるし、色々データをとりたいって柳がいったんだ。うまくいくかはともかく、のつもりだったんだけど」
同じ目標ができたから、何も無いよりはやりやすいんじゃない?と、コート上の2人を見ながら零す幸村にはもしかして皆瀬さんのことだろうか?と思った。
「柳くんって義理堅いっていうか、紳士っていうか、テニス一筋だよね」
「……まぁ、間違ってはないけどね」
柳くんて真面目だよね、と零せば幸村は他に理由があるような、そんな素振りで曖昧に微笑んだ。
それから海堂くんにエンジンがかかり、追い上げが始まる。その快進撃に冷や汗が流れたが頭を撫でていった仁王がニヤリと笑ったのを見ては大きく息を吐いた。きっと大丈夫なんだろう。
アップに入ったダブルス2の仁王、赤也組(聞いた時はかなり驚いた)と桃ちゃん、菊丸くん組を見送り、コートチェンジになる。
何やら打ち合わせをしている柳と柳生くんに大丈夫だろうか、と余計だとわかってても不安げに見ていると「さんもしかして寒い?」と隣にいた不二くんが声をかけてきた。
「ううん。大丈夫。ブランケットもあるし」
仁王が置いていったブランケットを撫でれば彼は「そうだね」と思い出したように笑った。それからタイミングよく審判の声がかかる。
「ところでさ。さんと手塚っていつの間に仲良くなったの?」
「仲良くって…うーん。今日から?」
それぞれ応援する声に紛れて不二くんが明日の天気を聞くような軽い感じで質問してきた。その内容にそういえば彼には色々気遣ってもらったっけ、と視線をコートから彼に移す。
反対隣では弦一郎が「仲良く…?」と目敏く声を拾っていて視線を彷徨わせた。弦ちゃんてば手塚くんのことになると過剰に反応するからなぁ。さっきから妙につっかかってくるし。手塚くんにまで絡んでくるし。ライバル心燃やすのはいいけど結構迷惑なんだよなアレ。
あんまりいいたくないな、と不二くんの隣にいる手塚くんを見やればチラリと一瞬だけこっちに視線を寄越したが特に気にしてないのか視線を戻してしまった。
「うーん。ちょっと話をしてね」
「話っていつ?さっきとか朝はそんな時間なかったよね?」
「え、あー…夜に」
「?昨日の夜は寝ていただろう?」
「それにそれって昨日じゃないの?」
うぅ、段々苦しくなってきたぞ。考えれば考えるほどいい考えが思い浮かばなくては観念したように肩を落とした。ええい、どうにでもなれ。
「深夜にたまたま目が覚めちゃってさ。その時に手塚くんと会ったんだよ」
「は?部屋に来たの?」
「え?!(幸村何で聞いてるの?!)い、いや!ほらトイレ部屋についてなかったじゃん?その時にたまたま……ねっ手塚くん!」
「…ああ、そうだったな」
「何?!何故貴様がそんなところにいたんだ?お前の部屋は4階だろう!」
「飲み物を買いに行っただけだ」
「ああ、4階の自販機故障してたっけ」
「そうなの!それでたまたま手塚くんと会って話ししてね。ちょっと打ち解けたんだよ。ね?」
「ああ、」
不二くんという裏付けが取れて弦一郎は押し黙ったが、その不二くんが「ふぅん」と呟き手塚くんの方を見て意味深に微笑んだ。何だその顔は。
「…自販機って3階にもなかったっけ?」
「え?そうなの?」
「確か喫茶店側にあったはずだよ」
ダブルスの試合はどうでもいいのか考え込むように腕を組んだ幸村が指摘した。そういわれればそんな気もしなくないけど、と手塚くんを見やれば逆にこちらはコートを見つめたままこっちをチラリとも見やしない。
試しに「知ってた?」と聞いてみたら代わりに不二くんがニヤニヤしながら「多分知らなかったんじゃない?」と答えた。
「"知ってたら3階の自販機で買うだろうし"。ね、手塚?」
「……」
「それにしたって何でわざわざ2階に降りたんスか?5階にも自販機あったっスよね?……もしかして、先輩に会う為に…?」
「はっ?!な、なんだと!手塚本当か?!」
「何言ってんのリョーマくん!!んなわけないじゃん!」
待ち合わせの連絡も、というか会話すらまともにできなかったのにそんな約束できるはずがないのだ。ありえないありえない、と笑ったが笑ったのはなぜかだけだった。弦一郎なんか手塚くんを固まったまま瞠目してるし。あれ?なんなのこの空気。
「…"たまたま"ね」
「ほ、本当"たまたま"だったんだよ、ね?手塚くん」
「…ああ。偶然としかいいようがないな」
「……」
「本当だって!」
冷たい視線を送ってくる幸村に言い知れぬ恐怖を感じて手塚くんに助けを求めれば、しかめ面のままだったがちゃんと反応してくれ頬が緩んだ。そんなをリョーマくん達は何とも言えない顔で見つめてくる。なんだよ。別に他の人に迷惑かけてないんだから話すくらいいいじゃないか。
変な沈黙に誰も何もいえないでいるとコート内で歓声が上がった。柳が点を入れたらしい。ハイタッチをする姿を新鮮な気持ちで眺めているとおもむろに手塚くんが声をかけてきた。
「それはそうと。。空いてる日は土日でよかったか?」
「うん。ていってもシーズンは終わっちゃったよね?」
「そうだな。だが、見せるくらいならいつでも構わない」
「あ、本当?だったら近いうちがいいな」
「考慮しておこう」
「……何の話だい?」
会話が見えない、と言わんばかりの不二くんにはああ、と手塚くんを見てにっこり微笑んだ。
「さっきベンチに座ってた時趣味の話をしててね。手塚くんってキャンプとか釣りが好きだって聞いたんだけどロープの縛り方がすんごく気になってさ」
「ロープ…?」
何でロープ?と首を傾げる不二くんの向こう、正確に言えば手塚くんの隣にいたリョーマくんがギョッとした顔でこっちを見てきた。ちなみに弦一郎の隣にいた幸村も似たような顔をしたが生憎の視界には入らなかった。
「ロープ…縛るんスか?」という訝しげな顔をするリョーマくんに手塚くんは眼鏡を直して「縛る以外に何があるんだ?」と呆れた口調で目印の帽子がなくなった王子様を見やった。
「ロープワークだ。キャンプでテントを張る際に使う縛り方をに教えたら妙に興味を持ってな」
「だってただ縛るだけなのに何種類も縛り方があるんだよ?気になるじゃん!」
「それぞれ場所に見合った縛り方をしているだけだ。いうほど珍しいものではない」
「ええっ珍しいって!だって手塚くんそれ全部縛り方知ってるんでしょ?見たくなるじゃん!!」
なんせきつく縛ったはずなのに引っ張るだけで解けてしまうロープとか、よく分からない結び目のロープとか目の前で繰り広げられれば誰だって気になるはずだ。あれは手品だといわれても信じてしまうくらい魔法のような結び方だった。
それに感激して1度ちゃんと見てみたい、とリクエストしたら近いうちに会おう、ということになったのだ。何なら全部道具が置いてある手塚くん家に行っても構わない、といったら何でか弦一郎が「ダメだ!!」と叫んだ。
「よ、よ、嫁入り前の女子が男の家に行くなど言語道断!!破廉恥過ぎるぞ!!」
「は?何で?お願いしてんのこっちなんだから行くのは当たり前じゃん?」
「そうだとしても俺が許さん!!」
「そうだね。風邪のこともあるし、何よりは受験勉強もあるだろう?」
「あれ?さんって成績よくないの?」
「…不二くん」
成績が悪いんじゃなくて外部の高校を希望しているからですね…、と説明をし始めたところで「ダメだったらダメだ!」と弦一郎がいきり立った。
「俺は構わない」
「構え!手塚お前何を考えている!!」
「……」
「真田も気にしすぎじゃないのかい?別にさんが誰と遊ぼうと君には関係ないじゃないか。保護者でも彼氏でもないのに」
「うぐっ…」
「そうそう。ということで先輩。東京に来るなら俺と遊んでよ」
「坊やはテニス以外の遊びを知ってるのかい?」
むしろおまけは君じゃないか?とにっこり微笑む幸村の空気はマイナスに達していた。近くにいたはずの後輩達が一斉に逃げ出している。それでなくても寒いんだからこれ以上気温を下げないでほしい。
「はっまさか手塚…っもしやのことが……!だからか!だからなのか?!」
「……」
「手塚貴様っ偶然を装って深夜に密会を……っや、やらんぞ!!貴様にはやらん!!」
「…弦ちゃん、何の話?」
悔しそうに顔を歪めるリョーマくんを不憫そうに見ていたら何を思ったのか弦一郎が肩に手を回して引っ張ってきた。危うく転ぶところだったじゃないか。
話が見えなくてお怒りの従兄を見ればまっすぐ手塚くんを睨んでいる。何暴走してるんだ。手塚くんとはたまたま会ったっていってるじゃないか。
睨まれた手塚くんはと目が合うと居心地が悪そうに眼鏡を弄ってそっぽを向いてしまった。
「別に遊びに行くくらいいいじゃん。何なら真田も来れば?」
「それも一理あるな…じゃない!俺はお前を心配してだな!!」
「真田は来なくていい。迷惑だ」
「なんだと?!」
さらりとコートを見ながら「お前が来ると煩くなる」と毒を吐く手塚くんに驚けば、弦一郎は顔を真っ赤にして「手塚ぁあっ!」と声を張り上げた。あまりの声の大きさに試合してるみんなも手を止めてこっちを見てくる。
「ちょっと真田!声抑えなよ!試合の邪魔になるでしょ?!」
「黙ってろ!!これはお前の為でもあるんだ!」
何の話だ。
話が見えなくて閉じれない口のまま弦一郎を見上げれば奴は手塚くんを指差す。その指はプルプルと震えていて、弦一郎の顔は怒りで真っ赤になっていた。
「勝負だ手塚!全国の雪辱ごとここで晴らしてくれる!!」
「…いいだろう」
「貴様が勝てばとの交際を認めてやってもいい!「はぁ?ちょ」だが、俺が勝ったら金輪際に近づくことまかりならん!!」
「わかった」
「ええ?!ちょっと!何わかったって!交際って何?!」
「は俺が守る!!」とか何わけわからん方向に飛んだの弦ちゃん!そして何頷いてんのよ手塚くん!!
「私にもわかるように説明しなさいよ!」と慌てて立ち上がればベンチに座っていた竜崎監督に「!煩いよ!!」と名指しで怒られた。酷い。
*****
「さーて、敗者にはこれを飲んでもらおうかな」
にんまり微笑む不二くんにそこにいた2人の顔が引きつった。海堂くんには申し訳なかったけど折角乾くんを潰したのに毒汁のターンは続くらしい。むしろ、みんな飲ませる気満々のようだ。どこで平穏という文字を失ってきたんだ君達は。
「ごはっ…やっぱマズ」
「う…ぐふ、」
「え?わわわ、」
柳生&柳ペアに引き続き、新しい試みペアの仁王&赤也組は意外と相性のいい桃ちゃん&菊丸くんペアに負かされ乾汁を飲むことになった。
あの不味さを知ってる赤也は涙目で渋い顔をしていたが「負けは負けだ。負ける方が悪い」とにこやかにのたまった神の子の一言で2人は同時にマーブル色の液体を飲み込んだ。
すると案の定、仁王と赤也は顔を真っ青にさせてカップを落としコートを走り出た。そしてそのまま水飲み場に行くのかと思いきや仁王はゾンビのように身体を引きずっての元へ歩み寄りそしてそのまま膝の上へ倒れ込んだ。
「にお先輩、ずりぃ…っ」と後ろで赤也が地面に這いつくばりながら騒いだがそのうちこと切れた。いや、死んではないか。
「…仁王は口の不快感よりも倒れる場所を選んだか」
「こう、ちゃっかりしてるところ仁王くんらしいよね」
「わかってたことですが、切原くんはそこまで頭が回らなかったみたいですね」
「ああそうか!その手があったか!!」
「何言ってんスか、桃先輩」
「普通あの状態でこんなこと考える奴なんていないにゃ」
「…貪欲な執念だな」
目からウロコ!と言わんばかりに打ちひしがれる桃ちゃんにツッコミしながらも呆れと羨望の眼差しで見てくる青学の4人を尻目に落ちないように仁王をちゃんと膝の上に乗せると、日差しを遮るように影ができ顔を上げた。
「…、重いでしょ?退けようか?」
「ううん、大丈夫。吐く感じしないしそれほど重くもないし」
ううう、と唸る声が不憫で膝の上にある銀色の頭を撫でてやれば幸村が心配そうに顔を覗き込んでくる。彼の申し出を断れば幸村は珍しくわかりやすい程にムッとして「ふぅん」と視線を逸らす。あ、仁王の足を蹴った。
「何?幸村も機嫌悪いわけ?」
「…別にそんなんじゃないけど。コート上の詐欺師も聞いて呆れるなって思っただけ」
「柳生くんと柳くん以上に組んだことなかったペアでやったんでしょ?仕方ないよ」
自由奔放に走り回る赤也をフォローするのに仁王が色々神経を張り巡らせてる感じはここまで伝わってきたくらいだ。きっとコートに立ってた本人はもっと大変だったに違いない。
その上での乾汁だ。これくらいは大目に見ようじゃないか、と触り心地のいい猫みたいな髪を撫でていれば幸村がまた仁王の足を蹴った。軽くでも蹴っちゃダメでしょうよ。
「何?幸村」
「別に」
「別にって顔じゃないでしょ」
「…何かやる気が出ないなーって思っただけ」
赤也を連れて行く西田達を見送り、不貞腐れた顔でダブルスの試合を見つめてる幸村を見やると「どうしたの?」とフェンス越しに声をかけられた。
今は不二くん&河村くんペアと丸井&ジャッカルペアの試合で丁度タイムが入ったらしい。
タオルで汗を拭ってる不二くんはニコニコと上機嫌だ。
「…不二くん。随分と余裕だね」
今君達のペア負けてるよね?と呆れた顔で見やれば「だって楽しくて」と微笑んだ。どうやら心の底から試合を楽しんでるらしい。近くで聞いていた丸井が嫌そうに舌打ちをしていた。
「あ、そうだ不二くん。この試合も負けた方が乾汁飲むの?」
「うん、その方がいいんじゃない?僕達から罰ゲーム無しになったら前の試合のメンバーに恨まれそうだし」
「確かにね…でも、」
「でも?」
「だったら勝った方にご褒美あげる方がよくない?」
こう、何かジュースを奢るとか肩揉みしてあげるとか。もしくは乾汁じゃない罰ゲームの方が心身的にいいんじゃないだろうか。大いに頷くジャッカルを視界に入れながら不二くんを伺うと彼は顎に手を添えて「それもそうだね、」と空を仰いだ。
「じゃあ、勝ったらさんと皆瀬さんに祝福のキスをしてもらうってのはどうかな?」
「「えっ?!」」
じゃ、僕は激辛ラーメンね。みたいな軽い感じで注文してくる不二くんには思わず声をあげた。膝の上にいた仁王もビクッとしたように感じたが起きる気配はない。
隣を見やればと一緒に声を発した幸村が頬を染めた顔でこっちを見ていた。
「それなら幸村もやる気出るでしょ?」
「…聞いてたの?」
うわ、と顔を歪めた幸村に不二くんは変わらず微笑んでいる。何?キスって。と内心冷や汗が流していると「おい、ちょっと待てよぃ!」と丸井が口を挟んできた。
「なんだよその罰ゲーム!勝ったのに何でそんなことされなきゃなんねーんだよぃ!!」
「あれ?丸井は嫌なの?キス」
「い、嫌っつーか、仲間にキスされても嬉しくなんかねーっていってんだよ!」
「じゃあこれは僕達が勝ったらでいいよ。それでどう?」
「えぇ?わ、私に聞かれても…」
「!お前だって嫌だろぃ?!つーか嫌だっていえ!」
「強要はよくないな。別に口にして欲しいなんて言ってないでしょ」
「く…っあ、当たり前だろ!!」
詰め寄る丸井に不二くんは眉を寄せたが引く様子はなく、逆に丸井の顔が赤くなった。珍しい。キスくらいで動揺するなんて、とマジマジ見ていたら睨まれた。
「つーか、真田に聞いてみろよ!絶対阻止するぜ!」
「だったら試合に勝てばいいだけだろ?勝てば対戦相手にキスさせずにすむし、自分もしてもらわなけれいいだけだしね」
「うぐっ…」
「(うわ。丸井が押されてる)」
「それから、ずっと気になってたんだけど丸井ってさんのなんなの?」
「え、何って…」
「真田が気にし過ぎるのはわかるけど、君もさんに構い過ぎじゃない?…もしかして、好きなの?」
「はぁ?!ばっ!…何言って!」
「は?不二くん何いってんの?!」
「ば、ばばばっばっか!んな訳ねーじゃん!誰がみたいなゴリラで可愛気ねー奴好きになるかよ!」
「んな!なによゴリラって!!」
「…真田のいとこだしな」
「それに風邪を1日で治しちゃったしね」
「なんかいったジャッカル!!」
「幸村もどういうことよそれ!嫌味か!!」と幸村を睨めば何でかそっぽを向かれた。ていうか耳赤いんだけど!さっきから何想像してんのよアンタは!
不二くんの一言で丸井は顔を真っ赤になったが飛び火はこっちまで来て大騒ぎになった。弦ちゃんはわからないけど私は至って普通だ!と噛み付けば不二くんは益々楽しそうに笑みを作る。
そのうち見かねた竜崎監督に怒られて試合が再開したのだが訂正も言い訳も有耶無耶になってしまった。じとりと不二くんを睨めば爽やかに打ち返していて、逆に丸井の動きが一気に散漫になっている。
「…幸村。不二くんの発言、本気だと思う?」
「……嘘ではなさそう、だね」
反応しきれない丸井のラケットをすり抜け、ラインギリギリに落ちる黄色いボールにもしかしてさっきのは心理作戦?と思ったが幸村の発言には盛大な溜め息と一緒に肩を落としたのだった。
不二くんてやっぱり恐ろしい、そうしみじみ思ったのだった。
人が多いと誰がいて誰がいないかすぐ忘れてしまう。
2013.07.31