You know what?




□ 青学と一緒・2 □




さっきから乾くんは皆瀬さんのことをじっくり見てるが、視線に何か違う意味も混じってるように思うのは気のせいだろうか。観察以上にもしかして、と考えていると視界の端にキラリと光るものが見えた。


「ああ手塚くん。こんにちは」
「……こんにちは」


目が合ったので挨拶をしたら手塚くんは少し困ったように固まった後、静かに挨拶を返してくれた。
不機嫌そうなぎこちない彼に不思議に思いながら見返すと手塚くんもまた無言で見つめてくる。

おやおや?と見つめるとぐっと眉間に皺が寄ったので、あ、ドリンク、と思い出し「お疲れ様です」と彼に手渡した。


「…36秒といったところか。手塚も堪え性がないな」
「乾先輩、何の時間っスか?」
「手塚がに無言で見つめられて耐えられる時間だ」
「……」
「それ、全国大会の時もしてなかったっけ?」
「してたね。久しぶりに動揺した手塚を見れて面白かったけど最初は決勝での罠かと思ったよ」
「……」

よく覚えてましたね、不二くん。
終始無言の手塚くんに興味を持ったのか菊丸くんと不二くんも寄ってきて全国大会の話をしだした。クスクス笑う糸目の彼に面白そうですね、と思いながらは肩を竦めた。


全国大会、決勝の前に手塚くんと鉢合わせしたのだが、こちらに気づいたのにも関わらず彼が素通りしようとしたので思いきり通せんぼをしたのだ。関東大会でも同じことをされたのだからがムッとするのは無理もない。

なんせ関東大会で手塚くんに無視された後、岳人くんにめちゃくちゃ笑われたのだ。
あの時の腹いせに嫌がらせのつもりで通せんぼをしたのだけど、手塚くんは今みたいに嫌そうに眉間に皺を寄せていたのを思い出す。

は意外と根に持つタイプなんだな」
「え?そんなつもりなかったんだけど…」



ノートに何やら書いてる乾くんには違うと手を振ったが通じた様子はない。むしろ全国で仕返しして満足してさっきまで忘れてたくらいなんだけど。
いやでも、同じといえば同じことしたかな。だって手塚くんお前誰だ?部外者じゃないか?みたいな顔で見てくるんだもん。心配にならないわけがない。

「…あんま見てると手塚くんに本当に嫌われそうだし、行くね」と背を向ければ不二くんに声をかけられ絆創膏を要求された。

腕を見れば確かに少し擦れていて、どうしたの?と聞けば近くの林を探検した時に擦ったらしい。意外とアウトドアな方だったんですね。


後でちゃんと消毒することを約束して腕に絆創膏を貼れば自分を見つめる不二くんと目があった。あ、この人も開眼するんだ。

さんが手塚を見つめるのってさ。手塚がさんのこと忘れてないか心配だったから?」
「え?」
綺麗な瞳にドキリとすると不二くんの言葉でまたドキリとした。

さん。いくら老け顔の手塚もさすがにそこまで物忘れ激しくないよ」
「「「「「ぶほっ!」」」」」
「…な、なーんのことかな?不二くん」
「なーんのことだろうね?さん」
「……」


私そこまで考えてないんだけど。顔を引きつらせれば不二くんはご機嫌な顔で「手塚って結構ナイーブだからあんまり苛めないでね」とのたまったが不二くんのセリフの方が攻撃力高いのわかってるんだろうか。手塚くんが寂しそうに俯いてしまったよ?

「や、やめてくださいよ先輩、不二先輩!飲んでる時にそういうこというの!」
「ああ、ごめんごめん。さんがいいボール投げてくるから打ちたくなっちゃって」
「あはは。そこまで考えてなかったけどね〜…(さり気なく私のせいにしやがった)……それはそうと乾くん。ていうか、乾くんに言えばいいのかな?」
「ん。何だい?」



ゲホゲホと咳き込んでる越前くんの背中をさすりながら苦言を呈する桃城くんに謝りつつ、乾くんを見やった。
マネージャー経験があるというので思わず声をかけてしまったがここはやっぱり手塚くんと副部長の大石くんか桃城くんと海堂くんに話せばいいのだろうか。

でもみんなにいったらおおごとになりそうだけど…結局みんながいるこの場で言うのだから関係ないか、と思い直して素振りをしてる平部員の子達を見やった。


「えっとね。あそこ。右から2番目の赤いラケットの子とその前の列の真ん中にいる…あ、今ちょっと遅れた子…て、見える?」
「ああ。見えてる」
「俺、両方2.0なんでバッチリっスよ!斉藤と木村っスね。その2人がどーかしたんスか?」
「あと木に隠れて見えないけど派手なウェアの子の右隣の茶髪でヘアバンドしてる子!あの子達、手首か腕痛めてるっぽいよ」
「「「え?!」」」
「それから、1年生の坊主の子。派手なウェアの子の左隣の子だけど右足に力入ってないっぽい」
「「「は?」」」
「あとは…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

多分捻ったかしたんだろうな、と思いつつ残りの子を探していると大石くんが慌てた様子で入ってきた。


「練習を始めてまだ1時間しか経ってないのにそんなことわかるのか?というか本当に?」
「うん。一応1年近く立海の部員見てたから様子違うのはなんとなくわかるよ」
「で、でも、君だってドリンクの準備とかで忙しく走り回ってたはず…だろ?」
「そうだけど、水飲み場からでも見れるし、さっき近くまで行って見たし」
「しかし、」
「桃城。荒井達に聞いてきてくれ。それから休憩は5分だ」
「はい!」

困惑する大石くんに対し、手塚くんは桃城くんにそう指示すると彼は走って素振りをする平部員の元へ駆けていく。が挙げた3人以外休憩に入ると、桃城くんが慌てた様子で帰ってきた。



「ど、どうだった?」
「ま、マジでした…っ」

放心した顔のまま桃城くんが大石くんにいうと「ええええ?!マジー?!」と菊丸くんまで騒ぎ出した。そこまで騒ぐことだろうか。

「…乾、気づいてた?」
「いや。言われてみてそう見えてきた、としかいいようがないな」

不二くんと乾くんの会話にこれだからテニスバカは、と思っていると「どうかしたの?」と不思議そうな顔の幸村がやってきた。いや、立海レギュラー全員こっちに来てるわ。


「ああ、いや。大したことはないんだ」
「そうそう。ちゃんが怪我してる奴言い当てたからビックリしただけ」
「ああ、そのこと」

ついっと視線がこっちに向いたのでなんだ?と身構えると幸村がにっこり微笑んで「さすがでしょ?うちのマネージャー」と褒めた。褒めた、だと…?!

は粗探しがうまいから」
「ちょーと幸村くん?"粗探し"ってどういうことかな?」
「よく言えば"細かいところまで目が行き届く"ということだ」
「よく言えばって柳くん…(ていうか後ろ!プリガムレッドハゲ!笑うな!!)」
「しかし蓮二。初対面が多い中、しかもこの短時間で見極められるものなのか?」
「それをしちゃうのがだから」
「…え?いや、別に、大したことしてないけど…」

あまり褒められた気になれないでいると「ね?」と幸村が同意を求めてきたのでは眉を寄せて首を傾げた。これは慣れだし、マネージャーやってれば誰でも出来ることでしょ?
そう思い「こんなの普通でしょ?」と言ってやれば青学メンバーがぎょっとした顔でこっちを見てきた。

え、違うの?と困った顔で立海側を見たはそそくさと弦一郎の傍に寄った。なんとなく居心地が悪く感じたからだ。



「マネージャーってそんなこともできるんスか?」
「う、うん?多分できるんじゃない?」
「…そんな簡単にできるものなのか?」
「簡単かどうかわかんないけど、でも1年もいればわかるんじゃないかな」
「でも、俺達は…ていうか乾も気づかなかったのに?」

なんとなく、空気が冷たくなるのを感じた。ヒュウっと冷たい風のせいだけじゃない。大石くん達の表情が少しだけ強ばったのが見えた。

「それって、先輩の特技なんスか?」
「え?うーん。どうかな。ていうか、手当しに行ってもいい?」
「あ、ああ」
「俺も行こう。話の途中だったしな」

他にも手当が必要な部員がいるんだろう?とメガネを光らせた乾くんに問われ、こくりと頷いた。そして先を行く乾くんに続き、は背中に突き刺さる視線から逃げ出したのだった。

えええ〜?そんなにおかしいことなのかな?



*****



荒井くん達怪我をしてる子達を手当して(乾くんがずっと後ろで手伝いもせずノートをとってるのが非常に怖かった)昼食を取った。
そして再び練習を再開したが午後は竜崎監督の意向でプレイスタイル別の練習をすることになっている。4つの班に分けて練習をするのだがメンバーを見ては不思議な光景だと思った。

「というか、この班別って練習になるのかな?」
「うーん。なるといえばなるし、ならないといえばならないかもね」

肩を竦めて笑う皆瀬さんにもカラ笑いを浮かべた。

団体行動が苦手な青学の為にも立海が教えてやってほしい、と竜崎監督が直々に頼んできたけど青学も3年生はまとまってると思うんだよね。それに立海も団体行動が出来てるかっていうとそうでもないし。
弦一郎、というか幸村がいないと輪は完全に崩れる。問題児その1の仁王は幸村と同じ班なので問題ないけど、問題なのは。


「何でテメーと組まなきゃなんねーんだよ!ぜってーやだ!!」
「やだじゃねーよ!テメーは小学生かよ!!俺だってテメーと同じ班なんてやってらんねーけど決められちまったんだからしょうがねぇだろうが!!」
「あーやっぱりいいだした」

視線の先には問題児その2の赤也が桃城くんとケンカ腰に言い合っている。というか君達同じプレイスタイルだったのね。

「あーはいはい。文句は練習終わってからにしなさい!」
先輩は黙っててくださいよ!つーかな!俺は1人でも練習できんだよ!!」
「あーそうかよ!だったら1人で寂しく練習してればいいだろうが!いっとくがコートの外でやれよ!!平部員の邪魔もすんじゃねーぞ」
「あー?出てくのはテメーだ桃城!俺はここで練習すんだよ!!テメーが1人寂しく隅っこで練習してろってんだ!!」
「いい加減にしなさい!!」


レベルの低い会話を大声で話す後輩2人に手刀で脇腹を刺すと2人は「うご、」と声を漏らしその場に蹲った。

先輩何すんスか!!」
「そっスよ!脇腹マジ入りましたよ!」

脇腹を押さえ涙目で見上げてくるおバカ2人には大袈裟に溜息を吐くと腕を組んで「アンタ達ここに何しに来たの?」と睨むように見下ろした。



「が、合宿です…」
「青学と練習試合、です」
「よろしい」

ほら、立ちなさい。と腕を引っ張り起こすと赤也と桃城くんに「はい、仲直りの握手」と右手を出させたがそれでも睨み合うので、また溜め息が漏れた。

「アンタ達部長副部長でしょうが。そんなんでやってけると思ってるの?」
「いでででっ!先輩痛いっス!」
先輩マジいてーっスよ!ほっぺ取れちまう〜!!」
「だったら握手!」

ほらほら!と急かせば抓られた顔のまま2人が握手を交わした。傍から見たら結構笑える光景だが引っ張られた当人達は涙モノだろう。
オーバーに痛がるワカメに本気の抓りを見せてやろうか?と思ったが一応大人しく握手をしたのですんなり離した。

私だってそこまで「暴力女」でも「鬼」でもない。頬を摩りながらぶつくさ文句を言う赤也ににっこり微笑んで「練習の妨げになるようなら真田にいうからね」とトドメのひと言をいえば途端に大人しくなった。さすがは弦一郎。


まったくもって納得してない顔だったけど赤也がケンカを売らなければ大丈夫だろう、と思ったは、後ろでオロオロと心配そうにしている河村くんに振り返りにっこり微笑んだ。

「ごめんね河村くん。問題児いるけどよろしくね」
「誰が問題児っスか!!」
「え、俺でいいの?」
「うん。このメンバーだと河村くんがいいと思うよ。桃城くんだと赤也煩いし」
「ははっ」
「後で竜崎監督が練習内容聞きに来ると思うから計画立てといてね」
「あ、それもやるんだ」
「そうそう。同じ班で目標決めて練習だから。大変だと思うけど頑張ってね。あ、困ったら乾くん達に相談してもいいって監督言ってたよ」
「わかった」

こそっと赤也もリーダー向きじゃないしね、と紙とペンを渡すついでに零せば河村くんは吹き出すように笑って「できるだけ頑張るよ」と返してくれた。試合中の彼を考えると表と裏くらい差があるな。



もしかして車運転したら性格が豹変するタイプだろうか?なんて思いながら赤也達から離れ別の班に移動する。皆瀬さんは柳生くんがいる班で立ち止まっていた。あれ、でも話してるのは乾くんだ。

ダブルスの試合で戦った経験もある丸井と菊丸くんは一応隣同士に立ってるけど距離が思ったよりも広い。仲良くする気あるんだろうか。…ないのかもな。

立海も青学も何気に個人プレイ大好き率高いもんな。特に目の前の班とか個人の能力がめちゃ高いメンツで揃っちゃってるし。

「騒がしいマネージャーがきたぜよ」
「そこまで煩くしてないでしょ。ていうか、真田の説教に比べたらまだマシだと思うけど」
、それはどういう意味だ?」
「真田の説教は校内中に響くからね。何度騒音の苦情が届いたことか…。、こっちにも渡してくれないか?」
「(あ、弦ちゃんがへこんだ)…はい。というかこのメンバーが同じプレイスタイルだったって初めて知ったよ」

仁王が浮いて見えるわ。いやまあ、能力だけでいったら遜色ないんだけど、キャラ的にね…。
「なんじゃ、その目は」と目敏く見つけられ鼻を摘まれたはそのまま仁王の手に上へと引っ張られ鼻がもげそうになった。

痛い痛い!と言いたいのに爪先立ちのせいで足場が不安定でふがふがという声しか出ない。それを見ていた越前くんがブッと吹き出した声が聞こえた。


「何をやっとるか!仁王!!の鼻が取れたらどうする!!」
「…プっ取れたら面白いの」
「面白いわけがあるか!!とっとと離せ!」

見かねた弦一郎が真面目に怒ってくれたが仁王はニヤニヤ笑うので赤也と桃城くんに味合わせた手刀を仁王にも食らわせた。

「…ふ、不意打ちとは卑怯ぜよ…」
「いい加減アンタが離さないからでしょうが!」

蹲る仁王に涙目で鼻を押さえ睨みつければ「ピヨ」と唇を尖らせ視線を逸らすので腕につけてた予備のゴムで仁王の髪の毛をツインテールに無理やり縛ってやった。



「最悪ナリ」
「それとったらドリンクに砂糖を大量に入れるからね」
「…。遊びに来たんじゃないんだから、もう少し大人しくできないの?」
「う、はい」
「仁王も合宿に来たんだ。気を抜いてるとすぐ置いてかれるぞ」
「プリ」

不格好なツインテールに越前くんが肩を震わせ後ろを向いて笑っているが、と仁王はシュンと頭を垂れて反省していた。幸村の笑顔が本気だとわかってるからだ。この顔は嵐の前なのでこれ以上逆らったら後が怖い。
弦一郎も仁王の頭を見て吹き出しかけたが幸村を見て慌てて引っ込めていた。


それぞれの目標と練習内容を書き出し、練習を始めたみんなを眺めていると隣に寄ってきた白い帽子に視線を下げた。
ちなみに笑いはもう引っ込んでいて、代わりに丸井達が腹を抱えて笑い転げている。こっちを恨みがましく睨んでいた赤也も今はヒーヒーいって笑っている姿が見えた。

無表情な仁王と平然な顔で打ち返している弦一郎が練習してるから余計にだろう。私もさっき吹いたばかりだ。

「最初組み分けられた時はどうなることかと思ったけど、案外面白いね」
「そ?それは良かった」

越前くんだけ1年生だもんね。それくらいで気後れなんてしないだろうけど彼なりに不安に思ってたんだろうな、と思う。視線をそのまま隣の手塚くんに移すとその奥で不二くんがコートから出てくるのが見えた。


「手塚くんは肩大丈夫なの?」
「……ああ。問題ない」
「一応一通り用意してるから。熱持ったり気になることがあったらいってね」
「それはさっき皆瀬にもいわれたからわかっている。お前はお前の仕事をすればいい」
「え、あ、うん」

自己管理くらい出来るんだからお前がいうことじゃない。と口外に言われてる気がしては驚いて手塚くんを見た。越前くんも似たようなことを思ったのか手塚くんを見上げている。
しかし手塚くんはまっすぐコートを見たままチラリともこちらを見ない。それがなんとなく怒ってるんじゃないか?と思った。


「それよりも、仕事をしなくていいのか?皆瀬は既に走り回ってるが」
「あ、やばい!行かなきゃ!!」

見れば皆瀬さんが忙しく走り回っている。自分も平部員の方見てこなきゃ、と踵を返したは「じゃ、残り頑張って!」と越前くんに手を振って走った。その際も手塚くんは背を向けたままチラリともこっちを見てこなくてモヤっとしたものが胸の辺りに広がった。私、何かしたのかな。





参照・20.5。
2013.06.08