You know what?




□ 青学と一緒・4 □




夕食の後は個人練習時間に入る。選手ではないは明日の予定を確認して皆瀬さんと一緒に温泉を楽しんだ。露天風呂はそこそこ寒かったが温泉の温かさと相まって心地いい。

「ふぅー。気持ちいい〜」
「本当。今日1日の疲れが取れてくようだよ」
「寝ちゃわないように気をつけなきゃね」
「大丈夫だよ。隣がこんだけ賑やかなんだもん」

練習を終えた男の子達の声が耳を澄まさなくても聞こえてくる。この声は菊丸くんと桃城くんだろうか。はしゃぎまわる声と一緒に水飛沫の音も半端ない。その被害に遭ってる子達も騒いでるようだから露天風呂に結構な人数が入ってるみたいだ。
他の宿泊客の人に迷惑かけてないだろうか、と話していたら、案の定弦一郎の声が飛んできて皆瀬さんと一緒に笑った。


「そーだぞー!あんまり煩いと竜崎監督に言いつけるからねー」
「えっ?!その声は先輩っ?!?!」
「ええっ?!」
「私もいるよー」
「ええっ皆瀬先輩も?!」

驚く桃城くん菊丸くんに達はニヤリと笑って「なーに?私ら入ってたらダメだっていうの?」と少し怒った口調で返せば「いえっそ、そんなことはないっス!!」と桃城くんが慌てて返してくる。そのやりとりが聞こえたのか他の男の子達も「え?先輩達いんの?」と聞こえてきた。


「真田の拳骨は痛いからね?せいぜい気をつけるんだよ〜」

ケラケラ笑って風呂の縁に腰掛けると「んなっ?!お前、何を破廉恥なことをしている?!」と真田が叫んだので思わず身体を隠した。男湯と隣同士だけど垣根があるから見えるわけないのにだ。
タイミング良すぎでしょ弦ちゃん。


「ビックリした。真田が覗きしてるのかと思った」
「はっ?!?!なななななっ何をいっている!!」
「今丁度お湯から出て座ったところだったからさー」
「だっ誰が!!おおおおおお俺はお前がこのような場所でそんな会話をしてることをだな…っ!」
「真田がの裸を想像している確率6じゅ…ゴフ」
「だ、黙らんか!!!」



乾くんもいたのか。バッチャーン!というけたたましい音に弦一郎に殴られたんだろう。
「うわ…」と菊丸くんの引いた声が水飛沫の後の露天風呂でよく響いた。
しかし皆瀬さんが「乾くーん。大丈夫ー?」と聞いたら「ああ、大丈夫だ」と返したので然程でもなかったようだが。


「んなっ赤也貴様何をしている?!」

打たれ強いのかそれとも他に裏があるのか元気な乾くんは皆瀬さんに温度はどうとか女風呂はどういう作りなのかとか声をかけてくる。
それを丁寧に返してる皆瀬さんを見ながらなんとも言えない顔で聞いているとばしゃばしゃと水飛沫と一緒に弦一郎が騒ぎ出した。どうやら赤也もいたらしい。

ワカメは何かしでかしたようで「やめんか!丸井!ジャッカルお前らも止めろ!!」と騒ぎ立てている。


「真田ー?どうしたのー?」
「い、いや!なんでもない!!」

そうはいうが騒ぐ声が妙に近い気がする。焦る弦一郎に首を傾げていると「桃城っテメーまで何してんだよぃ!!」と丸井の声も近くなってきて垣根のところを叩く音まで聞こえてきた。何をしてんだよ君達。


「ねぇ先輩。まだいる?」
「越前くん?うん、いるよー」
「タオル持ってきてる?」
「うん」
「それってバスタオル?フェイスタオル?」
「え?フェイスタオルじゃないの?」

バスタオルを中に持ってく人いるの?と思いながら「越前くん達のと一緒の生地の薄い白いタオルだよー」と答えれば越前くんの声を掻き消さんばかりに響いていた水の音が止まった。


「…それ、今どこに置いてるの?」
「えー?あ、膝の上?」

この質問に何の意味があるんだろう?と考えていたらいきなり水飛沫が上がり、「ぎゃーっ赤也しっかりしろー!!!」というジャッカルの叫びが響き渡った。そのすぐ後に桃城くんが皆瀬さんに同じ質問をして「うわっ桃!鼻血鼻血!!」と菊丸くんの慌てる声まで聞こえてくる。



「ねぇ、大丈夫ー?」
「だ、大丈夫だ!!それよりもあまり長湯するな!!さっさとあがった方がいいぞ!」

「やべぇ!風呂が血の池地獄になっちまった!!」と騒ぐ丸井に皆瀬さんと一緒に男湯の方を見やれば弦一郎が追い立てるように早く上がれと声をかけてくる。
確かに長湯しても身体に良くないかな、と思った達は「アンタ達も風邪ひかないように気をつけなさいよー」といって弦一郎に促されるままま露天風呂をあがることにした。


「朝風呂も入れたら入りたいね」なんて話しながら浴衣に着替えお風呂を出ると2階に上がり、サロンへと足を伸ばした。近くには自販機とゲームセンターもあって少し賑やかだ。
ちらほらいる他の宿泊客を横切り空いてる席に荷物を置いたは喉も渇いたし飲み物でも買おうかな、と思って財布を取り出した。

「あ、マッサージチェア空いてる!」
「本当だ。使うの?」

皆瀬さんはどうするんだろう、と視線をやれば彼女はキラッと目を輝かせ、マッサージチェアに狙いを定めていた。ひとつしかなマッサージチェアは丁度空席で、「行ってきなよ」と笑って送り出せば、彼女は滑り込むように座り込んだ。

誰もとらないって!とつっこみながらも「後で私も使わせて〜」、と予約をしたはそのまま自販機に向かった。


「あ、」
「…ども、ス」

自販機を覗くと先客がいて彼はを見るなり頭を下げてくれた。見た目はもう少し赤也寄りかと思っていたけどとても礼儀正しい好青年である。素晴らしい。
「ヤホー海堂くん」と手を挙げたはにこやかに肩にタオルを巻いてる彼の隣についた。


「練習お疲れ様。あ、お風呂どっちに入ったの?」
「…屋内のっスけど」
「露天風呂もよかったよ。広いし星も綺麗だったし」

明日そっち入ってみなよ、とお勧めすれば少し戸惑いながらも頷いてくれた。聞けば露天風呂に桃城くん菊丸くんの他に丸井達もいたから、止めておいたらしい。赤也もいたからな。海堂くんの選択は正しい。
お金を入れてペットボトルを買ったは「あ、そうだ」とまだ隣にいる海堂くんに向き直った。



「マネジの話いつしよっか?個人練習の後ってことだったよね?」
「はい。乾先輩にあがったらここのサロンで待ってるように言われたっス」
「じゃあ、乾くんと桃城くん来るまで待ってようか」

人が多いようなら場所移動すればいいし、と海堂くんと並んで自販機を出ると皆瀬さんはまだマッサージチェアに座っていた。心地よさそうに目を閉じてる彼女にクスリと笑ってソファに座ると海堂くんも向かいの斜め前の席に座った。

携帯を確認しながら(あ、忍足くんのメール、連投で来てるな。ジローくんからもだ)、買った飲み物を飲んでいると視界の端にそわそわと落ち着かない海堂くんの姿が目に入った。

「どうしたの?」と聞いてみたが「い、いえ」というだけで視線を逸らしてくる。困った表情をする彼には携帯を閉じ、身を少し乗り出した。


「…もしかして私何かしちゃった?」
「い、いえ!そうじゃなくて…っその、携帯のストラップが…」
「ストラップ?ああ、もしかしてこれのこと?」
「…っ」

よかった。私がなにかしたわけじゃないらしい。卑屈になってるわけじゃないけど手塚くんの件もあって似たようなタイプの彼にちょっとだけ不安になった自分がいる。
肯定はなかったが目を見開き固まる海堂くんにこれだな、と口元をつり上げホッとした。

が携帯につけてるストラップは3種類だが1番目立つものがある。以前岳人くんがゲーセンで多めにゲットしたからくれると言って寄越してきたのだけども何気に気に入っているのだ。

「触ってみる?」と差し出せば見るからに期待の色を出して海堂くんがこっちを見てきた。


「い、いいんスか?」
「うん。どうぞどうぞ」

はい、とぷらぷらと揺れる丸い物体に海堂くんが恐る恐る手を伸ばして触れた。さわさわと優しく撫でたりふにっと押しては海堂くんの表情がほんのり緩む。可愛いなぁ。

「気持ちいいよね。私も暇あればついつい触っちゃうんだ」
「…わかるっス」



の携帯に吊り下がってるストラップは肉球型の携帯クリーナーで、使い込んだ、というより触りすぎてピンク色が少しくすんでしまっているが海堂くんはキラキラとした目で肉球を押している。テニスと同じくらい楽しいらしい。

「海堂くんってもしかして猫とか動物好き?」
「………好きっス」

彼の周りからほわほわと幸せオーラが見えそうな雰囲気に笑みを漏らして聞けば海堂くんは頬を染めて肯定した。赤也に爪の垢煎じて飲ませたいくらいいい子だ。
見た目じゃわかんないよなーと猫の話や写メした野良猫を見せたりして最初よりもずっと砕けた感じで海堂くんと盛り上がってると「やぁ」という声と共にテーブルに影ができた。


見上げれば乾くんが立っていて皆瀬さんはどこなのか?と聞いてくる。弦一郎に殴られたのは頬だったようで真っ赤に腫れている。ついでにメガネもヒビが入っていて危うく吹き出すところだった。

マッサージチェアに視線を向ければ彼女は眠ってしまったようで瞼がしっかり閉じられている。あのままじゃ風邪ひくな、と席を立とうとしたら「俺が行くよ」と乾くんが長い脚を大いにふるって皆瀬さんの元へ向かった。

肩を叩き、揺り動かす乾くんをじっと見つめながら、それとなく何もないようにと願いながら皆瀬さんが目を開けたのを確認すると「あの、」と戸惑い気味に海堂くんが声をかけてきた。


「先輩って、怖くないんスか?」
「へ?」

目を擦る皆瀬さんにホッと息をついて海堂くんを見やるとそんなことを聞かれ首を傾げた。聞いた本人も言葉を誤ったのか苦い顔で視線を下げている。

飲み物を買ってくる、という皆瀬さんに頷いたが彼女の後ろを乾くんがくっついていった為思わず「え、」と声を漏らした。おいおい、何かえらい親しげですよ?
笑顔で会話してる2人に思わず席を立とうとしたが海堂くんの話も途中だったと思い出し慌てて座り直した。だ、大丈夫だよね。初日から何かあるなんてありえないよね。うん。


「怖いって、何が?」

そう聞いてみると海堂くんは途端に黙り込む。視線をチラリと彼の後ろに向ければ乾くんの後ろ頭が見えた。それから海堂くんに視線を戻すと小さく「俺のことっス」と聞こえた。



「……俺、目つきとか言動が怖いらしくて、その、マネージャー入れたら泣かすかもしんねーって思ってて」
「え?もしかして海堂くんってマネージャー入れるの反対なの?」
「いえ!そこまでじゃねーんですけど、でも…」
「不安?」
「…っス」

しゅん、と頭を垂れる海堂くんには顎に手を添えた。


「うーん。だったら男の子でもっていいたいとこだけど桃城くんの感じだと入れるの女の子だもんねー」
「……」
「まあ無理しても仕方ないし海堂くんはそのままでいいんじゃない?」
「え?」
「海堂くんに睨まれて辞めるくらいならそこまでの子ってことでしょ?」
「……そう、なんスか?」
「プレイスタイルと一緒でそう簡単に変えられるわけないんだし慣れてもらうしかないよ」
「そういうもんなんスか?」
「うん。私も幸村に慣れるまで結構かかったし」
「え?幸村さん、ですか?」

真田さんじゃなくて?とありありと海堂くんの顔に浮かんでいるがにとって慣れなくてはいけない相手は弦一郎ではなくて幸村の方だ。にっこり笑ったは「うん、幸村」ともう1度言葉にした。


「だって真田は怒る時の声のデカさ攻略すればなんとかなるもん。幸村はこう、背後からやってきていきなりブス!って言葉を刺してくるから色々頭使って大変なのよ」
「ぶっ…そう、なんスか」
「そうそう。それを考えると海堂くんって素直だしテニスに対して誠実じゃん?マネジ入れるならそういうとこ理解してくれる子がいいなって思う。そういう子なら海堂くんがどんだけ強くいっても睨んでもへこたれないと思うよ」

これが一緒に入部した同期ならお互い譲歩する余地もあるだろうけど、海堂くんはテニス部を支えてる部長だ。彼がマネージャーに気を使い過ぎるのはよろしくない。
勿論、それなりの優しさは必要だろうけど後から入った者はある程度前の者に従う義務がある。

"郷に入っては郷に従え"というやつだ。
ついでにそれは私が立海テニス部で学んだことでもある。



「それに仲間だって認めたら海堂くんだって優しくなれるでしょ」
「……多分」

よくわからない、という顔をしたが一応海堂くんは頷いた。多分も何も信用してる人に冷たくは当たらないだろう。「その子がテニス好きなら尚更いいよね」と微笑めば海堂くんは少しだけ頬を緩め「そうっスね」と同意してくれた。




リョーマは自分で聞いたのに想像して顔を赤くしてればいい。
2013.06.16