You know what?




□ 青学と一緒・9 □




テニスコートに続く林道の途中で達は木陰に隠れるように桃城くん話しているとパキッと枯れ枝を折る音が響く。その音に肩が思いきり跳ねた。

「…桃先輩。先輩とそこで何してるんスか」
「えっ越前?!いや、何もしてねーぜ!してねーよ!」
「……ふぅーん」

振り返ると白いキャップを被った越前くんが不機嫌顔でこちらに歩いてくる。慌てふためく桃城くんを不思議そうに見ながら視線を越前くんに移すと「何話してたの?」と問われた。何の話、ねぇ。


「大したことじゃないけど…、乾くんの毒汁についてちょっとね」
先輩も1度飲んだ方がいいんじゃない?」
「何を言うかね。あの惨劇を見て誰が飲みたいと思うもんか」
「意外と美味しいかもよ?」

不二先輩は飲んでも平気な顔してるし。といってニヤッと笑うSな王子様には「この子は〜」と柔らかい頬を摘んだ。言っていいことと悪いことがあるでしょうが!
それ実現したらどうしてくれるんだ。俺が看病してあげる?そういう問題じゃないでしょ!

ぐいぐいと引っ張る頬に「痛いって」と手を離させた越前くんはその手を掴んだまま「ホラ行くよ」と先頭に立って歩いていく。別に迷子になってたわけじゃないんだけどな。


「それで、本当は何話してたの?」
「越前くん引っ張るねー」
「教えてくれないとずっと手を繋いでるからね」

それは別に構わないけどさ。そういったらちょっと驚いた顔の越前くんが振り返ってそれから帽子のツバを摘んで目深に被った。おや、照れたのか?
そのままテニスコートまで辿り着くと立海と青学のジャージが見えた。あれは弦一郎と幸村、柳の3強だな。それからああ、手塚くんも見える。

彼の姿を見るなりギクリとしたが何でもないように装った。後ろ姿でも緊張するとかマジヤバくないか私。



「桃先輩。正直に言わないとあのこというからね」
「あのことって?」
「桃先輩が先輩と皆瀬先輩のはだk」
ぎゃー!越前お前何言ってんだよ!!

つーか、それはお前もじゃねーか!と越前くんの口を塞ぎ騒ぐ桃城くんに、1年生ルーキーは半目で口を塞いでる相手を見やった。顔に桃先輩に言われたくない、と書いてある気がした。


「あーもう!お前が心配してることじゃねーよ!乾先輩が友美先輩のこともしかしたら好きなんじゃねーの?って先輩と話してたんだよ」
「ちょ!桃ちゃん声大きいって!!」
先輩…?桃ちゃん…?」
「あ、」

シー!と指を立てたが桃城くんは越前くんを見つめたまま固まってしまった。心なしか越前くんの雰囲気が怖く感じなくもない。

「桃先輩…」
「ああ!いっけね!俺大事な用事思い出した!!思い出したわー!」
「えっ桃ちゃん?!」


声の大きさに弦一郎達や不二くん達もこっちを見てきたのでヤバいヤバいと焦っていると桃城くんがいの一番に逃げ出していった。アノヤロウ。
乾汁を飲んで弱ってたとは思えない足取りで逃げていく桃城くんを追いかけようとしたら「先輩、」との手を掴んでた越前くんが阻んだ。

先輩。いつの間に桃先輩の呼び方変えたの?」
「え?さ、さっきだけど…」
「何で?」
「な、何でって…そっちの方が親しみやすいかなーって」

思って。チラリと振り返るとさっきよりも不機嫌顔の越前くんがじと目で睨んでくる。そんなに桃ちゃん、て呼ぶのが気に食わないんだろうか。それとも桃城くんだけそう呼んだのが気に入らなかったのか?



「……じゃあ、越前くんのこと…リョーマくん、って呼んでもいいかな?…なーんて思ったりして」

じっと見つめてくる視線に耐えかねてそんなことを言ってみたが越前くんは視線を逸らさぬまま無言でいるので違うのか!と冷や汗が垂れた。どうしよう。弟と然程変わらない年齢だけど対処の仕方がわからない。何が正解なんだ…!


「足りない」
「え?」

ぐいっと引っ張られた腕にバランスを崩したはそのまま越前くんの肩を掴むと頬になにか温かいものが当たった。え?と視線をずらせばすぐ近くに不敵に笑う彼の顔があってまさか、と思った。


「だから俺も"先輩"って呼ぶから」
それで許してあげる、そういって顔を上げたかと思うと反対の頬にもチュ、とリップ音付きのキスを落とされた。


「ぅえ〜ちぃ〜ぜ〜んん〜〜〜〜っ!!!」

「あ、やば」

何とも言えないむず痒い感触に頬を紅潮させると越前くんはニンマリ笑って「sweet」と綺麗に発音したが、その声に被るようにキエエエ!と奇声が聞こえた。弦一郎だ。
見れば奴は般若のごとく怒った顔でこっちに走ってくる。それを見るなり越前くんは「じゃあね、先輩」とウインク付きで逃げていった。


「…最近の中学生って…」


こっちを見たまま固まってる幸村達を見てカラ笑いを浮かべたは赤くなった頬を隠すようにその場からそそくさと走り去った。自分も中学生だが最近の男子中学生ってわかんない!そう思わずにはいれなかった。

越前リョーマ、恐ろしい子…!



*****



その後リョーマくんから隠れつつテニスコートとグランドを行き来しているとわぁっという歓声が聞こえ、顔を上げた。見れば手塚くんが悠々とした足取りでコートの中へと入っていく。チェンジコートで移動してるのを見ながらこの様子だとやっぱり彼が優勢なんだろうって思った。

みんなの視線が一気に向かうのを見ていると傍らに来た皆瀬さんがぽつりと「柳生くん大丈夫かな…」と零した。メガネ対決なら申し分ないんだけどね。


「あ!そうだ!じゃあ私かけるもの他にないかホテルの人に聞いて借りてくるね」
ちゃん?」

同じようにコートに入っていく柳生くんの背中を見ていると視線を感じは弾かれるように背を向けた。『何をサボっている』と言わんばかりの目で手塚くんに見られた気がしたからだ。しかも目が合うとかついてない。
乾くんに掛けたので暗幕は品切れだったので、皆瀬さんに後をお願いしてホテルに向かおうとすれば菊丸くんに声をかけられた。


ちゃんもしかして寒い?」
「え?あーちょっとね」

手を擦ってるのを見られたのか覗き込んでくる菊丸くんに「そろそろホッカイロが冷たくなってきてさ」と返せば「じゃあ俺の貸したげる」とニンマリ笑って可愛いホッカイロを差し出してきた。

菊丸くんのホッカイロは布部分に可愛いクマがプリントされてるもので、それを見たは思わず吹き出した。よくこんなの見つけてきたなぁ。


「ありがと、後で新しいの返すね」
「いいっていいって。でもあんまし寒いようならコートかホッカイロ持ってきた方がいいかもよ」

日が落ちるとまた寒くなるし、と助言してくれた菊丸くんに笑顔で頷くと彼は頬を染めて「手伝うことあったら俺に言ってね」と笑顔で送り出してくれた。



ホテルに戻り、フロントで聞けば隣の倉庫にビニールシートがあるらしい。風を凌ぐだけならそれでもいいか、と思って鍵を借りて倉庫に移動したは菊丸くんから借りたホッカイロで手を温めた。

さっきから寒気が止まらない。走り回ってるのに指先などの末端が冷たくて仕方ないのだ。後でコートを持ってくるか、とついた倉庫を開けて中に入るとカビと埃っぽい匂いが鼻につく。
慣れない匂いに眉を寄せながら電気のスイッチを探してみたが見えるところにはないらしい。でも目的のビニールシートは直ぐに見つかったのでまあいいか、と思った。


「よい、しょっと…」

ビールシートを取り出そうと引っ張ってみたが半分は出たものの残りが出てこなくて一苦労だった。半分出ただけでも結構な大きさだけにもしかして人手がいるのだろうか、と思う。

もう少し引っ張っても取り出せないようなら誰か呼んでこよう、と引っ張っているとぐらりと視界が揺らいだ。

ゾクリとする身体には持っていたシートから手を離しその場にしゃがみ込む。熱くもないのに脂汗みたいなものが伝ってきてあれ?と思った。もしかしてこれ、風邪じゃないか?
健康が取り柄の私が、と思ったが昨日はコートを羽織っていたが風呂上がりにウロウロし過ぎたのかもしれない。寝る時も足が冷えてなかなか寝れなかったもんな。…ヤバい、本当に風邪かも。


「…やっぱりコート持ってこよう」


今からじゃ遅いかもしれないがないよりはマシだろう。そう思って急いで部屋に戻ってコートを取りに戻った。ついでにスポーツドリンクを買って常備薬の風邪薬を飲んで倉庫に戻ると同じく倉庫に向かう手塚くんと遭遇してしまった。
何故いる。そう思って身体がピシリと固まったが逃げる前に振り返られぐっと口を引き締めた。



「ど、どうしたの?」
「…お前こそここで何をしている」

コートを見て眉を寄せた手塚くんに「ちょっと寒くて」と返せば手にしているペットボトルに視線が移って「寒いという割に冷たいものを飲むんだな」と冷ややかな目で見られた。

どう見ても勘違いしてる視線に「いやこれは、」と言い訳しようと思ったが風邪を引いたとはいえなくて隠すようにポケットの中にペットボトルを詰め込んだ。


ここで風邪ですって正直に言ったらまた眉を寄せられそうだし。弦一郎なら自己管理がなっとらん!たるんどる!!って絶対言うだろうし。弦一郎と手塚くんって似てるとこあるから、怒られるくらいならと思って口を噤んでしまった。


「手塚くんこそ試合どうしたの?」
「終わったからここにいる」

それはそうですね。ということは勝ったのか。まあ、負けるはずないよね。柳生くん可哀想に。そんなことを自問自答して倉庫に入ればべろりと半分だけ出てるビニールシートを引っ張った。
サボってると思われたのもあって声色が冷たく硬い。状況は悪い方へと行くばかりだ。そう思ったら余計に頭が重く感じた。


「…何をしている」
「ビニールシートをね、ピロティーに持っていこうと思って」

あれば風避けくらいにはなるだろうし。そう言ってビニールシートを引っ張ったがなかなか残りが出てこない。うんしょ、うんしょ、と引っ張っていれば横からぬっと逞しい腕が見え、その手がビニールシートを掴むと残りの部分を一気に引っ張り出した。


「…これでいいのか?」
「うわ!…やっぱ男の子は違うね」

思ったよりも息が上がってしまったがちゃんと手塚くんに礼を言うとシートをコンパクトに畳んで両手に抱えた。嫌な奴って思ってるんだろうけどこうやって手伝ってくれるんだから手塚くんは偉いよね。その表情は頂けないけども。



「そういえば、手塚くんは何でここにいるの?」
「……お前に、関係ないだろう」

倉庫を出てピロティーに向かおうとした足を止めて振り返れば眉をひそめた手塚くんに冷たくあしらわれた。関係ないけど答えてくれたっていいじゃん。
もムッとしたけどお礼を言った後にケンカするのも大人気ないと考えて「あっそう」と背を向けそのまま手塚くんを置いてピロティーに急いだ。




幸村はきっと誤解して怒ってるんだろうぜ。
それで赤也とジャッカル辺りで憂さ晴らししてんだろうぜ。チーン。
2013.07.21